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津川 恵太郎さん
インタビュー公開日:2024.08.19

スムーズな走行と安全を最優先に
札幌の観光シーンの最前線を担う!
「札幌市電をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は外回り循環、西4丁目・すすきの方面行きです。次は西線11条、西線11条です」。スピーカーから流れてくる、発車のアナウンス。ゆっくりと風景が流れ出したかと思うと、徐々にスピードをあげていきます。
「スムーズにスタートし、揺れの少ない一定の速度で運行。そして、安全にゆっくりと停車することに集中するだけでなく、安心してご乗車いただけるよう、常にお客さまへの気配りを大切にしています」
少し照れたように話す津川恵太郎さんは、札幌の中心部から山鼻方面を通って循環運転する路面電車の運転手。研修期間を含めて3年。運転操作もすっかり板についてきました。実直な姿勢は、上司にも評価されています。
「コロナ禍も落ち着いたなか、外国人の方々にも多く利用いただくようになりました。英語はぜんぜんできませんが、身振り手振りでご案内しています(笑)」
英語はまだしも、中国語やアラブ圏の言葉なのはお手上げ、と告白する津川さん。路面電車ではもいわ山ロープウェイに向かうケースが多く、それがわかれば、なんとか伝わるのだとか。札幌の観光シーンの最前線でもあります。
子どもの頃から『地下鉄っ子』
『札幌市営地下鉄の駅員さん』になる。
今は路面電車の運転手を務める津川さんですが、もともとは札幌市営地下鉄の駅員でした。札幌市交通局から地下鉄の駅業務などを委託されている札幌市交通事業振興公社が津川さんの勤務先。駅員として2010年に入職しています。
「地下鉄駅の窓口業務、案内業務、売上料金の管理など、多岐にわたる業務を担当していました。南北線、東西線、東豊線の各駅を異動しながら勤務していたので、札幌の地下鉄はよく知っているつもりです」
子どもの頃から市営地下鉄を利用し、高校も大学も、地下鉄駅からすぐそば。そんな『地下鉄っ子』の津川さんが、大学に来ていた駅職員の求人に興味を持ったのは、ごく自然なことだったようです。
「『地下鉄で働けるんだ!』 と、興味が湧きました。この求人は公社の駅員募集だったので、そもそも資格はなかったのですが、実は地下鉄の運転手にも淡い憧れを抱いていて。その間近で働けるということに惹かれましたね」
電車の運転手といえば、子どもたちの憧れの職業の一つ。安全確認を行い、颯爽と地下鉄を走らせる運転手の姿を見ていた津川さんに、やがてチャンスが巡ってきます。
ずっと抱いてきた電車運転手の夢。
志願して路面電車事業へ異動。
2020年4月、津川さんが勤務する札幌市交通事業振興公社は、札幌市交通局から委託を受けている地下鉄駅業務に加えて、施設・設備の管理と運転事業を分ける上下分離方式の導入により、路面電車の運行を担うことになったのです。これが、津川さんの転機でした。
「それに合わせて、地下鉄の駅員から路面電車の業務に異動できることなりました。すぐには決心がつかなかったのですが、その翌年、志願して今の職場に移りました。念願の運転手への第一歩でした」
入社から10年あまり。30歳を過ぎての新たな挑戦には勇気も必要だったと話しますが、ともに異動した同期とともに、運転手になるための教習が始まります。大谷地にある札幌市交通局の教習所で2カ月間、電車の運転に関する基礎知識を座学で学び、その後、いよいよ実際の路面電車を使った実技教習がスタート。
「教えられた操作を行うと、電車がゴトっと動いて。当たり前なのですが、『本当に動くんだ!』とちょっと感動しました(笑)」
長年、抱いてきた運転手の夢。ずっと目にしてきた路面電車を、ほんの少しですが動かせただけで、テンションが上がったことを覚えていると、その時の興奮を教えてくれました。
同期とともに学び、成長する日々。
冬を乗り越え、少しずつ生まれる余裕。
「最初は電車事業所の構内で、電車を動かしては停めて、動かしては停めてという操作の繰り返し。実際にやってみると、思った以上に難しく、上手にこなしている同期の姿をみて感心したり、ちょっとうらやましいと思ったり。参考にして、真似したりしていましたね」
それぞれが学び、感じたことを共有しながら切磋琢磨していたと、津川さんは振り返ります。
「構内での練習が終わると、次は本線での運転訓練。最初はお客さまを乗せずに走り、1週間程度で実際の業務がスタート。上司に助けてもらいながら実地で覚えていきました」
動きがギクシャクしたり、停車時に揺れるとお客さまが転倒しかねません。ただ、慎重になりすぎてゆっくりだと、時刻通りに走れない。2カ月ほどは上司が同乗してくれたそうですが、それでも緊張の日々だったと津川さん。
「運転操作に集中するあまり、お客さまへのアナウンスができず、どうしよう…と頭がパニック状態。それでも、自分なりに必死に取り組み、凍結や積雪により運転に神経を使う冬を過ぎる頃には、少しずつですが操作にも心にも余裕が出てきました」
路線を2周する2時間の乗務を、1日に3回行うことが標準で、1回の運行が終わると電車事業所に戻り、休憩をとるという勤務パターンです。
小さな子どもが手を振ってくれること、
お客さまとの触れ合いがうれしい。
路面電車は、自動車と同じ道路を走ります。自転車も通れば、歩行者も横断します。それだけに、事故を起こさないことが最優先。「交通機関として時間を守ることも大事ですが、無理をして事故を起こしてしまったら、もっと遅延してしまうし、なによりお客さまに怪我をさせてしまいますから」
トラブルもなく、時刻表通りに走ることが当たり前の仕事ですが、無事に1日の乗務を終えられた時は、大きな達成感があるそうです。
「沿線で小さなお子さまが電車に向かって手を振ってくれることがあって、そんな時はうれしくなりますし、この仕事を選んでよかったと思いますね。料金のやり取りを通してお客様と直接触れ合うなかで、感謝の言葉をいただくことも。誰かの役に立っていると実感できることもうれしいですね」
札幌の夏の風物詩である、豊平川の花火大会の日。多くのお客さまが利用するなか誘導がうまくいかず、遅延してしまったこともあると話す津川さん。そうしたケースでは、軌道上にいる電車同士でフォローし合うのだとか。先輩たちのように、他の電車にも常に目配りができるようになりたいと話します。
「古いタイプの電車が好きですね」と、最新型のポラリスの前で、楽しそうに笑います。
シゴトのフカボリ
路面電車運転手の一日
6:00
出勤、出勤点呼。出庫点検(ブレーキ、ミラー、外観、料金箱などの確認)、出発
6:30
路線2周(2時間)乗務
8:30
調整時間
9:00
休憩
9:30
路線2周(2時間)乗務
11:30
調整時間
12:00
休憩
12:30
路線2周(2時間)乗務
14:30
売上精算、業務報告
15:00
退勤
*1乗務2時間を、1日3回乗務するのが標準。
(上記は早番のシフト)
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

