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本多 健太郎さん
インタビュー公開日:2018.08.27

自然に対する憧れが原点。
大学の時から魚の研究の道へ。
日本人の食卓には欠かせないお魚。こういった貴重な資源を守ったり、いつでも安定して確保していくために、全国の研究所で様々な研究を行っているのが『水産研究・教育機構』です。
拠点によって研究対象の魚は異なりますが、「サケ」や「マス」を中心に研究を進める北海道区研究所のさけます資源研究部で、研究員として勤務しているのが本多健太郎さん。大学院の修士課程ではオーストラリアのマグロを研究し、博士課程では幻の魚との異名を持つ魚「イトウ」の研究を手がけたというユニークな経歴を持ちます。
「もともと、とりわけ魚が好きだったというわけではないんです。自然に対する憧れがあって、気づいたら魚の研究に没頭してました(笑)」
大学では1年休学して海外に渡り、スキューバダイビングのインストラクターのライセンスを取得。一時は水中カメラマンを目指していたこともあるとか。興味の方向性が自然全般から水中の生き物へ、魚へと、絞られていったこともうなずけます。
サケの減少理由を明らかにするために
様々な角度からデータを取っています。
サケ(シロザケの正式和名)についての研究といっても、その内容は様々。
「サケに記録計をつけて放流し、移動経路を探ったり、ドライスーツを着て川に潜ることもあります。自分自身が川を流れ下りながら、遡上しているサケを目で見て確認したり、サケの稚魚がどのような行動をしているのかを観察したり。出発点から5kmくらい流れ下りることもありますね」
川でほっちゃれ(産卵を終えた魚)を採って体長を測ったり、年齢を調べるための鱗を採ったりなど、調査は冬期間にも及ぶとか。体力も不可欠な仕事です。
日本では近年減少傾向にあるサケ。本多さんの研究の目的は、その原因を明らかにし、対策を立てること。あらゆる角度からデータを取り、どのようなサケが生き延びているか、どういう環境が適しているかなどの研究に取り組む毎日を過ごしています。
サケの耳石(じせき)を顕微鏡で見ると
様々なことが読み取れるんです。
本多さんがテーマとして取り上げているものの一つに、サケの耳石の研究があります。
「サケの目の後ろあたりにある、米粒のようなものが耳石です。大きさは幼稚魚だと2mm程度。耳石は成長とともに大きくなりますが、1日ごとに日周輪という線ができるんです」
日周輪は木の断面の年輪のようなもの。サケは川と海を行き来する回遊魚として知られていますが、なんとこの日周輪から、稚魚が川から海に降った時期もわかるのだそう。「様々な地域のサケの幼稚魚から耳石を採集し、日周輪を読み解けば、川や地域ごとに成長速度や海に出たときの体長などに特徴があるのかがわかります。これらはサケの子供が生き延びる環境を知るための重要な情報なんです」
耳石を顕微鏡で見られるようにするために、研磨紙で耳石表面を削るという繊細な作業をこなし、それを顕微鏡で見て日周輪のデータを取るのが一連の流れ。一定の期間に400ほどのサンプルを見るそうですが、「多い時には1日に50個もの耳石を削り、データを取ることもあるんです」とニコリ。
年に一度、サケの仲間が集まる
ベーリング海で10日間の調査。
年に一度、7月中旬から3週間の航海調査をするのも重大任務。水産庁からの委託を受けて実施しているもので、渡航先は、ロシアとアラスカの間に位置するベーリング海。900トンの船に乗り込み、釧路港から出発。約5日間かけて到着し、およそ10日間の調査後、また5日ほどかけて日本に戻ります。
「ベーリング海は、サケやカラフトマスなど、サケの仲間の魚類が集まる海。複数の調査点を設け、大きなトロール網を船で引っ張りサケやマスを採集します。採集したサケの量や年齢、遺伝組成を調べることで、日本に帰ってくるサケの量を将来的に予測できるようにすることが私の使命。やりがいも仕事量も壮大です(笑)」
渡航したり、川に潜ったり、本多さんの仕事は大変そうにも映りますが…「いえいえ、魚好きな人には楽しい仕事です。私も含め、ここで働く人の多くは、休みの日も釣りに行くほど魚が好きですね(笑)」
一つのことを極めるのが好きなら
研究者向きかもしれませんね。
研究者といえば、調査・研究の成果を論文として残すのが通例。
「考えたことを実際に試し、その成果を論文として自分の名とともに半永久的に残せるのは、この仕事の大きな特権だと思っています」
これまでに本多さんが残した論文は21本。1つの論文は5~15ページで、ほとんどが英語で構成されています。
「常に最先端の知識を得るために、国外の研究者の論文もよく読んでいます。気になることはメールで聞くなど、お互いに情報交換することもありますよ。世界が近く感じる瞬間です」
そんな本多さんが一番無心になれるのは、オフタイムではなく、なんとデータの解析に没頭している時だとか。「一つのことに夢中になったり、時を忘れて掘り下げていくことが好きなんです。自分は、研究者向きなんでしょうね」
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
研磨紙
サケの幼稚魚の『耳石』を削るのに使います。ヤスリのようなイメージですが、0.3マイクロと非常に細かいため、表面を触るとツルツルです。

