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スタジアムDJ_エバンズ・マラカイさん
インタビュー公開日:2025.09.04

“引き寄せの法則”を信じ
W杯の大舞台で活躍!
「ナンバー・ナインティナイン…フランミィル・レイィィィィィーーーーーエス!」
エスコンフィールドHOKKAIDOの試合を見たことがある人なら、誰しもが特徴的な英語のアナウンスを聞いたことがあるはず。声の主はエバンズ・マラカイさん、29歳。身長193センチの長身やお顔立ちから、ご出身は欧米かと思いきや…
「生まれも育ちも生粋の“北広島人”です(笑)。オーストラリアから来日した両親のもと、5人兄弟の4番目として生まれました。このボールパークがある丘も、球場ができる前は自分たちにとって“庭”のような場所だったんです」
幼い頃からスポーツに親しんでいたマラカイさんは、サッカー、バスケットボール、ラグビーとさまざまな競技を経験。意外なことに野球の経験はなく、スポーツを仕事にするとも考えていなかったとか。
「子どもの頃は何でも挑戦して、何でも器用にできた反面、これという夢は無かったんです。ただ、せっかくなら自分にしかできない仕事がしたかった。そう願っていれば、いつか自分に合った仕事が舞い込んでくると信じてました」
そんな“引き寄せの法則”はマラカイさんの人生で次々と発動されていきます。札幌の大学在学中、アルバイト先のカフェでスカウトを受け、卒業と同時にスポーツの通訳としてキャリアをスタート。2019年のラグビーワールドカップ日本大会では、フィジー代表の公式通訳という大役も担い、大好きなスポーツを仕事にする喜びを実感したそうです。
球場でのスカウトから
スタジアムDJの道へ。
W杯の翌年には上京し、恋愛リアリティーショーの出演やモデルなど芸能の世界にも挑戦。ただ、長身ゆえに「服や靴が用意できない」と仕事を断られる機会が相次ぎ、東京での生活にも疲れが見え始めたことから1年ほどで北海道へとUターンします。その後、MCやDJを数多く抱えるタレント事務所へ所属したマラカイさんはプロバスケットボールチーム「仙台89ERS」のアリーナMCに就任。持ち前の明るさと力強い声、英語力で試合を盛り上げていきました。
再び“引き寄せの法則”が訪れたのは2023年。故郷・北広島市に華々しくオープンを迎えた「エスコンフィールド」に家族で訪れ食事をしていたところ、スーツ姿の男性から突然声を掛けられます。
「『Where are you from?(どこから来たの?)』と聞かれて、お決まりの『北広島です』と冗談を飛ばしながら名刺交換をすると、そこに書かれていたのは『ファイターズスポーツ&エンターテイメント』の名前。男性の正体は球団のお偉いさんだったんです」
後日、男性からの連絡で再び球場へ訪れたマラカイさんが案内されたのは、球場全体が見渡せるコントロールルーム。そこでマイクを渡され、選手の名を読み上げるよう求められたのです。
「まさかオーディションが始まるとは予想していませんでしたし、スタジアムDJが何を、どんな風に話しているかも意識したことがありませんでした。『メジャーリーグを意識して』というヒントだけを頼りになんとか読みあげたところ、みなさんがヒソヒソと話し始めて…」
結果はなんと、その場で合格。急な展開に驚きつつも、2023年7月1日よりエスコンフィールドのスタジアムDJへの就任が決まりました。
「声」だけで盛り上げる難しさを、
持ち前の向上心で解決。
スタジアムDJに就任した1年目は、規則や台本を覚えるので精いっぱいで「試合のたびに頭がパンクしそうになった」と振り返るマラカイさん。実は日本のプロ野球の世界には厳しいルールがあり、読み上げる台詞があらかじめ決められているのだそうです。
「思いのままに盛り上げて良いバスケのMCとは全く異なる世界です。例えば、打順や代打、選手交代といった『情報』はハッキリと日本語で伝えなければなりません。繰り返しの場合は英語を混ぜたり、抑揚をつけて話すのは認められていますが、それも基本的には背番号やポジション、名前といった最低限の情報だけ。台詞ではなく『声』だけで盛り上げなければならない、その点に難しさを感じていました」
