伊藤 夢生さん
インタビュー公開日:2024.03.15

幼い頃から「ものづくりがしたい」
運命的に出会った一枚の求人票。
左官工という仕事を知っていますか? 左官工とは建築現場で、土やモルタル、漆喰などを塗って壁や床を仕上げたり、タイルやクロスなどを貼るための下地をつくる専門職のこと。左官という職名は、平安時代にその道の専門職人に与えられた官位がもとになっており、日本の伝統的な仕事の一つということができます。
…そんな説明を聞くと、ベテランの男性をイメージしてしまいそうですが、今回お話を伺ったのは24歳の若い女性。ハツラツとした笑顔が印象的な伊藤夢生さんです。
まずはこの職業に就こうと思ったいきさつから。
「小さい頃から『つくる』ことが好き。幼稚園の時のドロだんごから始まり、木工クラフト、料理、ラジオの組み立て、陶芸などなど、いろんな『つくる』に挑戦していたんです」やがて高校の最終年。この性格を活かしたものづくりの仕事に就きたい…そう思っていた矢先に目に飛び込んできたのが、菊地工業の求人票。貼り出されたその紙をよく見ると、そこには左官工の文字が。
「以前テレビで左官工の方の仕事ぶりを見たことがあったんです。壁や床を仕上げる、まさにものづくりの仕事。瞬間的に『やってみたい』って思いました」
入社後に会社の支援で訓練校へ。
即戦力となる技術を習得。
求人票を目にした数日後、伊藤さんは菊地工業の面接に臨みました。
「歴史や実績のある会社であること、20名の左官工が勤務していること、若い世代が多く女性の左官工もいること、教育や指導にしっかり取り組んでることなどを聞かせてもらいました。この仕事のやりがいを楽しそうに話す社長の人柄にも惹かれ、ぜひ働かせてくださいとお願いしたんです」
卒業と同時に、菊地工業に入社。先輩について現場経験を積む一方、左官工の知識や実技を学ぶためにひと月に1〜2回のペースで、一年間訓練校に通いました。
「高校の勉強はあまり楽しくなかったけれど、訓練校での知識はそのまま仕事に役立ちますからね。建築の基礎を覚えたり、実際にコテの使い方を教わったりと、どの授業もとても楽しかったです」
中でも印象的だったのはモルタルを作るときの材料と水の関係。水分を多くするとコテ作業がしやすくなるけれど、仕上がりがイマイチ。逆に水が少ないと練りもコテ作業も難しくなるけれど、仕上がりが奇麗になる…
「左官材料は現場によって様々。その状況に応じた材料の配合を探求していくのも左官工の大切な役割なんです」
一軒家から巨大複合施設まで、
様々な現場で経験を積み上げて。
では伊藤さんの最初の仕事はどんなものだったのでしょう。
「初めての現場は一般住宅の床の補修工事でした。古いカーペットをはがし、モルタル補修剤を使ってコンクリート床の凹凸を調整していくというもの。左官と聞くと壁を塗るイメージですが、床の補修にも取り組むんです。
「学校でも訓練を受けましたし、先輩たちも指導してくれたので、何とか一人で作業を終えることが出来ました。ただ手作業なので仕上がりは、先輩たちのレベルには全然達していません。上手になるためには、日々経験を重ねるしかないんです」
その後も、マンションや倉庫の壁のモルタル塗り、ショップやテナントビルの壁の珪藻土塗り、物流施設の床のコンクリート仕上げなど、伊藤さんはさまざまな現場を経験していきます。
「白老のウポポイ、ススキノのココノといった大きな現場にも出向きました。大工さんから内装屋さん、電気設備の会社など様々な専門職の方と知り合ったり、作業に関する情報交換することも。刺激的でしたし視野も大きく広がった気がします」
若い女性にとっても身近な職業に。
注目を集める左官工の仕事。
ところで、社内には昔かたぎの怖いベテランさんとか、いないの?
「全然いません。(笑)このあいだも接着剤を床にぶちまける、というとんでもない失敗をしてしまったのですが、先輩たちは怒るどころか「大丈夫?」「ケガしなかったか?」と、私の体を心配をしてくれました。何度同じことを聞いても嫌な顔一つせず、丁寧に答えてくれますし、私や若手の仕事ぶりも遠くから優しく見守ってくれます」(このインタビューの間も菊地代表は、我が子を見るような目で伊藤さんを見守っていました)
業界内にそんな企業が増えてきたから、ということもあるのでしょう、最近は伊藤さんのように左官工を目指す女性が増える一方だとか。
「左官工として活躍する女性の話がネットで紹介されたり、YouTubeなどの動画で左官のコテさばきが掲載されたりと、この仕事が若い女性にも身近な存在になったからじゃないでしょうか。職場見学をできる会社も多いですし、女性の左官が応対してくれるケースも増えているみたいです」
さらに数ある建築業界の仕事の中でも、クリエイティブ性が求められることも要因の一つ。一流の左官工が仕上げたアート感あふれる壁模様が、若い女性の心を掴むのもうなずけるような気がします。
先輩たちの技術を真似ながら
作品と呼ばれる壁を造りたい。
すでに左官技能士1級の資格も取得している伊藤さん。今後の夢を伺ってみました。
「まずは先輩たちのような高度な技術を身に付けたいです。コテを、まるで自分の手先のように使いながら、美しい壁を作り上げていく様子は、まさに芸術です」
コテの種類、材料のすくい方、壁に対するコテの角度、腕の使い方…先輩の動きを穴があくほど見つめる伊藤さんですが、「その域に到達するのはまだまだ先です」と苦笑いです。
伊藤さんのもう一つの夢は、いつか漆喰(しっくい)に挑戦すること。ちなみに漆喰とは「城や武家屋敷の壁」に使われてきた素材。優れた調湿機能などが着目され、最近は室内壁としても注目を浴びています。
「左官工の中には、漆喰などの材料を専門的に扱う方もいます。一般建築の左官だけでなく、こういったデザイン性が求められる分野の左官にも挑戦したいです」
自分が左官で携わった建物を見るのが、伊藤さんのやりがいでありモチベーションのもとだとか。
「あのオシャレなビルの漆喰、実は私の作品なんです…なんていえたらいいな(笑)」
シゴトのフカボリ
左官工の一日
7:00
出勤、社内打ち合わせ
8:00
チームで現場へ、左官作業開始
10:00
休憩
10:30
作業再開
12:00
お弁当タイム
13:00
左官作業開始
15:00
休憩
15:30
作業再開
17:00
本日の作業終了
17:30
退勤

