大原 祐介さん
インタビュー公開日:2018.05.15

靴職人への転換を決めたのは
社会人2年目の時。
「大学卒業後は東京で、店舗の内装を手がける会社に入社しました。仕事のかたわら、『手作り靴』の教室に通い始めたのが、入社2年目の札幌勤務の時でしたね。理由?ただ革製品が好きだったから。最初は、なんとなくなんです(笑)」
趣味で習い始めた『靴作り』でしたが、次第に仕事として意識するようになっていったと大原さん。
「ものづくりがしたくて入った会社でしたが、就いたのは営業職。改めて自分がしたいことを考えたら、真っ先に心に浮かんだのが、靴を作ることだったんです」
まもなく会社を辞めた大原さんは、靴職人を養成する学校に通うことに。
「学校に通うのは日曜日。ただし朝10時から夜10時までと、かなり濃密なスケジュールでした。平日は学費を補うためにアルバイトに精を出していました」
「とりあえず始めちゃえば?」
友人の一言が後押しに。
専門学校卒業後は、札幌勤務時に出会った現在の奥様との結婚を機に北海道に移住。靴工房の開業を見据えて、住まいと仕事場が一体になった物件を探し、やっと見つけたのが現在の場所。「当初は、家族や友人などの知人からオーダーを受けて靴を作ったり、靴修理のアルバイトをしたり。しばらくはこの調子でいこうと思っていたのですが、『どうせならお店始めちゃえば?』と友人からの一言で火が付きました。」
その翌月には看板を掲げて、ホームページも開設。看板を見た近所の方や、ホームページを見て遠方から足を運んでくれる方など、少しずつお客様がついていきます。
「オーダーメイドの靴がほしいという方の他、足の形に合う靴がない、市販の靴だと痛くなるなど、悩みを抱えた方も来店します。靴づくりそのものも楽しいですが、困っている方の役に立てるのがうれしいですね。」
採寸から納品までは約3カ月。
完成間近で失敗したことも・・・
オーダー靴の製作は、採寸から納品まで約3カ月。まずは足の幅や高さなどさまざまな個所を採寸し、片足のサンプルモデルを削り出し、木型メーカーに送ります。メーカーでモデルを3D計測し、両方分の木型(靴の型)が作成され送られてきます。「その木型も完全ではありません。高すぎる部分は削り、逆に高さが必要な所は革を貼って厚みを出すなど微調整をして左右の足の形を正確に再現していきます」
その後、木型に合わせて型紙を作り、さらに革を切って縫い合わせ仮の靴を作ります。
「仮の靴ができたら一度お客様に試し履きをしてもらい、フィットするかを見極めます。その結果をもとに再度型を修正。そうして、やっと実際の靴作りが始まるわけです」
そんな慎重な作業の積み重ねなので、幾度となく失敗もしたとか。
「本当の最終工程、靴を型から外す時に革が裂けてしまったことがあるんです。その瞬間呆然とし、その後もしばらく落ち込みました(苦笑)」
特別な思いを託してくれるから
背筋が伸びる思いです。
足の形に合う靴がなくて困っている方や、片足が義足の方、足に左右差がある方など、さまざまなお客様が大原さんのもとに訪れます。
「一人として同じ足の人はいないので、誰かの型を転用したり再利用することはできません。悩みも千差万別。だからこの仕事を全うしていくためには、常に勉強すること、技術を磨き続けることが大切なんです。革製品は海外の方が歴史があるので、古い洋書を読んだり、義足の方の靴を作るために医療系の本で勉強したりもします」
ギフトとしてのニーズが多いのも、オーダー靴ならでは。
「ベビーシューズや、結納返しで利用していただくこともあります。また、最近では勤続30周年のお祝いにと、遠方から来てオーダーして下さる方がいました。お客様の人生を彩るような特別な一足を作らせていただけるわけですから、背筋が伸びる思いです」
一つ一つの工程に意味がある。
意図をもってやれば上達が早い。
大原さんが身に着けた技術のほとんどは、開業後の経験の中で積み重ねてきたもの。
「学校では基礎的なことを学びますが、いざ現場に出るとその知識だけでは通用しません。
人の数だけ足があり、足の数だけ靴がある。応用が求められることばかりなんです」
最後にこの仕事を目指す若者へのメッセージを。
「次にどうなるかを意識して、意図をもって取り組む。そして何回も繰り返すこと。そうすることで上達するし、自分で考えて新しいことができるようになります。まぁ、若いうちは、一直線に進むのもいいでしょう。たとえ失敗してもそこから得られるものが必ずありますから」
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

ものづくりに限らず、『ただなんとなく』やるのではなくて、意図をもって取り組むことが大切です。そうすれば、前に進むスピードも速くなりますよ。

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
革包丁(上)、ワニ(ピンサー)(下)
靴作りには欠かせない道具です。革包丁は革を切る道具。ワニ(ピンサー)は立体成形する際に、「引っ張る」「たたく」の2つの用途で使います。

HOME BASE BOOT MAKER

道内では希少な完全オーダーメイドの靴専門店。2011年開業以来、靴にお悩みの方や靴にこだわりのある方から支持されている。2019年、工房を桑園から小樽に移転。2023年、「寒い季節の長い北海道で、よりブーツに力を入れたい…」と思いを込めて現在の屋号に変更。

住所
北海道小樽市張碓町75-6
TEL
0134-64-6096
URL
https://www.homebasebootmaker.com/

お仕事データ

渾身の一足を作る職人。
靴職人
靴職人とは
デザインから木型作成、仕上げまで、
さまざまな工程を経て靴を製作。

主に革靴のデザインから木型の製作、革の切断、縫製、靴底の取り付け、仕上げといった工程を経て一足を仕上げるのが靴職人の仕事。ここ最近は機械化されているケースも多いようですが、大手メーカーの工場ではなく、革靴の工房を開いてすべての工程をほぼ手作業で行う人もいます。デザインの美しさや独自性、フィット感、丈夫さが手作りの靴の魅力です。

靴職人に向いてる人って?
ファッションの流行に敏感で、
地道な作業も最後までやり遂げられる人。

靴職人には素材や工具の使い方をはじめ、靴のデザイン、専用ミシンによる縫製などの知識が必要です。足に合わない靴を履いていると体調にも影響を与えかねないので、足の構造や骨格を学べる熱意も求められます。また、ファッションの流行にも敏感である人も靴職人に向いています。仕事は地道な作業がほとんどなので、こだわりを持って最後までやり遂げる意志の強さも大切です。

靴職人になるためには

靴職人になるための道のりは決まっているわけではなく、資格も必要ありません。服飾系の大学や専門学校で靴作りの基礎を習得した後、靴メーカーや服飾メーカーに就職するのが一般的です。中には革靴の本場であるヨーロッパに留学し、修業を積む人もいます。また、工房を構える靴職人のもとへ弟子入りするというコースもあります。

ワンポイントアドバイス
大手メーカーでスキルや知識を高め、
独立して工房を開く靴職人も!

靴作りの工程は、大きく「靴のデザイン・設計」「裁断」「パーツの縫製」「ラスティング(革を引っ張りながら木型にはめること)」「靴底の貼り付け」「余分な部分を削って全体を磨く仕上げ」といった部門に分かれます。大手メーカーの工場では分業化されているケースが多く、新人時代は簡単な作業からスタート。徐々に多くの技術を身につけていきます。実務によってスキルや知識を高めた後、独立して工房を開く靴職人も少なくありません。