沼田  将利さん
インタビュー公開日:2023.09.25

モニターで現場の状況をチェック。
重機は3次元データで完全自動化。
デスク周りも備品もきれいに整頓され、エアコンで快適な室温に保たれた現場事務所に並ぶ3台の大型モニター。施工協力会社の担当者を前に、沼田将利さんがこのモニターを使って工事の進め方などについて説明しています。昼に行われる定例の打ち合わせです。
「真ん中のモニターが、UAV(ドローン)で撮影した工事箇所の写真。右側が掘削を行っているリアリタイム映像、左側の画面にはトラックの出入りと掘削量が表示されています」
近年、頻発する豪雨災害などに備え、川が増水した際でも堤防を越境しないよう、河川敷を掘削し、水を貯留できる余裕を持たせるというのが、監理技術者として現在、沼田さんが担当している仕事です。
「掘削に使うバックホーという重機にはセンサーが搭載されていて、どこを、何立方メートルくらい掘ったかが、リアルタイムでわかります。また、掘削は3次元データに基づき重機が自動で行います」
国では現在、建設工事の一連の流れをICT(情報通信技術)でつなぐスマートコンストラクションを推進していますが、沼田さんが勤務する草野作工では、いち早くその導入を図っているのです。
河川敷を掘削する災害対策工事を担当。
事務所で進捗管理する内勤業務が中心。
沼田さんが担当している工事の正式名称は、「石狩川改修工事の内 上新篠津築堤中水敷河道掘削外工事」。ちょっと難解ですが、これは昭和56(1981)年に発生した石狩川大洪水を受けて、40年以上にわたって行われている水害対策工事の一環なのだそうです。洪水から暮らしを守るため、水の流れに近い中水敷(ちゅうすいじき)と呼ばれる河川敷を掘り下げ、水位が上がっても多くの水を貯めておけるスペースを確保することが工事の目的です。
「今回、掘削するのは300m×100mほどの範囲。9万立法メートルほどの土を掘削します。かつての土木工事では、杭と板を使って重機で掘削するための目安を示す丁張り(ちょうはり)を行う必要があったので、丁張を見ると完成形がわかったのですが、スマートコンストラクションは丁張りが不要なので、モニターで俯瞰しないと全体像がわかりにくいんです」
沼田さんは多くの時間、事務所にいてモニターの前で工事の進捗を見守ったり書類作成などを行っています。土木工事といえば、1日中、現場に立っているイメージがあったので、内勤業務が中心というのはちょっと意外でした。
「とはいえ、実際の現場を見ていないと遠隔で指示を出すことはできません。現場に行く必要が減ったからこそ、自分の目で確認することの大切さを改めて知った気もします」
新たな土木の分野へのチャレンジ。
監理技術者としてデビュー戦を果たす。
沼田さんが土木の世界を選んだのは、アウトドアが好きで、屋外で身体を動かす仕事を志向したことが一番の理由なのだとか。
「大学で土木工学を学び、卒業後は道内の建設会社に就職。防波堤の建設など、主に港湾工事の施工管理を担当していました」
そんな沼田さんが、草野作工に転職したのは、土木技術者として港湾以外の工種にチャレンジしてみたかったということが大きかったのだそうです。
「入社後、配属になったのが、農業土木の現場。前職で3年半ほど土木の現場にはいましたが、別の業種とさえ思えるほど違う世界でした。わからないことばかりで、最初は大変さも感じました。ただ、農地の排水を行うための管を埋める暗渠(あんきょ)を担当し、測量・敷設方法の指示・曲がりがないかを確認・埋設という作業を繰り返すなか、徐々に効率よくできるようになることが楽しかったですし、知らない分野を覚えていけるおもしろさを実感し、視野を広げることができました」
沼田さんは、入社後に施工管理技術者の証である1級土木施工管理技士に合格。資格取得にともない、今回の現場は、監理技術者として工事を初めて担当するデビュー戦。全体のいわばマネジメントを行っています。
発注者とのやりとりに最初は緊張。
資材発注の際のコスト意識も高まる。
土木工事の施工管理に7年ほどの経験を持つ沼田さんですが、監理技術者となり、その役割が一気に広がっています。最も大きいのが、発注者との打ち合わせを担う立場になったということなのだそうです。
「私が担当しているのは国が管理する一級河川の工事。札幌開発建設部などの出先機関から発注されることが多く、これまでそうした方々との打ち合わせは監理技術者である上司が行っていましたが、これからは私も同じ立場に。最初は、とても緊張しましたね」
工事に必要な打ち合わせや確認、依頼ごとなどは主に電話、メールで行いますが、その際の言葉づかい、文章表現ひとつで誤解などを生まないよう、また、失礼な表現にならないよう、最新の注意を払っているという沼田さん。
「一方で、工事の発注経緯や理由を直接聞くことができ、流れを伺って理解を深められることで、より仕事をおもしろく感じたれるようになった気がします。以前よりも、主体的に仕事に関われるようになりました。コスト意識も強くなり、資材の発注にも一つひとつ気を使うようになりました」
立場が人をつくる、とはよく言いますが、まさに成長を実感している風の沼田さんです。
完全土日休み、最先端の土木現場。
趣味のアウトドアもしっかり楽しむ。
「現場には、さまざまな危険が潜んでいます。私は、ものごとを人にあまり強くいえないタイプですが、暑い日が続けば熱中症への注意など、しつこいと思われても事故を防ぐための言葉ははっきり伝えるようにしています」
担当している掘削場所は泥炭地で地盤が弱いため、雨が降ると工事をストップせざるを得ない日も出てくるそうです。そうした際に現場の重機オペレーターやトラックの手配、工期をどうカバーするかなど、常に忙しく頭を動かしています。基本的に土曜・日曜は完全に現場はストップ、休日なので十分頭を休ませることができます。
「手前味噌になるかもしれませんが、土木工事の現場で4週8休が実現されているのは、まさに最先端の環境といえますね。好きなキャンプに、登山にとアウトドアを楽しむ時間をしっかり確保できます。働きやすいですね」
どの現場も日帰り圏内で、転勤がないこともメリットと笑顔を見せる沼田さん。それもそのはず、最近、結婚したのだそうです。この話を聞いた上司が、驚いて思わず駆け寄ってきました。仕事でははっきりと考えを打ち出しますが、自分のこととなると恥ずかしくて伝えられない、ちょっとシャイな、心優しき現場責任者です。
シゴトのフカボリ
土木施工管理技士の一日
7:00
出勤、現場で朝礼。現場の状況確認
9:00
現場事務所で書類作成など事務業務
12:00
昼食・休憩(現場事務所)
13:00
昼の打ち合わせ(午後・翌日の作業内容の確認など)
15:00
現場事務所で管理業務と書類作成
17:30
終業・帰宅
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
芯ホルダー
前職の時に、先輩が買ってくれたドイツ製の芯ホルダー。水に滲まない芯が入っていて、雨の日でも野帳(屋外用の記録手帳)に書き込むことができる優れもの。年季が入っていますが、大切に使っています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