現在のスタイルが確立されたのは、就任から1年ほどが経ったころで、「自分の発するコール1つで会場の熱量が変わると気付いた」というマラカイさん。スポーツは「エンターテイメント」であるという認識を持つようになり、自身の役割を「情報を伝える人」ではなく「演出」として、喋り方にもこだわりを持つようになったといいます。
「全ての観客席が見渡せる席でマイクを握っているうちに、より盛り上げるためにどうしたらいいのか。昨日より今日、今日より明日…と日々スキルアップを意識して、常に最高のコールを探求し続けてきました」
コンマ1秒も計算し、
ファンの気持ちを代弁。
マラカイさんのプロ意識は、まさにアスリート級です。試合前の打ち合わせでは、入場の際に流れる映像や音楽のリズム、曲調を完璧に頭にインプット。いざ本番を迎えると、試合展開や選手のバックグラウンド、音楽や映像に合わせ、声の高さや強弱、息の溜め、伸ばし方などすべてをコンマ1秒単位で計算し、選手の名前を読み上げます。
「特に大切にしているのは、選手一人ひとりの過去や活躍ぶりを徹底的に調べること。例えば、怪我から長い治療を経てようやく復帰した選手であれば、待っていたファンの期待感が大きいですよね。だから『溜め』は長く、クレッシェンド(徐々に大きく)を意識して、『あの選手がついに帰ってきた』という熱い思いを表現しています」
マラカイさんはSNSでコールの舞台裏に迫った動画も公開しています。中にはマイクを切った後、興奮を抑えきれず歓喜に叫ぶ姿も…。
「あくまで自分は『マイクを持ったファン』なんです。ファンの皆様と同じ目線で、喜怒哀楽や一喜一憂のすべてを一緒に楽しみ、感動を共有したい。新庄剛志監督が選手たちに『野球を楽しみなさい』と伝えていますが、僕たち球場スタッフもワンチームで楽しまなくては一流のエンタメが成り立たないと考えているんです。スクリーン、カメラ、音響、映像、照明、ファイターズガールやマスコット…大勢のスタッフたちの動きが歯車のようにピタリと合わさった時に初めて、最高のエンターテイメントを生み出せるんです」
目標は観客3万5千人を
健康にすること。
将来の目標を聞くと「もちろん、この球場で『ファイターズ優勝!』『日本一!』とコールすることです」と即答するマラカイさん。しかし、それ以上に大切にしている想いがあるといいます。
「僕は自他共に認める“健康オタク”で、ヘルスコーチとして活動もしています。その中で分かったのは、感情を表に出す行為が健康にとってめちゃくちゃ大事だということ。と言っても、日常生活で頻繁に怒ったり泣いたりできないですよね。だからこそ、この球場では勝利の喜びや感動も、敗北の悲しみも悔しさも全部、爆発させて欲しい。僕がマイクを通じてみんなの感情を引き出すことで、球場に集まった3万5千人を健康にする。それが僕の使命だと思っています」
最後に若者の皆さんへのエールをお願いすると、こう答えてくれました。
「僕は以前『余命1年だとしたら何をしますか?』と聞かれて、何も変えたくないと思ったんです。どんなに贅沢なことや、世界中を旅するよりも、今の仕事を最大限楽しんでやりきりたい。それくらい、スタジアムDJやMC、タレントの活動が自分にハマっています。好きなことを突き詰めた先にきっと、ビッグなステージが待っているはず。まずは自分が何を愛しているのか、探ってみてください」
シゴトのフカボリ
スタジアムDJの一日
8:30
球場入り
9:00
演出打ち合わせ
10:00
開場・場内アナウンス開始
10:30
スタメン発表の準備
11:00
試合前演出
13:30
スタメン発表
14:00
試合開始
17:00
試合終了・締めのコメント
18:00
退勤(イベントがある場合は延長)
※デーゲームの場合

シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

Do What You Love
(好きなことをしよう!)

