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見延 麗奈さん
インタビュー公開日:2024.07.22

地域で親しまれる菓子メーカーで、
チーズ・スフレなどの製造に携わる。
新函館北斗駅。2016年に開業した北海道新幹線の現在の始発・終着地です。この駅がある北斗市(旧上磯郡上磯町)に、1933年から90年以上にわたって営業するお菓子メーカー「末廣軒」はあります。1996年には洋菓子店「ジョリ・クレール」をオープンし、市民に親しまれると同時に、全国の北海道物産展やイベントにも多く出店。店舗に並ぶ工場で、見延麗奈さんは主にイベント向け商品を製造しています。
「私は、人気商品のチーズ・スフレ、プリン、パンナコッタなどをつくっています。物産展などのオーダーに応えて、同じ商品を大量に製造することが多いですね」
そう話すと、クリームのついていないホールケーキのようなものを手にし、表面の焦げ色になった部分を取り除いていきます。
「これは、チーズ・スフレのベースとなるスポンジです。いかに手際よく、きれいに仕上げるかがポイント。見た目以上に繊細な作業ですね」
流れるように手を動かし、作業を行う見延さんですが、実は入社からまだ3カ月ほど。それでもすっかり、所作が板についているようです。「勘が良くて、覚えがとても早いのよ」と、先輩の声が聞こえてきました。
鉄板に並んだ丸い型のなかに、
足の感覚で材料を流し込んでいく。
直径5センチ、高さは2.5センチほどの金属製の丸い型の底にスポンジを敷くところからチーズ・スフレづくりは始まります。次に、クリームチーズなどの材料を混ぜ合わせた素材を、大きなじょうろのような機械に入れます。この機械は、ペダルを踏むと材料が出てくる仕掛けになっており、足の感覚で操作しながら、鉄板の上に並んだ丸い型のなかに、次々と流し込んでいきます。
「鉄板をずらしながら材料が出てくる口に型をもっていく動作、決められた量を迅速に流す作業のいずれも、今も難しさを感じますし、慎重さが求められますね」
そう言いつつ、素早い動きで一つの鉄板に並ぶ45個の型に、てきぱきと材料を充填していきます。そして、一杯になった型は、見延さんの背後で予熱されている窯(オーブン)にセット。焼きの工程に入ります。
「一連の作業を、ある程度自然な流れでこなしていけるようになるまでは少し大変でしたが、繰り返すうちに身体が覚え、できるようになっていくことが楽しかったですね」
作業効率の兼ね合いから窯がすぐ近くにあるため、「夏本番の時季には暑さが心配」といいつつ、屈託のない笑顔を見せる見延さんです。
やりたい仕事に就きたいという一心で
大好きなお菓子づくりの世界に飛び込む。
地元の高校を卒業後、アパレルや飲食業界で働いた見延さんでしたが、自分が本当に好きだと思える仕事をしたいという思いが強くなり、末廣軒の求人に応募しました。やりたい仕事とは、ずばり、お菓子づくりでした。
「お菓子をつくることが好きで、いつかはプロの世界でやってみたいと思っていました。小さい頃、『こんなお菓子をつくってみたい』といえば、母が材料を揃えてくれたんです。そうした環境のなかで、自然とお菓子づくりに興味を持つようになったのだと思います」
趣味で楽しむことと、仕事として向き合うのとでは、同じ好きなことでも意味合いが大きく異なりますが、プロとしての大変さは想像しつつも、やはり、一度はやってみたいという気持ちが勝ったのだそうです。
「『商品』としてのお菓子をつくるという部分では常に緊張していますが、日々、それを上回る楽しさを感じられています」
自宅から近く、子どもが学校から帰ってくる時間ギリギリまで働けるうえ、勤務時間そのものを、希望に応じて繰り上げてもらえたことも、入社を決めた理由の一つであり、会社の協力もうれしかったと見延さんは話しています。
即戦力を目指し、現場で学びながら
たくさん手を動かして作業を習得。
見延さんが担当しているお菓子づくりは、全国の物産展・フェア向けがメインなので、店頭で販売する商品と比べると桁違いの量になります。製造スタッフは常にフル稼働。そんななか、ベテランの一人が抜けたことが求人募集の背景だったため、早急に技術を身に付け、即戦力を目指す必要がありました。
「一から十まで、研修を行っている時間的余裕がないなか、数週間である程度の作業を覚えてもらう必要がある。大丈夫ですか? と面接の際、お話がありましたが、包み隠さず話していただいこともあり、それでもチャレンジしようと思えました」
工場は毎日、作業を止めるわけにはいきません。そのため「現場に就いた直後から、実践的に教えていきました。大変だったと思いますが、急成長を遂げ、すでに大切な戦力です」と、職場の先輩は太鼓判を押しています。
「まず、説明しながら作業を見せていただき、次に同じことを実践し、指導していただくいう流れで業務を覚えていきました。最初はさすがに、頭が一杯いっぱいでしたが(笑)」
一方で、短期間の間に、たくさん手を動かせたことで早く覚えることができたし、その点では逆にラッキーだったと話します。
常に工程に目を配り率先して作業に従事。
お菓子づくりの現場にいる喜びを感じて。
窯で焼き上がったチーズ・スフレは、まだ熱々。しばらく置いて余熱をとった後、静かに型を持ち上げると……ふわふわ、できたての製品が現れます。材料を型に流し込むところから一連の作業を見ていると、なんだかちょっと魔法のようでもあります。
「喜びを感じる瞬間ですが、私は技術的にはまだまだ。思うようにいかないこともあります。でも、先輩に聞けば『ここを、もっとこうすれば良くなるよ』など、的確に教えてもらえるので、スキルアップもしやすいですね」
作業手順は決まっているものの、工程ごとにノウハウがあり、経験も必要になる。スムーズに、軽快に作業をこなす先輩はかっこよく、追いつくことが目標なのだと見延さん。
「チーズ・スフレが載った鉄板は10キロほど。砂糖など重い材料を持つこともあるし、オーブンは気をつけないとやけどの危険も。それでも、上手にできたり、思い通りに進められた時はうれしいし、やる気も湧いてきます」
焼きあがったスフレを並べていたかと思うと、最初の工程であるスポンジの作業を始める見延さん。常に工程に目を配り、自分のやるべきことを考え、率先して動く。その姿からは、お菓子づくりの現場にいられる喜びが伝わってきました。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

