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榊原 希望さん
インタビュー公開日:2019.05.21

小さなころから釣りが好きで、
魚に興味津々でした(笑)。
ジリリリリ。朝6時の札幌市中央卸売市場の一角、マグロ低温売場にベルの音が鳴り響くと、周囲のボルテージが一気に上がりました。せり人の榊原希望さんが威勢の良い声を響かせ、荷主(各浜の出荷団体や生産者、産地仲買人など)から預かったマグロを「ホンマ(本マグロ)、いくら~いくら~。あ~!あ~!」とせりにかけています。
お仕事が一段落したところでお話をうかがうと、榊原さんのご出身は日本海沿いの羽幌町だとか。小さなころから釣りが好きで、魚に興味津々な少年時代を過ごしたといいます。
「高校卒業後の進路は散々迷いました。魚好きの僕が最終的に選んだのは、魚種や海洋生物の生態を学べる札幌科学技術専門学校への進学です」
まずは仲買人に顔と名前を
覚えてもらうことが大切。
専門学生時代、築地市場を舞台にしたマンガからせりの世界に興味を抱いた榊原さん。産地と直接やり取りして魚を預かり、仲卸業者に販売する荷受(にうけ)という立場の企業がその役割を担えると知り、丸水札幌中央水産株式会社に入社しました。
「とはいっても、最初からせり人として働けるワケではありません。まずは浜(産地)とやり取りしながら、市場内の仲卸業者に魚を売る営業職がスタート地点。1年くらいは研修のような形で魚の旬やさばき方、相場観、各地の浜の荷主さんとコミュニケーションを取る方法を教わりました」
営業職やせり人は毎日のように同じ顔ぶれの仲買人と取り引きする仕事。とりわけ、新人時代は顔と名前を覚えてもらい、いち早く信頼されることが大事なのだそうです。
「やっぱり、あいさつが基本。元気良く言葉を交わすだけでも、自然と仲買人さんに好印象を持ってもらえます」
「競り人登録試験」に合格し、
せり人デビューを果たしました。
札幌市中央卸売市場のせり人になるには、農林水産省の許可を得た水産物卸売会社で3年以上の販売や営業経験を積み、市場が定める試験を受ける必要があります(経験年数は各市場で異なります)。榊原さんも丸水札幌中央水産株式会社の鮮魚二部の鮪チームで営業職を3年ほど続け、札幌市卸売市場の「競り人登録試験」に合格しました。
「試験の内容は市場法と呼ばれる市場の法律に関する問題がメインです。暗記力が問われるので少し大変かもしれませんね」
榊原さんが札幌市中央卸売市場のマグロのせり人になったのは2014年。
「ただし、百戦錬磨の仲買人さんを相手に渡り合うには経験不足です。僕が最初に携わったのは国産養殖マグロの相対取引(あいたいとりひき)。仲卸業者と販売価格や数量を交渉し、話し合いで価格を決める手法です。そうして徐々にせり人としての経験を積んでいきました」
一発勝負の「一声せり」には、
事前準備が欠かせません。
市場のドキュメンタリーやドラマでは、独特な手のサイン「手やり」を駆使したオークション形式のせりをよく見かけます。けれど、札幌市中央卸売市場のマグロのせりは仲買人がホワイトボードに希望の金額を書き、一番高値の人に落札される「一声せり」という入札方式です。
「つまり、ココでのせりは一発勝負」
その緊張の一瞬に向けて大切なのが事前準備。マグロが揚がった浜からの情報をもとに、品質や大きさ、さらにせり人としての熱い思いを前もって仲卸業者に発信するそうです。
「荷主さんから預かったマグロはいわば財産。少しでも高値で売る努力を惜しむことは許されません。一方、売ってほしい値段も駆け引きされるので、期待に添わなければならないというプレッシャーも大きい仕事です。1キログラム1万円ともいわれる大間のマグロを扱う際には、前日に眠れないこともあるほど胸が高鳴ります」
買いたい気持ちを最大限に
高めるのがせりの役割!
マグロのせり場では尻尾の部分を切り落とし、肉質が見えるように並べるのもせり人の仕事。身が空気にふれておいしそうな色に変わるタイミングを見極めたり、仲買人に魅力的に映る置き方を考えたり、ほんの一工夫でも値段が左右されるといいます。
「そうして仲買人を盛り上げ続けた上で、買いたい気持ちをクライマックスにまで高めるのがせりの役割。言葉のスピードやテンポによって雰囲気がガラッと変わり、相場以上の値段にせり上がることもザラなんです。ただし、力量次第では逆に金額が下がることも。いい魚を扱う会社という評価は僕らの腕にかかっているともいえます」
セオリーがなく、重圧は大きく、場の空気という見えないモノまで操らなければならない難しい仕事。それでも、榊原さんが声を張り上げ続ける理由は?
「その難しさが面白いんです。そして、想像していた以上にマグロが高値で売れると単純にうれしい…それがこの仕事のやりがいです」
シゴトのフカボリ
せり人の一日
2:00
出勤
(入荷が多かったので、
この日はいつもより少し早めの出勤)
2:30
入荷魚種ごとにFAXの振り分け
3:00
商品陳列/魚の重量測定
5:00
解体作業/せり物品の陳列/検品/お客様対応
6:00
マグロのせり
6:30
マグロの解体
7:30
朝食
8:00
事務処理
9:30
集荷業務
10:30
入荷情報の発信
12:00
昼食/退勤
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

