藪本 祐希さん
インタビュー公開日:2021.07.13

道内に5万台以上ある自動販売機。
1日平均6台の設置を担うベテラン。
クールジャパンという言葉があります。世界に誇る、かっこいい日本の文化といった意味で、自動販売機もその一つなのだとか。商品とお金が入った状態で街なかに置いてあるのに、盗難や破損の被害に遭うことがほとんどないという日本の安全性と、手軽にドリンクを買える利便性がクールというわけです。清涼飲料水だけでも全国に240万台あまり、道内にも5万台以上の自動販売機が置かれています。ということは当たり前ですが、誰かがそこに設置に来ているということになります。
「屋外の平らな場所なら、トラックからクレーンで自動販売機を下ろして、あっという間に設置が終わります。1日平均6台ほどの設置・入れ替えを行っていますね」
涼しげな表情でそう話すのは、藪本祐希さん。国内最大手の飲料メーカーが北海道に設置する自動販売機の約98%、ほか複数メーカーの自動販売機も半数以上を設置し、道内のトップシェアをもつ開運興産で15年のキャリアを持つベテランです。
札幌の代表的イベントの際にも設置。
一緒に会場を盛り上げている感覚も。
自動販売機の設置・メンテナンスを中心に、重量物の搬入・搬出に半世紀近くの実績をもつ開運興産に藪本さんが入社したのは2007年。理由は“何となく楽そうな仕事に感じたから”。前職は、建築の型枠大工でした。
「設置スケジュールの関係で、建築現場より勤務時間が長くなることもあります。ただ、あくまでも私自身の実感ですが、想像した通りというか、肉体的に大きな負担は感じませんでしたね」
前述するように、屋外で、かつ平坦な場所なら、足場のブロックを敷き車載のクレーンでトラックから吊り上げ、下ろすだけ。重いものを持つこともないのだとか。確かに、負担は軽そうです。
「札幌まつり、よさこいソーラン、雪まつりなど、今はコロナ禍で中止になっていますが、札幌を代表するイベントの際には、期間限定の自動販売機を設置します。外側にイベントの装飾が施されることもあり、一緒に会場を盛り上げているような楽しさを感じます」
どうやって自動販売機を運び入れるか?
頭を使う、難しい段取りほどワクワク。
先輩の作業の補助をしながら、作業を行っていたころは、ある意味、淡々と仕事ができていたという藪本さん。けれども、独り立ちし、難易度の高い仕事を任されるにつれ、自動販売機の設置という業務の奥深さを知るようになったと話します。
「特に、屋内への設置は、難しいケースが少なくないですね。どうやって搬入するか、工夫が必要になったりします」
現地に着くと、まず搬入経路と設置場所を確認。床に大きな段差がついていたり、エレベーターがなかったり。そうした状況に応じた運搬方法を考えます。例えば階段で運ぶ際には、専用の台車を使うのだそうです。
「入口の寸法がギリギリでも、自動販売機を傾ければ入ったりします。頭を使いますが、ゲームのような楽しさを感じますし、作業の段取りが難しいほどワクワクするんです」
狭い入口を通らなければ設置場所にたどり着けない。そんな時は、本体からドアを外して運ぶことも。まさに職人の世界です。
安全で効率的な作業の実施が最優先。
経験が必須の高度なノウハウに誇り。
自動販売機は軽量化が進んでいるそうです。それでも200〜300kgの重量があります。台車も入らない階段の場合、ドリンクを入れる内部のラックと呼ばれる部分まで外して運びあげることも。
「ただ、決して無理はしません。難しそうな場所だからと、飲料メーカーの営業さんから連絡をいただいて下見をする場合は問題ありませんが、通常はぶっつけ本番。安全に作業できない場合は、一旦、持ち帰って仕切り直すこともあります」
あくまでも安全に、どうすれば効率的に運べるかを現場で判断。腕力や体力ではなく、判断力が求められる仕事であり、そのためには経験を積むことが必須となります。指定された場所に自動販売機を置いてくる。それだけに見えますが、特殊で高度なノウハウを身につけた人にしかできない仕事です。
「建築の改装工事の際、大工さんが自動販売機を動かすことがありますが、その際には要請を受けて設置直しに行くことが大半。専門技術を求められることに誇りを感じます」
大手飲料メーカーの専任担当者に。
頼られているという感覚がうれしい。
自動販売機を設置する際には、飲料メーカーの営業担当者、ドリンクの補充を行う企業の担当者とチームを組んで動くことが多いそうです。ほぼ毎日、同じクルーで動くため気心も知れており、現場は和気あいあいとした雰囲気なのだとか。
「入社以来、同じ大手飲料メーカーの自動販売機の設置に携わり、半年ほど前にそのメーカーの専任担当となりました。携帯電話に直接、連絡をいただき、設置の相談を受けることが、今はうれしいですね。頼ってもらえているという感覚になれるんです」
2018年の北海道胆振東部地震の際には現場で自動販売機の調整に奔走。位置が動いてはいたものの、転倒したものはなく、耐震基準を守りながら自分がその安全性を担っているという喜びが湧いてきたそうです。
「休日、車で走っていると、“あの自動販売機、傾いているな”と目に入ります(笑)」
雪解けで地盤が緩み、自動販売機が傾くのはよくあることで、その調整も大切な仕事、と藪本さん。クールジャパンの真の担い手です。
シゴトのフカボリ
重量物運搬設置の一日
8:30
出勤、スケジュール確認、設置現場へ出発
9:00
設置業務開始、平均3件ほどを回る
12:00
昼休憩
13:00
設置作業再開、午後も平均3件ほどを回る
17:00
帰社、翌日に設置する自動販売機の積み込み、日報作成など
18:00
退勤
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