国立研究開発法人
水産研究・教育機構

北海道周辺や亜寒帯水域における水産資源維持のための研究や、地球温暖化の影響に伴う海洋生態系のモニタリングなどを行っています。

住所
北海道札幌市豊平区中の島2条2丁目4番1号
TEL
011-822-2131
URL
http://www2.fra.go.jp/xq/

お仕事データ

研究から新たな発見を!
研究者
研究者とは
テーマや課題を決め、
実験や調査から論文を発表。

医薬品や医療技術、災害対策、遺伝子工学に政治学に文学…。多種多彩な分野の中からテーマや課題を決め、研究を行って論文を発表するのが研究者の仕事。実験や調査によってデータを収集しながら、新たな発見につなげていきます。最近では日本からもノーベル賞の受賞者が相次いでいるため、若い研究者にとっては大きな刺激に。大学や国立研究所などの公的機関に勤めている人もいれば、医薬品メーカーや製薬会社といった民間企業で研究をしている人もいます。

研究者に向いてる人って?
探究心が人一倍強く、
粘り強く研究を進める根気強さも必要。

物事の本質や真実を深く掘り下げる探究心を原動力に行動できる力が求められます。また、多くの研究者が長年取り組んできたものの、いまだにわかっていないことも数多いことから、粘り強くコツコツと研究を進められる根気強さも必要。実験や調査の内容を整理し、論文を発表するための論理的な思考能力も不可欠です。

研究者になるためには

研究する分野によって異なりますが、一般的に研究者は専門性が高く、高度な知識が求められる職業。採用においては大学卒業以上の学歴が求められるケースが多いでしょう。とはいえ、ロボットを製作するような機械メーカーの場合は高専で即戦力を身につけた人材を採用したり、食品メーカーでは専門学校で栄養学を習得した人が活躍したり、基準が決められているわけではありません。まずは自分の研究したい分野をリサーチしてみましょう。

ワンポイントアドバイス
これからは高い語学力が必須スキルに。

研究者に必要とされる知識や資格は分野によって異なります。ただし、共通していえるのは高い語学力を持っているほうが有利だということ。最近ではグローバル化が進み、理系・文系に関わらず、学術誌での発表を目指して論文を英語で書くのが当たり前の時代に。海外の論文や資料を読めなければ調査が深まらないこともあり、少なくとも英語だけは高いレベルで読み書きできるようにしておくと良いでしょう。また研究内容によっては、外国人との相互理解が必要になるものもありますので、英会話も含めてバランスよく英語を習得しておくことが大切です。