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齋藤 洋平さん
インタビュー公開日:2020.09.04

初めて成功させた四重芯の10号玉。
花火師にしかわからない奥深い世界。
「2019年に道南で行われた花火大会で、10号玉の多重芯を成功させることができました。四重芯(よえしん)だったのですが、会心の出来。天狗になりそうでした(笑)」
ちょっと興奮気味に話してくれるのは齋藤洋平さん。花火製造では北海道内でも有数の企業、株式会社海洋化研の花火師です。尺玉と呼ばれる10号玉は直径30cmの大きな花火で、開くと300mにも広がります。四重芯というのは、打ち上げた時に芯(円)が四層になるタイプで、ベテランの花火師でもなかなか思い通りに上げられない難しいこの花火を同社で初めて成功させたのだとか。
「本州の老舗花火屋さんで学ぶ機会をいただき、そこで技術を身につけた後、試験花火で研究を重ねた結果、理想に近い開き方をしてくれたんです!」
観客からみれば、どれも大きくて見事な花火。ただ、作った本人からすれば、開いた形、色の出るタイミング、消え方などほんの細かな部分が気になることがあるのだそうです。なんとも奥深い、花火の話に引き込まれます。
連日連夜、打ち上げるオンシーズン。
観客の歓声を、モチベーションに!
花火師の晴れの舞台は、言うまでもなく花火大会です。このため、毎年7〜9月、夏から秋にかけてのオンシーズンには、齋藤さんは各地の花火大会を飛び回ってます。学園祭から、道内でも有数の花火大会まで、文字通り連日連夜、どこかで花火を上げているのだそうです。
「花火大会の多いお盆前後が毎年、仕事のピークですね。”出番”が続く忙しい時期ですが、そこにお客さんの歓声が待っていると思うと疲れも吹き飛びます。今日は、どんな会場で、どんなお客さんに出会えるのだろうと楽しんでいる自分がいるんですね」
一方でシーズンオフとなる冬以降は、花火の製造がメイン。定番の花火を作るとともに、自ら成功させた四重芯のように自分にとってのチャレンジに向けて研究を重ねる日々です。
「オリジナルの花火の製作にも、どんどん取り組んでいきたいと思っています」と、意欲満々の齋藤さんです。
土木の授業の一環で見学した花火工場。
開かれたチャンスに挑戦、の気持ちで。
齋藤さんは入社13年目。今は主任という立場で現場を引っ張る中堅社員ですが、花火師として経験を積むことになる原点もやはり、お客さんの歓声だったと話します。
「入社して間もなく、先輩に連れられて花火大会の現場に入りました。仕事として続けられるのかという不安もあるなか、耳に飛び込んできた大きな歓声。まだ何もできないながら、花火師の魅力を実感した瞬間でした」
花火師以外は立ち入り禁止の場所に立っているというだけで興奮したという齋藤さん。高校、大学で土木を学んだことが花火との出会いにつながりました。土木では、工事の際に岩などを破壊する発破作業を行うことがあります。その学習の一環として、火薬を使う花火工場を見学する機会があり、それが今の職場だったのです。
「花火の製造現場を見せていただき、職人さんの姿に憧れを抱きました。もちろん、まったく未知の世界でしたが、若手の採用を考えているということで、手を上げたんです」
チャンスが開かれているのだから、挑戦してみよう。そんな思いだったと振り返る齋藤さんです。
自分の花火を喜んでくれる喜び。
高揚感に勝る緊張感のなかで。
入社後はまず、打ち上げのチームに加わって現場に入ります。ものを運ぶ、配置するといった補助作業を繰り返しながら、手順を覚えていくのが第一歩なのだそうです。
「同時に、製造工程のなかで危険の少ない部分から徐々に作業を任され、実際の花火に使われるパーツなどを作っていきます」
初めて自分が関わった花火が上がった時は、それだけで嬉しかったと齋藤さん。やがて一つの花火を製造するようになると、お客さんの歓声もまた、違ったように聞こえるのだとか。
「自分の花火を喜んでくれている。それが伝わってくるのが何より嬉しいですし、もっと楽しんでもらえる花火を作ろうと、意欲が湧いてきますね」
一方で、花火大会の最中は高揚感よりも緊張感が勝るのだと言います。大勢の人がわくわくしながら待っている花火。うまく上がって当たり前。プロとして失敗は許されない。齋藤さんのような中堅やベテランになっても、責任の重さを痛感するのだそうです。
「自分の花火の欠点は見えても、きれいだなと思って現場にいることは、ありません」
やはり奥深い、花火師の世界です。
どこまでも突き詰められる技術の世界。
自分の代名詞となる花火を目指して。
花火の製造、打ち上げに加えて、齋藤さんは営業的な仕事もこなしています。花火の主催者の依頼に沿って打ち上げのプログラムをつくることもあれば、新型の花火を盛り込んだ演出を提案することもあるそうです。
「老舗の花火大会でも毎年、お客さんも違えば条件も異なります。その意味では、常に一からのスタート。主催者の方々、警察や消防、会場の警備担当者などと調整・連携して初めて花火大会ができるんです」
そうした運営面にも関わり、把握することで、自分たちが上げる花火の意味合い、そして魅力をより感じられるのだと言います。
「花火は上げてみないと、どんなふうになるか実は正確にはわかりません。色、形、タイミング。何年やっても、答えが出ない部分がある。逆に言えば、どこまでも突き詰めていける技術の世界です」
だからこそ、やり続けられるのだと齋藤さん。では、ゴールはどこに? と尋ねてみると、自分の代名詞のような花火を作り上げること、という答えが帰ってきました。
「孫やひ孫に〝あれは、じいちゃんの花火だ!〟と言わせたいですね(笑)」
世代をも超える大輪の夢が、ぱっと開きました。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

