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赤坂 有香さん
インタビュー公開日:2024.07.11

生まれつき障がいを持つトラ
「ココア」を育てる動物園。
みなさんは「タイガ」と「ココア」というトラをご存知でしょうか。2匹は2008年、釧路市動物園で誕生したアムールトラで、仮死状態で生まれ、障がいも持っていました。しかし、当時の飼育係や獣医師、そして力強く生きる姿を見て心を打たれた全国のファンからの支援によって懸命な治療と飼育が行われます。その後、オスの「タイガ」は1歳で天国へと旅立ってしまいましたが、メスの「ココア」は障がいを乗り越え、自立歩行ができるまでに成長しました。
「今年で16歳、人間で言うとおばあちゃんの年齢ですが、今でも力強く生きる姿に勇気をもらえたと、毎年たくさんのお手紙を頂けるんですよ」と解説してくれたのは赤坂有香さん。現在「ココア」をはじめトラとライオンのお世話をしている飼育員です。
「地元の方はもちろん、全国のみなさんがココアを応援してくれたおかげで、ここまで立派に育ってくれました。人の愛情をたくさん受けてきたからなのか、人が大好きな子で、とってもやさしい目をしているんです。言葉は通じませんが、この目を見ると彼女が何を考えているのか、わかることがあるんです」
幼少期からの動物好き。
願いが通じて飼育員に!
おっとりとした見た目とは裏腹に、自他共に認める「猛獣好き」だという赤坂さん。動物は「大きければ大きいほど可愛い」と笑います。どんな歩みを経て飼育員になったのでしょうか?
ご出身は釧路市。ご実家では幼い頃から3匹の大型犬を飼っていたそうで、その「大きなお腹」に抱きつくのがとても心地よかったのだとか。中学生の時、授業の一環で釧路市動物園を訪れ、飼育を体験したことで飼育員になる決意を固め、高校卒業後は恵庭市の動物専門学校へと進みます。
「進路は畜産や獣医師系の大学という選択肢もありましたが、学術的ではなく実践的に飼育のノウハウを学びたかったんです。卒業後もすぐに地元の釧路市動物園で働きたいという希望がありました」
とはいえ同園は市営であるため、釧路市の職員採用試験、いわゆる「公務員試験」を受ける必要があります。おまけに希望を出しても必ず動物園で働けるとは限らず、他の市営施設や役所での仕事に配属となる可能性も充分にありました。
「それでも飼育員になりたかったので、覚悟を決めて試験を受けました。正直言って『すぐになれたらラッキー』ぐらいの心持ちだったので、合格後に配属で動物園と言われた時は、心の底からビックリしました」
失敗や遠回りも、
貴重な経験値に。
1年目はペンギン、ニホンザルと、タカやフクロウなど猛禽類の飼育を担当したという赤坂さん。トラやライオンより危険は少ないイメージですが、実はかなり苦労したのだとか。
「ペンギンはクチバシが鋭くて、エサやりの時は指を噛まれないよう注意が必要ですし、ニホンザルはとても賢く主従意識が高いので、こちらが不安そうな表情をしていたらわざとイタズラを仕掛けてくるんです。私もはじめはサル山の水洗いを邪魔されたり、一斉に威嚇をされたり…(笑)。どんな動物でも危険は常に隣り合わせですので、まずは飼育よりも自分の身の安全を守ることを覚えていきました」
しかし飼育員になって2年が経った頃、まさかの辞令が発表されます。異動先は動物と関わりのない経理事務。動物を観察する日々から、画面や数字と向き合う日々を3年ほど過ごしたそうです。
「でも、お金の使われ方やコスト意識が養われたことは、動物園の運営に深くかかわるための貴重な経験になりました。また動物園は『社会教育施設』として、動物が教えてくれる価値や命の尊さを伝える場所でもあります。人に何かを伝えたり、理解してもらったりということも、この時にたくさん学ぶことができました」
鍵の管理や設備修理まで
幅広い仕事で動物を守る。
現在の赤坂さんの仕事は、動物たちのエサやりや掃除といった飼育の他にも、道具や機器、ゲージの修繕など、さまざまな業務があります。
「ライオンやトラはご存知の通り、とても危険な動物。実は私たち飼育員ですら直接手でふれるのは麻酔で眠っている時だけなんです。なので、鍵の管理や、檻や設備が壊れていないかを確かめるのも非常に大切な仕事。作業をしてると動物たちからいつも『ちゃんとやってるか?』とチェックされている気がします(笑)」
他にもエサやりをしながら動物の生態を解説する「パクパクタイム」の実施や、展示物を作るのも赤坂さんの役割。特に展示や解説は、お客様から「わかりやすくて面白い」と、とっても評判なのだそう。
「例えばライオンは毎日、牛肉と馬肉を合計6キロも食べるという、私たちから見るとかなり贅沢な暮らしをしています。またトラはライオンと異なり単独で狩りを行うため、爪のひと突きで仕留められるよう前足が発達しているのが特徴です。『へー!』『スゴイ!』というお客様からの声が聞こえたり、自分の担当している動物にファンがつくと、自分の子どもが褒められてるかのような誇らしい気分になりますね」
「命を守る、つなぐ」という
動物園の役割を果たしていきたい。
動物園は動物を飼育してお客様へ見せるだけでなく、貴重な動物を保護して育てたり、繁殖したりという役割もあります。釧路市はタンチョウで有名なだけあり、鳥類の繁殖には昔から力を入れてきました。過去にはオオハクチョウやシマフクロウ、ハクトウワシなどの人工ふ化に国内で初めて成功しています。
「世界規模では現在、動物の数が次々と減っていますし、アムールトラのように絶滅の危機に瀕している動物も少なくありません。ココアをはじめ、代々の先輩たちがつないできた命を大切に次の世代へとつないでいくこと。そして彼、彼女たちの繁殖や共存の方法を、獣医師や専門家の方々と手を取り合い考えていくこと。おこがましいかもしれませんが、飼育員は研究職でもあるんです」
上述のように、様々な業務がある飼育員の仕事ですが、その全ては「命の尊さを伝える」という道に通じていると赤坂さん。
「動物は命の大切さ、多様性、コミュニケーションの取り方…本当に様々なことを教えてくれます。自分が動物たちから日々教わっていることを、子どもたちにもっともっと伝えていくことが、私たちに与えられた使命なんです」
シゴトのフカボリ
動物飼育員の一日
8:15
園内を回りつつ出勤
8:30
朝会(担当動物の状況報告、園内工事等のスケジュール報告)
8:40
飼育作業
12:00
昼休憩
13:00
飼育作業、施設修繕や動物の健康チェック
15:00
トラとライオンの「パクパクタイム」のお披露目
16:30
閉園作業、シャワー(感染症予防のため)
18:00
退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
飼育道具一式
エサやダンボールを切るのに使う十徳ナイフ、施設修繕に使う工具、スタッフ同士連絡するための無線機と、檻や事務所の鍵一式です。ココアのアクリルストラップは「お守り」として持ち歩いています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

