宮本 翼さん
インタビュー公開日:2022.06.29

「おいしい」と喜ばれ人の役に立つ
飲食店の仕事に出会い、夢中に。
雑多な雰囲気が人気の狸小路7丁目。様々な飲食店が寄せ集まったビルの、細い通路のつきあたりに「ピッツェリア デル カピターノ」があります。ここのピッツァ職人であり、オーナーの宮本翼さん。イタリアンレストランやピッツェリアで修行を積んだ後、地元である江別で新店の立ち上げや責任者としての経験を経て現在の場所に自身のお店を構えました。
学生時代に出会ったボランティアがきっかけで、「人のために役立つこと」が好きだと気付いたという宮本さん。大学では福祉を学びながら、焼肉店の接客のアルバイトを始めました。
「自分が提供したものを『おいしい』と言ってもらえたり、サービスを喜んでもらえるのがうれしくて、飲食店も人の役に立つ素敵な職業だと実感しました。『ありがとう』と言われるのがうれしくて、もっと喜ばれたいとアルバイトに熱中していきましたね」。
その後、家庭の事情で大学を中退。改めて自分で「この仕事がしたい」とアルバイトをしていたお店に就職し、約1年で社内で最年少の店長に昇進しました。
本格的ナポリピッツァとの出会い。
繊細な生地に試行錯誤の半年間。
それからもダイニングバーや居酒屋で接客の仕事を続けるうち、「自分で作った味をお客様に提供してみたい」と、コーヒーを淹れる技術や知識を持つバリスタとしてイタリアンレストランで働いていた宮本さん。ある時そのお店のオーナーから「ピッツァ作りをやってみないか」と持ちかけられ、挑戦することに。そのお店で作っていたのは、イタリアのナポリが発祥の本格的なナポリピッツァです。実際に作ってみると生地作りはとても難しく、なかなかオーナーから合格をもらうことはできませんでした。
「ピッツァの生地はその日の湿度や環境に左右される繊細なもの。焼くのは窯なので、温度もデジタルで設定するようにはいかず薪を入れて調整しなくてはなりません。レシピ通りに作っても同じものはできず、職人は感覚で覚えて作っていくため、その技術を身に付けるのも簡単ではないんです。小麦粉の性質のことなど科学的な仕組みも本を読んで勉強しながら何枚も何枚も焼き、『これならお客様に出せる』と言ってもらえるまで半年間かかりました」。
ピッツァで地元を盛り上げたい。
新店舗の立ち上げで江別へ。
試行錯誤しながら作ったピッツァの生地には愛着が湧き、自分の味ができる喜びや、お客様が食べて「おいしい」と言ってもらえるうれしさを感じるように。次第にピッツァ作りを天職と感じるようになっていきました。
江別の商業施設内にピッツェリアをオープンする。そこの統括責任者として働いてもらえないか。
新店舗を運営する東京の会社から声がかかったのはちょうどそんな時でした。
「地元で何かをしたいという気持ちは以前からありました。だから、お話をいただいた時、江別をピッツアで盛り上げたいという思いで引き受けることにしました」
オープンの年には、イタリアで開催されるピッツァの世界選手権にも挑戦。
伝統のナポリピッツアの細かな規定に則った上 で、江別産の野菜やチーズなど江別をアピールできるピッツァで臨みました。
そうした取り組みや、地元食材を使った職人による本格的なピッツァはすぐに評判となり、多くの家族連れが訪れる人気店になりましたが、コロナの影響で2021年の秋に閉店になります。
発信し続けたい。
北海道の生産者のこと、豊かな食材のこと。
以前働いていた店の移転に伴いオーナーから「ここを買わないか」と連絡が入ったのは、ちょうど次の道を模索していた時でした。
「江別へのこだわりもありましたし、コロナの時期で迷いが無かったといえば嘘になります。でもやっぱり僕はピッツァを焼きたい。その想いが強かったですね」
ピッツァ職人であり続けたい、ピッツァを通して自己表現をしたい。
宮本さんは古巣から新たに出発することを決めました。
これまでと変わらずに、北海道産の原料で作られた江別製粉の小麦粉、江別をはじめ全道の生産者と繋がり仕入れた旬の食材でピッツァを作り、窯で焼き上げます。焼きたては香ばしさと共に、モチモチ感とみずみずしさも感じられる絶品のピッツァです。「場所は変わっても江別や北海道の食材の魅力をピッツァを通して表現し発信し続けます」
もっとピッツァを身近なものに、
ピッツァ職人を憧れの職業に。
以前のお店に勤めている時に、オーナーと共に仕事の合間を縫ってイタリアに渡り、現地のピッツァを体感した宮本さん。短い期間ではありましたが職人の情熱や現地の空気感に触れ、ピッツァがいかにイタリア人に身近なものであるか実感してきました。イタリアでは料理人と並んでピッツァ職人が専門職として認知されており、子どもが憧れる職業でもあります。
現在、宮本さんは、お店でのスタッフ育成はもちろん、調理に特化した学校である北海道三笠高等学校での授業などで、ピッツァ作りを伝えています。ナポリの職人の感覚に加え、自身で学んだ科学的なロジックも教え、おいしいピッツァ作りをわかりやすく伝えています。
日本でもピッツァ職人を子どもが目指す職業にしたいという宮本さん。「と言っても、私自身は学生時代に明確な目標を持っていたわけではなく、好きなことに真摯に取り組んでいるうちにピッツァに出会いました。目の前のことを常に一生懸命やっていれば、それを楽しみながら自分も成長していけると思います」。
シゴトのフカボリ
ピッツァ職人の一日
13:00
出勤、窯に火を入れる 生地の状態の確認、仕込み
14:00
冷凍ピッツァの製造、休憩
16:00
オープン、ピッツアを焼いて提供
22:00
ラストオーダー、閉店準備
22:30
片付け、退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
思い入れのあるスケッパー
生地を調理台からすくい取る時などに使う、ピッツァ作りには欠かせない道具であるスケッパー。東京の有名店のオーナーで良きライバル的な存在の方からもらったもので、手入れをしながら大切に使っています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