毎回、設置する場所の条件が異なるため、その都度、搬入方法を考える必要があります。入社して15年、その奥深さを改めて感じています。どんな仕事でもきっと、経験を積んだからこそ見えてくることがあると思います。

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
ネコ台車
階段で自動販売機を運ぶ際に使う専用の台車。2人で作業を行います。現場に応じて、この仕事ならではの道具を使いこなします。

開運興産株式会社

1973年創業。自動販売機の設置・撤去および関連するメンテナンスを行う企業として、道内トップクラスの実績をもっています。

住所
北海道北広島市大曲工業団地6丁目3番地1
TEL
011-377-5950
URL
http://www.kaiunkousan.co.jp

お仕事データ

自販機からプラントまで!
機械器具設置スタッフ
機械器具設置スタッフとは
機械・器具の設置や撤去の他、
現場での製作を担うことも。

建設現場やプラント、工場で産業機械を新設するための工事を担う他、街角に自販機をセッティングするなど、さまざまな機械や器具の設置に携わるのが機械器具設置スタッフ。機械や器具を単純に設置・撤去・移動するケースもあれば、設計から現場での製作までワンストップで手がける会社もあります。自らが設置した機械によって工場やプラントの作業効率が高まったり、地域の役に立ったりすることが実感できる仕事です。

機械器具設置スタッフに向いてる人って?
ある程度体力に自信があり、
チームで効率的に動くのが好きな人。

機械・器具設置スタッフが扱うものは重量が大きいため、ある程度体力に自信がある人は向いているでしょう。また、複数人で力を合わせて仕事を進めるため、チームで取り組むのが好きなことも求められます。常に作業の段取りや順番を考えながら機械・器具を設置しなければならないため、物事を効率的に進められる力も必要です。

機械器具設置スタッフになるためには

機械器具設置スタッフになるために必要な資格はありません。高校や専門学校、短大、大学を卒業後、機械器具の設置や工事を行う会社に就職するのが一般的です。最近は新人を丁寧に教育する企業が増えているため、最初は簡単な作業から始めて、徐々にスキルを積み上げることで一人前を目指せます。また、機械を運ぶ際にクレーン付きトラックを使うこともあるため、小型移動式クレーンや玉掛けといった資格を取得しておくのもおすすめです。

ワンポイントアドバイス
常に一定のニーズがあり、
安定した未来が描ける仕事。

工場やプラントで使う産業機械も、街角の自動販売機も、時代が進むとともに性能や効率がアップした新しいものに取り替えるケースがほとんどです。また、各工事現場でも作業を行うための機械・器具が必ずといって良いほど設置されています。つまり、機械器具設置スタッフの仕事は常に一定のニーズがあり、安定した未来が描けるといえるでしょう。