船木 翔太さん
インタビュー公開日:2023.10.23

楽しく乗車し笑顔で降りていただく。
接客業の視点を大切に乗務する日々。
手を挙げれば止まってくれて、目的地を告げると、安全に送り届けてくれるタクシー。最近は、クレジットカードや電子マネーも使えるようになり、どんどん便利になっています。快適に移動することができ、急ぎの用事がある時にも強い味方になります。
「それがタクシーの役割ですし、迅速に指定された場所にたどりつければOKだと思いますが、私は同時に接客業の視点を持つことが大切だと考えています。楽しく乗車していただいて、笑顔で降りていただく。常に私が目指していることです」
札幌・豊平区を南北に貫く平岸街道を走ると、白い大きなダルマが見えてきます。1970年代に、タクシー乗務員が交通安全祈願のためにつくったという白いダルマ。今も平岸ハイヤーのシンボルとなっています。同社でタクシーのハンドルを握る船木翔太さんは、入社から5カ月とは思えない売上成績が、社内でも評判になっている若手のホープです。
「最初の頃は、休憩のタイミングがよくわからず……。専用のアプリから入ってくる配車要請にできる限り応え、規定の乗車時間を月7時間以上、オーバーしたこともあります」
自分は運転席に座っているだけ。疲れないし、改めて休憩も必要なかったと船木さん。そう話す背景には、これまでの仕事経験があります。
20代前半で見つかった悪性脳腫瘍。
麻痺が出るなか気持ちをチェンジ。
船木さんは、左半身に軽い麻痺があります。20代前半に見つかった脳腫瘍と、それにともなう肉芽(にくげ)と呼ばれる病変の圧迫が原因なのだそうです。地元の高校を卒業後、自衛隊に入隊した船木さん。部隊に配属となり、4年半ほどが過ぎた頃、冬季定期訓練(スキー訓練)中に左足が上がらなくなります。
「利き手の左手で箸を持つ時にも違和感をおぼえていました。隊員の健康管理などを担う部隊の衛生科に相談したところ、脳神経外科の受診を勧められ、病変の一部を採取して調べる生検手術を受けた結果、悪性脳腫瘍であることがわかって。半年間の抗がん剤治療と、並行して放射線治療を受けました」
脳腫瘍の診断がついた時は「どうして自分が……」という思いも湧いてきましたが、すぐに気持ちをチェンジすることができたという船木さん。前向きな言葉にハッとさせられます。
「僕は、多くの人にはできない体験をしている、そう思えたんですね。自分はある意味、選ばれた存在というか。だからこそ、治療にもリハビリにも前向きになれました」
放射線の治療も限界まで行い、日常生活にはほぼ、支障がなくなったのを機に社会復帰を目指してからは、持ち前の前向きさに一層、磨きがかかっていきました。
自分には何ができて、何ができないのか。
さまざまな仕事に就き、自分を探す日々。
脳腫瘍の治療後、最初に働いたのは生命保険会社。障がい者雇用の枠で採用されますが、障がいの有無に関わらず活躍できる場を求め、知り合いのつてを頼りに夜の街で働いたのを皮切りに、ホテルのウェイター、配送・宅配の仕事、学童保育の指導員、就労支援事業所の職業指導員、さらには塗装業と、さまざまな仕事を経験していった船木さん。
「身体的に、少し不自由な部分があるなかで、今の自分には何ができて、何ができないのか。そんなことを知りたくて、いろいろなことをやってみたんです。適性を試してみた、というところもありますね」
利き手が動かしづらくなるなか、それを補うために、箸を持つのも文字を書くのも右手にチェンジ。練習を重ねます。最初は、小さな子どものようなつたない文字しか書けず、果たしてうまくなれるのか、自分のことながら半信半疑だったそうです。
「今は、仮に左手が治っても右手で書くと思いますね。仕事だけでなく、こうした部分でも、自分にできることはやってみなければわかりませんし、私は、そこで挑戦しないでいると落ち着かなくなるんです」
こうした思いを抱き、多くの仕事経験のなかから見つけた自分の思いが、船木さんがタクシー乗務員を目指したきっかけになっています。
自由な気持ちで働くことができ、
努力次第で収入増も目指せる仕事。
「タクシーは、ハンドルを握れば一人の世界。会社員でありながら、個人で仕事に携わっているような印象を受けたことが、乗務員に目が向いたきっかけでした。多くの仕事をやってみたなかで、自分はいつも自由な気持ちで働きたいんだ、ということに気づいて、その意味で、ぴったりの世界だと思いました」
運転も、もともと好きですし、と船木さん。恐らくは、障がいがあることも理由となって応募しても採用に至らないケースもあったそうですが、ぜひ、働かせてほしいと面接を受けた平岸ハイヤーでは、すんなり採用に。願いがかなった瞬間でした。
「自分が努力して取り組めば、その分、売り上げがアップし、収入増にもつながるというところも、私がタクシー乗務員の仕事に魅力に感じる部分ですね。自衛官や飲食業など、立っている時間の長い仕事を数多く経験してきた感覚からすれば、タクシーの仕事は快適そのもの。入社当初、休憩のタイミングがわからなかった理由は、そこにあります」
お客さんを乗せていない時は、走っていても休憩時間だと思っていたと笑う船木さん。休息も仕事のうち。今はしっかりとリフレッシュして体調管理にも気を配り、何よりも大切な安全運転を心がけています。
お客さまとはいつでも一期一会。
だからこそ心を尽くした対応を。
船木さんは、お客さんを安全に目的地まで送り届けることはもちろん、お客さんが何を求めているかをしっかりと捉え、的確な対応をすることを心がけているのだと話します。
「静かに休んでいたい方もいれば、会話をして楽しく過ごしたいという方もいらっしゃいます。その方の出す「空気」のようなものをいかに捉えるかが大切だと思っていますし、私にはそれがなんとなくわかるんです」
たとえば、『寒くなりましたね』という問いかけに対する反応から雰囲気を察知するのだそうです。接客業も数多く経験してきた船木さんならではの感覚といえそうです。
「お客さまから、時にはお叱りを受けることもありますが、多くの方とはまさに一期一会。お会いするのは今日が最初で最後、という意識で、ていねいに対応することを心がけています。泥酔されたお客さまの対応に苦心したこともありますが、それも一つの出会い。心を尽くして向き合うようにしています」
会話を交わし、コミュニケーションが深まったお客さんには、オリジナルの名刺を渡すといいます。そこに記された携帯やLINEに連絡をもらえる時は「必要とされていると感じ、うれしいですね」。とにかく毎日の仕事が楽しい。入社5カ月ながら、ベテランのような包容力さえ感じられる船木さんです。
シゴトのフカボリ
タクシー乗務員の一日
16:00
出勤/車輌点検/点呼・朝礼
17:00
乗車勤務
(休憩30分を2回ほど取ります)
3:00
帰社/営業報告・洗車
4:00
退社  
船木さんはご本人の希望により、
夜間専門で勤務しています。
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
名刺
知り合いに頼んで手づくりしているという船木さんの名刺。裏面には携帯電話番号、LINE ID、QRコートが印刷されており、車内でコミュニケーションが深まったお客さんに渡すという営業ツールとなっています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

