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グドール結実 カタリーナさん
インタビュー公開日:2024.10.16

やりたくて、できないでいた絵本づくり。
人生の節目に挑戦した物語で作家デビュー。
アフリカ南東部の沖合に位置するマダガスカル共和国。そのさらに東の沖合にあるモーリシャス島にかつて、ドードーという飛べない鳥が棲息していました。その愛らしい姿に惹かれて買ったぬいぐるみが、この絵本の物語が生まれるきっかけとなりました。絵本の名前は『まっしろドードー』。
「息子と娘が、それぞれ3歳、1歳の時に描いた絵本です。何かをしなくてはいけないとか、やっちゃダメとか、子どもたちによく言ってしまうことなどお構いなくドードーはいたずらをします。楽しくて、子どもには意味のあること、そんな世界を伝えたいと考えました」
「第23回えほん大賞」(文芸社)で大賞となり、2023年に出版されたこの絵本は、グドール結実カタリーナさん(以下「結実さん」)の作家デビュー作となりました。ただ、当初は応募すること自体が目的だったと話します。
「30歳という人生の一つの節目を目前にした時、これまでやりたいと思ってできなかった絵本づくりに挑戦してみたいと思ったんです」
結実さんがそう考えたのは、えほん大賞の応募締め切りの1カ月前のこと。なんとか期限に間に合い、達成感に浸るなか、受賞の知らせが入ります。「ただただ、びっくりしました」と、今もその時の興奮が残っているようすです。
短大の芸術学部で織物に関心を抱き、
専門の学びを求めるなか挫折を味わう。
ドイツ人の父、日本人の母のもと、札幌で生まれ育った結実さん。高校時代には1年間、単身ドイツの高校にも通いました。小学校に上がる前からクラシックバレエに打ち込み、バレエの先生になることを考えていたそうです。けれども、先生のひとことで道が開けます。
「バレエは好きだったのですが、バレエしか知らない人生でいいのか……。そう考え始めた頃、高校の美術に時間に私が描く絵を見た先生が、絵(美術)の道に進んでみたらと。担任の先生に相談すると、芸術学部のある東京の短大に推薦枠があることを知りました」
その短大に進み、幅広い芸術分野を学ぶなかで織物に関心を抱いて卒業制作ではタペストリーを完成させます。油絵はいくらでも修正できるけれど、織物には終わりがある。完成させた時の爽快感が好きだったと話します。
「数学が嫌いでしたが、織物のサイズに合わせた糸の本数、染料の量など、織物は計算の世界。でも、それは苦にならなかったですね」
短大の2年間では物足りず、ドイツにある織物の専門学校で学ぼうと面接に出かけたという行動的な結実さん。けれども、学校制度の違いから進学が叶わず「人生で初めての挫折を味わいました」。そして、この経験が後の絵本づくりに生きてきます。
行き違いでうまくいかなかった就職。
知人の勧めでシンガポールの聖書学校へ。
「ドイツの専門学校に入れずに日本に戻り、大学時代に過ごした東京で就職を考えていた時、父の知り合いの企業で働けるかもしれない、という話が浮上します。私にとって、まさに渡りに船。でも、これも行き違いがあって立ち消えに……。まずは働かなくちゃと、札幌に戻ってパン屋さんでアルバイトをしました」
クリスチャンとして、幼い頃から信仰を抱いてきた結実さん。将来のことを考えていた時、知人からシンガポールの聖書学校(*)を勧められます。そして、自分の信仰についてしっかり学び、改めて人生について考えたいという思いが湧き、すぐに願書を提出。パン屋さんのアルバイトで貯めた資金をもとに、海を渡ります。
「聖書学校は7カ月でしたが、毎日、たくさんの宿題に、読まなければならない書籍。寝る暇もない、過酷な日々でしたが(笑)、アジア諸国からきている同級生との寮生活は楽しく、考え方や感覚の違いを知る機会になりました」
そんな結実さんの強い意思とバイタリティは、初めての絵本制作にあたっても発揮されます。
「制作の1カ月間は、夫や両親に支えてもらうなか、今も続けているフリーランスの仕事も休み、徹夜を続けて描きあげました」
柔和な笑顔からは想像できない、芯の強さが感じられる結実さんです。
*聖書を学ぶために設けられている学校
医療事務として働き、幼なじみと結婚。
出産後は、職業訓練でデザインを学ぶ。
聖書学校を卒業すると、また新たな道が開けます。同じ教会に通っていた医師から、開設する病院の事務職に誘われたのです。
「医療事務のことなど何も知らないのに、やりますと。あまり考えずにまず一歩、踏み出してみるという性格なんです(笑)。それで、やってみると案の定、大変で……。ただ、仕事としては安定するなか、幼い頃から家族ぐるみでお付き合いしていた男性と結婚しました」
定職も見つかり、心から信頼できる人との結婚も成就。まさにハッピーエンドといえそうですが、それで物語が終わらないのが結実さんです。短大で美術を学ぶなか、デザイン系の仕事をしてみたいという思いが、静かに心の中で燃えていたようなのです。
「デザイン会社で働いてみたいという気持ちが強くなって。夫も応援してくれて、採用が決まった矢先、今度は挫折ではなく事件が起きました。働き始めて1カ月で、妊娠がわかったんです。出産までは働きましたが、忙しいデザインの仕事は諦めざるを得ませんでした」
ところが、ここでも結実さんは前向きです。託児付きでデザインを学べる職業訓練を見つけ、通い始めます。そして、そこで出会った〝ママ友〟の紹介で写真館のアルバム制作を請け負う仕事を紹介されます。絵本を描くために1カ月間、休んだこの仕事は今も続いています。
子どもたちに希望と安心を与える。
そんな絵本を、描いていきたい。
『まっしろドードー』の絵は、液タブとよばれるデジタルツールで制作しています。これは、ご主人が誕生日に買ってくれたものなのだとか。初めて液タブで描いた絵本は、ボローニャ国際絵本原画展のファイナリストに残るという栄誉にも輝きましたが、実は描きながら葛藤もあったのだと明かしてくれました。
「夜中の3時、4時にペンを動かしていると、眠いし疲れてくるし、周囲に迷惑をかけ、子どもと過ごす時間も削って……。やる意味なんてあるのだろうか、と心が揺れました」
そんな時、支えになったのが、これまでに経験したいくつもの挫折。うまくいかなかったり、思い悩む時は、その後で必ず、良い変化やプラスになることが起きている。神様は、絶望のなかから必ず救いあげてくれるという聖書の言葉が、自分の人生の根っこにある考え方として理解できたのだそうです。
「死ぬのが怖くて、夜中に泣いている子どもが少なくないという話を聞きました。そうした子どもたちに希望を与え、ふっと安心できるような絵本を書いてみたいと思っています」
優しい目つきでそう話します。それは、もうじき生まれてくる、自分自身の子どもに語りかけているようでもありました。大の子ども好きという結実さん。読み聞かせにも取り組むなど、とにかく行動的な絵本作家さんです。
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
液タブ
液晶ペンタブレットの略で、専用のペンで直接、線などを描き込めることが特徴です。パソコンなど機械系が苦手ですが、手描きと変わらない感覚で作画ができるので、今では欠かせないツールの一つとなっています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