当たり前に聞こえるかもしれませんが、安全を優先して乗務にあたっています。定刻通りに運行することは、とても大切ですがそれ以上に、お客さまを安全、安心に目的地までお送りすることを優先しています。

お仕事データ

子どもたちのあこがれ!
電車運転士
電車運転士とは
安全、正確に電車を運行!

JRや地下鉄などの電車に乗務し、車輌の操縦と運行に携わります。地下鉄は全国的にワンマン運行が多く、運転士が発車時の安全確認やドア開閉など車掌の業務も兼ねています。火災や自然災害等の非常事態には乗客の安全確保や避難誘導を行うなど、人命にも関わる責任の大きな仕事です。

電車運転士に向いている人って?
運転技術を高める向上心が大切。

乗客の安全と正確な運行を行うために責任感が必要なことはもちろんですが、普段とは違う異常に気がついたり、危険を回避したりする、注意力が求められる仕事です。運転には高い技術が求められるため、常にスキルアップを目指す向上心も欠かせません。

電車運転士になるためには?

鉄道会社に入社するか、札幌市であれば交通局や札幌市交通事業振興公社に入いることが運転士になる第一歩となります。運転士として働くには「動力車操縦者運転免許」という国家資格が必要になり、筆記試験や身体検査、技能試験などが行われます。試験は20歳以上であれば受験できますが、技能試験があるため鉄道会社や交通局が運営する養成所で教習を受けてから免許を取得するという流れが一般的です。

ワンポイントアドバイス
北海道新幹線の運転も夢じゃない!

電車運転士には子供のころから電車が好きという人が少なくありません。大好きな電車を運転できるのはそういう人にとって、大きな魅力となるはずです。電車運転士の花形と言えば、やはり新幹線の運転士!技術と経験を積み、「新幹線電気車運転免許」の資格を得ることで北海道新幹線を運転することも夢ではありません。
最近は各鉄道会社や公営交通で女性の運転士も増えており、女性の新幹線運転士も活躍しています。