曽根  太陽さん
インタビュー公開日:2023.06.09

あらゆる環境下での性能評価を行う
むかわ町のいすゞ北海道試験場。
自動車にとって何より大切なのは安全であること。そのために自動車メーカーやタイヤメーカーなど、自動車に関わるメーカーの多くはさまざまな環境下での使用を想定した性能試験を行っており、厳しい基準をクリアしたものだけが製品として世に送り出されています。
そんな自動車メーカーのひとつで、むかわ町に大規模なテストコースを持つのが、バスやトラックなど、商用車両の業界リーダーとして知られるいすゞ自動車です。テストコースの運営を担う株式会社いすゞ北海道試験場では、東京ドーム92個分という広大な敷地で様々な試験を実施しており、いすゞの車の安心・安全を担うという重要な役割を果たしています。
今回取材をさせてもらったのは同社でテストドライバーという仕事に就く曽根太陽さん。「こんな仕事があるなんて全然知らなくて(笑)」と笑う曽根さんに、仕事内容ややりがいについて詳しく聞いてみました。
子供の頃から「車好き」。仕組みや構造の
興味から、自動車整備を学ぶ専門学校へ。
曽根さんの出身は稚内市。実家が酪農を営んでいたことから、トラクターやトラックなどの重機が身近にあり、子供の頃から乗り物が大好きでした。中学生になるとさまざまな車を紹介する映像を動画サイトで見るのが日課になり、整備士という仕事にあこがれるようになったと言います。
「見た目だけじゃなく車が動く仕組みや構造にも興味がわき、高校卒業と同時に札幌にある自動車専門学校に進学しました。学校は座学よりも実習がメインで、車の部品を分解したり、それをまた組み立てたりしながら、機能や仕組みについて学んでいきました。実際に車に触れながら、知識を深められるのは楽しく、卒業したらディーラーか整備工場で働きたいと思っていました」
「テストコース(試験場)」という職場を知ったのは、専門学校の先生の紹介。
「『こういう会社があるけれど、よかったら見に行ってみないか』と薦めてもらい、見学に来たのが最初です。見学では、会社のことや仕事のことについて説明を受け、コース走行に同乗させてもらったりしました。世の中にテストコースというものがあることは知っていましたが、それが北海道にあるとは思ってなく、また具体的にどんな仕事をしているかは全く知らなかったので、見るもの聞くこと全てが驚き(笑)。専門学校でも車については学んできましたが、自動車開発の舞台裏を見たような感動がありました」

