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新美 樹さん
インタビュー公開日:2024.10.17

登校時の健康観察から始まる1日。
児童の変化に目を凝らし、見守る。
朝8時。養護教諭、新美樹さんの姿は、玄関前にありました。「おはよう!」。次々と登校してくる子どもたち、一人ひとりに明るく、優しく声をかけ、笑顔で出迎えます。
「登校してきた児童の姿を見ながら、さりげなく健康観察も行っているんです。いつもと違う表情の児童はいないか、身なりに乱れや汚れはないか。たとえばそうした変化を見逃さないよう、見守っています」
ここは『田中学園立命館慶祥小学校』。北海道日本ハムファイターズで活躍した田中賢介さんが理事長を務める私立小学校です。「学ぶを、しあわせに。」を建学の精神に、1学年52名という少人数教育が行われています。
「1〜4年生を募集し、開校してから3年を経て、来春、初めての卒業式が行われます。この学校を巣立っていく6年生には私自身、思い入れがあります。立派に育ったな。そんな感慨も湧いて。卒業式のプランニングに関わっていますが、もう、今から号泣は必至です」
授業が終わり、教室から出てきた子どもたちの元気な声がドアの向こうから聞こえてくる保健室で、この3年間に思いを馳せる新美さん。担任でこそありませんが、校内を巡回し、壁のないオープンな教室をのぞいては、児童のようすに目を配っています。
具合が悪くなった児童への処置から、
保健の授業、献立づくりにも携わる。
養護教諭というと、お腹が痛くなったり、ケガをすると診てくれる先生、というイメージが強いかもしれません。それはもちろん重要な仕事ですが、この小学校では、ほかにもさまざまな活動に取り組んでいるそうです。
「スクールランチと呼ぶお昼ご飯の時間には、配膳のようすや子どもたちが食べているところを見に行ったりします。本校では児童の成長を考え、こだわりのある昼食を提供していますが、私は献立づくりにも関わっているので、より美味しく食べてもらえるヒントを得るために、観察しているんです」
スクールランチが終わると、保健室を出て校庭で体を動かす児童を見に行ったり、時には一緒に遊んだり。授業以外の場所で、子どもたちと過ごすことが多いのだそうです。
「授業でも、3年生から始まる保健の時間を担当しています。半年に一度は性教育の時間がありますが、5年生、6年生になると海外研修やホームステイがあるので、性の多様性を認め合う観点や、性被害に遭わない・性被害を起こさないという観点から、実際に即した話をしています」
子どもたちと触れ合って変化に目を配ったり、〝先生〟として教室で授業を行ったり。その間に、具合が悪くなった児童への処置、連絡など、よく知られている保健室の業務をこなします。
教育+医療系=養護教諭という選択。
公立小学校で経験した、大切な役割。
ご両親をはじめ、教育関係者が多い環境で育ったという新美さん。幼児教育に関心を抱き、高校でのキャリア教育でも幼稚園や保育園の職場体験をしたそうですが、あるテレビドラマがひとつのきっかけとなり、養護教諭に目が向きます。
「難病を抱えた少女の日誌をもとに、ひたむきに生きようとするその姿、家族や友人との絆を描いたドラマに感動し、医療系の分野にも興味が湧いて。一方で、教育にもなんらかのかたちで携わってみたい。その両方に関われる仕事は……と考えた時、頭に浮かんだのが養護教諭だったんですね」
愛知県出身の新美さん。養護教諭をはじめ、教育関連の教育に特化し、資格取得も目指せる学校として選んだのが北海道教育大学でした。
「もちろん養護教諭が専攻でしたが、一般の教員免許も取得し、札幌市内の公立小学校に赴任しました。学校内だけでなく、家庭環境の問題で学校生活に支障が出ているようなケースでは、家庭児童相談室、児童相談所など外部機関とのやり取りも経験しました」
新美さん自身、養護教諭に〝保健室の先生〟というイメージを抱いていた部分もあったそうですが、内科検診の際に心身のようすを観察して変化に気づいたり、来室時にしっかりと話を聞くことの大切さを実感したと振り返ります。
JICAでの2年間の経験を通して芽生えた、
挑戦する気持ちが今の仕事への橋渡しに。
そんな新美さんですが、入職から4年後、JICA(独立法人国際協力機構、*1)の海外協力隊として2年間、太平洋に浮かぶ島国・バヌアツ共和国に行ってしまいます。
「養護教諭(スクールナース)もおらず、国として学校保健(*2)という分野も確立していないなか、子どもたちが健康でいられる環境を整えていくためのサポートをすることが、私の任務でした。日本での養護教諭の役割の大きさを実感させられる体験でもありましたね」
養護教諭を目指し、希望どおり学校の現場に就くことができたものの、自分の役割に自信がもてなくなり、環境を変えてみようと思った。実はそれが、そもそもJICAの海外協力隊に応募したきっかけだったのだと新美さん。
「私はあまり社交的な方ではなかったのですが、JICAの活動に参加するなかで、さまざまな職種の方々と知り合いながら語学や文化を勉強できることが、すごく楽しくて。もっと世界に向かって挑戦したいという気持ちが湧くなか、出会ったのがこの学校でした」
帰国後、同じ公立小学校に戻って養護教諭として勤務していたある日、田中学園の開校に向けた教員募集の広告に釘づけになります。「世界に挑戦する12歳」。学園の教育理念が自らの思いとリンクし、カチッとはまった瞬間だったと話します。
*1 政府開発援助(ODA)の一つとして、開発途上国等の経済・社会の発展に向けた国際協力を行っている機関
*2 学校で子どもの健康を守るとともに、将来において健康を獲得する能力を育てるための活動
自己決定ができる保健室をつくって、
子どものたちの意思を大切にしたい。
「迅速に、的確に処置することはもちろん、一番大切にしていることです。ただ、保健室に来る目的は必ずしも体調不良やケガではなくて、担任の先生以外の誰かと話がしたい、話したいことがあるというケースも少なくないんですね。その意思表示、自己決定ができる保健室にしていきたいと思っているんです」
そのために新美さんは、アンケートやテストなどのフォームをWeb上でつくることのできるツールを用いて、児童自身に選択・入力してもらうフォーマットを作成しました。来室の理由に始まり、質問に答えていくうちに、たとえば友達とのこと、家庭でのことなどが気になっており、相談にのってほしいといった意思表示ができるようになっているのだそうです。
「自分の思い込みや先入観をなくして、児童が話した言葉の先にあるもの、心の奥に抱えていることを常に考え、その意思を大切にしながら見守っていきたいと思っていますし、それが養護教諭の大切な役割だと感じています」
児童のチャレンジをサポートするには、教員やスタッフもチャレンジする気持ちをもち、行動すること。そうした気風があり、発想も、失敗も大切にしてくれる環境だからこそ、そう考えられるのだと新美さん。子どもたちのことを話すとき、その目がきらきらと光ります。
シゴトのフカボリ
養護教諭の一日
8:00
出勤。登校してきた児童の健康観察
8:10
校内を巡視し、学級のようすを観察
8:50
所属している「健康食育部」の定例会議など
9:30
保健室内業務
12:15
昼食
12:55
昼休み中の児童の観察
13:35
保健の授業
14:25
「ほけんだより」や「保健指導案」などの作成
15:30
児童の見送り
16:00
来室状況の報告など
17:00
帰宅
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
子どもの病気に関する図説本、国際基準の性教育ガイダンス本
子どもの病気に関する本は、養護教諭として初任の時に指導してくれた先生が勧めてくれたもの。子どもの症状を診たり、保護者に説明する時に使います。性教育の本は、授業を行うために必須の参考書です。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

