吉澤 みゆさん
インタビュー公開日:2019.07.25

印刷された紙の本が断然好き!
その思いを胸に製本会社で働く。
 コミックから雑誌、小説まで、多くの本が読めるスマートフォンのアプリが増えています。いつでも、どこでも気軽に楽しめるうえ、本を置くスペースに困らないことも人気の秘密のようです。
「確かに、自宅の部屋のなかは漫画で占領されています(笑)。でも、私は断然、印刷された紙の本が好き。アプリも便利かな、とは思いますが、実際の本に触れながら、ページをめくって読みたいんです」
 そう話しながら、思わず握りこぶしに力が入る吉澤みゆさんが働くのは、製本会社。創業から80年以上の歴史をもつ石田製本。多くの実績と確かな品質で、北海道内の印刷会社などから信頼を得ている老舗の企業です。
 文字や写真が印刷された紙をページ順に揃え、さまざまな方法で接着して最終的な一冊の本の形に仕上げていくのが製本会社の業務。吉澤さんは、できあがった本を書店へと出荷するために必要な、後作業(あとさぎょう)と呼ばれる工程を主に担当しています。
キャラメル包装機をオペレーションし
出荷の際、本に傷がつかないよう梱包。
本は少しぶつけただけで傷がつきやすく、また、そのままでは一冊一冊がバラバラになり、運ぶのが大変です。そこで、数冊ずつまとめて包装し、段ボール箱で梱包して出荷します。吉澤さんの仕事は、この包装作業に使うキャラメル包装機のオペレーションです。
「10冊、20冊といった単位ごとに、クラフト紙で包装します。必要な冊数の本をセットし、サイズなどの数値を設定すると、あとは自動で包んでくれる、すぐれものの機械です」
キャラメル包装機。ユニークな名前ですが、仕上がった姿がキャラメルの個包装に似ていることから、その名がついたのだとか。ちなみにクラフト紙というのは、紙袋や封筒、肥料の袋などに使われる丈夫な茶色の紙です。
「私が行っている作業は、機械に本を載せることと、包装後のチェックなど。難しさはあまり感じませんが、重たい本もあり、慣れるまでは筋肉痛になったこともありましたね」
 それでも、辛くて仕事に行きたくない、と思ったことは一度もないのだとか。大好きな機械に囲まれていることが楽しい。それが一番の理由なのだと吉澤さんは話します。
印刷機と出会って、機械に興味を抱く。
なじみやすい社内の雰囲気も決め手に。
吉澤さんが機械に興味を抱くようになったのは、札幌高等技術専門学院の電子印刷科で学んだことがきっかけだったそうです。印刷のことについて教える学科でした。
「絵を描くのが好きで、紙に向かっているうちに印刷に関心が湧いてきたんです。本のページのデザインや色調整などを行う印刷データ作成の仕事に就きたいと考えました」
 授業では、印刷データ作成のほか、印刷物が仕上がるまでを学びます。そこで出会ったのが印刷機。カラー印刷を高速で行う大型のオフセット機などに初めて触れ、こうした機械を自分の手で動かしてみたいと思うようになっていったのだと言います。そんな吉澤さんが、印刷会社ではなく石田製本に入社したのは、授業で見学に訪れた際に感じた、社内の雰囲気の良さが決め手でした。
「私は人見知りをする方なのですが、話しやすく、接しやすい方ばかりで、なじんでいけそうだと感じたことが大きいですね」
印刷機ではないものの、さまざまな機械が並ぶ工場。もちろんそれも、胸をときめかせるポイントでした。
製本に関するさまざまな業務も担当。
一冊の本ができるようすに興味津々。

