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相川  太史さん
インタビュー公開日:2023.07.24

生保ビジネスに取り組みながらも
頭の片隅には常に家業が。
「こんにちは」快活な声と朗らかな笑顔で取材班を迎えてくれたのは、相川太史さん。札幌で90年以上、野菜の卸や小売に取り組む「相川商店」の四代目。名刺のお名前の上には常務取締役という肩書も記されています。
「とはいっても入社したのは2年前。実は社歴は浅いんです」
まずは相川さんの入社までの経緯を紐解いてみましょう。札幌の高校卒業後、早稲田大学へ。選んだのは商学部でした。
「父親である社長から、家業を継いでほしいと言われたことはありませんでした。ただ息子は僕一人。頭の片隅に、いつかは後継者になるのだろうという思いはありました。ならば商学を学んでみようと考えたんです」
結局就活時期になっても社長からの家業に関するメッセージはなし。相川さんは大手の生命保険会社に就職します。
「企画の部署に5年ほど勤務しました。ビジネスマナーから商談や折衝のノウハウ、社内システム構築、組織の運営まで幅広い経験と技能を得られた、貴重な時間となりました」
順風満帆な企業人生活。やりがいも日増しに大きく膨らんでいましたが、そんな折、社長が体調を崩したとの連絡が入ります。
「幸い大事には至りませんでしたが、父がそういう年齢になったことを痛感しました。父や家族のため、従業員を守るため、相川商店の看板を次代に継ぐためにも自分が一肌脱ぐべきではないかと考え、父に跡を継がせてほしいとお願いしたんです」
青果卸のABCから最新小売事情まで
学びに徹した3年間を経て。
その後相川さんは生命保険会社を退職しましたが、すぐに相川商店に入社せず、そこから二つの「職場」を経験します。
「一つは、父が若い頃修行を積ませて頂いた築地市場にある老舗の仲卸です。実家が青果卸とは言っても野菜の知識は限りなくゼロ。なので、仕入れや客先への運搬を担当しながら、野菜の種類や特徴、市場のしくみ、産地の情報、食卓に至る流通の構造など、2年に渡り青果ビジネスの基礎を教えていただきました」
もう一社は野菜の小売に取り組む都内のベンチャー企業。
「もう一歩消費者に近い、いわゆる八百屋の経営ノウハウを習得させていただこうと。さらに産地とのパイプの作り方、規格外野菜に価値を生み出すアイデアなどを学ぶこともできました」
この企業での貴重な経験が、札幌に戻った相川さんに素晴らしい”ひらめき”をもたらすのですが… それは後の話。この合計約3年に及ぶ修行時代を経て、相川さんが父親が経営する会社の社員となったのは、2021年6月のこと。
「コロナによる自粛のど真ん中、会社の業績も急降下していました。とはいえ、焦っても仕方ない。こんな時期だからこそ、企業の現状を知り、課題を改善に取り組もうと決めました」
ここから相川さんの手による「相川商店大改造計画」が幕を開けるわけです。
ペンと紙と受話器が欠かせなかった
職場をフルチェンジ。
長い歴史を持つ青果卸。相川商店も一世紀近く地域の食卓を支えてきましたが、その一方、長い歳月を経てきたからこその課題も抱えていました。
「その最たるものが、業務環境の古さです。市場や客先からの連絡は電話か手書きのファックス。聞き間違い、書き間違いが頻発し、小さなトラブルなら日常茶飯事。事務所内には束ねた紙が山積し、棚やダンボールから古い書類があふれていました」
ネット注文を受けても、受注データを一度プリントしてスタッフに渡し、手打ちで入力するという回り道。職場の至る所で「昔からのやり方」が踏襲され、大量のムリとムダを生み出す前世代的な環境が生まれていたのです。
「事務スタッフが毎日のように残業をしていたため、そのコストも企業経営を圧迫していました」
さらに客先を回る配送ルート、人員の配置、連絡系統なども旧態依然としたまま。相川さんは、こういった課題を社員から聞き取り、メモに書き出し、その一つ一つを解消していくという地道な作業に取り組みます。
「PCによる社内受発注システムを構築し、連絡ツールとしてLINEを導入しました。注文サイトも使い勝手と利便性を高め、伝票類は自動入力、仕入れや支出も随時表示されるようになりました」
紙とペンが果たしていた役割はキーボードに、電話の呼び出し音はメールの受信音に変わり、あふれていた紙の束は一つまた一つと消えていきました。
「PCや社員の持つモバイルにはGoogleツールが標準装備。配送ルートもシフトも超効率的になりましたね」
適材適所の人員配置も進み、社内のコミュニケーションも活発になりました。一年前とはまるで違う会社になったかのよう。
「新卒入社した企業での経験があったからこそでしょうね。上からではなく、同じ目線で丁寧に指導する…というノウハウも東京時代に身につけたものでした」
現代感覚を持つ青果卸、
次世代感覚を持つ八百屋へ。

