勘佐 拓也さん
インタビュー公開日:2022.12.22

商品パッケージの製造工場で
多種多様な高品質の製品を印刷。
日々の暮らしは、多彩な商品パッケージにあふれています。食品をはじめ、トイレタリー用品、医薬品、ペット用品、電子部品、電化製品などが、剥き出しのままで市場に出回ることはないからです。パッケージの最大の役割は、商品を保護し、劣化や破損を防ぐこと。内容物に応じて、さまざまな材質や形態でつくられます。フィルネクスト株式会社北海道工場で製造しているのは、プラスチックフィルムを原料とした袋状のもの。冷凍食品やレトルト食品、ハム・ソーセージ、お茶、スナック菓子など食品用パッケージのほか、点滴の輸液バックなど医療用パッケージを全国に送り出しています。
パッケージのもうひとつの役割が、商品情報を正確に伝えること。文字やロゴマークだけではなく、写真やイラスト、色などを駆使して、商品の特徴をわかりやすく、魅力的に表現しています。そのために欠かせないのが、印刷です。同工場には美しい仕上がりと高い生産効率を誇るグラビア印刷機が2台あり、16名の印刷オペレーターが働いています。そのなかでベテラン勢の期待を一身に背負っているのが、勘佐拓也さんです。
印刷オペレーターの仕事は、
機械を効率よく働かせること。
印刷オペレーターとは、文字どおり、印刷(機)を操作する技術者です。しかし、印刷機の操作盤を監視するだけが仕事ではありません。印刷前には、版とも呼ばれるグラビア版(印刷する文字や図柄を彫った金属製シリンダー)や原紙(プラスチックフィルム)のセッティング、インキの粘度測定や調色などを行い、印刷後にはグラビア版の洗浄や機械のメンテナンスを行います。
「仕事の中心は、版替えです」と勘佐さん。「ある商品の印刷が終わると、次の商品を印刷します。そのとき、使い終わった版を洗浄してから、次の版に付け替え、新たに原紙やインキを設定するのです」。印刷速度は毎分230mほど、1本4000mの原紙は約20分で印刷できます。つまり、20分に一度は原紙を追加したり、あるいは版替えしたりすることに。印刷オペレーターの仕事は、印刷機を効率よく稼働させるための段取りにかかっているのです。
家族との時間を大事にしたいから
小売店から製造工場へ。
勘佐さんにとって、現在の工場は2社目の職場です。前職は小売店の部門マネージャー。「高校卒業と同時に、アルバイト先のスーパーで正社員に採用されました。配属先は水産部門で、主な仕事は魚介類の加工です。バックヤードでいろいろな魚をさばいていました」。3店舗の水産コーナーで経験と実績を重ね、順調に昇進して、管理職になっていることからも、仕事の充実ぶりがうかがえます。
それにもかかわらず、なぜ転職したのでしょうか?「出世しすぎて休日が思うように取れなくなったのです」と、勘佐さんは明かします。キャリアアップするほどに、家族と過ごす時間が少なくなっていく――。その事態を打開しようと、転職を決意したときには、入社から7年が経っていました。
もともと、ものづくりに興味があったことから、製造業の求人を探したそうです。そのなかで目に留まったのが、フィルネクスト株式会社北海道工場。「岩見沢出身なのに工場の存在すら知らなかったんです……。仕事内容が面白そうだったので応募しました」
いまは、仕事にも休日にも満足しています。「4日勤・2休日・4夜勤・2休日のシフト制なので、必ず2連休になるのがいいですね」と、笑顔の勘佐さん。「生活リズムができてしまえば、夜勤もまったく苦になりません」
印刷に不具合はつきものだから、
一日を無事に終えるとうれしい。
印刷機が正常に動きさえすれば、非の打ちどころのない完成品がどんどん刷り上がると思いがちですが、そんなことはありません。印刷機と印刷オペレーターがどれだけ優秀でも、針の先ほどの小さな色抜けなどの小さな不具合が起きてしまうこともあります。ですが、それがそのまま世に出ることはありません。原紙1本の印刷が終わったあと、ロールを巻き戻して、印刷不良の部分を廃棄しているからです。人間の目ではほとんど気づかない色抜けも、コンピュータの目が見逃しません。
また、インキの粘度や印刷圧力のわずかな差により、狙いどおりの色が出ないこともあります。それも世には出ません。顧客の希望の色が再現できるまで色調整するからです。粘度や圧を微調整できるようになるには、経験とセンスが欠かせません。そこが「グラビア印刷の難しさであり、面白さでもあります」と、勘佐さんは印刷オペレーターの醍醐味を話してくれました。とはいえ、一筋縄ではいかない印刷ですから「トラブルなく当日の作業がうまくいったときがうれしい」といいます。
入社4年目の目標は、
印刷責任者「機長」になる。
印刷オペレーターに転身したばかりのころ、勘佐さんは、印刷機の操作盤に戸惑いました。「たくさんのボタンが並び、それぞれに『圧胴』とか『ファニッシャー』とかの文字が書かれていて、どのボタンを押すと何が動くのかがさっぱりわかりません。それまでは包丁を握って魚をさばいていましたから、自分の手の代わりに機械を動かすことに早く慣れなければいけないと思いました」と、当時を振り返ります。
印刷機のマニュアルを読み込み、上司や先輩に教わり、実践のなかで技術や知識を身に付けました。入社4年目を迎え、いまの目標は「機長」になること。機長とは、印刷「機」の「長」であり、印刷責任者です。インキの調色や印刷物の色味の良し悪しを判断するなど、印刷物の品質管理を担います。何より大変なのは「不具合の対処法だと聞いています」と勘佐さん。「印刷時に不具合が生じたとき、機長は機械を止めるのか止めないかの判断を瞬時にしなくてはいけません。その見極めを誤ると、印刷物をすべて刷り直す事態を引き起こしてしまうことも……」。機長のアシスタントをしながら、腕を磨き、勘所を養い、機長への道を着実に歩んでいます。
シゴトのフカボリ
印刷オペレーターの一日
8:00
出勤、夜勤班からの引き継ぎ
8:05
版・原紙・インキの設定、版替え
12:00
昼休憩
12:30
版・原紙・インキの設定、版替え
20:00
夜勤班への引き継ぎ、退勤
※午前と午後に15分ずつの休憩有
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

