宮下 陸さん
インタビュー公開日:2020.11.09

設計の仕事を志していたものの、
建設の現場を知るために入社。
建物の建設現場にはさまざまな仕事がありますが、宮下陸さんが勤める及川鉄工が手掛けるのは、デッキプレートと呼ばれる建物の床の部分です。大学では建築学科で意匠設計や都市計画を学んでいた宮下さん。卒業後は設計の仕事を…と考えながら研究に没頭していたある日、「近所のおじさん」が家に訪ねてきて、「溶接のできる建築家にならないか」と声を掛けてきたと言います。
その「近所のおじさん」こそ、実は現在働く及川鉄工の堤清丈社長。希望の分野とは違ったものの、「そういえば、設計を学んでいるけれど現場でどのように建てられているのかはわからないな」と思った宮下さん。「1年この会社で学んでみよう」と思い、入社してみることにしました。
品質を追求する厳しい職人の世界。
先輩に学び食らいつきました。
及川鉄工は、難しい工事でも必ずやり遂げるトップランナーの技術者集団として業界で知られる企業。現場は朝早くから始まり、その仕事内容はハードなものでした。
デッキプレートの工事は、組まれた鉄骨の上にプレートを1枚1枚敷き、細かい部分はその場で採寸しながら加工し、溶接して固定していきます。床は建物の中でも人や物を支える重要な部分。緻密な作業を正確に行うことが求められる仕事です。
当時は「先輩を見てならえ、自分で考えろ」という職人肌の世界。最初は現場で飛び交う用語や仕事のやり方もわからず戸惑ったそうですが、まずは誰よりも早く出勤して挨拶をするところから始めて職場になじみ、先輩や上司に尋ねながら仕事を覚えていきました。
東京で大きな現場を経験。
会社を客観的に見る機会にも。
2年目になり、「東京の現場に行ってみないか」という話が社長から持ちかけられました。当初は会社で1年間だけ学ぼうと思っていた宮下さんでしたが、「今のままでは職人として中途半端。現場を指揮する職長の経験を積んでからでも転職は遅くはない」と思い、その現場に入ることに。
新宿コマ劇場跡地に建てられた複合施設・新宿東宝ビルの大規模な建設現場で、全国からさまざまな職種の職人が集まっていました。「そこで自分の会社を客観的に見ることができ、先輩たちのすごさや、こんなことも必要なのではという部分も見えてきました」
また、北海道の現場では他の会社の人も顔なじみで和気あいあいとしていましたが、東京の現場では縦割りで淡々と作業が進んでいったと言います。「それでも、職人としてその技術で生きているという根っこは全国共通。その中でも技術や現場のまとめ方がすごい人から学ばせてもらいましたね」
現場作業と共に、会社の広報活動や
将来の人材をつくる活動も。
東京の現場では3年間経験を積み、必要な資格も取得した上で職長としてもデビュー。札幌に戻って一時怪我で現場に出られなかったことをきっかけに、社内外の広報活動の仕事も手掛けるようになりました。ホームページやパンフレット、求人広告、コミュニケーションツールとなる社内新聞、東京で学んだ施工効率を上げるIT化を進め、そのマニュアル作りなど、現場作業と両立しながらフル回転で制作。「僕はデザインで人の生活を変えることが夢でしたが、職人としてこのような形で物事を伝えていけるようになれたらそれも良い。課長に昇進したこともきっかけとなり、この会社のみんなと一緒にやっていこうと決心しました」
会社の広報にとどまらず、業界全体の将来の人材をつくるため、他の企業と協力して「職人団」のプロジェクトを立ち上げ、職業体験や啓蒙活動もスタートしています。
現場のチームづくりでは負けない!
オリジナルな道を爆進中。
職人としても、「職長として自分にしかできない成果を挙げたい」とストイックに進化している宮下さん。それでも、入社当初からお世話になっている尊敬する上司には、早さ、美しさ、安全性の面でまだまだ敵わないと言います。
しかし、そういった工事の品質にもこだわり抜いた上で、現場の他の企業の人を含めたチームワークづくりは自分にしかない持ち味だと胸を張ります。以前入った函館のホテルの現場では、各職種の職長会を開いて「この建物を通して地域に貢献しよう」と意思統一をし、企業の枠を超えて仲間意識を持ちながら士気を高めました。品質、安全性、早さを追求する現場を作り上げ、最後はメンバーからサプライズで手紙をもらうほど信頼が高まったとか。「想いが伝わった瞬間に、やりがいを感じます」と宮下さん。自分だけのオリジナルな道を切り開き、突き進んでいます。
シゴトのフカボリ
デッキ工(兼企業広報)の一日
6:45
出勤、現場へ移動
8:00
朝礼、作業開始
10:00
休憩
10:30
作業再開
12:00
昼休憩
13:00
作業再開
15:00
休憩
15:30
作業再開
17:00
作業終了
会社に戻り、翌日の段取り、広報の業務等

シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

自分の人生を決めるのは自分。周りの人のせいにせず、自分がどうしたいか、どんな人になりたいかを、常に自分に問うことが大切だと思います。

お仕事データ

「床」を生み出す専門職。
デッキ工
デッキ工とは
デッキプレートを敷き詰め、
建物に「床=フロア」を。

デッキ工事とは、骨組み状態の建物の鉄骨に床を作る作業。それを担うのがデッキ工の仕事です。具体的には厚さ1ミリ程度のデッキプレート(薄板鋼板)を隙間ができないよう丁寧に敷き詰め、接合部のボルト締めを行います。梁に合わせてデッキの長さを短く切断加工するなど高い技術も必要。最後はデッキを鉄骨に溶接して固定していきます。そこにコンクリートを流し込むことで、床が出来上がるのです。このデッキがあってこそ、建物の2階以上に「フロア」が生まれます。

デッキ工に向いてる人って?
高所作業に苦手意識がなく、
正確性とコミュニケーション能力も必要。

デッキ工は基本的に高所での作業が中心となるため、高い所に苦手意識がない人が向いているでしょう。また、建物の床を作るという重要な部分を担うため、丁寧で正確な作業が求められます。デッキ工事の作業が進まないと、他の職種の仕事を待たせてしまうことにもつながるため、チームワークを発揮しながら効率的にデッキプレートを敷き詰めなければなりません。そのためのコミュニケーション能力も必要です。

デッキ工になるためには

デッキ工になるために必要とされる資格や学歴は特にありません。工業高校や建築系の知識・技術が学べる専門学校、短大、大学などを卒業後、デッキ工事を行う会社に就職するのが一般的です。専門性の高い仕事ですが、最近は未経験から育てるという企業も少なくないため、チャレンジしやすい傾向。中には資格取得支援制度や独立支援制度を取り入れている会社もあります。

ワンポイントアドバイス
デッキ工事は低コストで
短納期だからこそニーズが高い!

デッキプレートを敷き詰めるデッキ工事は、低コストかつ短い工期で済むというメリットがあり、建設業界の中でニーズが高まっています。その工法はさまざまですが、いずれも強度や信頼性が高く、幅広い建物に対応できるのも特徴です。デッキ工の技術はすぐに身に付けられるものではありませんが、一人前になった時にはまさに「手に職」と呼べるほどの引き合いがあるでしょう。