大久保 志穂さん
インタビュー公開日:2019.04.05

専門学校の体験入学で、
「食」に引き戻されました(笑)。
鮮やかな黄色の外壁と、ケーキのイラストを配した愛らしい看板が目をひく洋菓子店「ププリエ」。フランスで修業を積んだオーナーパティシエの大久保政弘さんが40年以上前に開いた老舗です。今回の主役は娘さんの志穂さん。両親とともにパティシエとして働いています。
「小さなころは毎日のようにお店に顔を出していました。ケーキの下に敷くアルミを用意するなどお手伝いをしている気分でしたが、ほぼ遊んでいた感じです(笑)」
志穂さんは折り紙やビーズなど、ものづくりに興味津々な少女時代を過ごしました。もちろん、両親の背中を見てきたことからお菓子をつくることも大好き…だったものの、絵を描くことも捨てきれず高校は美術科を選んだとか。
「メイクやデザイン系など将来の夢を散々迷いました。でも、経専調理製菓専門学校の体験入学で食材を切ったり、火にかけたりするうちに『やっぱり食の世界が好き』って引き戻されたんです」
最先端のおいしさが集う東京で、
どうしても働きたかったんです。
志穂さんは経専調理製菓専門学校で和洋中の調理全般と、お菓子づくりをオールマイティに勉強。「私はとにかく食べることが大好きですし、父も母も幅広い視野を身につけたほうが良いとアドバイスしてくれました」と微笑み、こう続けます。
「専門学校で教わったレシピは基本中の基本。でも、ナッペ(ケーキにクリームを塗ること)やメレンゲの立て方など、スキルアップにつながったことはたくさんありました」
卒業後は当然ながら「ププリエ」で働いたのかと思いきや、志穂さんは東京のスイーツ店を巡っては「研修させてください」と直談判したそうです。一体どうして?
「いずれは実家のお店に立とうと思っていましたが、まずは最先端のおいしさが集う東京で働きたくて。ただ、私が卒業する年は東日本大震災の直後だったこともあり、働くことが決まっていたお店から『今は採用できない』と…それも上京当日に(笑)。なので、東京でイチから職探しを始めました」
札幌では出会ったことのない味に
刺激を受け続ける日々でした。
志穂さんはひとまず銀座のパティスリーで働きましたが、半年ほどでお店の方針が手づくりから工場生産に変わったそうです。それでは自らの技術が高まらないと、求人情報を探して見つけた次の職場が、かつてお父さんに連れられて食事を楽しんだ三ツ星レストランでした。
「何を食べてもおいしくて感動が止まらなかったお店(笑)。募集職種はパンとケーキの販売員でしたが、得られるものが大きいと感じて飛び込んでみました」
その言葉通り、志穂さんが働いていたお店ではラベンダーとレモンのパンや、栗とカシスのパンなど札幌では出会ったことのない味の組み合わせに衝撃を受けたとか。さらに、有名スイーツ店を巡り、ラム酒をきかせたフランス菓子「サヴァラン」をはじめとする数多くのお菓子を「食べて勉強」したと笑います。
「ただ、7~8カ月くらい経ったころ、『ププリエ』のスタッフが辞めることになりました。父も母も大変だろうと思い、実家に戻ることを決めたんです」
感覚を身につけるには、
数をこなすしかありません!
「ププリエ」に戻った志穂さんは、まず看板スイーツ「チョコレートケーキ」の作り方をお父さんから教わりました。最初のうちは、スポンジに使うメレンゲの立て方一つとっても、混ぜ加減のベストがつかめずに苦戦したと振り返ります。
「スイーツのレシピには基本の割合がありますが、各店がグラム単位の微調整をかけて独自の味を生み出しています。ウチは甘さを控えるために砂糖の量は少なめ。けれど、つくり手としては砂糖が少ないとメレンゲ壊れやすくて、フワフワに仕上げるのが難しいんです。その感覚は失敗を重ねて身につけるしかありません」
お父さんはやさしく手ほどきしてくれる上、志穂さんがつくりたいスイーツには自由に挑戦させてくれるそう。最近はラベンダーとオレンジを使ったお菓子やローズと赤ワインのムースなど、新しい味の組み合わせにもチャレンジ中です。
「父と母に試作品を食べてもらい、『おいしい』と評価されたらお店に並びます(笑)」
東京で出会った「サヴァラン」を
自己流にアレンジしました。
ここ最近の志穂さんのお気に入りは東京で出会った「サヴァラン」。ラム酒の風味が強いことから受け入れられるか不安だったそうですが、勇気を持ってつくってみたところお客様の反応も上々です。
「サヴァランのレシピを自己流にアレンジし、フワフワの食感に仕上げました。今は土日限定で提供しています」
パティシエは華やかなイメージの舞台裏で重い食材を持ったり、材料の混ぜ合わせに体力を奪われたり、時に生地の発酵時間を読み違えるなど、苦い思いをすることも少なくないとか。けれど、お菓子のことを語る志穂さんはずっと笑顔で楽しそう。いつもにこやかに働ける原動力は何なのでしょうか?
「私はお菓子の味の組み合わせをイメージするだけでも頬が緩んじゃうタイプですからね(笑)。それに、『おいしい』『サヴァランがまた食べたくて』の声やインスタグラムのタグ付を見聞きできることがやっぱりうれしい!それが笑顔で働ける原動力です」
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
ギザギザの正体は?
パティシエに欠かせないのがケーキにクリームを塗るための回転台やメレンゲなどに使う泡立て器、ホールを分割する器具などです。このギザギザの三角形ですか?ケーキに波々の模様を付けるための器具なんですよ。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