版や原紙は重く、工場内にはプラスチックフィルムやインキなどの可燃物が多いため、ちょっとした不注意が大きな事故や火災につながりかねません。日々、とにかく安全第一で仕事に取り組んでいます。

お仕事データ

私たちに身近な印刷物や本を!
印刷・製本スタッフ
印刷・製本スタッフとは
印刷や製本の作業によって、
印刷物を形にする仕事。

主に印刷工場で印刷機や製本(本に仕上げること)のオペレーションを担うのが印刷・製本スタッフ。印刷スタッフは、まずどのような印刷物を手がけるのか記された指示書に従ってスケジュールを立て、紙やインクといった材料を準備します。次に見本を確認しながら、印刷位置や濃度、色目などをチェックして印刷をスタート。製本スタッフは印刷された用紙を断裁してページ順に並べたり、折加工をしたり、針金や接着剤で互いに接合するなど一つの冊子に形づくる仕事です。その他、印刷物の梱包や発送の準備を行います。

印刷・製本スタッフに向いてる人って?
慎重さと根気強さに加え、
職人気質も持っている人。

印刷の現場では色味を間違えたり、ページ順を逆にしてしまうといったミスは許されません。そのため、注意深くチェックができるような慎重さが求められます。また、一人前になるまでに長い時間を要する仕事であることから、コツコツと技術を習得する根気強さも必要です。紙はその日の気温や湿度によって色のノリが異なるため、自らの感覚を駆使して仕事と向き合う職人気質の人も向いているでしょう。

印刷・製本スタッフになるためには

印刷・製本スタッフとして働くために必要な資格はありません。多くの印刷会社では、高校卒業程度の学力を求めるようです。ただし、最近の大手印刷会社では印刷技術を中心に幅広い事業を手がけているため、機械系や電気・電子・通信系、バイオ・環境系などを学んだ人が活躍できるフィールドも広がっています。

ワンポイントアドバイス
印刷だけにとどまらない
新たなビジネスを模索中。

ここ最近はデジタル化が進んだことで、印刷業界も従来の印刷だけにとどまらないビジネスを展開する会社が増えています。大手印刷企業では、液晶カラーフィルタや太陽光電池部材といったものを印刷技術と組み合わせるケースも増加中。さらに、電子書籍やオンデマンド出版といった、ITと出版の融合によって新しいビジネスの可能性を模索しているところです。