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ツアーコーディネーター_中根 萌さん
インタビュー公開日:2026.05.13

地域の成り立ちや文化などへの、
リスペクトをベースにしたツアーを。
札幌市内の観光スポットといえば? テレビ塔、札幌市時計台、赤れんが庁舎(北海道庁旧本庁舎)、二条市場……。パッと思い浮かぶのはそんなところでしょうか。初めて札幌を訪れる人にとっては、一つひとつ見て歩くだけで楽しいかもしれません。でも、街としての札幌の魅力は伝わっているのか——。そう話すのは『エゾシカ旅行社』で、北海道の魅力が詰まった数々のプランを提案する中根萌さんです。
「札幌は観光都市なのに、仙台や京都や倉敷のように、土地の歴史や成り立ちに触れる機会が少ないのが、くやしいと思ったんです。街のことを知れば、絶対におもしろい。私はそう実感しています」
観光というのは、〝国の文化、政治、風俗をよく観察すること〟、〝国の風光・文物を外部の人々に示すこと〟という四書五経の一つ「易教」の一文からきている言葉なのだとか。
「たとえば、地域の成り立ちや文化などへのリスペクトをベースにしたような観光ツアーが提供できないだろうか。そう考えると、従来の旅行の枠を超えた、いろいろな発想が浮かんでくるんです」
こう見えて、4児(!)のお母さん。その子どもたちがある意味、今の仕事を後押ししてくれたのだと、やさしいママの顔になりました。
ともに大学院で観光を学んだご主人が
立ち上げた『エゾシカ旅行社』に参加。
『エゾシカ旅行社』は、ご主人が2020年に立ち上げた旅行社で、中根さんはその翌年から参加し実務と運営を担っています。ご主人は大学院の同期。観光という分野について、多方面からともに学んできた仲間です。
「人々の営みや、それらが積み重なって形成される地域や街。そうした、私が関心を抱いていた分野も、観光という観点から語ることができるんですね」
ご主人とは、大学院時代から「旅行業をやれたらいいよね」といった話はしていましたが、その時はあまり具体的ではありませんでした。
大学院修了後は、札幌市の指定管理者である公益財団法人札幌市芸術文化財団に入職。
総務・経理など事務系の基礎を身につけ、小規模な民間企業で経営を間近で体感する中で、「いつか自分でも会社をやりたい」という思いが膨らんでいったそう。中根さんは将来を見据え、まずは出産というイベントを一段落させようと考えました。ところが、ここで予想外の展開が。「なんと、、3人目は双子でした」
4人の子育てと並行しながら、中根さんは、在宅でもできるライター業を始めます。とはいえ、これだけの大家族を支えるには夫婦での協力が不可欠。家庭との両立を最優先に考えた結果、ご主人も勤めていた会社を退職し、温めていた構想をもとに起業準備を始める決断をします。だから「独立できたのは双子のおかげともいえるんです」と笑顔で振り返る中根さんです。
地域の多様な人たちとコラボしながら
そこでしか体験できない旅行をつくる。
ご主人が『エゾシカ旅行社』を立ちあげた2020年は、新型コロナウイルス感染症が、一気に感染拡大していった時期です。緊急事態宣言が発令され、外出制限により観光業はほとんど、ストップ状態に陥りました。
「〝どうして、こんな時期に〟と言われましたが、逆に大学の恩師、大学院の先輩などから多くの助言や信頼をいただき、おかげさまで設立から7年目に入りました」
暮らすように旅をする。観光地をただ巡るのではなく、現地の衣食住を体感しながら滞在する、そんな旅のスタイルを表した言葉です。中根さんとご主人が目指したのは、たとえばそうした旅のあり方だったそうです。
「地域のキーパーソン、意欲的な自治体の担当者、おもしろいことをやりたいという企業などとコラボし、私たちはツアーなどの催行実務を行うことで、そこでしか体験できない旅、地域を発見するような旅行をつくっていきたいと思っているんです」
大切にしているのは、関係する地域の人たちとの綿密な打ち合わせ。面と向かって話し、共感を得たうえで、地域への貢献も考えながら企画を作っているのだと中根さん。
「地元の方々の理解を得られ、納得していただけるツアーでなければ、私たちが運営する意味はないと思っています」
ガイドの説明つきで街を巡る「闊歩札幌」。
参加者の希望に合わせて臨機応変に対応。
ヨーロッパ、北米、東南アジアなど海外の方から直接、依頼を受けるFIT(海外個人旅行)、道外のインバウンド専門の旅行者から委託される道内旅行などの交通機関、ホテル、ガイドなどの手配を行う、いわゆるツアーコーディネートも手がけつつ、特定のテーマに基づいた旅程設計なども得意とする『エゾシカ旅行社』。その一つの典型が「闊歩札幌(かっぽさっぽろ)」というツアー。冒頭で中根さんが話していた、札幌の街を知るという企画です。
「積雪のある札幌でも、季節に関係なく実施できることがこのツアーの一つの特徴。地下歩行空間なども利用しながら、札幌の街をまさに闊歩(堂々と歩く)します。そしてもう一つの特徴であり、セールスポイントはガイド付きのツアーということなんです」
ガイドが、各スポットの由来、街との関わりや位置付けなどを解説してくれるのだそうです。主要スポットを巡る「札幌ゴールデンルート」、「二条市場ランチツアー」、はしご酒をする「札幌バーホッピング」などメニューも多彩です。
「いずれも、要になるのがガイド。基本のメニューに沿いながら、参加者の希望を聞き、臨機応変に対応していきます。ガイドと、まさに二人三脚で提供しているオリジナル商品です」
ちょっと誇らしげな中根さん。口にするのはガイドさんへの信頼と感謝です。
人とのつながりができることが喜び。
ガイドのシグネチャーツアーを企画中。
世界の最新アート作品などを紹介する札幌国際芸術祭では、市内に点在して設けられる会場を巡るツアー企画を任されています。また、狩猟免許をもつご主人が企画した、狩猟を通して地域を学ぶツアーは、現地で活動していた「ほぼ日」(*)とのコラボが実現。
「思いをもって取り組んできたことを、理解してくださる方々とのつながりがたくさんできたことも、この仕事を通して感じる喜びです。学生の頃から大ファンの〝ほぼ日〟との出会いには、はしゃいでしまいましたが(笑)」
地元のものを食べ、風土を感じ、人と出会う。そんな旅の企画は、人との出会いから生まれている。そう考えると、中根さん自身も仕事を通して旅をしているのかもしれません。
「たとえば、そのガイドにしかできないツアー。いわば、シグネチャーツアーができないかと現在、企画中です。ガイドの得意分野、思いや考え、そんな、個人に落とし込んだツアーはまさに唯一無二だと思うんです」
レスポンシブルトラベラーという言葉があります。旅先の環境や文化、人々の暮らしに配慮しながら旅をする〝責任ある旅行者〟という意味合いです。こうした人たちが増え、当たり前になれば、観光公害といったこともなくなっていく。そう力を込める中根さん。今はまだ小さなオフィスから、観光のこれからを、大きな瞳で見つめようとしています。
*コピーライター・糸井重里が主宰するウェブサイト
シゴトのフカボリ
ツアーコーディネーターの一日
9:00
業務開始、メールチェック・返信など
10:00
ツアー先の担当者と打ち合わせ
12:00
昼食休憩
13:00
ツアー企画の打ち合わせ
15:00
ガイドとの打ち合わせ
17:00
社内でミーティング、翌日の予定確認
18:00
業務終了