やりたいことをやってみる。それは、大人からすると眉をひそめるようなことでも、子どもにとっては意味があるし、大切なこと。『まっしろドードー』に込めたのは、ありのままでいいんだよというメッセージなんです。

シゴトのフカボリ
絵本作家の一日
9:00
子どもを保育園へ
家事を一通り片付ける
10:00
まっしろドードーのイラストや、イカスミの作品描き
12:00
昼食
13:00
絵本の構成や、デザインのお仕事
16:30
お迎え

クドール結実カタリーナ

ドイツ人の父、日本人の母を持つ、もうじき3児のママになる絵本作家。デビュー作となった『まっしろドードー』は、続編も構想中とか。

URL
https://www.instagram.com/yumi_katharina/

お仕事データ

夢と物語を描くシゴト!
絵本作家
絵本作家とは
子どもたちに向けて、
物語と絵を創作。

絵本作家は、子どもたちに夢と喜びを届ける絵本をつくる仕事。ストーリーの企画から始まり、キャラクターのデザイン、ページのレイアウト、挿絵の作成まで手がけます。作家によっては文章と絵の両方を担うケースも少なくありません。出版社との打ち合わせや編集作業も重要な業務の一部。さらに、マーケティング活動やイベント参加など、絵本の普及活動にも関わることがあります。自身の創造性をフルに発揮し、子どもたちに楽しんでもらうというやりがいの大きな仕事です。

絵本作家に向いてる人って?
自己表現が好きで、
物語を通じて子どもたちとつながりたい人。

絵本作家に向いているのは、豊かな創造力とストーリーテリング(物語をつくる)能力を持つ人です。子どもたちに楽しんでもらえる物語を考え、それを視覚的に表現する力が求められます。また、出版社や編集者とのやり取りも頻繁に行われるため、協調性とコミュニケーション能力も重要です。技術的には、絵を描くスキルと文章を書くスキルの両方があると有利。自己表現が好きで、物語を通じて子どもたちとつながりたいと考える人には素養があります。

絵本作家になるには

絵本作家になるために、特定の資格は必要ありません。ただし、イラストレーションやデザインの基礎を学ぶために美術系の専門学校や大学に通うことが有利です。絵本の創作に関するワークショップや講座に参加することで、スキルを磨くこともできます。出版社に作品を持ち込んだり、自費出版を通じて絵本を発表し、実績を作るのが一般的な絵本作家デビューの方法。ネット上で自身の作品を公開し、SNSやブログを通じてファンを増やすのも効果的です。絵本コンテストに応募することで作品が認知され、絵本作家への道を開いている人もいます。

ワンポイントアドバイス
最新のトレンドをキャッチし、
独自のスタイルを確立するのが重要。

絵本作家として成功するためには、子どもたちの興味やトレンドを常にキャッチすることが重要です。他の作家との差別化を図るために、独自のスタイルを確立することが求められます。定期的に子どもたちと接し、反応をダイレクトに察することで、リアルなインスピレーションを得るのも一つの手です。さらに、プロフェッショナルなネットワークを築き、他の作家や編集者との交流を深めることも有益。技術的なスキルを磨くために、新しいソフトウェアやデジタルツールを積極的に学ぶことも忘れないようにしましょう。