自動車開発に携わるめったにないチャンスと、
いすゞ北海道試験場のテストドライバーに。
見学を終えた曽根さんは、こんな職場で働けるチャンスはなかなかないと考え、いすゞ北海道試験場への就職を希望。テストドライバーとして採用され、同社の一員になりました。
テストドライバーという言葉から「運転すること」だけが仕事のようなイメージがありますが、そうではありません。
「当社では親会社(いすゞ自動車)からの依頼で、自動車の性能についてテストを行っています。その依頼が例えば「耐久性をテストしてほしい」というものだったとすると、当社ではどんなテストを行えば耐久性が評価ができるかを検討し、試験項目を組み立てることから始めます。舗装道路だけじゃなく、砂利道や山道を走るとか、荷物をたくさん積んでみるとか。条件をいろいろと変化させた時に、車にどのような影響があるかデータを収集し、本社にフィードバックするんです」
いすゞ北海道試験場には、テスト内容を検討したり、集めたデータを解析する「エンジニア」と、実際にコース走行を行う「テストドライバー」の大きく分けて2つの仕事があり、それぞれが連携しながらテストが行われています。
「データ収集に必要な計器を車に取り付けたり、安全にテスト走行ができるよう車の整備を行ったりするのもテストドライバーの役割。専門学校で学んだ整備の知識をフル活用しています」
先輩たちから積極的に技術や知識を学び、
テストドライバーとしてステップアップを。
入社して2年。まだまだわからないことはたくさんあるという曽根さんですが、些細なことでも質問しやすい先輩が多いので、働きやすい職場だと感じているそう。
「ひとつの質問をすると『それをやるならこっちのやり方が良い』『こういうミスをしやすいから気をつけて』とプラスアルファのアドバイスをしてくれる人が多く、勉強になります」
テスト走行にも簡単なものから難易度の高いものまであり、曽根さんが担当できるのはまだ比較的簡単なものが中心だそう。
「大型免許も取ったばかりですし、バスやトラックを手足のように運転する先輩たちにはまだまだおよびません。テストによってはコースを出て公道を走るものもあり、そうしたテストを任されるようになるにはもっと経験が必要です」
自分の感覚がよりよい製品づくりに生かされる
のがテストドライバーという仕事の醍醐味。
「テストドライバーとして大切なことは?」と聞くと、「自分の中に基準を作ること」と答えてくれた曽根さん。
「たとえば、『乗り心地がよい』という感覚って、人それぞれなんです。ある人にとっては良い乗り心地でも、別の人にとってはイマイチだったりするかもしれません。なのでテストドライバーは、入社後にまず『乗り心地が良い』とはどういうことかを先輩に教わり、自分の中に基準を定めることから始めます。その基準に対して『今回の設定だとショックが強い』とか『安定感がある』とか、いろいろな表現を駆使して自分の感覚をエンジニアに伝えていくんです」
実際のテストでは、車に搭載されたコンピュータの設定をその場で変化させながら行うものもあり、エンジニアと無線でやり取りしながら『今はちょっとふらつく感じがあります』『これならどう?』『安定しました!』・・・といったやり取りをしながら、データを取っていくことも多いそう。
「自分の五感を生かしてデータを収集し、それが、よりよい製品に役立てられるのがこの仕事の醍醐味。いすゞのクルマづくりの一端を担っているというやりがいを感じて働いています」
シゴトのフカボリ
テストドライバーの一日
8:15
出勤
9:10
テスト車両の点検
10:00
テスト走行
12:00
昼休み
13:00
テスト走行
16:40
収集したデータの確認
17:00
退勤
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

機械で測定した数値だけではなく、自分の「感覚」がデータとして生かされて、いすゞの車づくりに貢献できるところが、この仕事のやりがいです。

お仕事データ

自動車を評価するプロ!
テストドライバー
テストドライバーとは
走行テストやパラメーターから、
製品の品質向上や性能最適化に貢献!

テストドライバーは、自動車の開発において、性能や安全性を評価するプロフェッショナル。具体的には、まず新しい車・プロトタイプの性能や挙動を確認し、問題点を洗い出します。さらに、あらゆる状況や気象条件のもと、市街地や高速道路、特設コース・テストトラックで走行テストを実施。走行中にセンサーや計測機器を使用し、さまざまなパラメータを記録するのも大切な役割です。こうしたテストの結果や問題点を、開発者やエンジニアと共有し、製品の品質向上や性能最適化に貢献します。

テストドライバーに向いてる人って?
高度な運転技術を持ち、
クルマの機能やシステムにも興味がある人。

テストドライバーはさまざまな状況下でテスト走行を重ねるため、高度な運転技術を持っていることが大前提。自動車や製品を評価するためにも、クルマの機能やシステムに対する興味や知識を持っていることが求められます。また、詳細なデータ収集や問題の特定をするため、細部にまで注意を払えるタイプは向いているでしょう。繰り返しのテストや長時間の運転を行うこともあるため、柔軟性と忍耐力を持っていることも大切な素養です。

テストドライバーになるためには

テストドライバーになるためには、自動車の運転免許(普通免許)が必要です。多くの場合で学歴は問われませんが、専門学校や短大、大学において自動車や関連分野の基礎知識を学んでおくと、技術的な理解や深い分析の役に立つでしょう。テストドライバーは自動車メーカーやタイヤメーカーに所属するケースが大半のため、学校を卒業後、こうした企業に就職するのがテストドライバーの第一歩となります。

ワンポイントアドバイス
自動車業界の進化に
貢献できるという大きなやりがい!

テストドライバーは新しく開発される自動車や運転技術のテストを担当し、その性能や安全性の評価を行います。自身が自動車業界の道を切り開く先導者ともいえ、産業の進化に貢献できるのは大きなやりがいが感じられるはずです。また、自動車に搭載される高度運転支援システムが普及しても、その性能や安全性の評価はテストドライバーが担うケースが大半。これらのシステムの実地評価や検証のためのニーズが増える可能性も大きいでしょう。