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竹市 このみさん
インタビュー公開日:2024.10.02

生物を観察し、好きになってほしい。
「水族館」に勤務する竹市さんの願い。
アユという名前ですが、鮎ではなく、ヨウジウオという魚の仲間。頭を下にして細長い身体を垂直に立て、水草などに紛れます。ヘコアユというユニークな魚です。ヘコは逆さ、アユは歩む、つまり逆さに進むという意味があるのだとか。
「上(尾)の方にある透明な鰭(ひれ)を細かく動かし、姿勢を維持しています。じっくり見ないとわからないですが、ヘコアユをはじめ、さまざまな水辺の生物の鰭を知ってほしいという企画展を、今年の春頃に実施しました」
竹市このみさんが、目をキラキラさせて説明してくれたのは「鰭展〜ヒレがあればなんでもできる〜」という企画展の話です。竹市さんが勤務しているのは『AOAO SAPPORO』。2023年7月、札幌・狸小路のビルにオープンした都市型水族館です。
「ライブラリーアクアリウムという、一つの水槽に一種類の生物を展示するフロアをメインに、たとえば〝ヘコアユの背びれはどこにあるの?〟と問いかけるタペストリーで関心を集め、水槽に貼られた解説シールを読んで鰭を見つけてもらおうというのが展示の狙いでした」
生物をじっくり観察するきっかけづくりをしたい。よく見てみれば驚きも感じるし、愛着も湧く。そして、出会った生物を好きになってほしいと、熱く語る竹市さんです。
展示の企画や体験プログラムの実施。
意見を交わし、展示方法なども考える。
竹市さんは、『AOAO SAPPORO』の企画担当として勤務しています。飼育員が企画展やイベントを考えるという水族館も多いなか、竹市さんのような企画を専門に行うスタッフがいるのは珍しいのだそうです。
「私が主に担当しているのが、〝鰭展〟のような企画展の企画・運営、体験プログラムなどの実施、それと、常設展示をより魅力的なものにアップデートする仕事です。常設展示では、7種類のトカゲの仲間を集めた『LIZARDS』という新しいゾーンの準備に携わりました」
魚類から両生類が生まれ、一部が爬虫類になって、さらに鳥類になったというのが脊椎動物の進化の過程ですが、この水族館には最初の姿である魚類と、最終型の鳥類=ペンギンがいます。だから、その中間にいる爬虫類を展示し、生命の進化を伝えたいというのがコンセプトだそうです。
「どんな爬虫類を展示するか、どのように見せるかなどを考えることも企画担当の仕事。同じような視点で、2023年には北海道むかわ町で発見されたカムイサウルスの全身復元骨格標本のレプリカを展示する『ザ・パーフェクト恐竜』を開催しました」
館長から飼育員まで、みんなで意見を出し合い、お客さまの声も参考にしながら水族館の魅力づくりを考えているのだと竹市さん。やっぱり、楽しそうです。
まちなかの水族館という特徴に惹かれ、
オープニングスタッフの募集に応募。
大型商業施設のなかに設けられた小川、アミューズメント施設の水をテーマにしたアトラクション-。小さい頃から水辺や水のなかの世界が好きだったと話す竹市さん。
「水泳も好きで、水に潜るのも好きで。〝水のなかにいたいんだね〟と母が呆れたように言っていたのを覚えています(笑)。水に顔をつけただけで、まったく違うものが見えてくる。その世界に魅力を感じていたんです」
水のなかの世界への興味をきっかけに、琉球大学でサンゴに関する研究に取り組みますが、小学校高学年の時に旅行で訪れ、感動した沖縄の海の魅力も大きかったと明かします。
「今思えば夢のような4年間でした。ダイビング部に所属し、ほんとうにダイビングざんまいの日々。講義の合間に海に潜り、戻って海の勉強、ということもよくありました」
幸せそうな表情に、楽しさが伝わってきます。卒業後は、札幌市の公園を管理する団体に就職。植物の世話や来場者向けイベントの運営などに携わり、2年ほど経った頃、『AOAO SAPPORO』のオープニングスタッフの募集を知ります。水族館の仕事にも興味があったという竹市さん。まちなかにある施設という珍しさにも惹かれ、思い切ってチャレンジし、そして今があります。
わかりやすく、楽しめる展示を大切に。
展示生物の検討、施設づくりにも関わる。
「この水族館のオープン直前の4月、開業準備室という所属で入社しました。どんな生物を展示するかという会議に出席したかと思えば、ライブラリーアクアリウムに置く本棚などの配置を考えたり、展示説明の文章を書いたり。いろいろな業務に携わりました」
忙しくて大変さを感じることもあったものの、都市の真ん中にある水族館の立ち上げという、滅多にない機会に参加できているという喜びの方が大きかったと振り返ります。
「都市という環境にマッチするような空間デザインや見せ方を工夫し、日常のなかで生物に興味を持ち、何かを感じていただけるような場にしたいという思いをスタッフみんなが抱きながら、準備を進めてきましたね」
飼育に使用する人工海水製造機や展示生物の管理・育成のようすが間近でみられるフロア。世界で3カ所目という、自然のままの姿の生物を観察できるネイチャーアクアリウム。鰭展を行ったライブラリーアクアリウムやペンギンのダイナミックな行動が見られる展示など、水辺の生物をさまざまな角度から見られるのが特徴の『AOAO SAPPORO』。「わかりやすいこと、楽しめること。これは、私が大事にしている視点です。ぜひ、ふらりと立ち寄っていただけるとうれしいですね」。
〝わぁ、すごい!〟という声がうれしい。
お客さまの反応も参考に展示・企画を考える。
企画展や常設展示は、生物の飼育に携わり、特性なども熟知している 飼育員のアイデアをもとに生まれることもよくあるそうです。面白い提案でも、一般向けには難しいと思えば、どうすればわかりやすくなるかを考えるのも私の仕事、と竹市さん。そこに、お客さまの意見を加味しながら、魅力的なものにしていきたいと、今度は表情が引き締まります。
「お子さま向けには、水族館のバックヤードツアー、魚の帽子づくり、絵本を題材にした貼り絵等々、手と体を使って生物について学ぶ体験プログラムを継続して行っています。ペンギンの背中は、何色か知っていますか?」
ペンギンの塗り絵では、多くの子どもが背中を青く塗るそうですが、見に行くと実は黒! そんな驚きを通して学んでほしいと話します。
「姉、妹は私のように水や水辺の生物にもあまり興味がありませんでしたが、展示を見にきてくれて〝おもしろかった!〟と言ってくれて。私たちの見せ方は間違っていなかったのだと、嬉しかったですね」
そう話す竹市さん。〝へぇ、こんな魚がいるんだ〟、〝わぁ、すごい!〟など、通りすがりのお客さまの反応がうれしく、励みにもなるのだと笑顔に。まさに〝水を得た魚〟のように、いきいきした姿が印象的でした。
シゴトのフカボリ
水族館企画担当の一日
8:30
出社。メール、その日のスケジュールの確認
9:30
各チームが集まる朝礼。その日の企画展。イベントなどをアナウンス
9:40
館内の巡回をもとにした常設展時の修正点の検討、新しい展示や体験プログラムの企画など
13:00
昼食・休憩
14:00
館内のサインなどのデザインの検討、新たに展示する生物の検討、年間パスのお客さまへのサービスの検討など各種会議、展示の準備など
17:30
帰宅
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
スケール(コンベックス)
企画展やイベントに合わせた展示物の企画・制作にあたり、現場での検討を行うため寸法を図るためのスケールは必須アイテム。さっと伸ばし、広さや高さの見当をつけます。館内巡回の際など、いつも持ち歩いています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

