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佐々木 洋実さん
インタビュー公開日:2023.01.12

やりたいことが
全部農業に詰まっていた。
実家の農業を継いだり、農業法人に就職したり、あるいは自ら起業したり。それまで他の仕事に携わっていた人が、新たに農家としてスタートすることを「新規就農」と言います。最近は田舎暮らしへのあこがれや、自然との触れ合いを求めて就農を目指す人が増えており、その数は全国で約1万8000人(※)。そんな中、2021年に石狩市で農家デビューを果たしたのが石狩みのりファームの佐々木洋実さんです。佐々木さんはこれまで長く飲食業に携わっており、農業についてはゼロからのチャレンジ。
「自分の将来について考えた時、経営がしたい、ものづくりがしたい、長く継続できる仕事がしたい…という希望を並べてみて、農業なら全部満たせるかもしれないと思ったんです」

※出典:農林水産省「新規就農者調査」

思いがけず、地元で就農。
先輩農家のもとで2年間の研修
佐々木さんが新規就農を果たした石狩は、ご自身のふるさと。しかし、初めからこの地を希望していたわけではなく、さまざまな縁が重なった偶然だそう。
「就農するならミニトマトが良いかなって考えていたころに、農業人フェアで知り合った方から『石狩で話を聞いてみたらどうですか?』と、こちらの農家さんを紹介していただいたんです。私、地元なんですけど、農業のことは全然知らなくて(笑)」
新規就農を目指す人が増えているとは言え、高齢化や担い手不足などの理由で、農業に携わる人は全体としては減少傾向。そこで各地の自治体では就農に興味がある人材を受け入れて、独立を後押しする制度を用意しており、佐々木さんは石狩市の制度を利用して就農の準備をしてきました。
「研修では、指導農業士として活動されている先輩農家さんの農場で、苗の育て方、管理の仕方、ビニールハウスの組み立て方など、農業に必要な知識と技術を教えていただきました。それと並行して、農業総合支援センターというところで座学の研修もあり、営農に必要なさまざまなノウハウを身に付けていったんです」
自然の厳しさも痛感した
ほろ苦デビュー
2年間の研修を終えて、2021年春にミニトマト農家としての第一歩を踏み出した佐々木さん。研修中は水やりのタイミングも、施す肥料の量も、指導農家の指示がありますが、独立後はそれらをすべて自分で判断しなければなりません。
「何をするにも自己責任です。もちろん、こうなることを想定して、自分できちんと判断できるように研修カリキュラムは組まれていたのですが、いざとなると『これでいいんだっけ?』と迷いも出てきてしまって(苦笑)。初めて自分の名前で出荷する時は、検品もすごく気を使いました」
悩んだり、戸惑ったりしながらも、農家1年目をなんとか無事に終えられるかと思った翌年1月。石狩みのりファームを自然の厳しさが襲います。
「苗床用のビニールハウスが雪の重みで倒壊してしまったんです。幸いハウスには誰もいなかったので、怪我をすることはありませんでしたが、自然を相手にするとはこういうことなんだと痛感しました」
農家は毎年1年生。
課題に向き合いながら夢の実現を目指す
ミニトマト農家の一年は、5月上旬の植え付け(定植)から作業が本格化し、7月から10月ごろまでが収穫のピーク。冬から春にかけては、種から苗を作る作業などを行い、次のシーズンに備えます。
「1年目は収穫に追われて、脇芽をきちんと取り除けなかったことが課題。2年目は、脇芽は取れたけど、消毒選びや施肥のタイミングがイマイチだったことが課題。ひとつ課題をクリアするたびに、新しい課題がどんどん出てきてしまうんです(笑)」
先輩農家が言っていた『農家は毎年1年生』という言葉を噛み締めながら農業に向き合っていると、佐々木さんは笑います。
作物を育てることはもちろん、収穫された作物を使った『ものづくり(=六次化)』も、佐々木さんが農家になって取り組みたかったこと。
「採れたトマトは一粒残らず無駄にしたくないって思いが最初からあるんです。今はご縁があった福祉施設にジェラートマシンを入れさせてもらい、施設の方々に一次加工を委託しています。来年は収穫を手伝ってもらう計画もあり、農福連携を進めていければと考えているんです」
ちなみに農福連携とは、障がいを持つ人などが農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み。農業と福祉、それぞれの良いところを生かすものとして、注目を集めています。
コロナ禍、災害、戦争でも
必要とされ続けるのが農業という仕事
ハウス倒壊という想定外のトラブルはあったものの、概ね計画通りに事業が進んでいるという佐々木さん。来年にはハウスを増やし、作業のための人手も確保。さらなる収穫量アップを目指していくとのこと。
「始める前は不安だらけでしたが、今は農家になって良かったと心から思っています。ここ数年、コロナ禍や大きな災害、戦争などもありましたが、世の中が大変な時でも農業は必要とされ、働き続けることができます。
あと、農家は朝から晩まで休み無く働いているように思われるかもしれませんが、収穫のピークでなければ自分で時間をやりくりして、色々と好きなこともできます。興味があればぜひ一度、農の世界を覗いてみてもらえたら嬉しく思います」
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
畑の状態をアプリでチェック!
今どきの農家はIT機器もフル活用。こちらの機械はハウスの中の気温や湿度、土壌の二酸化炭素濃度などを測定し、自動でアプリに通知してくれる。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

