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屋根板金工_堀口 大斗さん
インタビュー公開日:2025.04.16

雨漏りなどを防ぐ屋根板金の仕事。
先輩のスキルに、技術を学ぶ日々。
金属板を加工すること。また、(金属板)そのもの。少し古い版ですが、広辞苑第二版補訂版には、こう記されています(カッコ内は、加筆しています)。ページをめくって調べた言葉は『板金』(ばんきん)。もともとは、薄くて平たい金属を指す言葉だそうで、住宅において雨漏りなどの侵入を防ぐ工事を、屋根板金といいます。堀口大斗さんは、この工事を担う技術者です。
「当社では主に戸建住宅の屋根板金を行っています。長尺(ちょうじゃく)鉄板という鋼板を葺き(*)、防水のための加工などを施して仕上げるまでが、私たちの仕事。そこでは、正確さとスピードが求められます」
入社7年目の堀口さん。成川板金工業所で現場を担う技術者の一人として事業の一翼を担っていますが、2人の先輩技術者の作業の手早さ、施工品質の高さには目を見張るばかりと話します。
「他社の板金屋さんと比べても、そのスキルはダントツ。常に2人の仕事に技術を学びつつ、目標としています」
自分が担う仕事に対する、強い思いと成長意欲の高さを、その真剣な表情からうがかい知ることができます。
*板、瓦、茅(かや)などで屋根をおおうことを「葺(ふ)く」といい、一般的に屋根工事を行うこと=葺くと呼ばれています
なじみの大工さんからの情報を受け、
電気工事の技術者から新たな世界へ。
日々、屋根板金に一心に取り組む堀口さんですが、同社で今の仕事に就く前は、電気工事の技術者として働いていました。異業種から、この世界に飛び込んできたわけです。
「身体を動かす現場職で、かつ、転勤がなく地元で働けること、という条件にマッチした職場だったということが、前職の電気工事会社に就職した大きな理由でした。丸5年間、学校・ホテル・店舗などの配線・コンセント・照明・エアコン・電気通信など、内線工事と呼ばれる業務を担っていました」
とても忙しく、深夜工事などもありましたが、仕事には大きなやりがいを感じていたという堀口さん。一方で、残業の有無で給料が大きく変動することがあり、より安定した環境への転職を考え始めるようになります。ちょうどそんな時期に、何度か一緒に現場に入って顔なじみになった大工さんから、板金屋さんである成川板金工業所で技術者を探している、という情報を教えてもらいます。
「板金屋さんといわれても、なんのことやらという感じでしたし(笑)、地元から離れてしまうことになるため、少し迷いもありましたが、これも何かの縁と考え、入社を決めたというのが経緯です」
現場に入り、一から作業内容を学ぶ。
興味さえ持てれば一人前を目指せる!
「屋根工事は大工さんがやっているものだと思っていましたし、実際に現場を見るまで、どんな作業を行っているのかもまったくわかりませんでした。ただ、自分は高いところが得意なので、なんとかなるかなと(笑)」
前職の電気工事では、高所作業車に乗車するような業務も行っていたという堀口さん。現在、北海道では主流となっているフラット(無落雪)屋根は当初からまったく問題はなかったものの、勾配屋根、特に傾斜がきつい屋根には、怖さも感じたと明かしてくれました。
「最初は現場の整頓・清掃から始まり、先輩の指示で道具などを運ぶといった補助作業を通して、徐々に仕事の流れ、そして作業内容を覚えていきました。夏の暑さ、冬の寒さも最初は大変でしたが、やがて慣れていきましたね」
どんなベテランでも、最初は何も知らないところから始まる。経験を積むなかで、その仕事を好きになれるかどうかがポイント。話を聞いていた同社の成川泰社長が、そんな話を聞かせてくれました。「道具などを運ぶ一輪車をネコ車と呼びますが、〝ネコをもってきて〟と頼むと、本物の猫を探して〝いません……〟と答えた新人もかつていました(笑)」(成川社長)。そうしたところから始めても、興味さえもてれば一人前になれると教えてくれました。

