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籔内  芙美也さん
インタビュー公開日:2023.09.05

搾乳などの作業を代わりに行い、
牧場業務を支える酪農ヘルパー。
「ヘルパー」といえば、介護の仕事を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実はこの言葉、農業の分野でも一般的になってきています。「酪農ヘルパー」という業務です。
「酪農家さんの牧場に入って、搾乳をはじめとする作業を行うことが仕事です。介護のヘルパーは人が相手ですが、酪農ヘルパーの仕事は牛の世話を代行することで、酪農家さんを助けることが役割やね」
そう説明してくれたのは籔内芙美也さん。酪農ヘルパーとして帯広畜産センターで働き始めて5年目。現在は主幹という役職に就き、スタッフの取りまとめ役も担っています。
「酪農は動物相手の仕事だけに、搾乳・給餌などは1日も欠かすことができず、そのままだと休むことができなくなります。そこで、酪農家さんが、例えば泊りがけの旅行に出かけるような時などに、私たち酪農ヘルパーが、求められる作業を代わりに行うというわけです」
飼育頭数により、2〜3人の酪農ヘルパーで牧場に赴き、すべての業務をまるごと担うこともあります。酪農家さんの休息ということに加え、大規模経営を行う農業法人なども増えるなか、酪農ヘルパーなしでは業務が成り立たないという環境になってきているそうです。
牧場ごとに異なる作業内容を確認。
酪農家さんとのやりとりが楽しい。
「多くの牧場では1日2回、早朝と夕方に搾乳を行っています。その中で私たちは、夕方と翌朝の搾乳を1セットとして請け負い、牧場で作業を行うというパターンを繰り返しています。また、搾乳に前後して、牛舎の清掃・餌やり・仔牛の哺乳などの業務も担当します」
搾乳前に牛舎の清掃や餌やりを行う牧場もあれば、それらの作業は搾乳後というところなど牧場によって作業の仕方も変わります。それは、酪農家さんごとに、自分たちが長年続けてきた、それぞれに最善と思われる方法を実践しているからなのだそうです。
「そのため、担当する酪農家さんが決まると、事前に作業内容を確認する打ち合わせを電話や対面で行います。『普通にやってくれればいい』と言われることもありますが、それは、その酪農家さんにとっての普通。『そんなふうにやってはるんですか?』と驚くこともあるんです。それだけに興味も湧きます」
そうした打ち合わせは、作業以上に大切であると同時に、実はそこでのやりとりが楽しいのだと籔内さん。ちょっと意外な言葉の意味について尋ねると、「農業が好きというより、酪農家さんの個性が面白い」のだと、ますますわからない答えが返ってきました。
「どこに住むか」を考えて北海道を選択。
「何をするか」を考えて酪農の仕事を選択。
お話を伺っていると時折、関西弁のようなアクセントが感じられる籔内さん。出身は滋賀県なのだそうです。「人間の限界に挑戦する」をテーマに男性アイドルグループが農業などに挑戦するTVのバラエティ番組に刺激され、地元の農業高校に進学。一方、普及が進んでいたパソコンに興味を抱き、ITエンジニアになったという、異色といえる経歴を持っています。
「大阪でエンジニアとして働いていましたが、なんとなく土地柄が自分には合わないと感じ、『どこに住むか』を考えるようになって。そこで浮かんだのが北海道か沖縄。じゃあどんな仕事があるかとイメージし、最終的に『北海道で酪農の仕事』を選んだというわけです」
泳げないので沖縄の「海んちゅ」も、北海道のカニ漁も無理。同じ農業でも、畑のさとうきびより牛を飼う酪農が良さそうに感じた。そんな思考の飛躍(?)も、籔内さんならではの個性のようです。
「酪農と決めてから、オホーツクの牧場で4年半ほど勤務し、ひと通りの牧場業務を覚えました。そのうえで、現在の帯広畜産センターに転職したというのが、これまでの経緯です」
まさに即戦力として、帯広の酪農家の牧場へと出向く仕事が始まりました。
酪農業というよりも、接客業。
人間関係づくりが面白い!
「将来的に酪農業界でずっと働いていくためには、幅広い知識を身に付ける必要があると考えたことが、帯広畜産センターに転職してきた理由の一つです」
最初に勤めたオホーツクの牧場は、牛自らが機械に入って自動的に搾乳を行うロボット牛舎を備えた大規模な酪農家。そこでは、手で搾乳する機会が少なかったこともあり、規模の小さな牧場でも経験を積み、どのような環境の牧場に行っても通用するようになりたいと思ったのだそうです。
「そのためには、いろいろな牧場で業務を行える酪農ヘルパーが最適ではないかと気付いたんですね。それまで暮らしていたのは、海辺の小さな町だったので、都会的な生活環境が整っている帯広に憧れたというのも正直、ありますね」
そう言って快活に笑う籔内さん。一方、特別に農業が好き、動物が好きということは当初から、また、現在もないのだと話す籔内さん。では、どこに、将来的にも続けていきたいと思える仕事の面白みを感じているのでしょうか。
「自分の仕事は、酪農業より接客業だと思っていて、酪農家さんとの人間関係づくりが面白いところやね」と、先ほどの言葉にも通じる、またまた意外な発言が飛び出しました。
信頼が深まっていくことが楽しい。
その魅力を新人に伝えて行きたい。
「酪農ヘルパーとして大切なことは、担当する酪農家さんとどれだけコミュニケーションを図れるか。しっかり意思疎通ができなければ的確に業務ができませんし、同時に自分のことを理解してもらうことも大事ですね」
酪農経験があった籔内さんでも、酪農家さんごとのやり方の違いを把握できるまでは、指摘を受けることもあったそうですが、信頼が深まり『助かったよ』といった言葉をもらえること、時には帯広の街で一緒に飲み、楽しく話せることがうれしいと話します。
「今は、新人のスタッフを育てる立場にもなる中で、酪農というより酪農ヘルパーとしての仕事の魅力、楽しみ方のようなことも、教えていってあげたいと思っているところです」
夕方に4時間働き、帰宅して睡眠をとり、早朝に再び出向いて4時間、搾乳するというのが、籔内さんの仕事のパターン。朝、早い時間から搾乳に入る酪農家さんもありますが、「とりあえず4時間、起きていればいい。そう考えると、楽ですね(笑)」
餌を運ぶなど、力仕事はあるものの、ホイルローダー等の重機を使う牧場も多く、免許をとれば男女問わず働ける現場だといいます。「免許の取得も半分支援します。まずは、来てみてやー」と前のめりな籔内さんです。
シゴトのフカボリ
酪農ヘルパーの一日
15:30
牧場に到着。牛舎の清掃、餌やり、哺乳など
17:30
搾乳
19:30
片付け。帰宅・就寝
4:30
牧場に到着。搾乳
6:30
牛舎の清掃、餌やり、哺乳など
8:30
片付け。帰宅
*夕方〜朝の搾乳を1セットとしてシフトで業務を行っています。
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
作業手袋
牧場までの車の運転、重機の操作や餌押し、搾乳などの手作業など、オールラウンドに使っている作業手袋。フィット感、グリップ感が心地よく、大量買いして破れたらすぐに取り替えています。仕事の相棒です。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