私は入社後、現在は数少ない、新しい橋の下部構造(橋脚)の工事を担当しました。緊急輸送路に架かる重要な橋です。水害等への対策工事を含め、安全で魅力的な北海道づくりに貢献する仕事に、やりがいを感じています。

草野作工株式会社

橋梁・河川・農業土木などを担う建設会社。スマートコンストラクション、完全週休2日制の導入など、環境整備に力を入れています。

住所
北海道江別市上江別西町16番地
TEL
011-382-2135
URL
https://www.kusanosk.co.jp/

お仕事データ

ライフラインを支える設計を!
土木設計技術者
土木設計技術者とは
暮らしに欠かせない土木工事の
調査から計画、設計まで。

橋や道路、ダム、トンネルといったインフラに加え、農地の造成や斜面の防災なども含めた土木工事を進めるにあたり、調査・計画・設計を行うのが土木設計技術者。具体的には現場の測量や地質・地形の調査からスタートし、気候や周辺環境、社会経済の条件などさまざまな情報を収集した上で基本設計のプランを立てます。それに基づき、設計図面や仕様書など工事に必要な書類を作成。場合によっては用地の確保や周辺住民への説明、行政への諸手続きを行うこともあります。所属する企業によって得意分野は異なりますが、いずれもライフラインや地場産業を支えることにつながる手応えの大きな仕事です。

土木設計技術者に向いてる人って?
状況の分析や課題解決が好きで、
常に勉強する姿勢も求められます。

土木設計技術者はお客様の要望に添った設計を行うだけでなく、工事現場の課題を見つけ、その解決につながる提案をすることで高い評価が得られる仕事です。客観的に状況を分析したり、解決策を編み出したりすることが好きな人には向いているでしょう。また、工法や資材、設計ソフトは日々進化するため、常に勉強する姿勢も必要。デスクワークだけでなく、現地調査に行くことも多いため、心身ともにタフであることも求められます。

土木設計技術者になるためには

土木設計技術者になるために特別に必要とされる資格や学歴はありません。高校や専門学校、短大、大学で土木工学などを学び、構造力学や土質力学、コンクリート工学といった知識を身につけてから就職するのが一般的です。勤務先は、建設会社、コンサルティング会社、官公庁、各種研究機関の土木部門など多種多彩。土木設計技術者として経験を積み、「技術士」や「土木施工管理技士」などの関連資格を取得することでステップアップすることも可能です。

ワンポイントアドバイス
暮らしに密着した感謝の言葉を
聞けることもやりがいの一つ。

土木工事は橋や道路、トンネルなどのインフラを手がけることが多く、土木設計技術者も「トンネルができて通勤が便利になった」「この橋のおかげで買い物に出かけるのがラクになった」「放水路ができたので洪水の不安が減少した」という暮らしに密着した感謝の言葉を聞くことができるのもやりがいの一つです。また、畑の斜面を平らにすることで農作業を効率化させるなど、生産者の仕事に貢献することもできます。