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研究員_是澤 櫻子さん
インタビュー公開日:2026.06.05

受け継ぎ、伝えていくべき宝物を展示し、
アイヌ民族の歴史と文化を伝えていく。
先住民族・アイヌが綿々と生活を営んできた北海道白老町。その文化を紹介する施設として、修学旅行のコースとしても定番だったアイヌ民族博物館・しらおいポロトコタンを基盤に2020年、新たな施設がオープンしました。「国立アイヌ民族博物館」、「国立民族共生公園」、「慰霊施設」により構成される『民族共生象徴空間(愛称:ウポポイ)』です。アイヌ民族の歴史・文化を伝える中心施設として、展示や調査研究を通してそれらを伝承・共有することを目的として新設されたものです。
「施設の中心となる基本展示室には、『イコㇿ トゥンプ』という名前がついています。アイヌ語でイコㇿは宝物、トゥンプは部屋という意味なんです」
そう話すのは『国立アイヌ民族博物館』の研究員、是澤櫻子さん。
展示されているアイヌ民族の資料はどれも、受け継ぎ、伝えていくべき宝物。やさしく、わかりやすい語り口のなかに、ご自身の仕事に対する熱い情熱が感じられます。
「博物館の展示って、大抵はケースの中に入っており、当然ですが、そもそも触れられないことが普通です。そこで、レプリカ等にはなりますが、手で触れて感じてもらえる展示なども工夫して行っています」
展示物を通してアイヌ民族について理解を深めてもらいたい。そして、歴史と今に続く文化や風土を知ってほしい。そう力を込めつつ、楽しくて仕方がないという表情です。
専門知識を持つ職員から自らも学びつつ、
アイヌ民族についての問い合わせを担当。
『ウポポイ』を管理・運営する公益財団法人アイヌ民族文化財団に、是澤さんが入職したのは、同施設が開業した2020年。当初は、国立アイヌ民族博物館研究交流室という研究機関など外部とのネットワークづくりを担う部署に所属していました。
「そこでは、アイヌ文化やその歴史に関する問い合わせ(リファレンス)業務をメインに担当していました。例えば、『アイヌ民族について教えたいが、どんな文献を読むと良いか。参考になるものはないか』といった教育関係者からの問い合わせに対して、調べ方などを回答するといった業務です。また、多く寄せられる質問については、一般向けの知識として整理し、ホームページに掲載する業務にも携わっていました」
アイヌ民族については、ずっと関心を抱いていたものの深い知識を持っていたわけではなく、是澤さん自身、入職後に業務を通して学んできています。そのため、外部からの質問への回答について、周囲の職員に聞きながら作成し自らも覚えてきたのだそうです。
「アイヌ文化をはじめ、文化人類学、考古学、近現代史、美術史など高い専門性を持った職員が大勢いるので、回答作成と同時に勉強することができた、貴重な時間でした」
アイヌ民族への理解を深める、一つのきっかけになるようなサイトにしていきたいと、ホームページの充実にも力を注ぐ是澤さんです。
アイヌ語の響きに惹かれ関心を抱き、
研究者を目指したことがきっかけに。
白老町から車で30分ほどのところにある登別市。全国有数の温泉地であり、また、全国でも珍しい施設があります。ヒグマを飼育・展示する「のぼりべつクマ牧場」。中学生の頃、実家のある埼玉県から家族旅行でこの施設に立ち寄ったことが今、自分がここにいるきっかけになっているのだと是澤さん。
「同じ敷地内にあるアイヌ民族の文化遺産を保存・展示する「ユーカラの里(アイヌコタン)」で、アイヌ語の単語表のようなものをいただいて。なんてよい響きなんだろうと感じ、それがずっと心に残っていました」
言葉を通してアイヌ民族に関心を抱いた是澤さんは、今に続くその歴史を知りたいと思い、そこから歴史という分野に興味を持ちます。『知っておかなければいけないこと』がある。そう考え、いつしか研究者の道を目指します。
「両親が大学の研究者だったことも影響していますが、同時に、研究者の道の厳しさも知っていました。そこで、修士課程には進んだものの研究を続けるのではなく就職しようと。仕事を通して研究にも携われる環境はきっとある。そう信じて出会ったのが『ウポポイ』でした」
博物館関連の求人を調べるなかで見つけた、開業時のオープニングメンバー募集。「あっ、見つけた!」という感じでチャレンジしたのだと振り返ります。
主な業務は展示の改善と、特別展示の企画。
全国の博物館へ資料借用のトラック旅も!
研究交流室を経て、部署異動により現在は展示企画室というセクションに所属する是澤さん。文字通り、展示を担当する部署で、業務の一つが常設の基本展示室の展示替え。年6回ほど、展示の改善を行うという業務です。
「開館して6年目を迎えるなか、わかりにくいといった声をいただいたら、館内で協議をしながら文言を変えたり、展示の仕方を工夫したりしています。私たち自身で、文字を打ってキャプションを制作し、据え付けるといった作業も行うんですよ」
もう一つの業務が、年4回ほど開催する特別展示やテーマ展示の企画・準備。展示企画室全体や、専門グループ(是澤さんは歴史社会グループ)で展示内容を考え、つくりあげていきます。
「特別展示では、壁や天井を設営してくださる業者さんなどと一緒に会場をつくり上げていきます。美術梱包や輸送を専門にされている方々の、細やかで丁寧な仕事には本当にカルチャーショックを受けました」
多くの専門家の技術や知識が集まり、一つの展示が形になっていく。その過程に、毎回感動するといいます。
また、アイヌ民族に関する資料は全国各地の博物館が所蔵しており、展示内容に合わせて借用します。そこで依頼する専門の輸送業者さんのトラックに同乗し、現地に行くこともあります。長崎まで行ったこともあるそうですが、「トラック旅、すごく楽しいですし、パーキングエリアにめちゃめちゃ、詳しくなりました(笑)」
初めて覚えたロシア語は「ゴキブリ」
企画した展示への反応が喜びに。
歴史学を専攻し、大学院で文化人類学を修めた是澤さん。アイヌ民族は北海道だけでなく、ロシアに関わる地域にも多く暮らしていたそうです。そこで、まずはロシアのことを知らなければと1年間、ロシアで生活を送ります。
そこで住んでいた部屋がゴキブリだらけなので文句を言おうと、ロシア語でゴキブリ=タラカーンという言葉を最初に覚えたのだとか。華奢な見かけのなかに、豪放さが同居しています。
「アイヌ民族の資料は、誰がいつ、どこで使っていたかといったことがわからないものが多いんです。その糸口を探るためにロシアに行かなくちゃと。現在は、交易の記録をまとめたロシア語文献の整理・翻訳を行っています」
アイヌ民族と関わりの深いウイルタ、ニヴフなどロシアの少数民族の研究者、石田収蔵が残したフィールドノートの翻刻(※)作業にも取り組み、研究者としても地道に活動を続けています。
「研究をもとにした展示が完成し、観た方からコメントをいただいたり、職員からフィードバックをもらえたりする時、ある種の社会貢献ができていると、喜びで心が動くんです」
「オポンパケ」。是澤さんの名札に書いてあるのは、アイヌ語(旭川方言)でエビ。エビが好き過ぎて両親に食べるのを止められた小さい頃の自分のニックネームです。何ごとにもこだわり、一心に突き進む。そんな是澤さんです。