酪農というと、黙々と牛と向かっているイメージかもしれんけど、何よりも大切なことは酪農家さんとのコミュニケーション。作業の質や、やりやすさにも関わってきます。人と話すことが好きな方に向いている仕事やね。

有限責任事業組合 帯広畜産センター

地元農協からの委託を受けて酪農ヘルパー事業、乳牛検定事業、生乳検査事業を行っています。地域の酪農にとって、なくてはならない存在です。

住所
北海道帯広市川西町基線57番地3
TEL
0155-59-2974
URL
http://www.obihiro-tikusan.com/

お仕事データ

酪農家の代わりに牛のお世話を!
酪農ヘルパー
酪農ヘルパーとは
ピンチヒッターとして
酪農家を支える大切な仕事。

酪農家が休みを取る際、その代わりに搾乳や餌やり、牛舎の清掃などの作業を行うのが酪農ヘルパー。多くの場合、地域の酪農家が協力しあって運営する組合や農業団体に所属し、加盟酪農家の牛を日替わりでお世話します。酪農家が急にヘルパーをお願いしたいときに依頼される「臨時ヘルパー」と、毎月決まった日数、サポートを行う「専任ヘルパー」がおり、牧場の仕事に取り組んでいます。酪農は生き物相手で、1日でも搾乳ができないと牛が病気になる可能性も。「ヘルパー」というとアルバイトのように聞こえますが、冠婚葬祭や病気・怪我をした時のピンチヒッターとして酪農家を支える大切な仕事です。

酪農ヘルパーに向いてる人って?
牛に愛情を持って接することができ、
異なる環境への適応能力が高い人。

まず、牛に愛情を持って接しなければならないため、動物好きであることは大前提。酪農ヘルパーは一つの牧場に勤め続けるのではなく、日によって仕事場が変わります。酪農家によっては搾乳機や牛の飼い方などの作業方法が違うケースも多いため、さまざまな環境に適応し、求められる仕事をこなすスキルも大切です。基本的には早朝と夕方の2回搾乳作業があり、体を動かすことも多いため、体力に自信がある人にも向いているでしょう。

酪農ヘルパーになるためには

酪農ヘルパーになるために必要とされる学歴や資格、経験はありません。一般的には高校卒業後、農業関連のコースを置く専門学校や短大、大学で酪農の知識や技術を学び、酪農ヘルパーを雇用している組合などに就職する人が多いようです。ただし、派遣先の牧場に通うためにも普通自動車免許は取得しておいたほうが良いでしょう。就職先の利用組合ではベテラン酪農家や先輩ヘルパーが作業を教えてくれ、一人で業務ができるようになるまでは、OJT(実地訓練)を通じて仕事を学べるケースが大半です。

ワンポイントアドバイス
酪農家戸数の減少や人手不足の救世主!
だからこそ、今後もニーズが見込める仕事!

近年、酪農家の戸数は高齢化や後継者不足の理由から減少している一方、一戸あたりの牛の飼養頭数は増加傾向です。生産性や効率性を高めなければならず、機械の自動化やロボットの導入が進んでいるものの、依然として人手不足には変わりありません。さらに、国としても酪農家の労働環境を向上させるために酪農ヘルパーの積極的な雇用を奨励しています。つまり、この仕事は今後もニーズが高く、将来性についても安定的といえるでしょう。