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村邉 里南さん
インタビュー公開日:2023.01.13

アニメーターの絵をカット割りし、
作品に仕上げる『撮影』を担当。
日本の文化を代表する一つとして、世界中から支持を集めているアニメーション。熱烈なファンではないという人でも、テレビで、映画館で観たことがある、なじみがあるという作品は一つ二つではないでしょう。村邉里南さんの仕事は、そんなアニメの『撮影』です。
「アニメは、映画のようにカメラを構えて撮影しているわけではありませんが、アニメーターが描いた絵を、専用のソフトウェアを使ってカット割りのようにつなぎ、一つの作品として仕上げていくことで完成します」
その時に、デジタル技術などを使って作画に視覚的なさまざまなエフェクト(効果)を与え、映像としてのリアルさや美しさ、臨場感などを表現することも、村邉さんの役割です。また、実写のようにカメラが動くようすを、画面の動きで表現するというテクニックもあるそうです。
「アニメの制作は、各現場にいる人さえ知らない分野があるほど分業が進んでいます。その中でも、撮影は最後の方の工程。私たちが完成させたものに音声を入れると、テレビなどで放送される一つの作品ができあがります」
監督・演出家の指示に応えながら
現場で相談し合い表現方法を決定。
村邉さんが勤務し、撮影業務を行っているのは、旭川市にあるStudio BACU。アニメーション撮影、3DCG制作、VFX(視覚効果)制作を専門とする会社で、2022年だけでも「劇場版 名探偵コナン」(CG制作)、「劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ」(CG制作)、「映画 ざんねんないきもの事典」(撮影)、「映画 すずめの戸締まり」(撮影協力)など数々の制作に参加しており、アニメーション界では知られた存在です。
「アニメーターが作画した素材が届いた時が、私の仕事の始まり。例えば、素材に太陽光を入れて影を作ることでキャラクターと背景をなじませることが一つの役割です」
そのほか、携帯の画面を光らせたり、本のページに文字を貼りこんだり、雪を降らせる、花火を上げる等々、監督・演出家の指示に従ってエフェクトを与えていきます。
「求められるエフェクトに対して、どんな表現で応えるかが私たちの仕事の勝負どころ。現場では『この指示って、こんな感じかな?』などとスタッフ同士で相談し合いながら方向性を決めていきます」
そこで大切になるのは、エフェクトの技術以前にコミュニケーション力なのだそうです。
専門学校の授業で撮影に興味を抱き、
北海道での勤務を希望し現在の会社へ。
アニメ業界で、クリエイティブな仕事をしたい。村邉さんはそう考えて、高校卒業後、アニメーター志望で専門学校に進みました。
「絵を描く仕事を目指していたのですが、専門学校に入学してみると、周囲の画力の高さを痛感。自分には難しいかもしれないと悩み始めたころ、撮影の授業を受けて興味が湧き、この分野へと目が向いたんです」
アニメの仕事といえば、キャラクターや背景を描くアニメーター。アニメ好きの村邉さんでさえ、仕事としてはそれしか知らなかったそうですが、専門学校での学びを通して、描かれた絵をアニメーションとして完成させていく編集という役割に興味を覚えたのだそうです。北海道で活躍したいというのも、就職にあたって村邉さんが大切にしたポイントだったといいます。
「生まれ育ったこの土地で働きたいと専門学校の先生に相談したところ、同じ学校の一つ上の先輩が働いている当社を紹介していただいたというのが入社の経緯です」
採用面接の際、仕事に関する話よりも、趣味や好きな食べ物について聞かれるなど、一緒に働くかもしれない仲間として、自分のことを知ろうとしてくれている雰囲気を強く感じたことも、好印象だったと話します。
大好きだったアニメの撮影が初仕事。
ワクワク感で一気にテンションUP!
入社後は、アニメ制作の基礎知識とともに3DCGソフトやビジュアル・エフェクトなどを作成するソフトの使い方、アニメの動きのタイミング等が書かれたタイムシートの見方などを学ぶ3カ月ほどの座学研修があったそうです。そして、入社1年目から現場に入り、業務がスタート。そのスピード感に驚くと同時に、そこには感激が待っていました。
「初めて携わった仕事が、テレビの子ども向けアニメ『おばけずかん!』(原作/作・斉藤洋、絵・宮本えつよし)。その作品の監督・キャラクターデザインのイワタナオミさんが、私はずっと前から大好きだったので、一気にテンションが上がったのを覚えています」
あこがれの監督と作品のエフェクトについてアイデアを出し合うという作業にワクワクし、夢のある仕事であることを実感できたといいます。『おばけずかん!』のホームページには、スタッフとして村邉さんの名前もあります。
「『君の名は。』、『天気の子』で話題になった新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』にも編集協力で携わらせていただきました。これも、一ファンだった監督の作品だけに、うれしかったですね」
画面が静止状態のアニメーションに、
自然な動きを与える技術を追求したい。
撮影業務で絵にエフェクトを与えることは前述しましたが、光らせるのが得意な人、細かな部分を描くのが上手な人、食べ物をおいしく見せることに長けた人という具合に、担当者によって得意分野や好みがあるのだそうです。
「私が好きなのは、例えば地震や何かが爆発するようなシーンで、カメラが揺れるように画面を揺らしたり、ブレたような効果を与える作業です。画面が静止した状態のアニメの画像に自然な動きを与えるんです」
画面全体を、自分自身がコントロールしているような醍醐味が魅力なのだとか。観ている人に気付かれないような、実写のようにナチュラルな動きを極めていきたいと村邉さん。
「撮影の仕事は、最終工程だけに時間的に厳しくなるケースも発生します。そんな時は遅くなることもありますが、チームで一体となって作業にあたる雰囲気が楽しく、ずっと現場に携わっていきたいと今は考えています」
海外のアクション映画も大好きという村邉さん。映画のシーンもアニメのエフェクトのヒントになっているそうです。素敵だなと感じるアニメの場面があったら、それは村邉さんが手掛けたシーンかもしれません。
シゴトのフカボリ
アニメ撮影(デジタルコンポジタ)の一日
9:00
出勤、朝礼(その日の作業の確認など)
9:15
撮影業務開始
12:00
昼休憩
13:00
撮影業務に関する打ち合わせ。結果をまとめた一覧表などの作成
15:00
撮影業務
18:00
退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
リテイク用のメモ用紙
撮影後、監督などから出る修正の指示(リテイク)を書き込むためのメモ用紙をデスクに常備。裏紙を束ねたものですが、リテイクの内容は絶対に忘れることはできないため、これがないと仕事になりません。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