生活を支える、めちゃめちゃ大切な仕事。
経験がものをいう、雨漏り箇所の診断。
新築住宅の場合、屋根の下地材となる板(野地板)の上に、雨水などの侵入を防ぐ防水紙(ルーフィング)を張り巡らせるところから、堀口さんの仕事は始まります。その後、軒先やけらば(屋根の端部)に鉄板(役物=やくもの)を取り付け、あらかじめ加工した長尺鉄板を葺いていきます。
「そして最後に、それらの金属同士を接合し、雨などが入らないように曲げて固定するハゼ組と呼ばれる加工を行って、完成となります。平均すると3日くらいの工程ですね」
高いところでもあり、普段、じっくり見ることのない屋根ですが、的確に施工されていないと、雨漏りの原因になるなど、生活に支障をきたしかねません。地味かもしれないけれど、その意味で「めちゃめちゃ、大切な仕事」と堀口さん。雨漏りが起きている屋根の補修も行います。
「一部、鉄板を起こして(開いて)、どこに原因があるかを診断するのですが、これがなかなか、難しいんです」
小屋裏(屋根を構成する木材)の雨染みなどを辿って、漏っている部分を探すのだそうですが、どれだけ多くの事例を見ているかで、判断できるかどうかが左右される、経験の世界なのだとか。
細心の注意を要する、屋根改修の現場。
鉄板の角が正確にハマった時の快感!
普段は、戸建住宅がメインですが、規模の大きな建築物の屋根を葺くこともあるといい、ゴルフ場のクラブハウスの改修工事が、特に印象に残っていると話す堀口さん。
「横幅が60m近くもある大きな屋根の葺き替え工事で、協力会社の応援も得て、3カ月間ほどかけて完成させました。クラブハウスが営業しながらの工事だったので、(雨が降ると漏るため)中途半端なところではやめられないという難しさがありましたね」
屋根を剥がすと表れる、木毛板という柔軟性のある下地材を踏み抜いてしまうと真っ逆さま。神経の使う現場だったと振り返ります。
「住宅の屋根の改修工事も、お客さまが暮らすなかで行うため、同じように下地材を踏み抜いたり、道具などを落とさないようにするのはもちろん、なるべく音を立てないよう、細心の注意を払っています。そんななか、休憩時間に飲み物やお菓子をいただくことも多く、心づかいが何よりうれしいですね」
それまで、屋根など見上げたこともなかったと話す堀口さん。「鉄板を取り付けていって、角がピタッとハマった時は快感ですね」と笑顔を見せます。人懐っこさのなかに、職人の顔がのぞきました。
シゴトのフカボリ
屋根板金工の一日
8:00
出勤。作業の段取りをして現場へ出発
8:30
現場に到着、作業開始
10:00
休憩
10:30
作業再開
12:00
昼食・休憩
13:00
作業再開
15:00
休憩
15:30
作業再開
17:00
後片付け、翌日の段取り、日報の記入
18:00
退勤

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

電動シーマー
金属板の端を折り曲げてつなぐハゼ組を締めていく電動工具。両手で持ってハゼを挟んでいく手動のハゼ締め機にくらべて、少ない労力で作業ができるすぐれもの。作業負担の軽減と品質向上に役立つ道具です。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

2人の先輩は、早いんです、とにかく。しかも正確。それだけに、最初のうちは現場で作業についていくのが大変でしたが、今の目標は、自分も同じようなスキルを身につけ、一人前の職人になることです!

お仕事データ

金属板を変身させる職人技!
板金職人
板金職人とは
金属の板を製品や建築部材へと
仕上げるスペシャリスト。

板金職人は、薄い金属板を切断、折り曲げ、溶接などの加工技術を駆使して様々な製品や部品を製作する専門家です。主な分野として「建築板金」「自動車板金」「製缶板金」の3つがあります。建築板金では、屋根や雨どい、外壁などの金属部材を製作・加工し、建物を風雨から守ります。自動車板金では、事故や衝突で変形した車体を修理・復元する技術を担当。製缶板金では、金属板を加工して、機械や設備の筐体(きょうたい)、容器、ダクトなどを製作します。いずれの分野でも、金属の特性を理解し、精密な計測と高度な加工技術によって、耐久性と美しさを兼ね備えた製品を生み出す職人技が求められます。

板金職人に向いてる人って?
細部へのこだわりがあり、
ものづくりの達成感を大切にする人。

板金職人には、まず何より細部へのこだわりと正確さが求められます。1ミリ単位での精密な作業が必要なため、集中力と忍耐力も欠かせません。また、金属を扱うための体力と、繊細な加工を施すための器用さを併せ持つことも重要。図面を読み取る空間把握能力や、完成形を頭の中で思い描ける立体的なイメージ力も求められます。製品が完成したときの達成感を喜びと感じる人、手に職をつけてものづくりに携わりたい人に向いている職業といえるでしょう。

板金職人になるためには

板金職人になるために必須の資格はありませんが、職業訓練校や専門学校で基礎技術を学ぶのが一般的です。工業高校の金属加工科などで学んだ後、板金加工会社や自動車修理工場、建築板金会社などに就職し、実践的な技術を身に付けていきます。また、経験を積みながら「技能士」の資格を取得することでキャリアアップを図ることができます。板金技能士は1級から3級まであり、レベルに応じた技能が求められます。多くの場合、先輩職人から直接指導を受ける徒弟制度的な要素も残っており、5年から10年の修業を経て一人前になるとされています。

ワンポイントアドバイス
各種デジタル技術も取り入れながら、
職人としての技を磨き続けよう!

板金加工の世界でも、レーザー加工機や3Dスキャナーといったデジタル技術が導入されています。特に製缶板金や自動車板金の分野では、こうした最新技術との融合が進んでいる傾向にあります。一方で、機械では再現できない職人の感覚と技術は依然として高く評価されており、熟練の技術を持つ板金職人に対する需要は安定しています。今後、デジタル技術と「職人技」を併せ持つ人材のニーズがますます高まっていくでしょう。

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