たくさん失敗して、そこから学ぶことを応援する校風です。挑戦したら、ナイストライ。子どもたちに対してもそうですが、私たち自身も、常に挑戦することが求められ、それを楽しめる環境があります!

学校法人田中学園 田中学園立命館慶祥小学校

「世界に挑戦する12歳」を教育理念に2022年4月に開校した私立小学校。立命館慶祥中学校・高等学校と連携した小・中・高一貫教育を目指しています。

住所
北海道札幌市豊平区西岡1条7丁目2-1
TEL
011-558-1721
URL
https://tanakagakuen.ed.jp

お仕事データ

学校のホームドクター!
養護教諭
養護教諭とは
心身の健康管理から
保健指導まで幅広く担当!

養護教諭は、学校における児童生徒の健康を管理し、保健指導を行う専門職です。保健室の管理運営が主な仕事ですが、その業務は多岐にわたります。けがや病気の応急処置、健康診断の実施と事後指導、保健指導や健康相談、感染症の予防と対策、学校環境衛生の管理などを担当します。また、心の問題を抱える児童生徒のカウンセリングや、教職員や保護者との連携も重要な役割です。近年では、特別支援教育や食育、性教育などにも携わることが増えており、学校全体の健康教育の中心的存在として活躍しています。

養護教諭に向いてる人って?
子どもが好きで、冷静に判断でき、
コミュニケーション能力の高い人。

養護教諭には、まず何より子どもが好きで、その健康と成長を支えたいという強い思いが必要です。同時に、緊急時に冷静に判断し、適切な対応ができる冷静さも求められます。また、児童生徒だけでなく、教職員や保護者とも円滑なコミュニケーションを取る能力が重要です。また、健康や医療に関する最新の知識を常にアップデートする向上心も必要。様々な問題を抱える子どもたちの心のケアができる共感力と洞察力を持っている人も養護教諭に向いているでしょう。

養護教諭になるためには

養護教諭になるためには、養護教諭の免許状を取得する必要があります。免許状を取得するには主に二つの方法があります。一つは、大学の教育学部や看護学部などで養護教諭の課程を履修し、必要な単位を取得する方法です。もう一つは、看護師の資格を持っている人が、大学などで必要な教職科目を履修して取得する方法です。免許状を取得後は、各都道府県や市町村の教育委員会が実施する教員採用試験に合格する必要があります。採用試験では、専門的な知識や実技だけでなく、教育者としての資質も問われます。

ワンポイントアドバイス
多様化する健康課題に対応できる
幅広い知識とスキルを身に付けよう!

近年、学校における健康課題は多様化・複雑化しています。アレルギー疾患、発達障害、いじめ、不登校など、様々な問題に対応することが求められています。そのため、医療や心理学、教育学など幅広い分野の知識を常にアップデートすることが大切です。また、ICTを活用した健康管理や教育も増えているため、デジタルスキルを磨くことも重要です。さらに、「チーム学校」の一員として、他の教職員や外部の専門家と連携する力も養っていくことが、キャリアアップにつながるでしょう。養護教諭は、子どもたちの健康と成長を支える重要な職業であり、やりがいと専門性の高さから、今後も需要が高まると予想されます。