私が農家を目指したのは30代後半ですが、それでも「若い」と言われます。だから、学校を卒業していきなり農家じゃなくていい。いろんな経験をした後で、農業を目指すのもぜんぜんアリです!

石狩みのりファーム

石狩市の農業研修生だった佐々木洋実さんが2021年に独立。ミニトマトを中心にブロッコリーや小松菜などを生産。ミニトマトを使った商品開発にも積極的に取り組む。

住所
北海道石狩市八幡町高岡3-15
TEL
050-3696-7310
URL
https://www.instagram.com/ishikari_minori_farm/

お仕事データ

米や野菜、果物を生産する専門家。
農家
農家とは
土づくりから植え付け、収穫、
出荷までを担うプロフェッショナル。

米や野菜、果物などを生産するのが農家の仕事。土づくりに始まり、種植え・田植え、収穫までを一貫して行います。植え付けから収穫までの期間は作物によって異なり、数カ月程度で実る野菜から数年かかる果樹までさまざまです。また、作物の成長や地質に合わせて肥料を追加したり、雑草を除去したり、病害虫の駆除も欠かせません。育てた作物は農業協同組合に出荷する他、最近ではインターネットを活用した直売やスーパーとの契約栽培など、ビジネススタイルは広がっています。

農家に向いてる人って?
自然の中で働くことが好きで、
根気強く作物と向き合える人。

農家は自然の魅力や季節の移ろいを感じながら働ける仕事。アウトドアや土にふれて生きることが好きな人には向いているでしょう。時には天候不順や病害虫の発生によって悩まされることもあることから、コツコツと試行錯誤を繰り返す根気強さも必要です。個人で農家を営む場合、経営者としての判断力や販売先を広げるビジネスセンスも問われます。

農家になるためには

農家になるために必要な資格や学歴はありません。実家が農家を営んでいる場合は、仕事の手伝いを通して実践的にスキルを磨き、家業を受け継ぐケースが多いようです。また、農業高校や専門学校、農業大学校、大学の農学部などで農業の基礎から学ぶ人も少なくありません。個人事業主として開業するには農業生産の研修を受け、農地や農業機械を手に入れた上で農業を営むことができます。最近では農業法人や大規模農家に就職したり、新規就農相談センターが実施する研修などで学び、就農する道もあります。

ワンポイントアドバイス
国としても農家になりたい人を
熱烈にバックアップ。

日本では食の安全・安心への意識が高まっている他、食料自給率が低いことが課題にもなっていることから、農業に関心を寄せる人が増えているようです。そのため、農家は今の世の中に必要とされ、まだまだ可能性に満ちている仕事といえます。国としても、農家になりたい人を応援しようという気運が高まり、農林水産省が新規就農者への給付金を支給する制度をスタートさせました。「45歳未満であること」「都道府県が認めた研究機関で1年以上研修すること」などの条件はありますが、この制度を活用することで初期費用の負担を抑えて就農することができます。