 印刷された紙を本の大きさに切断することに始まり、最終的な仕上げまでを行っている工場では、段階ごとに仕事が集中する工程が出ることも。そんな時は、自分の担当を離れて作業を手伝うことも珍しくないそうです。
「本のページを並べる丁合(ちょうあい)という作業や、落丁などがないかを確認する検品など、いろいろな作業を行う日もあります。そのなかで、幅広い知識や技術が身についていくことにも楽しさを感じています」
 同じ本でも、雑誌やパンフレットなどで一般的な並製本、分厚い表紙で包んで仕上げる上製本と呼ばれる仕様があります。絵本、卒業アルバムなどでよく見られる硬い表紙の本が上製本で、本の中身と表紙をつなぐために、見返しという紙がつけられます。
「見返しは通常、貼り込み機でつけますが、本の仕様によってはベタ貼りという手作業での工程があり、その作業も担当します。流れ作業なので、最初は少し焦りました。でも自然と早くできるようになり、成長も実感しています」
各工程に携わりながら、一冊の本ができあがっていくようすが見られることに、入社後2年経った今も興味津々です。
仕事に集中して時間を忘れることも。
技術を身につけ本の魅力を伝えたい。
 一緒に印刷を学んだ同級生も入社し、印刷データの作成を担当していますが、吉澤さんは工場への配属を希望しました。
「機械を扱いたいというのが一番ですが、デスクワークより身体を使う仕事の方が好きだということに、学生時代に気づいたんですね。どんどん動き回り、高いところにも上るので、猿みたいに身軽だね、と言われています(笑)」
 本を載せ、重ねてあるパレット(荷物を載せる台)をよじ登り、上の本を取ってくることもあるそうで、いきいきと働いているようすが伝わってきます。絵を描きはじめると、食事も忘れて没頭してしまうことも多かったという吉澤さん。今も、仕事に集中すると、知らないうちに時間が過ぎていくのだとか。
「手作業となると、のめり込むところがありますし、社内では、本の仕上がり見本を一から十まで手作りする仕事に興味をもっています」
 吉澤さんが話すのは、実際の本の形をつくる束見本(つかみほん)。それは、ベテランだけができるまさに職人技。技術を身につけ、その域を目指すとともに、紙の本の魅力も伝えていきたいと、抱負を語ってくれました。
シゴトのフカボリ
製本技術者の一日
8:15
出勤、朝礼、今日の業務確認
8:20
キャラメル包装機のオペレーション
10:30
検品作業
12:00
昼食
13:00
丁合作業
15:00
休憩
15:10
キャラメル包装機のオペレーション
17:30
退勤
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

紙の本の良さを、もっと知ってもらえれば嬉しいですし、そのために私自身、技術を受け継ぎ、品質の高い本づくりに関わっていきたいと思っています。

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
安全カッターとサインペン
安全カッターは、印刷会社から運ばれてくる、印刷物の結束バンドや、製本前の紙を移動させる時に巻くラップを切るために使います。サインペンは、包装が終わると見えなくなる本の名前や、作業を引き継ぐための指示を書くための必需品。いつも腕ポケットに入っています。

石田製本株式会社

創業80年を超える、北海道で老舗の製本会社。幅広い種類の本の製本を手がけるほか、オンデマンド印刷、オリジナル絵本の制作も行っている。

住所
北海道札幌市西区発寒16条14丁目3-31
TEL
011-661-5670
URL
https://i-bb.co.jp

お仕事データ

私たちに身近な印刷物や本を!
印刷・製本スタッフ
印刷・製本スタッフとは
印刷や製本の作業によって、
印刷物を形にする仕事。

主に印刷工場で印刷機や製本(本に仕上げること)のオペレーションを担うのが印刷・製本スタッフ。印刷スタッフは、まずどのような印刷物を手がけるのか記された指示書に従ってスケジュールを立て、紙やインクといった材料を準備します。次に見本を確認しながら、印刷位置や濃度、色目などをチェックして印刷をスタート。製本スタッフは印刷された用紙を断裁してページ順に並べたり、折加工をしたり、針金や接着剤で互いに接合するなど一つの冊子に形づくる仕事です。その他、印刷物の梱包や発送の準備を行います。

印刷・製本スタッフに向いてる人って?
慎重さと根気強さに加え、
職人気質も持っている人。

印刷の現場では色味を間違えたり、ページ順を逆にしてしまうといったミスは許されません。そのため、注意深くチェックができるような慎重さが求められます。また、一人前になるまでに長い時間を要する仕事であることから、コツコツと技術を習得する根気強さも必要です。紙はその日の気温や湿度によって色のノリが異なるため、自らの感覚を駆使して仕事と向き合う職人気質の人も向いているでしょう。

印刷・製本スタッフになるためには

印刷・製本スタッフとして働くために必要な資格はありません。多くの印刷会社では、高校卒業程度の学力を求めるようです。ただし、最近の大手印刷会社では印刷技術を中心に幅広い事業を手がけているため、機械系や電気・電子・通信系、バイオ・環境系などを学んだ人が活躍できるフィールドも広がっています。

ワンポイントアドバイス
印刷だけにとどまらない
新たなビジネスを模索中。

ここ最近はデジタル化が進んだことで、印刷業界も従来の印刷だけにとどまらないビジネスを展開する会社が増えています。大手印刷企業では、液晶カラーフィルタや太陽光電池部材といったものを印刷技術と組み合わせるケースも増加中。さらに、電子書籍やオンデマンド出版といった、ITと出版の融合によって新しいビジネスの可能性を模索しているところです。