塚本  菜摘さん
インタビュー公開日:2022.09.13

大学生が開催した
アニメ上映会に影響されて。
ひと言でアニメーションの制作といっても、その作業の過程にはシナリオづくり、キャラクター作成、絵コンテ、モーション、音響…などなど、数多くの役割を持つCGクリエイターが参加しています。塚本さんはアニメのキャラクターを動かす「3Dモーション」の担当。インタビューにお伺いしたときも、ディスプレイの中に映し出された主人公に動作をつける作業の真っ最中でした。
「小さな頃からアニメ好きではありましたが、高校時代に道教育大の学生が開催したアニメ上映会を見てものすごく感激して。あの瞬間に自分もアニメの作り手になりたいという想いが芽生えたような気がします」
その後、塚本さん自身も道教育大学に進学。アニメーション研究室に所属し、主に手描きでの作品づくりに取り組みました。
「いわゆる昔ながらのテレビアニメの作り方です。作画を一枚一枚スキャニングし連続再生で動画にする。それをかつて自分が刺激を受けた上学生映会で放映したり、YouTubeにアップしたりしていました」
2D制作で培った技術やセンスを
3DCGの制作に活かす。
2Dの自由なアニメづくりを謳歌していた塚本さんでしたが、就活の時期を迎え、考え方が少しずつ変わってきます。
「仕事も2D制作だと学生時代の自己満足の延長になってしまう気がしたんです。私自身の表現の領域を広めたり、制作技術を高めるためにも、今後は3Dの知識を身につけていこうと考えました」
その後卒業と同時に、新卒で3Dのアニメ制作会社へ。そこで2年ほど経験を積んだ後、首都圏企業が札幌に3DCG制作スタジオを開設するという話を耳にし、新しい組織の立ち上げを経験したいとの思いで転職。現在、ちょうど半年が経過したところです。
「今はテレビアニメの制作チームに所属しています。進行管理を担当するディレクターを中心に、キャラクターの骨組みを作るリギング担当、動きを付けていくモーション担当で構成されています。私は2人の仲間と3Dモーションに取り組んでいます」
モーションとは立ち上がる、歩く、振り向く、走るといった大きな動作だけでなく、髪の毛の揺れ、洋服のたわみ具合、表情の移り変わりなど、キャラクターの微細な変化も描いていくのだとか。
「2Dと3Dは別物と考えられがちですが、細かな動きを丁寧に書くという作業の根本は同じ。学生時代の2Dの経験も活きる仕事です」
的確な3Dモーションに
不可欠なのは日常の観察眼。
何気なく見ているアニメのワンシーン、その中のさりげない動きも、実は見る側にさまざまな情報を伝えているんです、と塚本さん。
「例えば長い髪の毛は、強い風に当たった場合は大きく波打ち、弱い風ならさらさらと小さく揺れます。スカートの裾やシャツの襟などもそう。その髪やスカートの動きで、周囲に強めの風が吹いているとか、キャラクターがバイクに乗っているとか、あるいは一生懸命走っているというふうに、見る側の印象が広がっていくんです」
物語のコンセプトやテーマにも大きな影響を与える3Dモーション。この作業に取り組む上で欠かせないのが日常の観察眼だとか。
「笑顔も口角が上がるだけではなく、頬の筋肉や下まぶたが上昇し目が細まるなど、顔のパーツが微妙に連動して『笑う』という表情を作り出しています。先ほどの風に舞う髪の毛も、髪の先端に行くに従って動きやうねりは次第に大きくなっていきます。このリアリティを普段からじっくり観察し、不自然さを感じさせないようアニメーションの世界に再現していくのが私の役割。気がついたら、友人の手の動きをじっと凝視し続けていた…なんてこともあるんです」
観察し、描き続け、失敗もする。
その連続が唯一の上達の道。
実際の3Dモーションは、シナリオを読み込んで頭の中で動きを想像しながらコツコツ作業するほか、より細密な表現が必要な時は、役者の方々にその動きを実演してもらい、そのムービーを参考にしながら描きおこすというケースも。
「自然より自然に、本物より本物らしく、…アニメーション作成にはそんな配慮が必要になることもあるんです」
これまで制作に関わった作品は10タイトル以上。3Dモーションの腕前も超プロ級かと思いきや、塚本さんは首を横に振ります。
「今でもNGを出されることはしょっちゅう。人の腕はこんな動きしないとか、この視点からの人物像はこんなパースにならないとか、大声を出すシーンなら口に合わせてもっと顎も動くはずとか」
特に難しいのは表情。悲しい、嬉しいといったわかりやすい感情もあれば、切なさ、苦笑、うれし泣きなど複雑な感情もあります。
「そこに性別、年齢、国籍などの要素も加わってくるとさらに難しくなる。この仕事は場数を経験していくしか、上達の道はないんですよね」
いつか会社のオリジナル作品を
全世界に向け発信したい。
この世界で働き始めて3年。
「3Dモーションに取り組んでいる時間も充実していますが、作品が完成しテレビやネットで配信された時…中でもエンドロールに自分の名前が載っているのを目の当たりにした時の喜びは言葉にできないほど。何度も繰り返し見てしまいます」
最後に塚本さんの目標と夢を伺ってみました。
「まずは技術レベルを上げることですね。どんな仕事にも納期や締め切りがある。その限られた時間内で最高のクオリティを提示することが身近な目標です。そして…」
そして?
「今所属している会社のオリジナルアニメ作品を世に出してみたいです。できれば企画から参加して、3Dモーションも担当して、それを世界中の人に見てもらえたら。遠い夢ですけど、いつか必ず実現したいと思っています」
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

