• ホーム
  • 島村 昌紀さん

島村 昌紀さん
インタビュー公開日:2024.03.25

実家が電器店だから、
「電気」を意識しました(笑)。
見上げるような高い鉄塔を2種のロープを巧みに駆使してスルスルと登る若い男性。株式会社日胆テクノの島村昌紀さんは、送電線の建設や保守点検に携わるスペシャリストです。
「送電線といってもピンときませんよね。発電所で作られる電気は、そのままでは家庭で使用できないほど超高電圧。いくつもの変電所を経由しながら電圧を徐々に下げ、ようやく家やマンションなどに送られています。この発電所から変電所を結ぶのが送電線です」
同社は、日高・胆振エリアで唯一ほくでんグループの北海道電力ネットワークから送電設備(高い鉄塔など)の建設や保守点検を任されています。つまり、島村さんをはじめとする技術者は、この地域の「電気のある当たり前の毎日」を支えているのです。ところで、もともと「電気」に興味があったのでしょうか?
「父が電器店を営んでいるので、関連する仕事に就いたほうが良いのかな…という程度(笑)。高校では情報技術科で電気の"キホンのキ"を学び、日本工学院北海道専門学校で知識を深めました」
安全な作業の方法を
「ルーティン化」させる研修。
「会社見学の際、30メートル級の鉄塔を登る作業を見せてもらいました。僕は高いところが得意なワケではありませんでしたが、単純に『スゴイな。自分もやってみたい』と思いましたし、体を動かすのも好きなのでチャレンジしてみようと思いました…つまり、最初は軽い気持ちです(笑)」
入社後は道内各地の同業者の新人たちがほくでんの研修施設に集まるのだとか。そこで電気にまつわる座学の研修を受け、まずは練習用に用意されている背の低い鉄塔で登り降りのコツや電線のまたがり方など基本動作を反復練習したそうです。
「僕らの仕事は高所や電圧などのリスクもあるため、安全な作業のルーティンを体に染み込ませるイメージです。ロープのかけ方や電線の取り付け方などを一つひとつ身につけながら、練習用の鉄塔も高いものにシフトしていきました」
指導員のマンツーマン教育が、
5年以上も続く手厚い体制です。
日胆テクノでは、新人が入社すると各現場に配置された指導員がマンツーマンで仕事を教え、一人立ちまで5年以上もかけて育てます。
「最初の仕事は鉄塔のボルトを取り替える作業。指導員がナットの使い方から丁寧に見本を見せてくれ、不注意で落下や感電しないよう必ず目を光らせてくれるので安心しました」
送電線建設技術者の仕事はリスクがゼロではありません。作業前に送電線に電気が流れていないか確認するのはもちろん、停電していることを示す印と同じ腕章を付けてひと目で危険がないか確認できる工夫をしたり、市街地では歩行者の安全を守る対策を施したり、安全管理が何より大切だと表情を引き締めます。
「ただ、ルールを守りさえすれば、万が一、落下してもロープが身を守ってくれますし、基本は2人ペアなのでお互いに危険がないか確認し合えます。何重にも張り巡らせた安全対策の数々を覚えなければならないからこそ、一人立ちまでじっくりと時間をかけるんです」
僕らがやるしかないという
使命感に突き動かされました。
日胆テクノは、台風や強風、地震といった災害時の復旧作業にも対応しています。島村さんが一人立ちしてからほどなく、2018年の北海道胆振東部地震が発生しました。
「当時は台風により胆振・日高エリアで停電が起こり、僕は静内で対応にあたっていました。地震が発生したのは宿舎で眠っていた時のこと。上司は飛び起きて会社やほくでんに状況を確認し、僕らも明け方前には苫小牧のオフィスに戻りました」
同社は地域事情に精通しているからこそ、混乱の中でも北海道電力ネットワークに代わり、被害状況を確認できる唯一の存在。道路が寸断されている場所も多い中、島村さんも徒歩で鉄塔1基1基の保全対策に回ったそうです。
「仕事中は無我夢中ですが、ふとした瞬間に家族は無事なのかと頭をよぎったり。けれど、『OK』を出さなければ日高・胆振の人はお湯を沸かすことさえできません。僕らがやるしかない…という使命感に突き動かされました」
鉄塔を確認するために、山の急斜面へ、森の奥深くへ。北海道胆振東部地震の影響による作業は2ヶ月間ほどかかり、日高・胆振エリアにようやく「当たり前の暮らし」が戻ってきたのです。
インフラを支えるやりがいと、
明るい仲間との楽しい日々と。
現在、島村さんは現場を管理する代理人という仕事にシフトしているところ。とはいえ、リスクはゼロではなく、年に数回は災害時に緊急出動を余儀なくされる環境。聞く分には大変そうに思えますが…。
「大変なことは大変です。ただ、入社したてのころ、鉄塔が倒れて停電が起こり、夜中に点検作業に出動したことがあります。僕はまだクルマで待機することしかできませんでしたが、暗闇の中で必死に仕事と向き合う先輩方を目の当たりにして、電気というインフラを支えていることを痛感しました。それが今でもモチベーションです」
もちろん、価値ある仕事だからこそ待遇も良く、何より明るい仲間に恵まれていることも島村さんの支えです。
「当社には同じ年代の若手が多く、和気あいあいとしています。作業の帰り道に、山菜採りや釣りスポットの話題でメチャクチャ盛り上がるのも楽しいです(笑)。それに、山深くの鉄塔に登り、上から見下ろす景色は最高。ダムの水面が太陽光をキラキラと反射する美しさは、この仕事でなければ絶対に見られませんからね」
シゴトのフカボリ
送電線建設技術者の一日
8:30
出勤・ミーティング
9:00
鉄塔で作業
12:00
昼休み
13:00
機械の点検・安全管理
16:00
事務作業
17:20
退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
命を守る重装備
僕らが鉄塔に登る際、ペンチやスパナ、ラチェットレンチといった工具の他、墜落制止用器具や安全帯、ワークポジショニングロープ(両手を使えるようにするためのもの)、移動ロープなど、さまざまな道具で墜落から命を守っています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

