梅原 瑞月さん
インタビュー公開日:2024.03.15

鉄を加工して様々な製品を
作り出すのが鉄工所
「鉄工所で働く」と聞いて皆さんはどんな仕事を想像するでしょう?
正しくは、鉄を切る、曲げる、溶接するなどの加工を施して様々な製品を作る仕事のことですが、文字のイメージから「鉄を作る仕事」と誤解する人が少なくないようです。
私たちの周りには鉄を使った製品が無数にあります。文房具に使われていたり、アクセサリーの一部になっていたり。電化製品や自動車、建物にも多く使われ、鉄がなければ私たちの暮らしは成り立たないと言っても過言ではありません。ちなみに“鉄を作る仕事”は製鉄業と言い、製鉄所で作られた鉄を加工するのが鉄工所の仕事です。
今回お話を伺った梅原瑞月さんが働くのは、旭川市の隣町、鷹栖町にある松田鉄工株式会社という鉄工所。ビルや商業施設の骨組みとなる「鉄骨」の製造を主に手がけ、同社で作られる鉄骨は旭川駅や旭川市役所など、旭川エリアなら誰もが知る建物に数多く使われています。
仕事内容は深く理解せず
松田鉄工に入社。
梅原さんが松田鉄工について知ったのは高校3年生の時。高校で開催された会社説明会に参加し、卒業生が働いていると聞いて興味を持ちました。
「鉄工所と聞いた時は僕自身も『鉄を作る会社?』と思ったくらい、会社のことも仕事のこともまったく知りませんでした。説明を聞いて大変そうな仕事だとは思ったんですが、先輩がいるなら可愛がってもらえるんじゃないか…と安易に考えて。勉強は好きじゃなかったので進学するつもりはなく、とにかく早く就職したいという気持ちが強かったんです。正直、あまり深く考えずに当社を選びました(笑)」
当時、梅原さんの頭にあったのは、就職して、お金を稼いで、免許をとって、車を買うことだけ。どんな仕事をするかは二の次だったと懐かしそうに笑います。
想像とのギャップに苦悩し
入社数ヶ月で一度退職…
入社後は会社や工場を案内され、どんな製品を作っているかを説明された梅原さん。巨大な鉄骨、飛び散る火花。想像以上の迫力に圧倒されたと振り返ります。
「なんだかスゴイところに来たな、というのが第一印象でしたね。大きな機械があちこちにあって、クレーンが行ったり来たりしていて。自分はここでやっていけるのかと、やや不安な気持ちになりました。何日か掛けて会社について説明を受けた後、最初に教わったのはアーク溶接という技術でした」
アーク溶接とは電極に電圧をかけてアークを発生させ、その熱で金属を溶かしつける溶接技法のひとつ。
「ただ説明を受けた当時は、なぜそれで鉄同士がくっつくのかまったく理解できず…。しかも、溶接は熱いし、言われたとおりにやってもうまくいかないし、正直、全然楽しくないと思ってしまって(苦笑)」
実は梅原さんは、入社から数ヶ月で松田鉄工を一度退職しています。「想像とのギャップに耐えかねて...」というのが、その理由。しかし、周囲の勧めもあり翌年には復職。それからどのような道を歩んできたのでしょう?
自身の成長を感じられたことが
次を目指すモチベーションに
「当社の場合、溶接を覚えた新人が最初に任されるのは、鉄の部品を組み立てる際の『仮止め』なんです。新人が仮止めした部分を、先輩がきちんと溶接していきます。仮止めと言っても簡単ではないし、なかなか上達はしないんですが、ある時先輩が、僕が溶接した部分を指して『この溶接、上手だね。誰がやったの?』って言ってくれたんです。それが本当に嬉しくて(笑)」
先輩の言葉を聞いて、自分が気づかないうちに上達していたことを知った梅原さん。それからもっと技術を高めたいという思いが強くなり、工場にある端材(鉄骨を切断し不要になった部分)を拾ってきては溶接の練習を繰り返しました。
「溶接って、上手な人がやると、くっつけた部分がキレイになめらかに仕上がります。でも下手な人がやると、デコボコして見た目も悪い。誰が見ても一目瞭然なんです。だからこそ、もっとキレイに溶接できるようになりたいと思いながら練習していました」
その後は半自動溶接という技術も習得し、仮止めではない、本溶接を手がけるようになった梅原さん。現在はさらにステップアップして、加工図面を見ながら溶接する箇所をスタッフに指示する「ケガキ」という工程を担当しています。
「ケガキは『この部材を、この鉄骨のこの場所に溶接する』という目印を付けていく仕事です。とは言え、ただ印をつけるだけでなく、工場全体を見て、どういう順番で作業を進めるかも考えなければなりません。先輩を見ていると自分はまだまだだと思う部分が多く、もっと段取りが上手にできるようになることが今後の目標です」
汗だくになって働くからこそ
得られる充実感がある
今年で入社12年目という梅原さんに、改めて仕事の魅力ややりがいを聞いてみました。
「一つ一つ技術を身に付けて、自分が成長している実感があるところが、この仕事のやりがいだと思います。専門職なので、技術がなければ仕事にはなりません。けど、逆に技術があれば必要とされて、仕事を任せてもらえます。人の役に立つのは嬉しいし、それがモチベーションになってまた新しいことを覚えようという気持ちにもなるんです」
「もちろん、大変な仕事なのは間違いないと思います。特に夏の工場はもの凄く暑くて、汗だくになって仕事をする毎日。でもそれだけに、家に帰って風呂に入り、ビールを飲んだときの爽快感はなんとも言えないものがありますね(笑)」
松田鉄工は旭川エリアの鉄工所の中では若いスタッフが多く、コミュニケーションも活発。明るい雰囲気も会社の魅力だと言います。
「若い人が増えたのは働きやすい環境が整ってきたからだと思います。今は基本、土日祝休みだし、残業も少なめ。家族との時間もしっかり確保することができます」
シゴトのフカボリ
溶接・加工スタッフの一日
7:20
出勤
7:50
朝礼
8:00
打ち合わせの後、作業開始
10:00
休憩をはさんで作業
12:00
昼休み
13:00
作業
15:00
休憩をはさんで作業
17:30
退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
ケガキ用チョーク
図面をもとに加工する位置に印を付けていくのが「ケガキ」という作業。
写真にある「仮OK」とは、「ケガキが終わったので、仮止め作業に進んでOK」ということを意味しています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

