吉野 春花さん
インタビュー公開日:2024.11.05

25年間、地域に親しまれる洋菓子店で
入社から4年目を迎える若手パティシエ。
札幌市清田区の美しが丘に店舗を構え、2024年に25周年を迎えた「パティスリー ドルチェヴィータ」。隣まちである江別市の老舗企業、江別製粉が実家というオーナーシェフ・安孫子政之さんが、神戸などでの修行を経て1999年に開業した洋菓子店です。安孫子さんが幼い頃からなじみ深い小麦と、道産の素材を活かしたお菓子づくり、コーヒーを運ぶウサギのトレードマークで地域の人たちに親しまれています。
「洋菓子はもちろんですが、ほんとうにおいしいんです、パンが。土日には、パンだけを買いに来る近所の方も多く、売れてしまっているとがっかりされて。私は、渋皮栗を練り込んだ食パンが大好き。ほんのり甘くて。最近は、体重のことを考えて控えていますが」
張りのある声で笑うのは吉野春花さんは、このお店で働き始めて4年目になる若手パティシエ。職人さんがつくるパンにぞっこんなのだとか。
「私が携わっているお菓子の製造、このパンの製造、そして店舗での販売と、担当が分かれているのが当店の特徴と言えるかもしれません。それぞれが専門性をもって仕事に取り組んでいるんです」
そう話すとキッチンへ舞い戻り、ケーキをつくり始めました。ここでお菓子づくりをしていることが楽しいと、背中が語っています。
手に職をつけるなら、お菓子づくり。
お母さんの言葉が今に至るきっかけ。
2022年8位、2023年7位、2024年も7位。ランドセルに使われる人工皮革を製造するクラレが、小学生を卒業した子どもを対象に実施しているアンケート「将来就きたい職業」で、女の子が答えた「パティシエ・パン屋」の順位です。憧れの職業として常にTOP10入りする根強い人気の職業です。
「私も小さい頃からお菓子屋さんにあこがれて……と言いたいところですが(笑)、実際は違うんです。母がよくお菓子づくりをしていて、それを手伝うなかで興味は抱いていましたが、それよりも、私をパティシエに導いてくれたのは、『手に職をつけた方がいい』という母の言葉が大きかったんです」
高校でも、お菓子づくりなどを行う部活に入っていたという吉野さん。「手に職」なら、好きなことを。それなら、楽しさを感じていたお菓子づくりと、自然に考えるようになったそうです。
「製菓の専門学校に進み、お菓子づくりの基礎を身に付けながら週末にアルバイトをした洋菓子店にそのまま就職して2年ほど勤務しました」
そのお店では、先輩パティシエの補助業務をとおして商品製造について学ぶと同時に、首都圏等で開催される北海道物産展などの催事担当を任され、単身で現地に行って、数週間にわたって販売を指揮していたのだそうです。
ケーキなどの製造に携わるかたわら、
パートさんをまとめるリーダー役に。
「今思えば、催事の仕事は貴重な体験でした。私は、どちらかというと人見知りでしたが、現地のバイヤーさん、そして多くのお客さまと接しているうちに、誰とでも話せるようになったんです。ただ、社会に出たばかりで、知らない間に無理がかかっていたのか、体調を崩してしまって……」
結局、退職することとなり、休養をとっていた時に、かつて同じ催事会場で言葉を交わしていたドルチェヴィータの安孫子社長から誘いを受け、入社を決めます。
「お菓子づくりの現場は大好きですし、同時にとても奥の深い世界。パティシエというと、どんなお菓子でもつくれるイメージがあるかもしれませんが、知識はあっても現場で経験を積まなければできません。たとえば私は、ムース類の仕込みはやったことがないので、これから覚えていきたいと思っています」
オーナーシェフである社長、長年の経験を持つ男性パティシエとともに、同店のお菓子づくりを担う吉野さん。ケーキなどの製造のかたわら、何を製造するか、どんな仕込みを行うかなど、その日の業務についてパートスタッフに指示したり、新人が入れば指導を行ったり、質問に答えるなど、今では現場のリーダー的な役割を任されています。
気になる予約ケーキへのお客さんの反応。
喜ぶ姿が見られたら、思わず小躍り!
朝は一番に店にやってくると、生クリームやフルーツでケーキを仕上げ、ショーケースに並べて開店準備。多くのお客さんが訪れる週末などは、こうした作業が昼まで続くこともありますが、平日は開店すると看板商品づくりに取り掛かります。
「ケーキのほかに、私が担当しているバウムクーヘンです。道産の小麦とミルク・バターを使った人気商品ですが、最初の頃は『こんなの、絶対できない!』と思うほど難しさを感じていました。生地を棒に巻きつけながらつくるのですが、できが悪いと窯のなかでそれが落ちてしまったり。悲しかったです」
その日の気温などの条件に合わせて、棒を回転させる速度などを調整する必要があるのだと吉野さん。それでも、失敗を繰り返しながら、今では全面的に任されるまでになっています。お菓子づくりへの情熱の賜物です。
「予約のケーキ作りもほぼ、私が担当していますが、気になるのはお客さまの反応。『わぁーっ!』と喜んでくれていたら、よっしゃー!と小躍りしています」
バウムクーヘンの製造コーナーは店内から見えるようガラス張りになっていますが、吉野さんは逆にそこからお客さんのようすをチラチラ見ているのだとか。
自分なら買うと思えるような見た目、
デザインになっているかどうかを考える。
「同じケーキでも、盛り付けひとつで売れ行きが変わります。夕方、残った商品があると、翌日は少し飾りを変えてみるなど、反応を見ながら、そうした工夫を任せてもらえる自由度があることも、やりがいにつながっています。ショーケースの照明も考えながら、〝自分なら買っちゃうな、食べたいな〟と思える見た目、デザインかどうかをいつも考えています」
複数人で同じケーキをつくると、仕上がりに個性が出てしまうことがあり、指摘する場面もあります。お菓子づくりが初めてという人には、基本的なことを教えていく必要がありますが、多くが年上のパートさんに失礼のないよう、かつ、しっかりと意図を伝えるための話し方を日々、考えているという吉野さん。
「なぜそれを言っているのか、どんな理由があるのかといったことを、噛み砕いで説明することを心がけています。年上の方と話すということでは、前職での催事の経験も役立っているかも。今は、そう思えます」
作業台をきれいに保つことも、常に意識しているそうです。衛生面ということはもちろん、それがお菓子づくりと向き合う自分の姿勢。そう話します。「と言うとかっこよさげですが、普段はとてもズボラです」。照れ隠しの笑顔に、やはりお菓子づくりの楽しさがにじみでていました。
シゴトのフカボリ
パティシエの一日
7:00
出勤。ケーキの準備・陳列。焼き窯の準備など
10:00
ケーキの在庫確認、パートさんへの製造の指示
12:00
昼食・休憩
13:00
バウムクーヘンの製造
15:00
ケーキづくりなど
17:00
厨房の製造
18:00
帰宅
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

