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中村 見晴さん
インタビュー公開日:2023.07.19

未経験から気軽に始めたこの仕事。
最初はうまくできませんでした。
小樽市色内の中心地にある旧第一銀行小樽支店の建物は、オーダースーツを作り続けて50年以上になるミユキソーイング小樽工場です。
高校卒業後、小売業や観光ガイドなどの仕事をしていた中村美晴さん。「次は日曜日が休みの仕事がしたい」と求人を探していて、見つけたのがミユキソーイングだったと言います。同社は未経験の人も採用しており、中村さんもミシンも触ったことがない、ゼロからのスタートでした。
「今は新入社員研修がありますが、当時は先輩に教わりながら、すぐにミシンを使い始めました。最初は全く思うようにできず悔しい思いをしましたね。負けず嫌いなので、できるようになってやると思い頑張りました」。
最初に担当したのはブランドマーク付け。布をまっすぐ縫うことはそれほど難しくなかったと言いますが、私たちが持っている服を見るとわかるように、既成の服は角の部分まできっちりと縫われています。ミシンを一針一針ゆっくり落とさなければできない技術で、初心者には難しかったと中村さん。
「最初からできる人はいない」
工場長の言葉を励みに奮闘。
1カ月経ってもきれいにできなかったという中村さんは、工場長に「できません」と泣きつきました。すると工場長は、「1カ月でできるようになる人はいない、もう少し頑張ればできるようになる」と励ましてくれたと言います。それでも、もう辞めたいとこぼす中村さんに、工場長が伝えたのは「いなくなると会社は大変だけど、お前の人生だから止めはしない」
「そう言われたら、人ってやろうと思うんですよね。実際、あと1カ月頑張ったら本当にできるようになりました」。
ちなみに、今も入社する人は未経験で縫製の勉強もしたことがない人が9割で、1カ月間工場長の研修を受けたり、複数の部署を回って技術を身につけたりする研修制度ができたそうです。
スーツを1着作り上げるには、実に複雑な多くの工程があります。中村さんも部署を異動しながら技術を身につけていきました。「できなかったことが一つ、また一つとできるようになっていくことが、やりがいにつながっていきました。その後自分なりに、より早くきれいにできる方法を考えています」。
さまざまな種類、工程を扱い、
経験と技術を積み重ねています。
小樽工場で作るスーツは、仕様や生地にもさまざまな種類があります。生地にもそれぞれ特有の性質があり、また気温や湿度など環境の影響も受けるので、それによって扱い方も大きく変わってきます。例えば、道外に送る品物には注意が必要だと言います。
「特に梅雨の時期などは、比較的乾燥した北海道から湿気が多い本州にスーツを送ると、しわしわになることがあります。その対策として、こちらで作る前に一度濡らしてから縫うと、本州に着いた時にきれいな状態をキープできるんです」。
経験を積むと、後輩を指導することも増えました。「私がいつもアドバイスするのは、とにかくたくさんミシンを踏んで感覚をつかむこと。話を聞いて理解できたと思っても、実際は体で覚えないとできるようにはなりません。『できない期間があって当たり前』と伝え、焦らず取り組んでもらうようにしています。また、先輩から聞いたことがすべてではなく、自分なりにやりやすい方法を考えることも大切だと伝えています」。
リーダーとして仲間のサポート、
後輩への指導にも尽力。
さらに中村さんは、自分の担当の工程をこなすだけでなく率先して周りの状況を見ながら、流れが滞っているところに自ら作業に入るなど、他の人をサポートするようになりました。
その行動が評価され、2023年4月からは、新しくできたリーダーの役職に着任。自分の担当の縫製だけでなく、常に作業の状況を見てサポートし、困っている人がいたら声を掛けます。また、社員への配布物の印刷、材料や道具の準備など、縫製以外の周辺業務もこなしています。
「みんな黙々と作業をしていることが多いので、特に新人さんはわからないことがあっても聞きづらいですよね。そこで、質問しやすいように話しかけて緊張をほぐすように心掛けています」。
若い後輩からは、「聞くと何でも教えてくれる」「美晴さんを尊敬しています」と言われたと笑顔で話します。「それを聞いて本当にうれしく、ここで働いていて良かったと思いましたね。私を超える勢いで頑張ってほしいと思います」。
もっと勉強したいと親会社へ、
小樽からものづくりを発信。
今後の目標を聞くと、挑戦したいことがいろいろと出てきます。「今はまだスーツ作りのすべての工程ができるわけではないので、一着すべて作れるようになりたいです。お客様と直に接することはないですが、接客したお客様に自分が作ったスーツをお渡しできるようになると良いなと思っています」。
縫製についてもっと学びたいと上司に申し出て、親会社である御幸毛織の四日市工場と現地で行われた縫製コンテストの見学に行き、アイデアと技術を尽くして制作された作品を見て刺激を受けてきました。
会社としても、オーダーの品物だけでなくメーカーから受注した既製品を量産したり、海外に向けて商品を生産したりと、小樽から発信するものづくりの挑戦が広がります。また、高校生向けのインターンシップを実施するなど、将来の担い手の発掘、育成にも力を入れています。中村さんも、自らの技術を磨きながら次の世代を育てるリーダーとして、期待に応えています。
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
縫製の必需品、特別な道具たち
完了した枚数を数えるためのカウンター、自分の気に入った切れ味のハサミ、目打ち、チャコなど、縫製に欠かせない道具たちです。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