※古い文献のくずし字などを現代の活字に置き換えること

シゴトのフカボリ
研究員の一日
8:45
出勤、メールチェック、展示室の見回り
9:45
特別展示関連イベントの打ち合わせ、資料借用の準備、来館者への質問対応など
12:00
昼休憩
13:00
特別展示図録の校正、原稿整理
15:00
展示替えキャプション制作、リスト作成
16:00
次回展示に向けた打ち合わせ、展示室の見回り
17:30
退勤

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具

調査セット
全国の博物館に資料の調査や、借用・返却に行く際に必須となる道具類です。メジャーやノギス、博物館によっては必須となる手袋、資料の状態などを確認するためのライト。メモなどは、博物館業界では基本的にすべて鉛筆で描きます。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

アイヌ民族のことを調べるには、関連の深いロシアに行かなければ。そう思って、言葉も知らないのにシベリアに行きました。ゴキブリの洗礼は受けましたが、おかげで今はロシア語の文献で研究を続けています。まずは行ってみる、やってみる。とびこんでみれば道は開けます!

公益財団法人 アイヌ民族文化財団

1997年、設立。アイヌ文化等に関する研究の推進、アイヌ語を含むアイヌ文化の振興、アイヌの伝統・文化に関する知識の普及・啓発に取り組んでいます。
(写真:国立アイヌ民族博物館)

住所
北海道札幌市中央区北1条西7丁目 プレスト1・7(本部)
TEL
011-271-4171
URL
https://www.ff-ainu.or.jp/index.html

お仕事データ

研究から新たな発見を!
研究者
研究者とは
テーマや課題を決め、
実験や調査から論文を発表。

医薬品や医療技術、災害対策、遺伝子工学に政治学に文学…。多種多彩な分野の中からテーマや課題を決め、研究を行って論文を発表するのが研究者の仕事。実験や調査によってデータを収集しながら、新たな発見につなげていきます。最近では日本からもノーベル賞の受賞者が相次いでいるため、若い研究者にとっては大きな刺激に。大学や国立研究所などの公的機関に勤めている人もいれば、医薬品メーカーや製薬会社といった民間企業で研究をしている人もいます。

研究者に向いてる人って?
探究心が人一倍強く、
粘り強く研究を進める根気強さも必要。

物事の本質や真実を深く掘り下げる探究心を原動力に行動できる力が求められます。また、多くの研究者が長年取り組んできたものの、いまだにわかっていないことも数多いことから、粘り強くコツコツと研究を進められる根気強さも必要。実験や調査の内容を整理し、論文を発表するための論理的な思考能力も不可欠です。

研究者になるためには

研究する分野によって異なりますが、一般的に研究者は専門性が高く、高度な知識が求められる職業。採用においては大学卒業以上の学歴が求められるケースが多いでしょう。とはいえ、ロボットを製作するような機械メーカーの場合は高専で即戦力を身につけた人材を採用したり、食品メーカーでは専門学校で栄養学を習得した人が活躍したり、基準が決められているわけではありません。まずは自分の研究したい分野をリサーチしてみましょう。

ワンポイントアドバイス
これからは高い語学力が必須スキルに。

研究者に必要とされる知識や資格は分野によって異なります。ただし、共通していえるのは高い語学力を持っているほうが有利だということ。最近ではグローバル化が進み、理系・文系に関わらず、学術誌での発表を目指して論文を英語で書くのが当たり前の時代に。海外の論文や資料を読めなければ調査が深まらないこともあり、少なくとも英語だけは高いレベルで読み書きできるようにしておくと良いでしょう。また研究内容によっては、外国人との相互理解が必要になるものもありますので、英会話も含めてバランスよく英語を習得しておくことが大切です。