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

メモ帳
ツアーの企画など、アイデアを書き込んでいくメモ帳は、必須アイテム。具体的なツアーの内容といったことよりも、どんなおもしろみがありそうか、地域とどうつながっていけるか等々、言葉に表しにくい〝エモみ〟のあることなどを考える時にはフリーハンドでぐるぐる絵を描いたりすると、その姿が見えてきたりするんです。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

私の家は、家族全員が医療職だったこともあり、私も使命をもたなければ、という気持ちが強かったのですが、観光に関わるなかで自分らしい道が見えてきました。何かにならなければと思い詰めることはないと思います。

エゾシカ旅行社

2020年設立。札幌市を拠点に道内各地の人や地域と連携し、自然・文化・食等をテーマとするツアーを企画・運営。個人・少人数旅行にも対応しています。

住所
北海道札幌市中央区北1条西16丁目1-36-303
TEL
011-600-2468
URL
https://www.ezosika.co.jp/ja/home/

お仕事データ

夢の旅を、形にする仕事。
トラベルコーディネーター
トラベルコーディネーターとは
旅のプロとして、
一人ひとりに最高の旅を。

トラベルコーディネーターは、お客様の希望や目的に合わせて旅行の計画を立て、最高の旅を実現するためのサポートを行う仕事。航空券やホテルの手配はもちろん、現地の観光スポットや体験プログラムの提案、移動手段の調整まで、旅に関するあらゆることをトータルでコーディネート。単にツアーを販売するのではなく、お客様とじっくり対話しながらニーズを引き出し、その人だけのオリジナルプランを組み上げるのが大きな特徴です。旅行会社や観光局、ホテルなどに勤務するケースが多く、近年ではフリーランスとして活躍するコーディネーターも増加。国内旅行から海外旅行まで、幅広いフィールドで活躍できる職種です。

トラベルコーディネーターに向いてる人って?
旅への好奇心を持ち、
人の喜びを自分の喜びにできる人。

旅行が好きで、国内外のさまざまな場所や文化に興味を持っていることが大前提。お客様の「こんな旅がしたい」という思いをしっかりと受け止め、形にするためのヒアリング力と提案力も欠かせません。旅には予期せぬトラブルがつきものなので、冷静に対応できる問題解決能力も重要。また、航空会社や宿泊施設、現地ガイドなど多くの関係者と連携するため、コミュニケーション能力の高さも求められます。お客様が旅から帰って「最高だった!」と喜ぶ姿を想像しながら仕事ができる、人の笑顔をモチベーションにできるタイプに向いているでしょう。

トラベルコーディネーターになるためには

トラベルコーディネーターになるために、必須の資格や学歴はありません。ただし、観光学や語学が学べる専門学校・短大・大学へ進学し、旅行業務に関する知識を身につけてから旅行会社や観光関連企業に就職するのが一般的なルートです。取得しておくと有利な資格として「総合旅行業務取扱管理者」や「国内旅行業務取扱管理者」があり、就職活動でのアピールポイントに。語学力、特に英語力はそのまま仕事の幅に直結するため、積極的に磨いておくことをオススメします。

ワンポイントアドバイス
「体験」を重視する旅のトレンドが、
コーディネーターの価値をさらに高める!

近年の旅行スタイルは、観光地を巡るだけでなく、現地の文化や食、自然を「体験する」ことへとシフトしている傾向。画一的なパッケージツアーではなく、自分だけのオリジナルな旅を求める人が増えています。こうしたニーズに応えられるのが、まさにトラベルコーディネーターの腕の見せどころ。また、インバウンド(訪日外国人旅行)の拡大も追い風となっており、外国人観光客向けのコーディネート需要も高まっています。旅行業界はAIやオンライン予約の普及で変化が続いていますが、「人の気持ちに寄り添った旅づくり」はテクノロジーには代替しにくい領域。人の温かみと専門知識を武器に、長く活躍できる職種といえるでしょう。