最初は右も左もわからない状況でも、毎日コツコツと少しずつの努力を重ねればできるようになります。それにかかる時間は一人一人違いますが、その努力の過程は何かの糧になるはずです。

ミユキソーイング株式会社 小樽工場

紳士服の縫製加工を行うミユキソーイングの小樽工場。縫製に関わる人たちが技術を後世に伝えるため1971年に設立した「協同組合紳装」が始まりです。

住所
北海道小樽市色内1丁目10番21号
TEL
0134-27-0112
URL
https://miyukisewing-otaru.com/

お仕事データ

製品の完成度を左右!
ソーイングスタッフ
ソーイングスタッフとは
生地やパーツを縫い合わせ、
クオリティの高い衣類を!

衣類や繊維製品の仕様に基づいて縫製作業を担うのがソーイングスタッフ。裁断された生地を縫い合わせたり、パーツを組み合わせたり、製品に縫い目を生み出すのが主な仕事です。また、補修や修正のために縫い直したり、ボタンやファスナーを取り付けたりするのも守備範囲。生地の種類や縫製方法によって最適な糸や針を選び、機械の調整やメンテナンスも行います。ソーイングスタッフは効率的に作業を進めるために、作業スケジュールや指示に従いながら、チームと協働。製品の完成度を高めるのに欠かせない重要な役割を果たしています。

ソーイングスタッフに向いてる人って?
細部にまで気を配りながら仕事を進められ、
忍耐力と集中力にも自信がある人。

まず、縫い物をはじめとするものづくりが好きなことが大前提。糸の張り具合や縫い目の均一さなど、細部にまで気を配りながら作業を進めるため、細やかさが求められます。長い時間同じ作業を続ける場面もあるため、忍耐力と集中力に自信がある人も向いているでしょう。チームで仕事を進めるケースが大半のため、メンバーと円滑なコミュニケーションを取ることも必要。品質基準や指示に厳密に従い、クオリティを確保する意識を持つことも大切です。

ソーイングスタッフになるためには

ソーイングスタッフになるために必要となる資格や学歴はありません。多くの場合、高校卒業後に、縫製作業の技術を身につけられる専門学校や服飾系のコースがある専門学校などに進学する道を選ぶことが一般的です。学校卒業後には、ソーイングスタッフとしてアパレルメーカーや繊維メーカー、縫製工場などに就職するのが一般的。また、高校卒業後にソーイングスタッフとして就職し、技術を磨いていくこともできます。この場合、まずは工場などで簡単な縫製作業から始めることになるでしょう。

ワンポイントアドバイス
高品質で独自性のある製品は、
今後もニーズが高まる見込み。

縫製産業は自動化と技術の進化によって、一部は自動化されているため、効率が向上しています。一方、高度な技術が求められる縫製作業や特殊な製品の製造では、人手が重要な役割を果たすケースも多々。手作り製品やクラフト製品への需要が増えている背景もあり、高品質で独自性のある製品を提供できるソーイングスタッフの市場のニーズは高まっていく見込みです。