お菓子づくりの一番の勉強は「食べること」だと思います。自分にとっておいしい味、好みのテイストを知るために、ぜひ食べ歩きをしてください。そうして味覚を磨くのがパティシエになるための第一歩です!

ププリエ

札幌市地下鉄南北線北12条駅付近にある老舗の洋菓子店。素材の個性や風味を引き出す手法が「ププリエ」流。とりわけ小振りながらチョコレートの濃厚さが口中に広がる「チョコレートケーキ」のおいしさは高評価。店内ではケーキと飲み物のティータイムも楽しめます。

住所
北海道札幌市北区北12条西2丁目
TEL
011-736-0079

お仕事データ

スイーツづくりの専門家!
パティシエ
パティシエとは
経験と技術を駆使して、
甘いおいしさを常に一定の品質に!

パティシエとはフランス語でケーキ職人や菓子職人のこと。日本でもケーキやパイ、ビスケット、ムース、アイスクリームなどの洋菓子を手がける職業の呼び名として定着しています。一口にパティシエといっても、仕事内容は働く場所によってさまざま。小さなスイーツ店では生地づくりからデコレーションまでを一人で担当したり、大きな店舗の場合は「生菓子」「焼き菓子」といった担当部門が決まっていたり、レストランでデザートをつくるパティシエもいれば、ホテルや工場でお菓子づくりと向き合うケースもあります。いずれも洋菓子の主な材料となる小麦粉、バター、砂糖、卵の分量や投入のタイミングを正確に測り、経験と技術を駆使して甘いおいしさを常に一定品質に仕上げるのが使命です。

パティシエに向いてる人って?
同じ作業をコツコツ続ける忍耐力や
美的センスを磨く努力が求められます。

お菓子づくりやスイーツが好きなことは当然の素養。加えて、レシピに沿って「計量」や「焼き時間」など同じ作業を毎日コツコツと続けられることが求められます。また、パティシエは立ち仕事な上、重い材料を運んだり、単純作業を繰り返したりするため、体力と忍耐強さも必要。スイーツはおいしさだけでなく、装飾や盛りつけといった見栄えの良さも評価につながることから、美しいものにふれてセンスを磨く努力も不可欠です。

パティシエなるためには

パティシエとして働くために特別な資格は必要ありません。一般的には調理師専門学校や製菓専門学校などで基礎となる技術や知識を学び、卒業後に洋菓子店やレストランに就職するケースが多いでしょう。一方、未経験者を採用しているスイーツ専門店にアルバイトや契約社員として入社し、実践を通して技術を身につける人も少なくありません。パティシエとして多くの店舗を渡り歩き、さまざまな知識や技術を吸収した後に独立を目指す道もあります。

ワンポイントアドバイス
オリジナリティあふれる商品づくりや
インターネットでチャンスを拡大!

ここ最近は安全・安心な食材を使ったオーガニックの焼き菓子や男性をターゲットにしたケーキなど、オリジナリティを打ち出すスイーツ専門店も増えています。また、アットホームなカフェ形態でケーキを提供したり、店舗が休日の時に料理教室を開いたり、パティシエの活躍の場は広がっている傾向です。インターネットを使った「お取り寄せ」で売上アップを狙うなど、ビジネスの手法も拡大しています。今後、パティシエを目指す人にとって、スイーツ業界はますます面白いものに映ることでしょう。