私は、アニメーター志望から撮影の仕事へと専門学校で変化しましたが、アニメの世界でクリエイティブな仕事がしたいという思いを変わらず持ち続けたことで今、ここで楽しく仕事ができています!

株式会社きしだ Studio BACU

2007年に設立され、「日本最北のCG制作会社」をキャッチコピーに、旭川市を拠点としてアニメーションの撮影・CG映像の制作などを手掛けています。

住所
北海道旭川市2条通13丁目1068番 きしだビル
TEL
0166-76-4820
URL
http://www.studio-bacu.com/

お仕事データ

アニメの完成度を左右!
アニメ撮影
アニメ撮影とは
各部門の素材を合成し、
アニメ作品を完成形へ。

アニメを制作する中で、作画や音声といった各種素材を合成し、特殊加工などを施した後に作品を仕上げるのがアニメ撮影。「撮影」という名がつくもののカメラを使うわけではなく、映像制作ソフトを使用してアニメーションを作ります。仕事内容は大きく分けて「線撮」と「本撮」。「線撮」は色のついていないアニメ原画をはじめ、ダミー素材と呼ばれるものを使って、仮の素材でアニメ撮影を行うことです。「本撮」は実際の素材でテレビや劇場で放映される作品を完成させること。さまざまな部門のスタッフが作成した素材をアニメの形に仕上げるため、クオリティを左右する重要な役割を担っています。

アニメ撮影に向いてる人って?
映像制作や絵に興味があり、
時間・スケジュールの管理が得意な人。

アニメをはじめとする映像制作に対して興味を持っていることは大前提。アニメーターの作画をより良く見せるために加工することも多いため、絵や漫画が好きな人にも素養があるでしょう。また、スケジュール通りに各種素材を集めなければならず、監督やアニメーターなどと作品を仕上げていくことから、コミュニケーション能力も必要です。時間やスケジュールを管理する力も求められます。

アニメ撮影になるためには

アニメ撮影の仕事に必要な資格や学歴は特にありません。ただし、専門のソフトウェアやツールを使いこなすスキルが求められるため、一般的にはアニメ系の専門学校や美術系の大学でデジタル撮影の技術を学び、アニメ制作会社に就職する人が多いようです。未経験からアニメ撮影の仕事を募集している企業もあるため、まずは下積みとして経験を積んだ後にスキルアップする道のりもあります。

ワンポイントアドバイス
アニメは巨大マーケット。
多彩な場面でアニメ撮影のニーズも拡大!

アニメ業界は放映や配信に加え、制作、グッズ販売なども含めると2兆円を超えるともいわれる巨大マーケット。近年では動画配信サービスのニーズも拡大傾向で、オリジナルアニメの制作も増えています。さらに、実写ではなくアニメを活用した「アニメ広告」も注目を集め、海外マーケットも広がりつつある分野です。つまり、アニメ撮影の仕事も、堅調なニーズが見込まれるでしょう。