仕事の選択とは「好きなことを仕事にする」か「好きなことのために仕事をする」か、どちらかだと思う。僕は愛するスポーツに貢献し、好きなことができるこの仕事が天職だと実感してます。

スタジアムDJ エバンズ・マラカイ

1996年、北広島市生まれ。大学卒業後、北海道庁スポーツ局で通訳として勤務。2019年、ラグビーW杯フィジー代表の通訳を担当。2020年、偶然応募した恋愛リアリティーショーの出演が決まり上京。モデルとして活躍後、2021年、プロバスケチームのアリーナMC、2021年北海道へのUターンを経て2023年から北海道日本ハムファイターズ「北海道ボールパークFビレッジ」のスタジアムDJに就任。タレントやラジオDJ、ヘルスコーチやパーソナルトレーナーとしても幅広く活動中。

URL
https://malachievans.com/

お仕事データ

「声」でスタジアムを一つに!
スタジアムDJ
スタジアムDJとは
選手や試合進行を「声」で伝え、
会場全体の一体感を作り出す仕事。

スタジアムDJは、プロ野球やサッカー等のスポーツ試合中に場内アナウンスを担当し、選手紹介や試合進行の情報を観客に伝える専門家です。スターティングメンバーの発表、選手交代、得点や試合結果の告知などを、決められた内容に沿って正確かつ魅力的に伝えます。また、「ファウルボールにご注意ください」といった観客の安全のための警告や、悪天候時の中断案内、緊急時の避難誘導など、重要な安全情報を伝える責任も担います。単なる情報伝達にとどまらず、声の抑揚や間の取り方、発音の仕方によって観客の気持ちを高め、スタジアム全体の雰囲気作りに貢献します。選手一人ひとりの特徴や背景を理解し、ファンの期待や感情を声に込めて表現することで、観客と選手、会場が一体となった感動的な空間を作り出す重要な役割を担っています。

スタジアムDJに向いてる人って?
アナウンス技術があり、
場の空気を読める人。

はっきりとした発音で大勢の観客に聞き取りやすく話す技術が第一。試合の流れや観客の反応を敏感に察知し、その場に応じた声のトーンや話し方を使い分ける感性も重要です。スポーツのルールや試合進行を理解し、正確な情報を迅速に伝える判断力も必要でしょう。また、選手やチームへの敬意を持ち、ファンの気持ちに寄り添える人が理想的です。緊張する場面でも冷静さを保ち、常に安定したアナウンスを続けられる精神力も求められます。人前で話すことに抵抗がなく、スポーツの感動を共有したいという気持ちがあれば、経験を積みながら上達していくことができるでしょう。

スタジアムDJになるためには

スタジアムDJになるために特別な資格は必要ありませんが、アナウンス技術や発声法を学んでおくと有利です。放送関係の専門学校やアナウンサー養成講座で基礎を身に付ける人も多いようです。多くの場合、球団やスタジアム運営会社からのオファーや試験を受けて就職します。ラジオやテレビでのアナウンス経験、イベントでのMC経験がある人は優遇される傾向があります。また、他のスポーツ施設やイベント会場でのアナウンス経験を積んでから、プロスポーツのスタジアムDJを目指すキャリアパスもあります。担当するスポーツに関する基本的な知識を身に付けておくことも重要です。未経験からでも、熱意と向上心があれば挑戦できる職業です。

ワンポイントアドバイス
多言語対応や配信サービスを意識した
アナウンスが求められています。

近年、プロスポーツはエンターテイメント性が増しているほか、多言語対応も強化しているため英語での選手紹介や試合情報の案内ができると重宝されます。また、スタジアムでの観戦だけでなく、テレビやネット配信を通じて試合を楽しむファンも多いため、配信画面を見ている視聴者にも分かりやすいアナウンスが求められるようになってきました。従来の会場内の観客だけでなく、より幅広いファンに向けた情報発信能力を身に付けることで、より価値の高いスタジアムDJとして活躍できるでしょう