斎藤  京佑さん
インタビュー公開日:2022.06.02

生産性向上を図る農業土木の分野。
工事の管理で経験を重ねて9年目。
広々とした平らな土地に、油圧ショベルによって掘られたばかりの、やがて水路になる深い溝が一直線に伸びています。終点は、遥かかなたに霞んでいます。四角いこの土地の一辺はおよそ550m。碁盤の目に区画された札幌市内の街区は約108mなので、軽く5倍以上の長さです。
「ここは、農業土木工事の現場で、これから作業が本格化します。この工事をスケジュールどおりに、高い精度で完成させるための管理を行うことが、私の仕事です」
そう話すと、額に手を当てて遠くを見やる斎藤京佑さん。農業用地の改良を通して、生産性の向上を図るためのその仕事を担当して、すでに9年目。そろそろ、中堅と呼ばれ始める経験も伴ってきました。
「お疲れ様です。風は強いですが、作業は順調そうですね。助かります」
重機のオペレーターさんに話しかけ、進捗を確認する姿も、すっかり板についています。
圃場(農地)を大規模化することで
作業効率を高め収量拡大につなげる。
農業土木工事というのは、田畑に水を引く灌漑(かんがい)、排水、農地の造成などを行う土木工事のこと。近年は、圃場(ほじょう)を大規模化する工事が増えています。既存の圃場の区画を整理・整地し、大型の農業機械が入るようにすることで、作業効率を高めるとともに収量のアップを図るというものです。
「例えば、4枚の圃場の畦を取り払って1枚にします。そうやって大きな区画にすると、農業機械を無駄なく動かすことができ、作業の負担を減らせると同時に、畦の部分も圃場となるので、収量の拡大が可能になるんです」
斎藤さんは、その現場の作業を指揮する施工管理技士。先輩が務める現場代理人(工事全体の責任者)の右腕として、必要な資材の発注から工事の品質・安全管理、工程の管理などを一手に担う重要な仕事です。
「農地の区画を大きくすると同時に、水路を引いたり、排水等を行う暗渠(あんきょ)を施して圃場を完成させるまでが仕事です」
作業スタッフ、農家の方々など
人と話すことが施工管理の仕事。
農業土木工事は、国や北海道農政部などが発注する公共事業が大部分。担当部局から示される、圃場の大規模化などの図面と資材数量などをもとに、関係する農家さんにその内容を伝えるところから、施工管理の仕事はスタートします。その後、実際の圃場と照らし合わせ、必要に応じて修正を行ったうえで工事を発注。現場での管理が始まります。
「多くの工事は年度初めにスタートし、雪が降る前に完成させます。天候の影響などで工事の進捗が変わるため、完成までは気が抜けませんね」
時間との勝負をしつつ、その現場に初めて入る施工会社の作業スタッフに対して、現場の注意点・危険箇所などを伝える説明も大切な仕事と、斎藤さんは話します。
「安全が第一ですからね。工事内容については、農家の方々にも随時、説明します。施工管理の仕事は、極端に言えば『人と話すこと』だと、業務を始めてみてわかりました」
きれいに圃場が仕上がった達成感。
作物が育つ喜びがモチベーション。
斎藤さんは、農業高校の土木科を卒業して今の会社に就職しました。基礎知識を持つ分野にまっすぐに進んだ印象ですが、実はあまり深くは考えていなかったと、打ち明けます。
「面接の時期が一番早かったのが当社田端本堂カンパニーでした。早く就職を決めることができれば、卒業まで遊んでいられるんじゃないかいう思いもありましたね(笑)」
施工管理という職種についても知識はほとんどなく、現場の作業員だと思っていたそうです。実際は工事を見守る立場だったわけですが、思わぬ大変さもありました。
「外仕事なので当然ですが、夏は暑く冬は寒い。現場にいるだけで疲れを感じました。今思えば、身体が慣れていなかっただけの話なのですが、辛いと思ったこともあります」
それでも8年間、モチベーションを持ち続けられたのは、担当した圃場がきれいに仕上がったようすを目にする達成感や作物が育つ姿を見られる喜びを得られるからと、斎藤さんは目を細めます。
1級土木施工管理技士資格を取得。
予算管理を学び現場代理人を目指す!
農家さんが自前で維持する部分と、公的な事業として整備される部分によって一つの圃場はできあがりますが、農業者の考えと、国や北海道の計画内容がぴったりとは合致しないケースもあるそうです。
「そうした場合は何度もお話をし、妥協点を探りますが、最終的にできあがった圃場を見て『任せてよかったわ。ありがとうね』と言っていただける時がうれしいですね」
収穫したお米や野菜を、手渡してくれる農家さんもいるのだと、うれしそうに話す斎藤さん。2021年に1級土木施工管理技士を取得しました。これは、先輩と同じ現場代理人になるためのパスポートとなる資格です。
「現場代理人は、工事ごとの予算管理も行いますが、まだ私は未経験。しっかりと勉強していきたいと心を新たにしています」
仕事を極めるまでに10年はかかると言われる施工管理の仕事。斎藤さんは、その階段を着々と登っています。
シゴトのフカボリ
農業土木施工管理の一日
7:30
出勤、作業スタッフを集めての朝礼のあと、業務開始。測量、施工写真の撮影、完成したようす(出来型)の確認など
12:00
昼休憩
13:00
資材発注など、翌日の作業の準備、事務作業
15:00
現場の今日の進捗確認と翌日の作業の確認
16:00
翌日行う測量の準備、施工写真の整理、施工図面の確認
18:00
退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
GPS測量機、デジタルカメラ
広い圃場は、一般的な測量では手間と時間が膨大になるため、GPSで測定点の座標がわかる測量機が必須。施工写真を撮影するデジタルカメラは、現場向けに開発された防塵性などの性能を持つ機種を使用しています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

