高橋 由衣さん
インタビュー公開日:2021.02.24

新聞記者を意識したきっかけは、
学生時代に海外を旅した経験。
新聞記者といえば、「書く仕事」の代表格。日々、取材したネタを執筆するには、やはり小さなころから日記や読書に親しんできたほうが良いものなのでしょうか。
「いえいえ、私は机に向かうよりも外で遊ぶほうが好きな子ども時代を過ごしましたよ」
穏やかな笑顔でお話しするのは毎日新聞社北海道報道部の高橋由衣さん。新聞記者の仕事を意識し始めたのは、大学時代に海外の国々を旅した経験だと振り返ります。
「旅先では初対面の方々の人生に深くふれるケースも少なくありませんでした。例えば、南米でトレッキングツアーを組んでくれたガイドの若い女性は、ご主人が銃撃事件に巻き込まれて亡くなったそうです。まだ小さなお子さんを一人で育てるために、稼ぎの良い体力仕事を選んだと教えてくれました」
辛い過去、複雑な事情、心の痛み…。まだ世には知られていない人の思いを伝える仕事という視点から、高橋さんは新聞社を中心に就職活動を始めました。
初めて書いた原稿は…
原型がなくなりました(苦笑)。
高橋さんは2019年に毎日新聞社に入社。最初の1カ月ほどは、東京本社で新人研修を受けました。
「会社概要の説明や上層部の講話といった机上の学びの他、先輩記者から仕事の心構えなども教わりました。今も常に心がけているのは、取材対象の気持ちに寄り添わなければ、時に相手を傷つけてしまうことになるという言葉です」
新人研修では写真撮影や原稿執筆のポイントも学びましたが、実際の現場を経験しなければ体感できないことも多いとか。高橋さんは北海道報道部に配属されてほどなく、先輩とともに初めての取材に出かけることになりました。
「大通公園にとうきびワゴンが登場した初日の取材です。恐る恐るお話を聞き、写真を撮らせてもらいましたが、自分でも何を質問しているのか分からなくなってしまうほど緊張しました」
初めて書いた原稿は、「原型はどこへ…というくらい先輩に直されました」と苦笑します。
新聞記者は誰にでも会え、
貴重な経験も積める仕事。
毎日新聞社の新人記者は、警察担当からスタートするのが通例。高橋さんも、事故や事件の広報をもとに現場に駆けつける日々が続きました。
「社内的に『1年生の登竜門』といわれているのが警察学校の取材。キャップ(リーダーのベテラン記者)に段取りを組んでもらった上で、警察官のタマゴの皆さんと鑑識の指導や柔道のトレーニングを一緒に受けました。その体験記をきっかけに、警察署の副所長と顔をつなげられたんです」
高橋さんは担当の警察以外にも、スポーツやアイヌ民族の取材といった多様なジャンルを経験。同社は新人の挑戦を積極的に後押ししてくれる社風だといいます。
「新聞記者は政治家やスポーツ選手など誰にでも会えるのが魅力の一つ。私もアイヌのコミュニティで儀式に参加したり、甲子園出場校で選手の食事を試食したり、入社からわずか2年の間に一般には体験できない貴重な経験が数多く積めました」
「ガツガツいけない」も、
短所ではありません。
現在、高橋さんは行政を主に担当。北海道庁や役場のキーマンに読者が知りたい情報を取材するだけではなく、普段の雑談や疑問の問いかけから心を開いてもらう関係性づくりも大切なのだそうです。
「取材現場では他社の先輩記者と顔を合わせることも多く、何を聞き出すためにどう質問しているのかに耳をそばだてています。ふとした会話から懐深くにグッと飛び込んだり、情報の引き出し方が巧みだったり、勉強になることばかりなんです」
新聞記者の取材というと、アグレッシブに質問を投げかけるイメージ。記者会見の場でも、相手の痛いところをつく問いかけがよく見られます。
「私は直球の質問が得意ではないタイプ。新聞記者としてはガツガツ攻められないことが短所だと思っていました。けれど、相手を気遣いながら遠回しの問いを重ねることで、徐々に心の距離が縮まっていくことも多いんです」
なるほど、柔和な人柄の高橋さんらしさがにじむ取材スタイルです。
誰もが情報発信できる時代だから、
私たちにしかできない伝え方を。
新聞記者としていわゆる「特ダネ」をつかむのは大手柄。一方、毎日新聞社ではSNSやブログで誰もが情報発信できる時代だからこそ、自分たちにしかできない伝え方を常に模索しています。
「最近はユーチューバーを筆頭に自己表現の上手な人が増えていると思います。けれど、その反対に積極的には声を上げられない人、障がいを抱えている方、社会的に弱い立場に置かれている層がいることを忘れてはいけません。私たち新聞記者は世間に届かない小さな声を自らの足でつぶさに探し、社会に届けることが役割でもあります」
最近、高橋さんはコロナ禍に翻弄される小樽市の商店街を取材。人々が明るく振る舞う中にも、焦りや悲痛が横たわっていることを感じ、記事として伝えました。
「今はまだ目の前の仕事と向き合うことが精一杯。でも、いつかは多くの人の共感を呼び、小さくても世の中にアクションを起こしてもらえる記事を書いてみたいですね」
シゴトのフカボリ
新聞記者の一日
10:00
出勤/取材へ
12:00
昼休憩
13:00
取材
15:00
帰社/原稿執筆
18:00
デスクの原稿チェック
19:30
記事完成/送稿
19:45
退社
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
取材の七つ道具!
ノート、ペン、ボイスレコーダー、カメラ、ノートパソコン、名刺、自社の新聞は取材に出かける際に欠かせません。荷物が多くなってしまうので、これらを入れるリュックサックも含めると「取材の七つ道具」です!
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

