池永 祐樹さん
インタビュー公開日:2024.10.25

自然景観と人工的な造形を組み合わせ、
訪れる人に特別な体験を提供する仕事。
「ランドスケープ」という言葉を、聞いたことはあるでしょうか?直訳すると、「景色・風景」といった意味で、建築の分野で公園・広場・都市などのデザインのことを指します。池永祐樹さんは、その設計を行うランドスケープデザイナー。ちょっと、かっこいい響きです。
「ランドスケープ、あるいはランドスケープデザインという言葉は、一般にはあまり、なじみがないかもしれませんね。造園設計といえば、少しわかりやすいでしょうか。自然の景観と人工的な造形などを組み合わせ、それを見る人、そこを訪れる人に特別な体験を提供する。そんな仕事だと、思っています」
見渡す限りの平野が続く、北海道十勝地方のまち、音更町。廃校になった小学校を事務所としている「高野ランドスケーププランニング」が池永さんの職場。1970年代からランドスケープデザインに取り組む、この世界のパイオニア的存在です。
「自然景観に関わるランドスケープデザインを考えるにあたって、豊かな自然に囲まれたこの土地は、まさにうってつけの場所だと思いますし、それがこの会社で働きたいと思った一番の理由なんです」
そう言って、かつては子どもたちが眺めていた広々とした風景に目を細める池永さんです。
建築か?ランドスケープデザインか?
悩んだ末に参加したインターンシップ。
神戸出身の池永さん。建築の分野に興味を抱き、近畿大学の建築学部に進学します。
「最初は、戸建や集合住宅の設計の仕事に憧れ、アルバイトで設計事務所にも出入りしていました。でも、ある日、大学の設計課題をきっかけにランドスケープに目が向いたんです」
課題で示されたのは、道路で分断された二つの土地。離れた空間をどう繋ぐか、どんなふうに連携して利用するかを考えるというものでした。対象となる場所に一体感を生み出し、結びつけていくかという視点は、まさにランドスケープデザインの考え方。そこに面白さを感じたのだと池永さん。
「卒業後は、ランドスケープの研究室がある大学に院生として進学しました。ただ、就職活動の時期を迎えるにあたって、当初から目指していた建築の道に進むか、ランドスケープの分野か、相当悩みました。そして決めたのが半年間の休学。インターンシップに参加し、実際に現場に触れてみようと思ったんです」
そのインターンシップ先が、今の職場である高野ランドスケーププランニングでした。『好きだから、この仕事をしている』と語った、当時の会長(創業者・高野文彰氏)の言葉や、おおらかさを感じる環境、みんなで食事を作って食べるという家族のような職場。心から「いいな」と感じたのだそうです。
標高2,156mから望む壮大な絶景。
ロープウェイの園地整備を担当。
公園や庭園、リゾート計画など幅広い分野でランドスケープデザインを手がける同社で、池永さんは現在、岐阜県高山市にある新穂高ロープウェイの園地整備事業(※)を担当しています。標高2,156mの山頂からは、北アルプスの360°の大パノラマが広がります。
「山麓の新穂高温泉駅、中間地点の鍋平高原駅としらかば平駅、山頂の西穂高口駅という施設があり、そのうち山頂駅の施設が、この10月にオープンとなります。園地の奥は槍ヶ岳など険しい山々への登山口となっていますが、ロープウェイを使えば誰でも山頂に行けるので、気軽に山岳風景や高山植物が楽しめるのが魅力ですね」
駅舎の改修と同時に実施されたランドスケープデザインのなかで一番大事にしたのは、なんといってもその眺望だったと池永さん。
「ロープウェイの運営会社などクライアントと話していたのは、山の風景を楽しみ、ドキドキ感を味わえるようにしたいということ。もともとの自然を残しつつ、多くの人に楽しんでもらえる施設をどう計画するかがポイントとなりました」
そうしてできたのが、「槍の回廊」という、斜面にブーメランのように張り出したデッキ。先端にはネットが張られ、網目から深く落ち込む谷底が透けて見えます。まさにドキドキするような仕掛けです。
※国立公園、国定公園などで行われる環境、施設などの整備事業
その場所での過ごし方を想像し、提案。
ランドスケープデザインの大切な要素。
「日本で唯一という2階建てゴンドラの発着と、その奥に山並みを望む『森のカウンター』、座ったり寝転んだりできるウッドデッキの『森のテラス』など、山頂でゆっくり時間を過ごしてもらうことを意識し、施設を設定しています。ロープウェイは春と秋に、星空鑑賞便という期間限定の夜間営業が行われます。『森のテラス』から見上げる満天の星空、きれいですよ」
山頂駅では食事やドリンクが楽しめますが、例えばコーヒーをテイクアウトし、『森のカウンター』で景色を眺めながら飲むといったひと時を想像し、提案することも、その環境を味わうという意味でランドスケープデザインの要素なのだと池永さんは話します。
「槍の回廊」の設置にあたっては、眺望を確保するため木の伐採を行いましたが、細い枝などはウッドチップにして園路に敷き、大きな木は丸太渡りを楽しめる仕掛けとして利用しています。森の体験もできるようにしたいとクライアントと話し合い、原生林を残したダイナミックな散策なども計画しています」
工事中には現場に滞在し、施工方法を作業スタッフとともに検討したり、仕上がりの確認を行っていたという池永さん。現場を動かしながらも、より良い計画とするため、その場で変更を加えていくこともあるのだそうです。
この施設を、つくってよかった。
利用する人の反応に手応えを感じる。
景観や地形を広い視点で見て行う全体計画と同時に、現場の状況やクライアントの意見も聞きながら微調整を行う。そうした過程を経て、実際に形ができていくことに、楽しさを感じると池永さんは笑顔を見せます。
「『森のテラス』では、『これをつくってよかった』という経験をしました。階段状のテラスができていくなか、どんな感じかなと寝転んでいたら、登山から戻ったお客様が『いいな、私もそれやりたい!』って。思わず、『いいでしょう』と(笑)。その反応に手応えを感じました」
園地にはもともと高山植物があり、工事にかかる部分は池永さんたちとクライアント、ロープウェイのスタッフによって、ワークショップ形式で株を掘り起こし、一時的に植え替えをしたそうです。
「当社では、このプロジェクトに限らず、一般の方々も参加できるワークショップを実施しています。ともに学びながら、一緒に風景をつくっていく、これこそが、ランドスケープデザインではないかと思うんですね」
現在、山頂駅に続いて、二つの中間駅の園地整備事業も始まっており、改修中のビジターセンターを森の魅力を発信する拠点にしたいと意欲を見せる池永さん。「都市のガーデンなどにも興味がある」そうですが、しばらくは十勝と北アルプスを往復する日々が続きそうです。
シゴトのフカボリ
ランドスケープデザイナーの一日
9:00
出勤、全体会議、担当するプロジェクトに関する打ち合わせ
10:30
計画、設計、デザインなどの作業
12:00
昼食、休憩(当番制で食事づくりを行う)
13:00
計画、設計、デザインなどの作業
18:00
退勤、生活している会社のゲストハウス(徒歩5分)へ帰宅
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