鮮度の良い魚を扱うことはもちろん、市場で働くには人の「イキの良さ」も大切。せり人は荷主や仲買人と信頼関係で結ばれている部分も大きいため、あいさつや会話もハキハキとするように心がけています。

丸水札幌中央水産株式会社

昭和35年3月、札幌市中央卸売市場の開業に合わせて設立。以来、半世紀にわたり北海道民、札幌市民の台所として生鮮水産物を中心とした食料品を安定供給。海と食卓をつなぐプロフェッショナル集団として生産者と消費者の橋渡し役を担い、どちらの満足も追求しています。

住所
北海道札幌市中央区北12条西20丁目2-1
TEL
011-643-1234
URL
http://www.marusui-net.co.jp/

お仕事データ

卸売市場でせり取引を仕切る!
せり人
せり人とは
出荷者と仲買人との間に立ち、
素早く正確に落札価格を決定!

卸売市場で魚や野菜、肉、花き(切り花・鉢物)などの「せり取引」を仕切るのがせり人の主な仕事です。まずは出荷者(生産者や農業協同組合、漁業協同組合など)から商品を仕入れ、深夜・早朝の市場で仲買人(仲卸業者や売買参加者)に向けて産地や数量の情報を開示。独特の指のサインを使った「手やり」や機械によって買い取り価格を競ってもらい、最も高値を提示した仲買人を落札者として決めます。せり人は、多くの買い手が素早く繰り出す手やりを正確に読み取り、効率的に落札者を決めなければなりません。さらに、なるべく高く売りたい出荷者と、なるべく安く買いたい仲買人との間で納得のいく価格を決める責任があります。

せり人に向いてる人って?
正確な判断力と柔軟な対応力があり、
度胸良く仕事と向き合える人。

せり人は仲買人の手やりをスピーディーに読み取らなければならないため、正確な判断力が求められます。また、せり取引にはせり人が台に立って行う「固定せり」や品物を見せながら移動する「移動せり」などがあり、それぞれ臨機応変に対応しながら落札者を決める柔軟な姿勢も必要です。威勢の良い仲買人を束ね、一度きりの取引のプレッシャーを楽しめるような度胸があることも素養の一つでしょう。

せり人になるためには

せり人になるには、各市場が定める「競り人登録試験」に合格する必要があります。そのためには、市場に出入りする卸売会社に就職し、営業部で一定期間の実務経験を積まなければなりません。登録試験の内容は市場の法律や取引についてが中心です。登録証には有効期限があり、せり人として働き続けるためには定期的に試験を受け直します。最初の更新は3年以内、以降は原則5年に1回です。

ワンポイントアドバイス
せり取引だけではない!相対取引にも注目!

テレビのニュースやドラマでは手やりを使ったせり取引がクローズアップされますが、せり人は他にも「相対(あいたい)取引」という方法で商品の価格を決めることもあります。これは、あらかじめ販売予定額を定めることなく、また仲買人を競争させることもなく、買い手との話し合いによって販売価格や数量を決定する売買方法です。せり取引は公開性に優れている一方で価格変動が大きく、供給も不安定になりがち。相対取引は安定した価格で商品を供給できるというメリットがあります。