仕事は大変ですが、それ以上に電気というインフラを守るやりがいや、鉄塔から見る美しい景色といった「好き」が上回っています。仕事は好きでないと長く続かないと思うので、皆さんも「好きな仕事」を見つけてください。

株式会社日胆テクノ

発電所からの電気を変電所まで運ぶ送電線の建設、点検、修繕業務に取り組む企業。ほくでんグループの「北海道電力ネットワーク株式会社」の指名登録会社として日高・胆振エリアの送電設備を唯一担っています。

住所
北海道苫小牧市新開町2丁目4番2号
TEL
0144-55-5560
URL
https://nittan-t.co.jp/

お仕事データ

インフラを支える重要性!
送電線建設技術者
送電線建設技術者とは
電気を安全に効率的に供給するために
不可欠なインフラを支える役割。

送電線建設技術者は、電力や通信インフラを支えるため、電線や通信線の設置、保守、修理などに携わるスペシャリスト。仕事は主に屋外での作業が中心で、送電線が通る高い鉄塔や電柱に登ることが日常的に必要とされます。その業務は、電気が安全かつ効率的に家庭や企業に供給されることを確保することに直結。高所や悪天候下での業務も少なくなく、時には緊急時の迅速な復旧作業が求められることも。災害が発生した場合、送電線建設技術者は最前線で復旧作業を担うため、社会のインフラを支える重要な役割を担っています。

送電線建設技術者に向いてる人って?
安全を最優先に考える注意深さと
チームワークを大切にできる人。

送電設備の鉄塔は車が入れない場所にあるケースも多いため、ある程度の体力があり、高所に極端な苦手意識のない人が向いているでしょう。また、安全を最優先に考え、細かい指示にも注意深く従える注意力と、チームワークを大切にできるコミュニケーション能力も必要。緊急事態でも冷静に対応できる力も求められます。常に最新の技術や安全基準を学び続ける意欲も不可欠です。

送電線建設技術者になるためには

送電線建設技術者になるために特定の学歴や資格は必須ではありませんが、電気工学をはじめとする関連分野について学べる高校や専門学校、短大、大学を卒業すると就職後の理解が早いでしょう。送電工事会社などに入社後、企業が提供する研修を通じて、安全管理、特殊な機器の操作方法、緊急時の対応など、実務に必要な技術や知識を身につけられます。また、電気工事士や高所作業車操作技能講習など必要な資格取得のサポートをする会社も多いようです。

ワンポイントアドバイス
インフラの維持に欠かすことができず、
災害復旧などでもますます重要な存在に。

電力と通信は社会の基盤となるインフラであり、安定した電気供給と通信サービスの維持は、日常生活やビジネスにとって不可欠です。さらに、気候変動による自然災害の増加は、電力網への影響が大きく、迅速な復旧作業がますます重要になってきています。このような状況では、送電線建設技術者はただ電線を修理するだけでなく、災害に強い電力網を構築するための重要な役割を担うことになります。