多彩な社内改革に取り組んだ相川さんでしたが、まだまだ道半ば。取り組むべき課題は山積しています。

「次は外に向けた改革です。弊社の顧客である飲食店、学校、ホテル、病院などからのルーチンな発注を待つだけでなく、『今日の特売』『限定仕入れ』など、LINEを活用したリアルタイムの情報発信をスタートしました」
さらにFacebookやInstagramを通じ、道内農家から仕入れた超新鮮な野菜、首都圏で注目を集める人気商材などを画像付きで紹介することで、新規客が右肩上がりで増加。それを目にした著名レストランとのビジネスが始まったり、メディアからの取材も舞い込んだり。倍々ゲームのようにオーダーが増えていきます。
次いで相川さんは小売にも挑戦。再開発で真新しくなった札幌苗穂駅隣接のビルに八百屋をオープンさせます。
「売上の回復や消費者動向を知ることも目的ですが、それ以前に、お客様と直に接したかったというのが最大の理由。おいしいの声、また来ますの笑顔は、最高のモチベーションに繋がりますからね」
今風の店舗デザイン、品のいいレイアウト、センスを感じさせる商材選び。取材に訪れた日もお店にはお客様がひっきりなしでした。さらに店舗の奥には…
「ケーキショップを作りました。定番スイーツ、人気のケーキのほか、売れ残った野菜や果実を原料にしたスイーツも提供することにしました。実はこのアイデア、東京のベンチャー企業で得た経験をもとにしているんです」
大手生保企業、首都圏の市場、小売店… 相川さんは大学卒業後に勤務した3つの職場で、「学んだ」「働いた」だけでなく、そこでの経験をアイデアや工夫に変えて、相川商店にフィードバックしているということ。現代感覚を持つ青果卸、次世代感覚を持つ八百屋の舞台裏には、相川さんの明晰な頭脳があるというわけです。
美味しい野菜を届ける
面白い仕事…を伝えたい。
現在の相川さんの仕事は、東京や札幌の市場との信頼のパイプを活用した青果の仕入れのほか、苗穂の店舗の運営、SNSを介した情報発信、各種メディア対応など。頭だけでなく、体もフル回転の日々です。
「この数年で業務環境やビジネススタイルは大きく変わりましたが、質のいい商品を見定め速やかにお客様に提供するという根っこの部分は、創業の時代から何ら変わっていません。仕入れの目利きに関しても、まだまだ父の領域には達していない気がします」
そんな相川さんが今取り組みたいこと。それは次代の青果卸、八百屋を担う人材の育成です。
「昔ながらの商売と思われがちですが、新しい野菜が研究開発されたりベンチャー企業が参入したりと、業界は日進月歩の変わりよう。弊社に関しても労働条件を見直したり、オシャレなショップ展開したり、ユニークなイベントを開催したり、こだわりの生産者と新進気鋭の飲食店オーナーを食材で繋いだりと、毎日がドラマの連続です」
つい先日も先を見越して大量に仕入れた食材があっという間に完売…という、この仕事ならではのやりがいを堪能したばかりだとか。
「このワクワク感、充実感を若い人たちに伝え、この会社を、ひいては業界全体を活性化したいんです」
仕事について語る相川さんは本当に楽しそう。未来の八百屋ビジネスを担う若者が、この記事を目にしてくれますように!
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

どんな職業に就くにしてもどんな仕事に取り組むにしても基本となるのは「健康な体」です。
健やかなカラダを作るのに欠かせないのは野菜!
おいしい野菜をたくさん食べて、いい仕事(八百屋さんとか笑)してください!

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
セリ帽
市場の青果のセリに参加する際に必要な証明書のようなもの。プレートにはその八百屋さんの番号が記されています。

お仕事データ

おいしい野菜や果物を販売!
八百屋
八百屋とは
新鮮な野菜や果物を仕入れ、
地域の食生活をサポート。

新鮮な野菜や果物を販売するのが八百屋。まず、市場や卸売業者から品質の高い青果物を仕入れ、地域やお客様のニーズに合わせて在庫を確保します。野菜や果物をキレイに陳列し、鮮度や種類を顧客にアピールするのも重要な仕事。季節に応じて品ぞろえを変え、珍しい野菜や果物を積極的に取り入れることで、常に新しい商品があるという新鮮さをアピールするのも大切です。八百屋は単に青果物を販売するだけではなく、野菜の品種による味わいの違いを伝えたり、おいしい調理法を教えたりするなど、親切なサービスによって地域の人々の食生活をサポートすることも求められます。

八百屋に向いてる人って?
食の最新情報を常に吸収し、
積極的にコミュニケーションが取れる人。

「食」に対する情熱を持っていることが大前提。食材の種類や旬、保存方法などに興味を持ち、常に最新の情報を追求することが重要です。八百屋では親切で丁寧な対応が重要な役割を果たすため、お客様とのコミュニケーションを積極的に取れる人が向いています。また、重い箱や荷物を運ぶこともあり、立ち仕事も多いため、ある程度の体力と持久力も求められるでしょう。野菜や果物の鮮度や衛生面に細心の注意を払い、商品に気を配る細やかさも大切です。

八百屋になるためには

八百屋として働くために必要となる資格や学歴はありません。一般的には、高校卒業後に食品の種類、鮮度の判断方法、保存方法などについて学べる専門学校・短大・大学に進み、八百屋を運営する会社に就職するケースが多いでしょう。八百屋の仕事は実践的な経験が重要。食品小売店や農産物市場などでアルバイトやインターンシップを行うことで、就職後に有利に働くこともあります。また、実務経験を積んだ後、独立開業することも可能です。

ワンポイントアドバイス
地産地消やネット販売など、
まだまだポテンシャルを秘めている業態!

八百屋は地域の農産物や果物を販売することが多く、地域資源の活用という点でも注目度が高まっています。地元の農家との協力関係を築き、地産地消を促進することで、地域活性化に敏感なファンを獲得することも可能。オンライン販売やアプリを通じて野菜や果物を提供する店舗も増加中。これまで対面販売を主としてきた業態だからこそ、インターネットを通じた顧客層の拡大など、マーケティングの面でもポテンシャルを秘めています。