米野 巧真さん
インタビュー公開日:2023.05.24

空港にいる航空機に動力を送るとは?
一般には知られない仕事への自負心。
3,000メートルの滑走路2本を備え、年間約15万回におよぶ航空機の離発着がある新千歳空港。国内線30路線、国際線9路線を合わせた年間乗降数は、2019年には2,460万人あまりとなり羽田、成田、関西、福岡の各空港に次ぐ国内第5位を誇っています。
「2020年に感染拡大が始まったコロナ禍により、国際線は長らくストップしましたが、国内線は動いていたのと、長期間、待機している多くの航空機の整備にともなう業務も多く、当社の仕事量が極端に減るということはなかったようです」
そう話す米野巧真さんは、まさにその2020年春、エージーピーに入社しました。担当している仕事は、新千歳空港に駐機している航空機に動力を送ること。といっても、空港ビルの窓からも、機上にいたとしても、よほど注意深いか興味のある人でなければ、その姿に目を止めることはないかもしれません。
「そもそも、どんな役割を果たしているかも、一般にはあまり知られていません。でも、『縁の下の力持ち』としての誇りを感じています」
4年目を迎え、仕事への自負が芽生えている様子の米野さんです。
離陸の準備など機内での作業のため、
電力や冷暖房を供給するのが仕事。
米野さんは、同社が創業以来、手がけてきたGPU(Ground Power Unit)を専門に取り扱っています。これは、ひと言で言えば、航空機に必要な電力や空調を賄う設備のこと。
「GPUには、電力会社より送られる電気で電力・冷暖房を駐機場の装置を通して航空機に供給するGPU固定式と、この固定式がない駐機場などにおいて専用の車両を用いて電力、冷暖房を供給するGPU移動式があり、私は後者の移動式を主に担当しています」
と、ここで疑問が湧いてきます。航空機には、飛行するために使う強力なエンジンがついています。それなのに、どうして外から電力・冷暖房を送らなくてはいけないのでしょうか。米野さん、心なしか、ニヤリとします。
「飛行するためのジェットエンジンは、駐機が完了するとストップさせます。すると、機内の電力も空調も止まるので、清掃をはじめ次の離陸の準備などができなくなります。そこで、外から供給するわけです」
駐機中の動力供給を行う補助エンジンも積んでいるそうですが、燃料コストが割高なことと、環境問題への配慮から、現在は米野さんが扱うGPUが主力になっているのだそうです。
機内清掃のバイトの際に気になった、
駐機場で行われている興味深い作業。
高校の機械科を卒業し、航空関連の専門学校に進学した米野さん。小さいころから乗り物が好きで、機械にも興味があったそうですが、道外にいる親戚を訪ねて飛行機に乗る機会が多かったこともあり、高校時代から航空機関連の仕事を目指すようになりました。
「最初は、着陸した航空機を誘導するマーシャラーに憧れていました。空港関連の仕事を経験してみたくて、学生時代に機内清掃のアルバイトをしましたが、そこで、駐機場ではマーシャラーのほかにもさまざまな作業が行われていることに気づき、どんな仕事だろうと関心を持つようになったんです」
駐機している航空機の間近で働きたいという思いを抱きながら就職活動を行うなかで出会ったのがエージーピーでした。会社説明を聞くなかで、アルバイトの際に目についた仕事の一端がわかり、興味が湧いたのだそうです。
「地元の北海道で仕事がしたいという希望をもっていたなか、当社では、転勤のない『エリア職』という働き方を選ぶことができるのも魅力に感じました」
発電機などの故障を突き止める先輩。
同様のスキルを持つ技術者を目指す。
エンジンと発電機を搭載した専用車両に乗り込み、航空機のすぐ近くまで行って機体に動力を供給することが米野さんの仕事です。
「多くの航空機の消費電力は90kVA(キロボルトアンペア)ですが、新しいエアバス機には180kVAと倍の電力が必要な機体もあります。羽田空港など大きな空港では、これに対応するGPU固定式の施設が整っていますが、新千歳空港は90kVAが主流なので、こうしたエアバス機に対しても電源車で対応しているんです」
なんだか専門的な話になってきましたが……ともかく、米野さんの仕事がなければ、新千歳空港に到着した航空機の身動きが取れなくなってしまうことは間違いなさそうです。発電機やそれを動かすエンジンに不調が起きても大変。そのため、日々の点検が欠かせません。
「車両に触っているのが好きなので、点検整備は楽しい業務ですが、発電機などが運転中に突然不調になった場合などは配線図を見て故障箇所を見つける必要があり、その点ではまだまだ、経験不足を痛感することもあります」
とっさに原因と対策が閃く先輩のような技術者になることが今の目標なのだそうです。
飛行機のエンジン始動を行う車両も。
あらゆる機材の知識を身に付けたい。
冷暖房の供給にも専用車両を使いますが、機体の中心近くにある供給孔から冷房・暖房を送り込むには、パッセンジャーボーディングブリッジ(PBB)と機体の間の狭い隙間に車両を設置する必要があります。
「万が一、車両が機体に当たってしまうと、規定上その航空機は飛ぶことができなくなります。緊張しますし、経験が必要になる仕事です」
車両にはほかに、航空機のエンジンを始動させるために高圧の空気を送り込んで航空機のエンジンを始動させるASU(エアースターターユニット)を積んだものもあります。
「自分が大きな航空機のエンジンをかけ、その飛行機が飛び立っていくのを見ると、達成感とやりがいを感じますね。最初は、轟音を立てるエンジンの直近から車両を引きあげる時に怖さも感じましたが、今は『僕らがいなければ、この飛行機は飛ばなかったんだ!』という自負があります」
専用車両の整備をはじめ、勉強することに喜びを感じると話す米野さん。幅広い知識を身に付け、どんな機材にも対応できるようになりたいと、ますます興味津々といったふうに車両を見つめる姿が印象的でした。
シゴトのフカボリ
空港地上技術者の一日
6:00
出勤、一日のスケジュールの確認
8:00
着陸してくる航空機のもとへ、車両で駆けつけて電力、冷暖房を供給
11:00
昼休憩
12:00
電力、冷暖房の供給のほか、合間に車両の点検などを実施
14:00
作業終了、退勤
*上記は、早番勤務のスケジュールの一例です。
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
テスター
発電機やそれを動かすエンジンに不調が出ている場合、どこまで、どの回路まで電気がきているかを調べ、該当箇所を探し出すために必須の道具です。これがないと、仕事になりません!
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

