小林 広人さん
インタビュー公開日:2022.10.26

ご自宅へ、セレモニーの場へと
故人やご家族を誘う霊柩車ドライバー。
病院からご自宅へ、介護施設から斎場へ、葬儀の場から火葬の場へ。故人やその遺族をセレモニーの場へと誘う、特別な役割を担うのが霊柩車のドライバーです。
お話を聞いた小林広人さんは、この仕事に就いて5年目。すらりと伸びた背丈、端整な顔立ち、引き締まった体躯はどこかモデルさんを連想させます。
「確かにそんなバイトをしていた時期もありましたね」と微笑む小林さんが、どんなきっかけでこの世界に足を踏み入れたのか… 興味津々のインタビューが始まりました。
「実は学生時代は公務員志向。体育系の専門学校に進みましたが、将来は消防士になるのが夢でした。けれど採用試験をパスできず、仕方なくスポーツジムのインストラクターをしたり、実家のトンネル掘削重機の整備を手伝ったりしていたんです」
整備の仕事は安定こそしていたものの、やりがいや手応えは今ひとつ。実家ならではの窮屈さもあり仕事へのモチベーションは減退する一方でした。
そんな小林さんに「それならうちで働いてみないか」と声をかけたのが、顔見知りだった神田大吉さん。札幌の手稲区に拠点を置き、霊柩車や霊柩バスの運行を手掛ける北海道自動車という企業の代表でした。
葬儀の礼儀作法からご遺族の対応まで
社長や葬儀企業の担当者から学ぶ日々。
今から4年前、北海道自動車に転職した当時を振り返り小林さんはこう語ります。
「仕事は霊柩車のドライバー、葬儀場や火葬場に赴く仕事です…と聞いても、何の感情も湧き上がりませんでした。見たことあるな…そんな程度。でも今考えたら、それが逆に良かったのかもしれません。先入観も予備知識もない、真っ白なスタートを切ることが出来たわけですから」
加えて小林さんが入社した北海道自動車は、スタッフは数名の小さな会社。一般企業のような新人研修も教育のためのマニュアルもありませんでした。
「なので毎日が勉強の連続。霊柩車ドライバーの役割から葬儀の場でのご遺族へ対応法まで、時には社長の姿勢や所作を真似し、時には分からないことをその場で一つ一つ尋ねながら一生懸命覚えていきました」
霊柩車ドライバーは、通夜や告別式などを取り仕切る葬儀会社と対で行動するのが通例。葬儀の流れや各場面での礼儀作法、宗派のしきたりなどは、葬儀会社の担当者からも学ばせていただいたと小林さん。
「例えば故人様を安置する際に、枕飾りという小さな祭壇をお供えするのですが、宗派によってその飾り方がまちまちなんです。こういったしきたりに関する細かな知識は、今でも葬儀企業の方に尋ねたりしています」
故人の人生、家族の事情はさまざま。
5年経った今も緊張感と隣り合わせ。
霊柩車ドライバーの仕事は、大きく分けて3つ。一つは、介護施設や病院からご自宅や葬儀場へ、故人様を搬送車でお送りすること。二つめは火葬場へ、故人様やその後家族を霊柩車でお送りすること。三つめは日々の車両の管理です。
「特に大切なのは一つ目の故人様の搬送業務です。いつ連絡が入るかも知れないので、社内では持ち回りの担当制。担当になった場合は、24時間常に待機状態をキープし、携帯電話に連絡が入るとすぐに施設や病院に向かいます」
一日に数件もの搬送依頼が入ることもあれば、一度も携帯が音を立てない平穏な一日を過ごすことも。もちろん夜間の急な呼び出しだって珍しいことではありません。
「すぐさまスーツに着替え、搬送車を走らせます。ご家族へのお悔やみ、その後の段取りのご説明、ストレッチャーでの故人様の搬送、その先の段取りの確認… 仕事内容は同じでもご家族の事情、故人が送った人生、お亡くなりになった背景や事情はさまざま。ですから、何度やっても、何百回経験しても、この業務に慣れることはありません。5年の歳月を経た今も、常に緊張感と隣り合わせなんです」
悲しみに溺れても無感情でも
務まらない特別な仕事。
失意の淵におられるご家族への応対だけでも大変さが偲ばれるのに、いつ呼び出されるかわからないという緊急性まで背負う霊柩車ドライバーという職業。「楽しさ」や「気楽さ」という感覚からは一番遠いところにある仕事とさえ思えてきます。
「確かにそうかも知れません。悲しみや哀れみの感情に溺れては続かないけれど、だからといって無感覚や無感情でも務まらない。心の置き所が難しい仕事です」
さらに昼夜の運転のほか、遺族や葬儀会社との度重なる打ち合わせなど、気力だけでなく体力も使う日々。時には警察にご遺体を引き取りに行ったり、函館や釧路など遠方のご自宅への搬送というオーダーが舞い込む場合もあります。
「市内に関してもなるべく住宅街を通らず、大きな道を通るようにするため、カーナビ等に頼らない走行ルートを覚えることも必要。時間が空けば自動車のメンテナンスにも取り組みます」
この仕事が有する尊さと誇り、
そして仕事仲間の存在が自分の財産。
それでも小林さんがこの仕事を続けたいと思う理由。それは故人様の人生の終焉を見守るという、この仕事の尊さにあるとか。
「常に哀悼の場面に接しているため、複雑な心境を抱いているのではと思われがちですが、自分たちドライバーの心に満ちる感情は『故人への深い敬意』その一言に尽きます。自分の心の中で故人と向き合い、全うした命に対し心の底からの敬意を表する。と同時に、この仕事に全力を傾けている自分を誇りにも思います。この仕事が有する尊さを身を以て感じているからこそ、明日もまたハンドルを握ろう、お別れのクラクションを鳴らそうと考えるんです」
さらに社長や同僚たちと作りあげた絆の存在も大きいと、小林さん。
「生きることも死ぬことも、『こうあるべき』という答えが簡単に出せるものではありません。ただこの問いに直面するこの仕事は、その人の生き方や人生観に深い影響を与えます。社長や同僚がみんな他人を思いやる優しい心の持ち主なのは、この仕事に就いたからでしょう。みなさんとつくりあげた強く温かな絆は、私の大切な財産です」
誰でもできる、とは決して言えない。けれどこの仕事を天職と感じる人は必ずいるはず。そんなことを感じたインタビューでした。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