とにかく、安全のために自分のコンディションをキチンと把握し、ムリはしないこと。飼育もお客様へのパフォーマンスの一つだととらえ、常に見られていることも意識しています。

釧路市動物園

1975年(昭和50年)開園。釧路湿原国立公園、阿寒国立公園に隣接し、47.8haという国内最大級の敷地面積を有している。「いのちとふれあい、いのちをつむぐ」を理念に掲げ、タンチョウやシマフクロウなど釧路ならではの動物の飼育、展示を行ってきた。2008年には障がいを持って生まれたアムールトラ「タイガ」と「ココア」の飼育で、日本中から注目を浴びる。

住所
北海道釧路市阿寒町下仁々志別11番
TEL
0154-56-2121
URL
https://www.city.kushiro.lg.jp/zoo/index.html

お仕事データ

動物の餌やりや健康管理を!
動物飼育員
動物飼育員とは
動物が快適に暮らせる環境を
整える重要な仕事!

動物園や水族館で動物の飼育や観察、健康管理を行うのが動物飼育員。餌の食べ方はもちろん、歩き方や毛づや、表情から体調を読み取ったり、飼育小屋を掃除したり、動物が快適に暮らせる環境を整えるのが重要です。他にも動物の繁殖や種の保存の研究、入園者への説明、動物の調教などさまざまな仕事に取り組みます。ユニークな展示方法や企画を考え、多くの人に動物の素晴らしさを伝えるのも動物飼育員の役割です。

動物飼育員に向いてる人って?
動物や自然の不思議に探究心を持ち、
我慢強く関わることが出来る人。

野生動物はペットとは大きく異なること、動物園は単に飼育するだけではなく、絶滅危惧種の保全や、野生動物の知られざる生態・生理の解明、来園者に対する教育活動など、様々な役割を担っています。そのため、動物が大好きであることは大前提ですが、一方でただ単に動物が好きというだけでは務まらず、生き物や自然の様々な不思議を楽しみ、理解を深めようとする探究心が不可欠です。
また、動物園では様々な動物が飼育されており、その性質も様々。人間の思い通りに動かないことがほとんどなので、我慢強く接する必要もあります。

動物飼育員になるためには

動物飼育員に必要とされる資格はありません。ただし、多くの人が大学の獣医学科や畜産学科、動物関連の専門学校を卒業し、動物園や水族館、サファリパークなどに就職しています。動物飼育員の求人数はあまり多くなく、定期的に採用を実施しているケースもごく稀です。まずはアルバイトとして働いて人脈を作ったり、こま目に求人情報をチェックするのがオススメです。公立の動物園や水族館で働くためには、地方公務員試験に合格する必要があります。

ワンポイントアドバイス
動物の見せ方やふれあいの場に
アイデアが求められる時代。

かつての動物園は檻の中にいる動物を眺めるのが一般的でしたが、「もっと動物に近づきたい」「自然界でどんなふうに暮らしているのか見たい」という声の高まりから、入園者の満足度を高めるために各園が知恵を絞っています。最近では動物の見せ方を工夫したり、入園者が動物とふれあえる場を増やしたり、さまざまな取り組みで入園者を楽しませる傾向にシフト。動物飼育員にもアイデアが求められるようになるでしょう。