高橋 一希さん
インタビュー公開日:2024.09.27

驚きとワクワクの、特別な時間を提供。
昭和のビルにある写真館の運営を担う。
戦後間もない昭和25(1950)年に建設され、オフィスビルとして今も使われている建物があります。複合商業施設・サッポロファクトリーの目の前にある岩佐ビルというレトロなビルで、昔ながらの階段は、ちょっと暗くて、ちょっと急。でも、気をつけながら登ると、パッと明るい空間が目に飛び込んできます。
「まず驚きを感じ、そしてワクワクするような気分で特別な時間を過ごしてほしい。そんな思いがあります。ただ記念写真を撮りにくるだけではない場所にしたかったんです」
トレードマークはニット帽と太縁メガネ。楽しそうに話してくれるのは、写真館「photo studio umu.」のフォトグラファー、高橋一希さん。写真撮影と、写真館の運営全般を担っています。
「ベビーから誕生日、七五三、ファミリーフォトに成人式……。お客さまのご要望に応じた写真の撮影を行っています。写真のクオリティはもちろん、ヘアメイクや衣装が良かったからと、次の記念日に来てくださるお客さまも増えています。うれしいですね」
色鮮やかな衣装が揃い、ヘアメイクは長い時で40分もかけるというから驚きです。まさに写真館命、といったようすの高橋さんですが、実はフォトグラファーとして多様な顔をもっています。
スポーツカメラマンへの憧れに始まり、
ファッション写真に興味を惹かれ渡欧。
「photo studio umu.」は、写真プリントの出力・アルバム制作などを手がける会社を経営する高橋さんのお父さんが立ち上げた写真館。その夢を一緒に担うことになりました。「父の仕事を通して写真が身近にあったことが、自分がフォトグラファーになったそもそものきっかけと言えるかもしれません。気がつくと写真の世界を目指すようになり、札幌の専門学校で基礎を学びました」
サッカー、野球、テニス。テレビで試合を見ていると、大きなレンズを構えたカメラマンが映ります。高校時代は、そうしたスポーツカメラマンや報道写真の道に憧れていたという高橋さんでしたが、専門学校でさまざまなタイプの撮影技術を学ぶうちに、興味の幅が広がり、ファッション写真に目が向きました。
「人物を撮ることが、こんなに楽しいんだと気づき、ファッション写真に惹かれていきました。スタジオで誰かの一瞬を撮る世界でやってみたいと思ったんですね」
ファッション写真とは、広告や雑誌の依頼に応じたり、作品としてファッション(ファッションモデル)を撮った写真のこと。そして、高橋さんは思い切った行動に出ます。パリ、ミラノ、ニューヨークと並んでファッションの都として知られるロンドンに渡ったのです。
ロンドンのフォトグラファーのもとで働き、
ファッション=人を撮る技術を学ぶ。
専門学校卒業後は、著名なフォトグラファーのスタジオで経験を積み、広告のフォトグラファーを目指す。それが一つの王道となっており、高橋さんもファッション写真で同じ道を志します。
「広告業界で著名な東京のフォトグラファーのもとを訪ね、弟子として雇って欲しいとお願いしました。すると、ニューヨークで写真を学んだその方から、若いうちに海外へ出て、見聞を広げてきた方がいいと勧められて。その言葉を胸に、ロンドンへと旅立ったんです」
ロンドン、イギリスではどんなフォトグラファーが活躍しているか、リサーチを行って目指す相手を見つけ、同じように直談判。その時、高橋さんは20歳。東京に行くのならともかく、海外に向かうケースは珍しかったそうです。
「運が良かったとしか言いようがありません。挨拶にいくと、翌日の撮影でアシスタントが足りないので、さっそく来てくれと。その後も、撮影現場に呼んでもらえるようになり、約3年間、写真を学ぶ機会を得られたんです」
日本のスタジオで経験を積み、その後、海外に出て技術を磨くパターンはよくあるそうですが、高橋さんは実務未経験。〝今思えば、ちょっと無謀だったかも〟と振り返りますが、第一線の現場でファッション=人を撮る技術をみっちり学ぶことができたそうです。
若いフォトグラファーが働いてみたいと
思えるような写真館をつくりたい。
ロンドンで学び、札幌に戻ってきた高橋さん。いよいよ広告フォトグラファーとして活動することを考えていた、ちょうどその頃、写真館を開きたいという話をお父さんから聞き、積極的に関わることを決めたそうです。
「人物を撮ることにおもしろみを感じ始めた頃から、自分で写真館をやってみたいという気持ちを漠然と抱いていたので、まさに絶妙のタイミング。一般の方々、とりわけ子どもを撮ることはすごく楽しいですね」
いつもかぶっているニット帽も、子どもに和んでもらうためと話す高橋さんですが、キラキラして見える広告写真の世界に比べ、写真館には地味なイメージがあるのだと話します。
「写真の世界で活躍したいという意欲を持つ若い方々が、ぜひ働いてみたいと思えるような写真館をつくるというのも私の目標。ファッションモデルは指示すれば笑いますが、子どもはそんな忖度(そんたく)はしてくれません(笑)。さて、どうやって心を開いてもらうか。そうしたやりとりのおもしろさ、人物を撮る本質のようなことも伝えていきたいですね」
将来的には札幌に、さらに海外にも、店舗展開をしたいと経営にも意欲を示しますが、同時に、一フォトグラファーとしての活動や、作品づくりも並行して行っています。
商品撮影や自分の作品づくり・個展も。
子どもたちの写真教室では新鮮な発見。
ファッション写真の技術が認められ、スキーウェアなどスポーツ用品メーカーの商品撮影やスポーツショップの広告写真なども、依頼を受けて撮影しているという高橋さん。
「写真館の仕事の合間にはほかに作品の制作も行い、個展を開催しています。今は世界各国で撮影した写真と、その場の音をコラボレーションする展示を準備しているところです」
 ロンドン時代には、地元の芸術大学で空間デザイン、ファッションをはじめ40ジャンル以上のアートも学んでいます。写真館のインテリア、ヴィンテージドレスのセレクト、作品づくりにもその経験が役立っているそうです。
「とはいえ、とにかく自分は写真が好き。プライベートでもコンパクトデジタルカメラで常に何かを撮っています。そんな写真のおもしろさも子どもたちに伝えたくて、メーカーからカメラをお借りし、写真教室を開きました。花びらを濡らす朝露のつぶ、水たまりに映った太陽などなど、真っ直ぐな視線が現れたような素晴らしい写真ばかりで、私自身、新鮮な発見があり、多くのことを学びました」
子どもたちをはじめ、被写体となる人とのコミュニケーションを大切にしているという高橋さん。「カメラマン仲間から家族写真を依頼されることが多いんです」。スタジオに飾られている子たちの自然な表情。唯一無二の瞬間を焼き付ける、まさに高橋ワールドです。
シゴトのフカボリ
フォトグラファーの一日
8:30
出勤、スタジオの清掃、撮影準備
9:00
お客さまをお迎え・撮影(午前2組)
12:00
昼食・休憩
13:00
お客様をお迎え・撮影(午後2組)
16:00
片付けなど
17:30
退勤
*業務の中心となっている写真館での1日のスケジュールです

シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

楽しいんです。ほんとうに。楽しくて仕方がないという感じです。私は人を撮ることが好きですが、被写体ひとつとっても写真はさまざま。でも、どこかで楽しいと思ってもらえる人、特に子どもが増えると嬉しいですね。

photo studio umu.

2021年9月オープン。株式会社エルム(写真アルバム、写真台紙・フレームの製造・販売、写真プリントの出力等)が運営するフォトスタジオです。

住所
北海道札幌市中央区北3条東5丁目5 岩佐ビル2階
TEL
011-211-1815
URL
https://ps-umu.com

お仕事データ

写真を通じて被写体の魅力を表現
フォトグラファー
フォトグラファーとは
光の当て方や構図を考え、
目的に合った写真を撮影!

広告や雑誌、芸能、スポーツ、芸術展示、インターネットなど、さまざまな分野の静止画写真を撮影するのがフォトグラファー。被写体も人物や動物、料理に風景と実に多種多彩です。ムービーカメラマンが動画を撮影するのに対し、フォトグラファーは一瞬を切り取る静止画に特化しています。もちろん、ただシャッターを切れば良いというわけではなく、撮影する写真がどこで、何を目的に使われるのかを考え、光の当て方や構図を決めなければなりません。フォトグラファーは新聞社や出版社、デザイン会社に所属する他、フリーランスで活躍する人も。広告・出版系や報道系、スポーツ系、自然・動物系、ブライダル系といったように得意分野を持つケースが一般的です。

フォトグラファーに向いてる人って?
明るく元気に現場を引っぱり、
臨機応変に対応できる人。

写真が好きなこと、クライアントから求められる撮影スキルを持っていることは大前提。フォトグラファーはスタジオでもロケ(屋外)でも、多くのスタッフと一緒に撮影を進めます。とりわけモデルやタレントといった人物を撮影する際は、ベストな表情を引き出すのも大切な仕事。そのため、明るく元気にコミュニケーションがとれる人は向いています。また、撮影現場ではフォトグラファーが指示を出すことも多く、リーダーシップを持って臨機応変に対応する力も求められます。

フォトグラファーになるためには

フォトグラファーになるために必要な学歴や資格はありません。美術系の大学や短大、専門学校の写真学科などで、カメラの基本的な知識や技術を身につけ、写真スタジオでアシスタント業務からスタートするルートが一般的です。これらの学校に通うメリットは、先輩や業界関係者とのつながりを作れること。将来、フォトグラファーとして働くための大切なコネクションが生まれます。とはいえ、独学で技術を身につけ、フリーランスとして活躍する人も少なくありません。

ワンポイントアドバイス
写真は私たちにとってより身近に。
SNSを営業ツールに使うのもアリ!

広告や雑誌、ニュースなどで写真は大きな役割を持っています。今後は紙からウェブサイトへの比重が大きくなっていくと予想されますが、撮影する仕事がなくなるということは考えにくいでしょう。さらに、スマートフォンの登場によって「撮影」が身近になり、写真への関心は高まっています。SNSなどの普及により写真を多くの人に見てもらう機会も増えていることから、営業ツールとして上手に使いこなせば、自分を売り込むチャンスも広がるはずです。一枚の写真で多くを語る技術がますます重要になっています。