この仕事に限ったことではありませんが、何を求められているか
自分にどうしてほしいのか…
常にそこに意識を働かせているといつしか「他人から求められる人」に成長できます。

北海道自動車株式会社

故人様やご家族の搬送や出棺などに取り組む、霊柩車や霊柩バスの運行企業。ドライバーの真摯な姿勢、丁寧で対応が静かな評判を呼んでいる。

住所
北海道札幌市手稲区曙7条3丁目1-16
TEL
011-685-0909
URL
https://hokuji.com/

お仕事データ

敬意を胸にハンドルを握る!
セレモニードライバー
セレモニードライバーとは
病院や介護施設から葬儀場へ、
葬儀場から火葬場へ故人を搬送。

セレモニードライバーは、亡くなられた方を搬送するのが主な仕事。具体的には、「寝台車」と呼ばれる車で亡くなられた方を病院や介護施設などにお迎えに行き、ご遺体を安置場所に送り届けます。葬儀を執り行う場所から火葬場までは「霊柩車」で搬送。運転業務が大半を占めますが、棺の積み下ろしや車両点検、清掃といった仕事も担います。寝台車や霊柩車にはご遺族も同乗するため、言動に細心の注意を払いながら、人生を全うした故人に対する敬意を胸にハンドルを握ることが大切です。

セレモニードライバーに向いてる人って?
几帳面で人に対する気配りができ、
慎重な作業も好きな人。

亡くなられた方のご遺族が寝台車や霊柩車に同乗するため、心情に寄り添えるよう几帳面で気配りのできる人は向いているでしょう。ストレッチャーや棺でご遺体を積み下ろしすることもあるため、慎重に作業をすることも求められます。搬送の際、故人とご遺族の思い出の場所を通るなど、残されたご家族の不安や寂しさを少しでも取り除くような気遣いができることも大切です。

セレモニードライバーになるためには

セレモニードライバーになるために必要とされる学歴は特にありません。高校や専門学校、短大、大学を卒業後、葬儀社や霊柩事業を行っている企業に就職するのが一般的。ただし、寝台車や霊柩車を運転するため、普通免許を取得していることが最低限の条件です。企業によっては、バス型の霊柩車を保有していることもあるため、就職後に大型二種免許の取得を求められることもあります。

ワンポイントアドバイス
生き方や人生観に、
大きな影響を与える仕事。

人が亡くなる時間はさまざまのため、セレモニードライバーは時に深夜勤務にあたることもあります。業務内容は決して簡単ではなく、目立つ仕事ともいえません。けれど、「あなたに送ってもらった」という深い感謝の言葉に誇りを持つことができる職業です。簡単には答えの出せない「人の生死」に日々直面するため、生き方や人生観に大きな影響を与える仕事でもあります。