右近 鉄也さん
インタビュー公開日:2021.10.22

生まれた時から漁業が身近に。
自然な流れで漁師の道へ。
日高町厚賀町で代々漁業を営み、4代目として活躍する右近鉄也さん。生まれたころから漁業が身近にあるのが当たり前の環境で育ちました。
「夏の昆布干しの時などは両親共に仕事に出るので、私はハイハイをしているころから、浜にじゅうたんを敷いて過ごしていたそうです。大きくなると船にも乗せてもらい、少しずつ手伝いもするようになり、自然に漁業を継ぐことを意識するようになりました」。
そして、高校卒業と同時に18歳で父親のもとで漁業の仕事に。父親に教わりながら仕事を覚え、漁の仕事自体はそれほど苦労はしなかったそうですが、最も右近さんを悩ませたのが船酔いだったと言います。
「子どものころは波が穏やかな日にしか乗っていなかったので平気でしたが、仕事となると少し波が荒くても危険がないと判断すれば漁に出ます。慣れるまで1年くらいかかりましたが、慣れてからは全く酔わなくなりましたね」。
その時期の魚種に合わせて漁を。
夏は日高昆布を出荷します。
右近さんたちが漁をする日高沖の太平洋沿岸は、季節ごとにさまざまな魚が獲れます。春はカレイ、夏はタコと昆布、秋はシシャモ、冬はカニを、魚の生態に合わせた漁法で獲っていきます。
取材に伺った日は、ちょうど夏場の晴れた日で昆布干しが行われていました。7月下旬から2カ月ほど、昆布が干せる晴れた日に行う昆布漁。小型船で漁場に出て昆布を採り、浜で干して選別、出荷します。
厚賀町で採れる昆布は「日高昆布」のブランドで市場へ。日高昆布として出荷するには長さなどの基準が決まっており、さらに色や重さ、縞の入り具合で6段階の等級が決められています。右近さんたちは質の高い昆布を獲ることで、ブランドを守っているのです。
厚賀町では、獲れた魚は全量を漁協に出荷。漁協を通して市場でセリに出され、仲買人が購入し、スーパーマーケットやまちの魚屋などが仕入れ、右近さんたちが獲った魚が私たちの食卓へと運ばれます。
大漁の時とそうでない時の差も、
自然相手の仕事の厳しさ。
漁は朝早くから始まり、昆布漁の場合は5時半から。タコは4時、シシャモは6時、カレイは夜中11時半からの出漁です。そのため夜も早く寝て漁に備えますが、日曜は市場が休みで漁がないので、前日の夜はリラックスして過ごせるそう。
漁師の仕事をしていてやりがいを感じるときは、「魚介や昆布がたくさん獲れた時」という右近さん。最近では、タコが1日で1トンほども獲れたと言い、800個から1,000個仕掛けた箱の多くにタコが入っていたそうです。反対に獲れない時は、600個仕掛けて25匹ほどしか入っていなかったこともあり、自然相手の漁業の厳しさを感じます。
また、おいしい魚が食べられるのも漁師の特権。食卓には魚が週4〜5回は上るそう。カレイ漁の網には他の魚がよくかかり、市場には出せないため右近さんたち漁師さんが持ち帰り、余った分は冷凍して食べています。
「やっぱり、自分で獲った魚や港で手に入る魚のおいしさは格別です!」。
地元の青年部の仲間と共に活動。
全道の会合に出る機会も。
個人で漁師の仕事をしている右近さんにとって、地元にいる心強い仲間がひだか漁協厚賀事業所の青年部です。現在も、10人から13人ほどの後継者が一緒に活動しています。
「年齢関係なくみんな仲がいいです。よく集まって話して飲み会をしたり、情報交換をしています」。青年部では地域の子どもたちのために教育委員会の事業に協力し、地引き網の体験を行ったり、厚賀町で秋に開催するシシャモ祭りではビアガーデンの運営を担っています。
仲間からの人望が厚い右近さんは、8年前から部長に就任。また、4年前からは日高地区漁業青年部連絡協議会の会長も務め、日高地区や全道の会合に出る機会も増えました。
「北海道の漁業の課題についてもよく話しています。全道的に量が減っていて値段も上がらないので、漁師の経営としては難しい状況ですね」。
魚が減っている対策としては、資源保護のために漁網の目を大きくして小さな魚は獲れないようにする規制があるほか、厚賀町でもマツカワガレイの稚魚の放流を行い、魚を増やすための地道な活動を続けています。
父の背中を見て技術を磨く日々。
北海道の担い手も増えてほしい!
右近さんが漁師として働く上で大きな存在が、現在も現役で活躍する父親です。昆布漁の船は、以前は父の担当でしたが、右近さんに任せられて4年目。まだ父が乗っていたころよりも、量は採れていないと言います。
「場所の選び方や採り方で、良い昆布がたくさん採れるかどうかが決まります。長年の経験が必要な仕事で、まだまだ父には敵わないですね」。父に追いつけ追い越せと、漁に励む毎日です。
厚賀町では右近さんたちのような後継者がいますが、全道的には担い手不足が深刻な地域も。漁師になるには漁業権が必要なので、右近さんのように親の家業を継ぐ場合のほか、漁師のもとで従業員として働くという方法もあります。地域によっては独立して漁業権を獲得できる場合も。
「漁師になって辛いことより楽しいことの方が多いですし、おいしい魚も食べられます!北海道の漁師の仲間がぜひ増えてほしいですね」。
シゴトのフカボリ
漁師の一日
4:00
起床
5:10
港に行き出漁の準備
5:30
出漁、昆布漁(2回に分けて採りに行く)
9:30
浜で昆布干し
終わったら、休憩(昼食、昼寝)
13:30
干した昆布の回収
小屋で湿気らないようにシートをかぶせ保管
15:00
翌日の準備(漁網の修理、燃料の調達など)
16:00
仕事終了
21:00
頃 就寝
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
タコ漁独特の道具「タコ箱」
タコが穴を好んで入ろうとする習性を利用し、箱で漁を行います。穴の空いた箱を海中に仕掛け、引き上げると中にはタコが。右近さんが使っているものは20年ものです。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