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

左官工の相棒「コテ」
漆喰や珪藻土、モルタルなどの材料を壁や床に塗るための道具。平たい鋼の板に持ち手がついたもの。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

全く知らない世界だったけれど
教えてもらったり、経験することで
左官という仕事が好きになりました。
自分の「好き」を探すためには
何かを「始める」のが大切。
一歩踏み出す勇気をあなたも!

丸敏菊地工業株式会社

様々な材料・技法で、床・壁・天井などに意匠性の高い左官仕上げを施しています。技術力の高さは業界でも評判。若いスタッフが多いことでも知られています。

住所
北海道札幌市北区北30条西5丁目2番28号
TEL
011-726-2591
URL
https://marutoshikikuchikogyo.com/

お仕事データ

建物の居住空間を快適に
内装工
内装工とは
壁や床、天井など、
建物内部を美しく装う!

建物の居住空間を快適に仕上げるのが内装工の仕事。とはいえ、「内装」と一口に言っても、建物の枠組みにボードを建てつけて壁を作る内装下地の作業から、壁紙の貼り付けや壁面の塗装まで幅広い分野があります。そのため、各専門職が分業して仕上げまでの一連の作業を担うのが一般的。例えば壁に使用する下地をつくる「鋼製下地組立工」、木製や鋼製の下地にボードや合版を張る「ボード張り工」、壁紙を天井や壁面に貼る「壁装工」、コテを使い壁面などに壁材を塗り仕上げる「左官工」、床材の張り付けから塗装などを担当する「床仕上工」などが挙げられます。内装工の仕事は見栄えにも直結することから、技術の良し悪しが、建物の完成度を左右するとも言えるでしょう。

内装工に向いてる人って?
一つひとつの作業に責任を持ち、
デザインやセンスを磨き続けられる人。

内装工は建物の仕上がりを左右する仕事のため、一つのミスや手抜きが見た目の違和感に大きな影響を与えてしまうシビアな一面もあります。室内空間を美しく機能的に手がけるためには、使う人のことを想像しながら一つひとつの作業と向き合う責任感が必要です。また、デザインやセンスを磨き続ける勉強熱心な姿勢も求められるでしょう。体を動かすことが多い仕事なので、体力に自信がある人も向いています。

ワンポイントアドバイス
キャリアアップには、
「内装仕上げ施工技能士」!

内装工としてキャリアアップを目指す場合、国家資格「内装仕上げ施工技能士」の取得がオススメです。試験は共通科目の学科試験と、「プラスチック系床仕上げ工事作業」「鋼製下地工事作業」「ボード仕上げ工事作業」などから選ぶ実技に分かれ、それぞれ1級、2級、3級と難易度で区分けされています。この資格を取得することは内装工の技術の証となり、仕事の幅を広げていくためにも役立つでしょう。