大学の研究室である時、「先生にとって仕事ってなんですか」と尋ねると、「趣味かな」と。ああ、素敵だなと。私も今、そんな仕事に出会えて幸せですし、みなさんも好きな事に向かっていってほしいと思います。

高野ランドスケーププランニング株式会社

1975年に東京で創業し、1990年に北海道に本社を移転。十勝千年の森など地域のプロジェクトをはじめ国内外で、ランドスケープデザインを手がけています。

住所
北海道河東郡音更町字万年西1線37番地(十勝事業所)
TEL
0155-42-3181
URL
http://www.tlp.co.jp

お仕事データ

自然と調和した空間を創造!
ランドスケープデザイナー
ランドスケープデザイナーとは
自然環境と人工的要素を融合し、
美しく機能的な屋外空間をデザイン。

ランドスケープデザイナーは、公園や庭園、広場、住宅の庭など、屋外空間のデザインと計画を行う専門家です。自然環境と人工的な要素を調和させ、美しく機能的な空間を創造します。具体的な仕事内容には、クライアントとの打ち合わせ、現地調査、コンセプト立案、設計図の作成、植栽(植物の配置)計画、施工管理などが含まれます。また、環境保全や生態系への配慮、水資源の有効利用、持続可能な材料の選択なども大切な仕事。都市計画や環境デザインのプロジェクトに携わることもあり、人々の暮らしをより良くする重要な役割を担っています。

ランドスケープデザイナーに向いてる人って?
自然を愛し、創造性豊かで、
空間を立体的に捉えられる人。

ランドスケープデザイナーには、まず自然や植物に対する深い愛情と知識が必要です。同時に、芸術的センスと創造性を持ち、美しい空間を想像し、それを形にする能力が求められます。また、環境問題や生態系への配慮といった社会的責任も担うため、これらの問題に対する関心と知識も重要です。空間を立体的に捉え、頭の中でイメージを組み立てる能力も必須です。さらに、クライアントや他の専門家とのコミュニケーション能力、プロジェクトを管理する能力も求められます。デジタルツールを使いこなす技術力も、現代のランドスケープデザイナーには欠かせません。

ランドスケープデザイナーになるためには

ランドスケープデザイナーになるための明確な資格要件はありませんが、専門的な教育を受けることが一般的です。多くの人は、大学や専門学校で造園学、環境デザイン、ランドスケープアーキテクチャなどの関連分野を専攻します。また、建築や都市計画を学んでからこの分野に進む人もいます。卒業後は、設計事務所や造園会社で経験を積んでいくケースが多いでしょう。また、「登録ランドスケープアーキテクト(RLA)」などの資格を取得することで、キャリアアップにつながります。

ワンポイントアドバイス
持続可能性と技術革新を意識し、
幅広い分野の知識を吸収しよう!

ランドスケープデザインの分野では、持続可能性と環境への配慮がますます重要になっています。気候変動対策、生物多様性の保全、水資源の管理など、環境問題に関する知識を常にアップデートすることが大切です。また、3DモデリングソフトやGIS(地理情報システム)などのデジタルツールの進化も著しいため、これらの技術にも精通していく必要があります。さらに、建築、都市計画、生態学、心理学など、関連分野の知識を幅広く吸収することで、より革新的で魅力的なデザインを生み出すことができるでしょう。ランドスケープデザイナーは、都市化が進む現代社会において、人と自然をつなぐ重要な役割を担っており、今後もニーズが高い分野でしょう。