永峰 賢さん
インタビュー公開日:2018.06.11

人のために。地球のために。
革新的な微生物の研究をしています
微生物は、目に見えない小さな生物。細菌や菌類、原生生物(アメーバ、ゾウリムシなど)などがあり、顕微鏡で見えるものから見えないものまで、私達の身の回りに無数に存在しています。
微生物研究者として働く永峰さんが扱うのは、人の身体の健康や、地球温暖化などの環境問題の改善に直結する微生物。
「たとえばDHA(ドコサヘキサエン酸)は、心血管疾患のリスクを低減させ、中性脂肪を減らす働きがあり、魚から摂取できる事で知られています。おおもとをたどると、魚が食べるプランクトン、更にそのエサとなる海洋性微生藻類という微生物が、DHAを生産する事がわかっています。この微生物を摂取できるように加工し、サプリメントとして商品化するわけですが、その過程である『効率よく微生物を増殖させること』が私の仕事です」
微生物が最大限増殖する条件を見つけるために、温度やエサの種類など組み合わせを何通りも試すのが主な実験内容。DHAは顕微鏡では見えないため、特殊な機器で燃やして数値化し分析する工程が含まれます。
「だいたい一週間単位で実験を行いますが、目的の微生物がこれまでになく増える条件を見つけた時は、感動ですね」
実験に明け暮れた大学時代
自分で考え、証明する楽しさにハマる
中学生の頃、テレビで『生物や進化』に関する特番を目にして以来興味を持ち、理系に進んだ永峰さんは、香川大学 農学部 生命機能科学科に進学。そこで行われていたタンパク質の研究に永峰さんも携わることになり、日夜実験の日々を送ります。
「考えて仮説を立て、実験して、結果が出る。仮説どおりの結果が出ないこともありますが、そんな時は違う方法を試します。自分で考えたことを実験で証明できる楽しさに、ハマりましたね」
また、同じ実験でも他の人が見落としていた事を永峰さんが発見し、論文を一つ書いた事もあるのだとか。
「新しい発見でした。前の人が実験で使ったサンプルが古かった事が原因でしたが、見つけた時は嬉しくて叫びました(笑)。教授からは『落ち着いて再現性を確かめなさい』とたしなめられましたが…」
大学院に進んだあと、1年間民間企業に就職しますが、やっぱり実験に専念したいという強い思いから博士課程に進みます。
研究職の進路は二通り。
民間か、大学か。
博士課程を修了した後は、ポストドクターとして北海道大学に1年間勤めます。ポストドクターとは、任期付きで、大学や公的機関の研究員を務める職務。在職中に現在のしごとの求人を見つけ、就職に至ります。
「地元北海道で自分の知識や経験を活かしたいという気持ちが強かったので、すぐに応募しました。」
タンパク質の研究をしてきた永峰さんにとって、微生物の研究は経験がない分野。不安はなかったのでしょうか?
「一つの分野を掘り下げて、研究を続け、教授を目指す道などもありますが、私の場合は研究分野にはこだわっていませんでした。仮説を立て、実験をし、結果を分析する工程はどんな研究にも共通しています。逆に色々な分野を経験する事で応用力が身につくと思っています。」
成果が出る確率は1割以下!?
1年間結果が出ないことも。
野球の場合、バッターは3割打てれば良い方といいますが、研究者は1割でも成果が出れば良い方と永峰さんはいいます。
「一つの研究を始めても、仮説どおりの結果が出るとは限りません。1年間結果がでなかったこともありますよ」
また、企業での研究には、時間や期間の制約が伴います。
「今のプロジェクトは3年という期間が設けられていますが、3年目の現在、ようやく、微生物を効率よく増殖させ、製品化させるという所まで見えてきました。」
ただ製品化させれば良いという事ではなく、企業では利益を生む必要があります。このため、やる事も幅広いのが企業の研究職の特徴。
「会社の規模が小さいこともありますが、他社製品の調査や特許にまつわる調査、製品化に向けての社内会議、製品の説明用のパンフレットやポスターづくりから、商品の発送まで、研究の合間にいろいろなことをやっています」
研究職の土台づくりは学生時代
たくさん実験をしてほしい
研究職に就くうえで大切なことを伺ってみると、こんな答えが返ってきました。
「学生時代にいかに実験の経験を積み重ねられるかが大切ですね。自由に研究できるのは学生時代だけ。本格的に研究できる期間は、学部生で半年から1年ほど、修士課程まで進学すると1年と半年程度、博士過程までいくと合計で6から7年ほどです。学部生で卒業すると就職活動があるのであまり研究時間は取れません。修士課程まで進学しても研究できる時間はあっという間に過ぎてしまいます。」
実験をする上で必要な、『仮説を立てる⇒実験する⇒考察する』という思考の流れは、ほぼ学生時代に出来上がるといっても過言ではないと永峰さん。言われたからやるのではなく、答えのないことを自分で考える・思考錯誤するクセを学生のうちにつけておくべきと、力強く話します。
「研究テーマはなんでも良いと思うので、アルバイトはほどほどに、たくさん実験をしてほしいと思います」
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

