松本 和貴さん
インタビュー公開日:2023.08.01

古紙を新たな紙にする『中継ぎ』役。
製紙原料の集荷販売を担う老舗の仕事。
『毎度おなじみー、ちり紙交換でーございます』。拡声器から、そんなアナウンスを流しながらやってくる軽トラも、最近は少なくなった気がしますが、これはリサイクルの原点と言えるかもしれません。回収された新聞・雑誌は再生され、新しい紙に生まれ変わっていました。松本和貴さんが勤務する丸升増田本店も、1960年代に製紙原料の集荷販売を開始した、まさにこの分野のパイオニアといえる企業です。
「当社は、古紙問屋といって、古紙を集めて、製紙会社が再生紙をつくるための『製品』として出荷することが主な業務です。リサイクルのいわば中継ぎですね」
新聞・雑誌のほか、段ボール、チラシ、シュレッター屑などの古紙を工場で受け入れ、巨大なプレス機で圧縮。大きなブロック状の製品にするのだそうです。入社10年目になる松本さんは、「統括マネージャー」という立場でその製品の品質管理を担っています。
「古紙の受け入れからプレスまでの作業がスムーズに行われるよう、その工程をうまくコントロールすることも大事な仕事です」
工場の稼働を陰で支えるキーマン。そんな頼もしさが感じられる松本さんです。
古紙を受け入れ、プレスの段取りに集中。
スムーズなリサイクルを担うノウハウ。
工場の業務は、段ボール・新聞をはじめとする古紙を受け入れることから始まりますが、この段階の流れを、いかにスムーズに行えるかがまず、大切なのだと松本さんは話します。
「特に、町内の資源回収が行われる日は、11〜13時頃に多くの収集車が一斉に古紙を運んできて工場の搬入窓口が混み合うため、うまく誘導しないと混乱のもとになるんです」
ドライバーが混乱しないよう、車両を出し入れする手順を考え、待機場所、停車位置などを的確に、わかりやすく指示します。集中力が求められる瞬間なのだそうです。
「搬入される古紙で、最も多いのが段ボールです。工場のプレス機は、古紙を一種類ずつしか処理できないので、まずは段ボールのプレスを優先し、搬入が落ち着いた時点で別種の古紙の処理に切り替えるといった段取りを的確に行うことも求められます」
古紙をスムーズにリサイクルするための気遣いであり、資源保護の最前線を担う企業のならではの、普段は知ることができないノウハウと言えそうです。
リサイクルできない紙もある?
異物の混入をチェックする品質管理。
「再生紙をつくるための材料として、適正な製品とするためには、受け入れた古紙の『選別』も重要になります。わかりやすく言うと、異物が入っていないかどうかのチェックを行うことです」
紙であれば、どんなものでも紙にリサイクルできるわけではないのだと、松本さんは話します。例えば、写真、圧着ハガキ、感熱紙などは禁忌品(きんきひん)といってリサイクルに不向きな紙。また、資源として出す紙に付いている粘着テープ類、フィルム類などもリサイクルの妨げになります。
「古紙の受け入れ時、プレス機にかける前などに、目視でこうしたものが混入していないか確認するとともに、プレスが終わり製品になった段階でも品質管理を行っています」
そう言うと、あまり見かけない車両に乗り込む松本さん。クランプリフトという特殊なフォークリフトで、大きな2枚の鉄の板(クランプ)で立方体の製品を挟みます。製品のチェックが終わると、この車両で出荷用のトラックに積み込むのも松本さんの仕事です。
古紙が『牛のベッド』になる!
酪農に貢献する画期的な製品。
松本さんは、こうした業務を6年ほど経験し、再生紙原料としての製品の品質管理業務と並行して、古紙のリサイクル業界でも珍しい製品づくりに携わっています。製造しているのは敷料(しきりょう)といって、酪農家などの牛舎の床に敷く「あんしん君」という製品。いわば牛のベッドになるものです。
「古紙を細かく粉砕し、繊維を毛羽だたせた製品で、そのまま牛舎に敷いたり、麦稈(麦の茎)の上に乗せて使用します。吸水性・断熱性があり、快適な環境づくりに貢献します」
この製品は、古紙の新たな活用法として全国の古紙問屋が集まって開発したもので、丸升増田本店は、北海道で唯一の工場となっているそうです。環境産業の推進による地域振興を目指すエコタウン事業(経済産業省・環境省)の承認を受けた北海道のエコタウンプランの中核企業としても位置付けられています。
「酪農が盛んな北海道で、古紙からつくった製品を通して、その地場産業に貢献できることに、やりがいを感じています」
古紙のリサイクルには、「資源保護」ということに加えて、「ものづくり」の楽しさもあると笑顔を見せます。
偶然出会ったリサイクルの仕事。
経験を積むたびに興味が湧いてくる。
松本さんは、丸升増田本店に入社する前は、生まれ育った石狩市で働いていました。やがて結婚し、奥様の出身地である北広島市に移住します。
「毎日、石狩までの道のりを通っていましたが、通勤が負担となり、北広島で働く場所を探したんです。その時に、偶然出会ったのがこの会社でした。だから、リサイクルに燃えてという感じではなくて……」
そんな松本さんですが、働いてみると意外な発見もあったそうです。それは、力仕事がほとんどないということ。製品を積むにはクランプリフト、古紙を運ぶ際にもリフトや重機を使うので、手で何かを運ぶということがないのだそうです。一方、お客様である収集車のドライバー、製品を納める工場の担当者などとのコミュニケーションが大切な仕事、というのも意外だったと話します。
「想像もしなかった仕事に就きましたが、酪農家さんの役に立つなど思わぬ喜びもあり、経験を積むにつれて、どんどん興味が湧いてきています。新たな古紙の活用法なども、開発していければと、今は思っています」
北広島にできた新球場でナイターがある日は、通勤に使う道路が渋滞することが悩みと言いつつ、それもどこか楽しんでいるようすです。
(取材地/北広島エコファクトリー)
シゴトのフカボリ
古紙処理の品質管理の一日
8:30
出勤。プレス機の暖機運転など工場稼働の準備、朝礼、その日の業務確認
8:40
古紙のプレス、製品の積み込み作業、新たな古紙の受け入れ業務など
12:00
昼休憩
13:00
古紙のプレス、製品の積み込み作業、新たな古紙の受け入れ業務など
17:30
退勤
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