ちょっと引いてしまうような言葉かもしれませんが、お菓子づくりの現場は忙しく慣れるまでは大変さもあります。小麦粉などの袋は20〜30キロ。一定の体力も必要ですが、だからこそお客さんの笑顔がうれしい仕事です。

パティスリー ドルチェヴィータ(株式会社エムズドルチェ)

小麦をはじめ、北海道産の素材を活かした、独創的な洋菓子、焼き菓子を四半世紀にわたってつくり続け、地域の人たちに愛される洋菓子店です。

住所
北海道札幌市清田区美しが丘2条2丁目9-7
TEL
011-886-5455
URL
https://dolcevita.hokkaido.jp

お仕事データ

スイーツづくりの専門家!
パティシエ
パティシエとは
経験と技術を駆使して、
甘いおいしさを常に一定の品質に!

パティシエとはフランス語でケーキ職人や菓子職人のこと。日本でもケーキやパイ、ビスケット、ムース、アイスクリームなどの洋菓子を手がける職業の呼び名として定着しています。一口にパティシエといっても、仕事内容は働く場所によってさまざま。小さなスイーツ店では生地づくりからデコレーションまでを一人で担当したり、大きな店舗の場合は「生菓子」「焼き菓子」といった担当部門が決まっていたり、レストランでデザートをつくるパティシエもいれば、ホテルや工場でお菓子づくりと向き合うケースもあります。いずれも洋菓子の主な材料となる小麦粉、バター、砂糖、卵の分量や投入のタイミングを正確に測り、経験と技術を駆使して甘いおいしさを常に一定品質に仕上げるのが使命です。

パティシエに向いてる人って?
同じ作業をコツコツ続ける忍耐力や
美的センスを磨く努力が求められます。

お菓子づくりやスイーツが好きなことは当然の素養。加えて、レシピに沿って「計量」や「焼き時間」など同じ作業を毎日コツコツと続けられることが求められます。また、パティシエは立ち仕事な上、重い材料を運んだり、単純作業を繰り返したりするため、体力と忍耐強さも必要。スイーツはおいしさだけでなく、装飾や盛りつけといった見栄えの良さも評価につながることから、美しいものにふれてセンスを磨く努力も不可欠です。

パティシエなるためには

パティシエとして働くために特別な資格は必要ありません。一般的には調理師専門学校や製菓専門学校などで基礎となる技術や知識を学び、卒業後に洋菓子店やレストランに就職するケースが多いでしょう。一方、未経験者を採用しているスイーツ専門店にアルバイトや契約社員として入社し、実践を通して技術を身につける人も少なくありません。パティシエとして多くの店舗を渡り歩き、さまざまな知識や技術を吸収した後に独立を目指す道もあります。

ワンポイントアドバイス
オリジナリティあふれる商品づくりや
インターネットでチャンスを拡大!

ここ最近は安全・安心な食材を使ったオーガニックの焼き菓子や男性をターゲットにしたケーキなど、オリジナリティを打ち出すスイーツ専門店も増えています。また、アットホームなカフェ形態でケーキを提供したり、店舗が休日の時に料理教室を開いたり、パティシエの活躍の場は広がっている傾向です。インターネットを使った「お取り寄せ」で売上アップを狙うなど、ビジネスの手法も拡大しています。今後、パティシエを目指す人にとって、スイーツ業界はますます面白いものに映ることでしょう。