自分で考えることが何より大切です。言われたからやるのではなく、考えて仮説を立て、実験し、考察する。これを繰り返す事で思考力が身に付き、成長します。

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
マイクロピペット
非常に少ない液体を正確に採取する機材。これらを使うと1/1000 mL から1 mLまでを正確に採取できます

株式会社ロム

平成15年に設立。微生物を利用した新技術・新製品の研究開発や、製造販売、環境保全対策に関する企画、研究、開発などを行っている。

住所
北海道札幌市中央区南2条西6丁目14-5 大友ビル5F
研究所:北海道札幌市北区新川794-7
TEL
011-208-7788
URL
http://www.rom-ef.co.jp

お仕事データ

研究から新たな発見を!
研究者
研究者とは
テーマや課題を決め、
実験や調査から論文を発表。

医薬品や医療技術、災害対策、遺伝子工学に政治学に文学…。多種多彩な分野の中からテーマや課題を決め、研究を行って論文を発表するのが研究者の仕事。実験や調査によってデータを収集しながら、新たな発見につなげていきます。最近では日本からもノーベル賞の受賞者が相次いでいるため、若い研究者にとっては大きな刺激に。大学や国立研究所などの公的機関に勤めている人もいれば、医薬品メーカーや製薬会社といった民間企業で研究をしている人もいます。

研究者に向いてる人って?
探究心が人一倍強く、
粘り強く研究を進める根気強さも必要。

物事の本質や真実を深く掘り下げる探究心を原動力に行動できる力が求められます。また、多くの研究者が長年取り組んできたものの、いまだにわかっていないことも数多いことから、粘り強くコツコツと研究を進められる根気強さも必要。実験や調査の内容を整理し、論文を発表するための論理的な思考能力も不可欠です。

研究者になるためには

研究する分野によって異なりますが、一般的に研究者は専門性が高く、高度な知識が求められる職業。採用においては大学卒業以上の学歴が求められるケースが多いでしょう。とはいえ、ロボットを製作するような機械メーカーの場合は高専で即戦力を身につけた人材を採用したり、食品メーカーでは専門学校で栄養学を習得した人が活躍したり、基準が決められているわけではありません。まずは自分の研究したい分野をリサーチしてみましょう。

ワンポイントアドバイス
これからは高い語学力が必須スキルに。

研究者に必要とされる知識や資格は分野によって異なります。ただし、共通していえるのは高い語学力を持っているほうが有利だということ。最近ではグローバル化が進み、理系・文系に関わらず、学術誌での発表を目指して論文を英語で書くのが当たり前の時代に。海外の論文や資料を読めなければ調査が深まらないこともあり、少なくとも英語だけは高いレベルで読み書きできるようにしておくと良いでしょう。また研究内容によっては、外国人との相互理解が必要になるものもありますので、英会話も含めてバランスよく英語を習得しておくことが大切です。