最初はあまり関心がないことでも、理解していくにつれて、おもしろさ、楽しさを感じるものがあることを、当社で働き始めて知りました。いろいろなことに興味を持つと、さらに新たな世界が広がっていくと思います!

株式会社丸升増田本店

創業は1918(大正7)年。60年から製紙原料の集荷販売を手掛け、現在は機密文書の処理、容器包装リサイクルなど幅広い業務を行っています。

住所
北海道札幌市中央区北7条西15丁目28-11 中央カクマンビル2階(本社)
TEL
011-632-0311
URL
https://www.masuda-net.co.jp/

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お仕事データ

SDGs時代に不可欠!
古紙回収業スタッフ
古紙回収業スタッフとは
古紙の回収とリサイクルで、
再生資源の有効活用を。

古紙回収業スタッフは、古紙の回収とリサイクルによって地域の再生資源を有効活用する仕事。まずは古紙回収プログラムとスケジュールを立案し、回収エリアの分割や回収頻度などを決定することで効率的なプランを実現します。日々の仕事では、古紙回収用の車両を運転し、割り当てられた地域を巡回。家庭や事業所から古紙を回収し、適切に分別・整理して積み込みます。古紙回収のリサイクルプラントでは、古紙を分別・仕分けし、不純物を取り除いて再生可能な状態にした上で、紙を裁断・粉砕。再生紙の製造や他の産業に素材として提供されるまでの品質管理も手がけます。古紙回収業スタッフは、持続可能な社会の実現に向けて不可欠な職種です。

古紙回収業スタッフに向いてる人って?
持続可能な社会の実現を目指し、
体力や細やかさにも自信がある人。

古紙回収業スタッフは、第一に環境問題に対して関心を持ち、持続可能な社会の実現に貢献したいという意欲を持っていることが必要。一方で古紙の回収作業の中には体力を要する仕事もあるため、体を動かして働きたいと考えている人にも向いています。リサイクルプラントでは古紙を分別・仕分けする際に、再生可能な紙質なのか、シールやガムテープが貼っていないかチェックするため、細やかさや正確性に自信があることも素養の一つです。

古紙回収業スタッフになるためには

古紙回収業スタッフになるために必要とされる資格や学歴はありません。高校や専門学校、短大、大学などを卒業後、古紙回収やリサイクル企業に就職するのが一般的なルートです。ただし、就職後にトラックや軽トラックなどの車両を運転することが一般的なので、普通自動車免許を取得しておくのがオススメ。また、リサイクルプラントなどでは古紙の運搬や積み込みに重機を使用することがある場合がありますが、多くの場合は会社が費用を負担した上で資格を取得させてくれるでしょう。

ワンポイントアドバイス
環境問題やSDGsへの意識が高まり、
古紙回収業も成長産業として大注目!

近年、地球温暖化や資源の枯渇といった環境問題への意識が高まっています。古紙回収業は、再生資源の有効活用を通じて廃棄物の削減と森林の保全に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献するビジネス。リサイクル産業は成長産業として注目されており、これに伴い古紙回収業も拡大している傾向です。また、日本を含めた多くの国や地域で廃棄物削減とリサイクルの促進を目指す法律や政策が進められていることで、古紙回収業の重要性がさらに広がっていくと考えられます。