「パッシオーネ(情熱)」は、イタリアのピッツァ職人がよく使う言葉で、彼らからはピッツァに対する情熱を感じます。周りの人に対しても、言葉に出さなくても伝わる思い、情熱を大切にしています。

PIZZERIA DEL CAPITANO

2022年4月オープン。小麦や野菜など北海道産食材のおいしさを、本格的なナポリピッツァで表現しています。

住所
札幌市中央区南3条西7丁目6-4TANUKISQUARE 1F
TEL
050-3699-1534

お仕事データ

ピザづくりの専門職。
ピザ職人
ピザ職人とは
生地の仕込みから具材の盛り付け、
焼き上げまでピザづくり全般を担当。

ピザ専門店やイタリアンレストランでピザを作る業務全般を担うのがピザ職人の仕事。本場のイタリアではピッツァイオーロと呼ばれています。具体的には、店舗のオープン前から生地や材料を仕込み、窯に火を入れるといった準備をスタート。さらに生地の成形や具材の盛り付けを行い、焼き上げるまでが主な仕事です。店舗によってはお客様のオーダーを受けてから生地を成形することもあり、こうした場合はスピードと高い技術が必要。新たな食材の仕入れやメニューの開発など、おいしさを常に追い求めるのも使命です。

ピザ職人に向いてる人って?
新たなおいしさを追求する探究心や
熱さと格闘する忍耐力がある人。

食の中でもとりわけピザやイタリア料理に興味があり、おいしさで人を笑顔にしたいという思いが必要です。また、生地の仕込み方やチーズの種類、具材の組み合わせなどによって、生み出せる味わいは多種多彩。ピザの新しいおいしさを常に追い求める探究心がある人もピザ職人に向いているでしょう。また、一人前になるまでには長い時間がかかり、時には熱い窯の前でピザを焼き続けることもあるため、忍耐力も求められます。

ピザ職人になるためには

ピザ職人になるために必要な資格はありません。高校や専門学校、短大、大学を卒業後、イタリアンレストランやピザ専門店に就職し、修行を積みながら一人前のピザ職人を目指すのが一般的です。最近ではピザ人気の高まりに伴い、ピザ職人を育成するアカデミーやスクールも増えつつあります。こうした学びの場でピザ生地の粉質や水分量、チーズの種類、さらに窯の使い方などを教わるのもオススメです。

ワンポイントアドバイス
ピザコンテストに出場し、
自らのスキルと評価を高めよう!

ピザ職人として腕を磨き続ける先に見据えたいのがピザコンテストへの出場。日本国内はもちろん、海外でもさまざまな大会が開催され、ピザのおいしさを競い合っています。国内の選手権で優勝トロフィーを獲得できるとピザ職人としてのスキルの証になりますし、本場ナポリの世界大会で勝ち抜くことができれば、「世界大会で優勝したピザ職人がいる」とお店の知名度もアップするはず。ピザコンテストに優勝することで、自身やお店の評価を高めることもできます。