大好きなお菓子づくりの現場で働くことができていますが、プロの世界は奥深く、うまくいかないこともあります。日々の作業を大切にしながら技術を磨き、先輩のようなかっこいい技術者になっていくことが目標です。

有限会社 末廣軒

1933年から現北斗市で営業を続ける菓子メーカー。和菓子店、洋菓子店、カフェを運営。個別に対応する勤務時間など、子育て支援にも力を入れる。

住所
北海道北斗市中央2丁目1-4
TEL
0138-73-3122
URL
https://hokuto-jolicreer.com

お仕事データ

スイーツづくりの専門家!
パティシエ
パティシエとは
経験と技術を駆使して、
甘いおいしさを常に一定の品質に!

パティシエとはフランス語でケーキ職人や菓子職人のこと。日本でもケーキやパイ、ビスケット、ムース、アイスクリームなどの洋菓子を手がける職業の呼び名として定着しています。一口にパティシエといっても、仕事内容は働く場所によってさまざま。小さなスイーツ店では生地づくりからデコレーションまでを一人で担当したり、大きな店舗の場合は「生菓子」「焼き菓子」といった担当部門が決まっていたり、レストランでデザートをつくるパティシエもいれば、ホテルや工場でお菓子づくりと向き合うケースもあります。いずれも洋菓子の主な材料となる小麦粉、バター、砂糖、卵の分量や投入のタイミングを正確に測り、経験と技術を駆使して甘いおいしさを常に一定品質に仕上げるのが使命です。

パティシエに向いてる人って?
同じ作業をコツコツ続ける忍耐力や
美的センスを磨く努力が求められます。

お菓子づくりやスイーツが好きなことは当然の素養。加えて、レシピに沿って「計量」や「焼き時間」など同じ作業を毎日コツコツと続けられることが求められます。また、パティシエは立ち仕事な上、重い材料を運んだり、単純作業を繰り返したりするため、体力と忍耐強さも必要。スイーツはおいしさだけでなく、装飾や盛りつけといった見栄えの良さも評価につながることから、美しいものにふれてセンスを磨く努力も不可欠です。

パティシエなるためには

パティシエとして働くために特別な資格は必要ありません。一般的には調理師専門学校や製菓専門学校などで基礎となる技術や知識を学び、卒業後に洋菓子店やレストランに就職するケースが多いでしょう。一方、未経験者を採用しているスイーツ専門店にアルバイトや契約社員として入社し、実践を通して技術を身につける人も少なくありません。パティシエとして多くの店舗を渡り歩き、さまざまな知識や技術を吸収した後に独立を目指す道もあります。

ワンポイントアドバイス
オリジナリティあふれる商品づくりや
インターネットでチャンスを拡大!

ここ最近は安全・安心な食材を使ったオーガニックの焼き菓子や男性をターゲットにしたケーキなど、オリジナリティを打ち出すスイーツ専門店も増えています。また、アットホームなカフェ形態でケーキを提供したり、店舗が休日の時に料理教室を開いたり、パティシエの活躍の場は広がっている傾向です。インターネットを使った「お取り寄せ」で売上アップを狙うなど、ビジネスの手法も拡大しています。今後、パティシエを目指す人にとって、スイーツ業界はますます面白いものに映ることでしょう。