新聞記者に限らず、どんな職種でも自分が楽しいと思って働かなければ、同僚やビジネスパートナーにとって失礼だと思います。取材相手に心を開いてもらったり、良い雰囲気で業務を進めたりするには気持ち良く仕事と向き合うことが大切です!

株式会社毎日新聞社 北海道支社

創刊は1872(明治5)年。現存する日刊紙の中で最も古い歴史が古く、2022年には創刊150年に。隠された事実を明るみにし、公平公正に事実を伝えることで、健全な民主主義社会を支え、人々の暮らしに役立ちたいというジャーナリズムを中核とした「トータル・ニュース・コンテンツ企業」として、新しい時代を構築。

住所
北海道札幌市中央区北4条西6丁目1
TEL
0570-064-988
URL
https://mainichi.jp/

お仕事データ

つぶさな取材で記事を執筆!
新聞記者
新聞記者とは
関係者や専門家からもネタを拾い、
地道な取材活動から記事を作成。

新聞の記事となる情報を取材し、執筆するのが主な仕事。経済、社会、国際、スポーツ、生活情報などのセクションに分かれ、市政や警察といった記者クラブの発表を受けるだけでなく、関係者に話を聞いたり、専門家から独自ネタを拾い出したり、地道な取材活動から記事を書き上げています。担当記者の取材原稿は、各セクションの編集責任者がチェック。編成部記者が、原稿を整理・編集し、さらに校閲部員が言葉遣いや誤字を点検して、新聞記事が出来上がります。

新聞記者に向いてる人って?
情報を引き出すコミュニケーション能力と
人を惹きつける文章力が大切。

さまざまな人と接して情報を引き出すことが新聞記者の基本。そのため、コミュニケーション能力が必須です。政治や経済、芸能まで多彩な分野の記事を扱うことから、幅広い知識や教養も求められます。また、分かりやすく簡潔な原稿を短時間で書くための情報整理力や、言葉一つで読者の気持ちを惹きつける文章力も大切。社会を見る自分なりの視点やフットワークが軽いことも素養です。

新聞記者になるためには

新聞記者になるための特別な資格はありませんが、幅広い知識や教養、文章力が必要なことから、多くの新聞社では大卒者を対象に採用試験を実施。記事を書くという点から文系学部出身者が有利だと思われがちですが、科学や工学といった分野の取材には専門知識が求められるため、理系学部出身者の採用も増えているようです。日ごろから社会に目を向け、自分なりの視点を養うのが大切です。

ワンポイントアドバイス
新聞記者の働き方とは?

取材記者の場合、朝は自宅から直接取材先に向かうケースが多いようです。夜に会社社長の自宅を訪ねて話を聞いたり、朝早くから政治家を直撃したり、いわゆる「夜討ち朝駆け(深夜や早朝に直撃取材する)」や張り込みも日常茶飯事。不規則な生活になりがちなことから、体力、精神力ともにタフであることが求められます。一方、校閲や紙面整理などの内勤記者は、勤務時間帯が決まっていることから生活のリズムは規則的です。休日については、最近では週休二日制が多く、取材記者も内勤記者も交代で休みを取っています。