どんな業務にも言えることだと思いますが、そこに関わる人たちと、しっかりと会話し、意思疎通を図ることが仕事の基本だと感じます。施工管理は技術職ですが、現場の調整ひとつとっても話をすることが重要なんです。

株式会社田端本堂カンパニー

創業1914年、設立1951年という老舗建設会社。河川工事から始まり、道路、農業土木、下水道、建築、造成工事まで、幅広い分野を担っている。

住所
北海道三笠市岡山359番地1(本社)
TEL
01267-2-7300
URL
https://www.tabataweb.jp

お仕事データ

工事現場の司令塔
施工管理
施工管理とは
工事を円滑に進めるためには
欠かせない仕事。

建設工事や土木工事の現場で発注者と実際に工事を行う職人さんとの間に入り、人や資材の手配、スケジュール調整、予算管理など、工事を安全かつ円滑に進め、目的を実現するためのさまざまな業務を行います。大きな施設を建てるほど、工程も複雑になるため施工管理の重要性は大きくなります。

施工管理に向いている人って?
思い通りにならなくても慌てない。

現場での橋渡し役を担うことが多いため、コミュニケーション能力は欠かせません。スケジュールやお金の管理も行うので、計画的に物事を進められる人に向いている仕事です。工事には不測のトラブルもつきものなので、状況に合わせて対応できる柔軟性がある人も向いているでしょう。

施工管理になるためには

小さなリフォーム工事から大規模な土木工事まで施工管理の領域は広く、一般的には工事会社などに入社して、現場での仕事を覚えることになります。施工管理には「施工管理技士」という国家資格があり、工事の内容によって建築施工管理技士、電気工事施工管理技士、管工事施工管理技士など6種類に分かれています。大規模な現場の管理をするためにはこうした資格も必要となります。

ワンポイントアドバイス
分野が異なる工事でも活躍可能。

施工管理の仕事は一般的には馴染みが少ないのですが、工事現場には欠かせない仕事です。建設業界で働く上で「施工管理技士」の資格が役立つ場面は多く、取得しておくと出世や転職にも有利と言われています。