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篠原  岳司さん
インタビュー公開日:2022.05.27

国際問題を学ぶべく大学進学。
アメリカでの出会いが転機に。
北海道大学教育学部、大学院教育学研究院の教員として、学生・大学院生の指導や研究に勤しんでいる篠原岳司さん。
高校時代は、海外での紛争のニュースに関心を持ち、国際政治を学ぼうと大学に進学。学んだことを生かす進路を模索し、国際問題の報道に関わる通信社のアルバイトも経験しました。当時は就職超氷河期ということもあり、納得のいく進路に出会えなかった篠原さんは、大学で学び足りないと感じた語学力を磨くためにアメリカに留学することにしました。
入学した語学学校よりも、篠原さんを惹きつけたのはホームステイ先のホストマザーが教員として働いていたフィラデルフィアの私立学校でのボランティアでした。4歳から中学2年生までが通う学校で、小さな子どもと遊んだり、高学年の子どもにパソコン操作を教えたりする機会に恵まれたのです。
現地の人との触れ合いにより、求めていた生きた英語力を身につけていく中、アメリカの公教育の実態を目の当たりにすることになります。
「公教育の制度を良くしたい」
思いを原動力に、大学院に進学。
篠原さんが関わった学校はとても環境の良い私立学校でしたが、教員の中にはフィラデルフィア都市部の公立学校を辞職した人もいました。
「話を聞くと、過酷な労働環境の中で精神的に追い込まれて辞めたと言っていました。人種差別や経済格差により、教育環境にも差が出てしまう現状は日本とはあまりにも違い、公教育の重要性を実感したのです」この経験が、篠原さんが教育に強い関心を持つ原点となりました。
9カ月間の滞在後、帰国し教員免許を取得するために北海道大学に編入。教育行政学のゼミを選択し、出会ったのが現在は同僚である横井敏郎教授です。篠原さんが問題意識を持つアメリカの公教育を研究テーマにするよう提案してくれ、そこを起点に研究の面白さに熱中していったといいます。
そして、大学院に進学して研究を深めることを決意した時、アメリカの教育行政研究の第一人者である坪井由実教授が北海道大学に赴任。大学院の5年間、直接指導を受けることができました。
大学院を修了し研究者の道へ。
専門職大学院で貴重な経験を。
大学院時代は大学の非常勤講師などで学費を賄い、さらに博士課程に進んで3年目には日本学術振興会特別研究員に採用され、2年間の給与と研究費を獲得。「研究者として生きていく入り口に立てた」と篠原さん。論文が学術雑誌に載るなど活躍し、大学院の博士課程を修了後は、特別研究員の立場を活かしアメリカの大学で在外研究をしました。
一方、その後の就職先探しも始まります。研究者の求人は大学等の研究機関から出ますが、枠が空いた時に不定期に出るもので、一人の枠に数十人が殺到することも珍しくありません。そんな中、福井大学から研究員の職への打診がありました。篠原さんの論文を評価してくれ、声が掛かったのです。
福井大学には教員養成の専門職大学院があり、そこで現職の教員と共に学校現場の改革について研究を深めました。
「学校現場でのフィールドワークや授業の研究はとても良い経験になりましたし、その後の大学教員としての学生指導にもプラスになりました」
学生指導、研究、地域貢献に
忙しくも充実した日々。
その後、滋賀県立大学の准教授を経て、現在の北海道大学大学院の准教授に着任しました。
大学での主な業務は、講義や演習授業の担当、学生の研究論文の指導や教員養成課程の運営です。
「講義の準備やレポートのチェックなど、着任当初は忙しく感じましたが、学生の夢を叶えるお手伝いができ、成長する姿が見られます。また、卒業後に報告に来てくれるのがうれしいですね」
加えて、地域から委嘱される教育関係の委員なども務めています。北海道初の公立夜間中学・札幌市立星友館中学校の設置に対する在り方検討会の委員など、さまざまな場で学識経験者として意見を求められています。
また、研究者としても論文や学会発表を積み重ねています。「現実の教育の課題と結びつけて考えると、研究にゴールはありません。現場の実践や改善につながったという声がモチベーションになっています」
一つのことを追求する研究活動に
感じるのは苦しさより楽しさ。
現在は、道内各地に出向いて現地の人と接し、調査を行っている篠原さん。人口減少と過疎化が進む地域では、教育の質の低下を招くとさらに人がいなくなる悪循環を起こしています。しかし、教育環境を改善し、規模が小さくても充実したカリキュラムと進路の実績があれば、地方の学校は維持できるといいます。そういった制度や政策を提言すべく、研究を進めています。
「これまで研究を続けていて、興味関心に向かっていくのは苦しいよりも楽しいと思えます。研究者に向いていると思うのは、一つのことにこだわり追求するのが面白いと思える人。加えて、研究は一人ではできないので仲間と協力する喜びを感じられることですね」
これまでも他の研究者との共著を発行していますが、自身の博士論文を著書として残すのが当面の目標だそう。また、恩師の坪井先生、現在は同僚の横井先生から刺激と励ましを受けてここまで来られたように、後進の研究者の養成にも力を入れていきたいと話してくれました。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

研究者として、社会人として大切にしたい価値観です。自分のこだわりに気づくことが、仕事や生活、そして生きるための糧になると思います。

国立大学法人 北海道大学

札幌農学校を前身とする総合大学。学部12学部、大学院19研究科のほか、北海道固有の自然・社会に即した多様な研究機関・施設を持っています。

住所
北海道札幌市北区北8条西5丁目(本部)
TEL
011-716-2111
URL
https://www.hokudai.ac.jp

お仕事データ

研究や教育、学校運営を。
大学教授
大学教授とは
自身の研究に熱を入れながら、
学生の教育や就活にも携わる仕事。

大学教授の仕事は主に3つに分けられます。一つは自身の専門分野の「研究」。自分の研究テーマを決め、大学や国などから研究費を得ながら、実験やフィールドワーク、分析を重ねて論文を執筆します。二つ目は講義やゼミを通じた「学生教育」。担当科目のカリキュラムを作成し、講義を行う他、ゼミで学生の卒業論文や修士論文・博士論文の指導を行います。その他、大学の経営や運営、学生の就職活動のバックアップといった役割も求められます。

大学教授に向いてる人って?
興味のあることを深く考察し、
分かりやすく伝えることができる人。

研究活動は試行錯誤の繰り返しともいえるため、その原動力となる探究心は不可欠。興味のあることを深く考察し、自分が得た知識を論文などで分かりやすく人に伝える力も求められます。また、理系でも文系でも、ものごとを整理して論旨を組み立てる論理的思考も必要。学生に向けた授業を行うため、コミュニケーション能力も大切です。

大学教授になるためには

大学教授になるためには「博士号」が必要。そのためには、まず大学院で「修士」を取得し、博士論文に合格することが博士号取得の条件です。博士課程の修了後、最初は助教や講師として採用され、その後、准教授から教授へと時間をかけてステップアップするのが一般的です。大学院を併設する学校は全国的にも限られおり、文系・理系ともに、自身の研究分野を活かせる学校を見つけておくことも大切でしょう。

ワンポイントアドバイス
大学教授は多方面の「副業」で、
収入アップを目指すことも可能です。

大学教授は副業をすることが認められているため、非常勤講師をするといった活動によって収入を増やすことも可能です。自身の研究成果によっては、テレビのコメンテーターなどを依頼されたり、特許を取得して収入を得たりすることもできます。さらに、本の執筆やベンチャー企業の設立、セミナーなどの講演、公共機関の顧問など、多方面で活躍することもできるのです。