お客さまに心地よく乗車してもらい、笑顔で降りていただくためには、私自身、常に笑顔を大切にしなければならないと思っています。運転職であり、かつ、接客職でもあるということを、私はいつも意識しています。

平岸ハイヤー株式会社

1958年に創業した、札幌の老舗タクシー会社。「乗って快適、走って安全、着いて満足」をモットーに地域密着で人々の移動をサポートしています。

住所
北海道札幌市豊平区平岸二条4丁目5-15
TEL
011-831-8115
URL
https://www.hiragishi-hire.co.jp/

お仕事データ

乗客を安全に目的地へ。
タクシードライバー
タクシードライバーとは
お客様を目的地まで
快適に送り届ける仕事。

タクシードライバーは、お客様を目的地まで送り届けるのが主な仕事。道を走りながら手を挙げてくれる人を見つけたり、タクシー乗り場でお客様を待ったりする他、無線配車に対応することで乗客を増やしています。タクシードライバーには、タクシー会社の社員として働く「法人タクシー」と、個人事業主として働く「個人タクシー」があります。最初はタクシー会社で乗務経験を積んだ後、個人タクシーの運転手として独立することも可能。いずれもお客様を安全に、そして快適に目的地まで送ることが大切です。

タクシードライバーに向いてる人って?
車の運転が得意で、
細やかな気遣いができる人。

タクシードライバーは、車の運転はもちろん、地理を覚えることや地図を読むことが得意な人に向いている仕事。出発後は自分だけで過ごす時間も長いため、一人が苦にならないタイプにも好まれる傾向です。運転に集中しながらも、常に乗客の様子に気を配り、場合によっては「車内は寒くないですか?」などと声をかけることも大切。お客様に対して細やかな気遣いができる人には適性があるでしょう。

タクシードライバーになるためには

タクシードライバーとして仕事をするためには、「普通自動車第二種運転免許」が必要です。この免許を取るための条件としては、「普通自動車第一種運転免許」を持っていることに加え、取得から3年以上が経過していることが挙げられます。ただし、最近は未経験から採用を行うタクシー会社も多く、「普通自動車第二種運転免許」は入社後に会社のバックアップのもと取得を目指せるケースが大半のようです。

ワンポイントアドバイス
運転が好きな女性に、
チャンスが広がるタクシー業界。

かつてタクシードライバーといえば「男の職場」と考えられがちでしたが、業界全体で人手不足の解消に向けた動きが見られ、中でも期待を寄せられているのが女性ドライバー。最近は子育て中でも保育園の送り迎えに間に合うシフトを整えたり、日・祝日を固定で休めるようにしたり、女性の活躍に向けて労働環境を改善しているタクシー企業が増えているようです。「運転が好き」という女性に、よりチャンスが広がりつつあります。