技術を身に付けて必要とされる——。そのためには分からないことを自分から聞くしかありません。間違ったり、失敗することもあるけど、まずは行動することが大事!

お仕事データ

金属を溶かして接合!
溶接工
溶接工とは
多彩な溶接技術を駆使し、
材料をくっつけるエキスパート!

金属などの素材を溶かして接合させるのが溶接工の仕事。その手法は電気や火の熱を使って金属を溶かす「融接」、機械を使ってプレスする「圧接」、金属や合板を使って材料をくっつける「ろう接」の3種に大きく分けられます。さらに、材料によって「アーク溶接」、「TIG(ティグ)溶接」、「サブマージドアーク溶接」、「スポット溶接」などさまざまな溶接技術を駆使。図面を見ながら金属を切断したり、溶接後に材料を磨いてキレイに整えたりするのも仕事のうちです。十分な強度があって見た目も美しい溶接加工をするためには高い技術が必要。溶接工は素材を接合するエキスパートといえます。

溶接工に向いてる人って?
ものづくりが好きで、
体力に自信がある人!

溶接工は、自らの手で素材をつなぎ合わせて新しい部材をつくるため、ものづくりが好きな人が向いているでしょう。溶接の際には火や電気、圧力、ガスなどを取り扱い、しかも美しく仕上げていかなければならないため、慎重な性格も求められます。また、仕事中は立ちっぱなしだったり、かがんだ姿勢をキープしたり、重い金属を運ぶこともあるため、体力に自信があることも素養の一つです。

溶接工になるためには

溶接工になるために特別に必要な資格や学歴はありません。ただし、専門性の高い技術職であることから、一般には公共の職業訓練校を卒業するケースが多いようです。一部の大学や専門学校では溶接工の養成コースを設置しているところもあります。企業によっては資格を求めることもあるため、「ガス溶接」や「アーク溶接」などを取得しておくとより良いでしょう。

※「ガス溶接」や「アーク溶接」の資格については、詳しくは一般社団法人日本溶接協会のホームページをご確認ください。http://www.jwes.or.jp/

ワンポイントアドバイス
ロボット化が進んでも、
溶接工は重宝される仕事!

大規模な工場では溶接ロボットを使う企業も増えています。とはいえ、機械化されているのは単純作業で、仕上げや細かい加工は溶接工が担当しているケースが多いようです。今後、あらゆる製造業でロボットが作業できる範囲は広がると見込まれていますが、こと溶接工に関しては、材料の知識を生かした加工やセンスが必要な美しい仕上げなど、経験を積み重ねた職人にしかできない仕事があります。将来的にもこの職業は重宝されると考えて良いでしょう。