日々の仕事が惰性やマンネリになると成長が止まってしまいます。
大切なのは「楽しむこと」。
どうやったら仕事が楽しくなるか、どんな環境なら仕事を楽しめるか、そんな前向きさを身につけましょう。

株式会社ENGI 札幌スタジオ

世界のアニメ市場に"革新"をもたらす、日本発のアニメーション制作会社。日本有数のIPホルダーである株式会社KADOKAWA等のバックアップのもとに誕生。

住所
札幌市中央区(サッポロファクトリー周辺)
URL
https://engi-st.jp

お仕事データ

非現実を現実に表現する!
CGクリエイター
CGクリエイターとは
デジタルテクノロジーを使って、
グラフィックやアニメーションを制作

CGとはコンピューター・グラフィックスの略。文字通りコンピューターを使って、ゲームやアニメなどグラフィックやアニメーションを制作します。大きく分けて2Dと3Dに分類され、2Dは平面で表現し、3Dは立体での表現です。3Dはさらに動きの元となる立体物をつくるモデラー、動きを付けるアニメーター、特殊効果を付けるエフェクターなどそれぞれのプロフェッショナルに細分化されています。

CGクリエイターに向いてる人って?
好奇心旺盛で、
最新技術へのアンテナを張れる人

映像を取り巻く世界は日々進化を遂げ、現実と区別が付かないようなリアルなCGを制作する技術も実現しています。その制作に用いるソフトも次々と新しい機能が増えたり、新製品が生まれたりするため、積極的に最新技術を学ぶ姿勢が必要です。またクリエイティブな世界をつくるための想像力や、円滑なチームワークのためのコミュニケーション能力も必須。納期に追われる機会も多いため、粘り強く取り組む根気やハードな働き方に耐える体力も求められるでしょう。

CGクリエイターになるためには

学歴や資格は必要ありませんが、コンピュータースキルは必須。特に3DCGは「Maya(マヤ)」や「Blender(ブレンダー)」といった制作ソフトを使うための知識や技術が必要なので、専門学校や短大、大学でスキルを身に付けた後、ゲームやアニメ関係の会社に入って覚えるのが一般的です。オンライン講座や書籍など独学で学ぶことも可能なため、スキルを身に付けた後に実際の制作現場で学ぶという選択肢もあります。

ワンポイントアドバイス
将来性高く、チャンスも無限!

3DCGはその誕生以来、アニメ、ゲーム、映画などエンタメを中心に普及してきました。近年は建築や製品のデザイン、医療や化学などさまざまな分野でも活用されていて、今後も他分野にわたって需要が拡大すると見られています。また技術さえあれば国内、国外を問わず活用できるのも特徴です。一流のCGクリエイターとなれば世界の有名スタジオで活躍できるかもしれません。