高校時代、私は勉強が嫌いでしたが、今は学ぶことが楽しくて。機材の勉強をすればすぐに現場で活かせますし、興味のあることなので自然に覚えられます。社会に出てから学ぶことの面白さをぜひ、知ってほしいですね。

株式会社エージーピー

航空機に電力、冷暖房を供給する事業で1965年に創業。新千歳空港から那覇空港まで全国10空港において、航空輸送を支える事業を展開しています。

住所
北海道千歳市美々 新千歳空港内
TEL
0123-46-5858
URL
https://www.agpgroup.co.jp/

お仕事データ

安全な空の旅を下支え!
空港技術スタッフ
空港技術スタッフとは
旅客や貨物の安全な輸送を
下支えする専門職。

空港技術スタッフは、航空機や関連施設の保守や点検、修理などを行い、安全な空の旅と円滑な航空運営を確保する仕事。具体的には、航空機のメンテナンスや部品交換をしたり、通信設備の管理やアップデートをしたり、航空管制システムを運用・保守するなど、さまざまな職種が旅客や貨物の安全な輸送を下支えしています。航空機を誘導するグランドハンドリングやパイロットに運行航路などを伝えるディスパッチャー(運行管理者)もその一つ。ニッチなところでは、航空機に動力や冷暖房を供給する仕事もあります。こうした専門性の高いチームによって、一つひとつのフライトが支えられているのです。

空港技術スタッフに向いてる人って?
綿密に作業計画を立て、
責任感を持って堅実に仕事ができる人。

航空機や空港、関連施設に興味を持っていることが大前提。飛行機のフライトは、安全性が最優先されるため、綿密な作業計画を立て、正確に作業を行うことが好きな人には向いているでしょう。複数の専門職が関わる場面が多いため、協調性とチームワークを大切にすることが重要です。航空安全に関わる重要な役割を担うため、堅実な仕事ぶりと責任感を持つことも求められます。

空港技術スタッフになるためには

空港技術スタッフになるためには、航空系の専門学校に進む他、短大・大学で機械工学や電気工学、情報工学、航空工学などを学ぶのが近道。職種によって必要となる資格は異なりますが、例えば航空整備士を目指す場合は航空整備会社などで経験を積んだ後、「一等航空整備士」「二等航空整備士」といった国家資格に合格しなければなりません。空港技術スタッフの中で、なりたい仕事を決めた際には必要とされる学歴や資格を詳しくチェックしてみましょう。

ワンポイントアドバイス
グローバルなフィールドでも、
キャリアチャンスをつかめる分野。

航空業界は国境を越えたグローバルなフィールドが広がっている分野。空港技術スタッフは国内外の航空会社やメンテナンス企業で求められており、国際的なキャリアチャンスもつかめる可能性があります。世界中の人々から航空需要が絶えず、さらに新たな航空機の開発や既存機の更新・改修ニーズも安定的なため、今後も不可欠な存在として活躍できるはずです。