大学時代は、土木の施工管理か技術教員を目指していました。それが、花火の世界にゼロから飛び込み、その意味では遠回りをしてきたと言えます。でも、だからこそ、新しい発見があり知識も得られたと思っています。

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
込棒
花火に入れた火薬を、コンコンと叩いて均等に詰めていく時に使う道具です。それぞれが、手になじんだ形、大きさのものを使っています。

株式会社海洋化研

北海道内ではシェア、規模とも最大級の花火工場があり、花火の製造・販売から花火大会の企画・演出・打ち上げまでをトータルに手掛けています。

住所
北海道旭川市神居町富岡468
TEL
0166-62-6208
URL
https://peraichi.com/landing_pages/view/kaiyoukaken

お仕事データ

夜空を彩る花火を。
花火師
花火師とは
安全を第一に花火の製造や
打ち上げなどを行う専門家!

花火師の仕事は大きく「花火の製造」「花火の打ち上げ」「花火大会の準備と後片付け」の3つに分かれます。花火の製造は、「玉貼り(花火のまわりに紙を貼り付ける作業)3年、星かけ(光や煙を出す火薬の粒を作る作業)5年」といわれるほど技術が必要とされるようです。花火は火薬類取締法に関わることから、「製造作業に関する技術基準」と「保安管理技術」にもとづいて仕事を進めなければなりません。花火大会の準備や打ち上げ、撤収も人の安全を第一に管理や取り扱いを行います。花火師の所属する会社によって内容は異なりますが、日本の夏の風物詩・花火に携わるというやりがいのある仕事です。

花火師に向いてる人って?
体力に自信があり、
注意深く責任感のあるタイプ。

花火師は危険物である火薬類を取り扱うことが多いため、責任感があり慎重な性格の人が向いているでしょう。花火大会の準備や後片付けには各種機材の搬入出といった重労働もあることから、体力があることも求められます。一流の花火師になるには長い時間がかかり、時に上司や先輩の技術を「見て盗む」世界でもあるため、地道に勉強を続ける粘り強さも必要です。

花火師になるためには

花火師になるために特別な学歴や技術は必要ありません。火薬を取り扱うことから、工業高校や大学の理工学部などで、仕事に役立つ「火薬類製造保安責任者免状」や「火薬類取扱保安責任者免状」を取得しておくのも一つの道のりです。ただし、花火の製造や企画を行う会社は全国でも数が少なく、規模が小さいケースが大半。花火師の募集もあまりないため、直接問い合わせをするなどして、自分からアプローチすることが必要です。

ワンポイントアドバイス
花火の打ち上げには、
「煙火消費保安手帳」が必須!

花火の打ち上げに携わるためには、「社団法人日本煙火協会」から「煙火消費保安手帳」の交付を受けることが必要。これは花火業界の自主保安制度であり、協会に加盟している花火会社の就業者や関係者のみが交付を受けることができます。まずは花火会社で現場の補助作業から始め、一定のレベルに達したと認められた後、協会の各地区組織が行う保安講習を受けた人に対して交付されます。手帳所持者には毎年、保安講習を受ける義務がある他、花火打ち上げの際には、手帳を携帯しなければなりません。

ほかにもあります、こんな仕事。