水族館の展示を見たことをきっかけに、魚やさまざまな生き物を観察することに興味をもち、さらに自然に関心をもってくれるとうれしいですね。私たちの水族館がその入り口になれればという思いで仕事をしています。

株式会社青々

2022年9月設立。ミュージアム施設等の開発・運営事業などを手がけ、「AOAO SAPPORO」の展示企画から運営、関連グッズの開発なども行っています。

住所
北海道札幌市中央区南二条西3丁目20番地/札幌支店
TEL
011-212-1316
URL
https://aoao-sapporo.blue/

お仕事データ

博物館で展示の価値を伝える
キュレーター
キュレーターとは
博物館で専門知識を生かし、
資料収集や解説、研究などを行う仕事。

歴史博物館や自然博物館、美術館、科学館、水族館といった博物館に勤務する専門職員。考古学や化学、地理学、生物学、美術など身につけた知識を生かして展示などの価値を伝えます。具体的には、展示物や資料の収集・保管、調査研究、来館者への解説、展覧会の企画・運営などさまざま。時には講師として博物館主催の講演をしたり、レクリエーションを行ったりする他、PR活動などに取り組むこともあります。

キュレーターに向いてる人って?
専門分野の勉強や研究が好きで、
企画・運営のスキルにも優れている人。

絵画や遺跡、化学、動植物など自分が扱う分野の勉強や研究が好きなのは大前提。スタッフと強力して仕事を進めるため、深い知識とおう盛な研究意欲が必要です。調査や研究のイメージが強いキュレーターですが、人とコミュニケーションするシーンも数多くあります。収集した資料を魅力的に展示するのもキュレーターの仕事。企画力や運営力も求められるでしょう。

キュレーターになるためには

キュレーターとして働くには、それぞれの博物館の採用試験に合格しなければなりません。多くの場合、国家資格の「学芸員」を持っていると有利に働くようです。その受験資格を得るにはさまざまな道のりがありますが、文部科学省の定める博物館に関する科目を大学で修得し、学士の学位を取得するのが一般的。ただし、大学に入学のできる者(高校卒業以上)であれば、キュレーターをサポートする「博物館補」として博物館で働くこともできます。


※学芸員の国家試験については、詳しくは文部科学省のホームページをご確認ください。http://www.mext.go.jp/

ワンポイントアドバイス
人気も競争率も高い仕事。
学芸員補もぜひ視野に。

キュレーターは人気が高く、競争率が激しい仕事。例え学芸員の資格を持っていても、求人が出るまでアルバイトとして博物館で仕事をしながら、正職員の募集を待つということも必要です。ただし、学芸員補であれば採用されるというケースも多いよう。これはキュレーターの修行期間にあたる職種ですが、地道に経験と勉強を重ねることで、後に正式な職員になるルートも少なくありません。