漁業は天候や魚の習性など自然を相手に、体力も使う仕事なので厳しい面もありますが、辛さよりも楽しさの方が大きいです。それにおいしい魚も食べられますよ!

ヤマダイ右近漁業部

昭和初期、右近さんの曽祖父から日高町厚賀町で4代続く漁師。夏の日高昆布を始め、カレイ、タコ、シシャモ、カニなどの漁を行っています。

お仕事データ

広大な海原が職場です
漁師
漁師とは
日本の食卓に欠かせない、
魚介類を獲る仕事。

船で海へ出て魚介類を獲ることが漁師の主な仕事。漁場(魚を獲る場所)は陸地に近い海で日帰りする「沿岸漁業」、日本の周辺の海(200海里水域内)で行う「沖合漁業」、外国の海で漁をする「遠洋漁業」に大きく分けられます。獲り方も、はえ縄漁やまき網漁、定置網漁などさまざま。船の掃除や漁具の手入れなど、陸での作業も漁師の仕事です。また、生簀で魚を育てて獲る「養殖業」も漁業の一つ。いずれも、日本の食卓に欠かせない魚介を届けるというやりがいに満ちています。

漁師に向いてる人って?
体力や根気に加え、
知識を進んで吸収できる人。

海が舞台なので天候や季節によっては厳しい環境の中で働かなければなりません。下積み時代は力仕事も多く、体力や根気は不可欠です。ベテランの漁師ともなると勘だけではなく、潮の流れや海水温度の変化など、さまざまな情報を分析することで魚が多く獲れる場所を見つけ出すもの。気象学や魚介類の生態学などの知識を進んで取り入れる積極性も求められます。

漁師になるためには

学歴や年齢に制限があるわけではありません。沖合・遠洋漁業といった大型船の乗組員として働く場合は、未経験者でも漁師になれます。その際は漁業者になるための相談会(就業支援フェア)などを活用しましょう。ただし、沿岸漁業の漁師として個人で仕事をしていくためには、「小型船舶操縦士免許」や「海上特殊無線技士免許」の資格が必要です。さらに、漁に出るための「漁業権」も取得しなければなりません。漁協によって取得方法は異なるので、まずは問い合わせて情報収集するのがオススメです。

※詳しくは一般社団法人全国漁業就業者確保育成センターのホームページをご覧ください。http://www.ryoushi.jp/

ワンポイントアドバイス
漁師の休みは沿岸漁業、
沖合漁業、遠洋漁業でマチマチ。

漁師の休日は漁業種類や狙う魚、時期によって異なります。沿岸漁業の場合は1週間に1日定期的に休むケースが多く、海が荒れていれば陸で漁具の修理や網の手入れなどを行います。大きな船に乗って長期間操業する船では帰港や船の点検の時にまとまった休みが取れるようです。遠洋漁業では燃料の補給や休憩のために異国の港に立ち寄る機会もあり、海外の風景や刺激的な経験と出会えます。