似鳥 春瑠奈さん
インタビュー公開日:2018.09.27

美術の先生に憧れて歩み始めた
イラストレーションの道。
一本の線が引かれるたびに、色彩をまとうたびに、平面に命が吹き込まれていく…。まるで表現の魔術師のようなイラストレーターという職業。今回お話を伺ったのは個性あふれるタッチが人気の似鳥春瑠奈さん。まずはイラストレーターになった経緯から。
「小学校3年の時の担任が美術の先生。色の三原色とか絵の具の使い方とかを分かりやすく教えてくれたおかげで、絵画の魅力にハマっていったんです。ただその頃はイラストレーターというより、美術の先生になりたいと思っていました」
札幌の高校卒業後は、一念発起し東京のデザインの専門学校へ進学。
「イラスト一本ではなかなか就職できないと耳にしていました。まずはイラストと密接な関わりがあるデザインを学ぼうと考えたんです」
絶対にイラストレーターになる
という強い気持ちを育てて。
専門学校卒業後似鳥さんは、東京の制作プロダクションにデザイナーとして就職します。
「主にチラシやポスターなどの紙媒体の制作を受注している会社でした。もちろん誌面に必要なイラストは描いていましたが、仕事のほとんどはデザイン業務。イラストレーターになりたい、絵を描きたいという思いは日増しに膨らんでいました」
そんな折に出会ったのが、自由教育と多彩なアーティストの輩出で知られていた美術セミナー。フラストレーションを感じる日々から抜け出すために、似鳥さんはすぐに受講を申し込みます。
「仕事の傍らそのセミナーに3年間通い、イラストレーションをイチから学びました。テクニックや知識だけでなく『絶対にイラストレーターになる!』という心根を鍛え直したことが、今の自分につながっていると思います」
受講後はイラスト中心の仕事にシフト。フリーランスやプロダクション勤務の経験を経て、6年ほど前に北海道にUターン。現在は札幌を拠点に活動しています。
好きな絵を描けるのは作家。
この仕事はお客様がいてこそです。
好きな絵を思う存分描いてお金がもらえるなんて羨ましい…そんな声を耳にすることが多い仕事ですが…。
「そんな楽な商売ではありませんよ〜(笑)!周りを気にせず自由に描けるのは、画家やアーティストだけ。イラストレーターの役割は『この題材を、この価格で、こんなタッチで、この日までに描いて』というクライアントのニーズに応えること。お客様がいて、要望や発注があって、初めて成り立つ仕事なんです」
似鳥さんらしい作風を要望されることも多い反面、時には「◎◎さん(著名なイラストレーター)風に描いてもらえる?」なんてオーダーが舞い込むことも。
「さすがにその方の作風を丸写しにすることはしませんが、近い雰囲気に寄せていくことはあります。いろんなタッチや技法、表現の手段を身につけ、さまざまなニーズに対応していくことが、求められるイラストレーターになるための近道でもあります」
絵が上手も大切。けれど
知識人であることはもっと大切。
雑誌のさし絵、書籍のカバーイラスト、風景画や人物画、子ども向けのキャラクター、webのアニメーション、商品パッケージのイラストなどなど、さまざまな場面に登場する似鳥さんの作品。取材にお伺いした時も、巷で人気のフリーペーパー「歩らいぶ」のイラストマップ制作の真っ最中でした。
「その界隈を実際に歩き、細かな取材をしながら作り上げています。イラストとは頭に浮かんだイメージを描くことなんて思われがちですが、現場をこの目で見たり実際にお話を聞いたりすることも重要です」
さらに普段も時間があれば展覧会やイベントに出かけたり、作品集や新刊雑誌を見たりと、視野や知識を広める努力をしているとか。
「イラストレーターは絵が上手である前に知識人じゃなきゃ、って思います。だっていくら画才があっても、知らないものは描けないですからね(笑)」
やりがいも辛いこともあるけれど、
絵を描くのが好きなら最高の仕事。
ずばり、イラストレーターのやりがいって何でしょう?
「私のイラストが好きと発注を頂いたり、完成した作品に高評価をもらったり、パッケージを担当した商品の売れ行きが良かったり…そんな時はこの仕事に就いてよかったと思いますね」
反対に作品が意向に沿わなくて何度も描き直しになったり、懸命に書いた作品がお蔵入りになったりしたことも。
「いいことも辛いことも、両方あるのがこの仕事。それでもずっと続けてこられたのは、やっぱり絵を描くのが大好きだから。この気持ちだけは小学校時代から変わっていません」
では最後にイラストレーターを目指す若者にアドバイスを。
「たくさん練習することと、自分の得意ジャンルを持つことかな。ちなみに私が得意にしたジャンルはフード。かわいい動物とか女の子というような、誰もが手を出しやすい世界だとなかなか個性を作り出せません。このジャンルならこのイラストレーターという風に覚えてもらった方がビジネスチャンスはつかみやすいですよ」
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
イラストレーターの必需品iPad!
現在の作品はほぼiPadとタッチペンで描いています。着彩も保存も修正もラクですし、さまざまなタッチを活用できるのもベンリ。ただし若い人はいきなりではなく、画材で基本を学んでからのほうがベターだと思います。

minotake

プランナーのご主人との共同経営オフィス。週の後半はオーガニック料理やワインを提供する飲食店にもなるとか。

住所
北海道札幌市中央区南2条西3丁目13-2
パレードビルM3F
TEL
011-839-4057
URL
https://ja-jp.facebook.com/minotake.sapporo/

お仕事データ

依頼主の思いをイラストに!
イラストレーター
イラストレーターとは
多彩な媒体にイラストを描き、
楽しさや分かりやすさを提供。

雑誌や新聞、書籍といった紙媒体から、ソーシャルゲームをはじめとするデジタル分野まで、さまざまなメディアのイラストを手がけるのがイラストレーター。多くの場合は出版社や広告代理店から依頼を受け、打ち合わせを通して希望に添ったイラストを描いていきます。オーダーに応じて多彩なタッチを描き分ける人もいれば、個性あふれる絵柄で仕事を獲得する人も。他にも絵本作家と共同で制作したり、アニメキャラを生み出したり、工業製品をCGで描いたり、幅広い分野で活躍しています。いずれも、見る人へ楽しさや分かりやすさなどを届けることが大切です。

イラストレーターに向いてる人って?
絵を描くことが好きで、
個性の確立に向けて努力できる人。

イラストレーターは絵を描くことが好きであることが大前提。さらに、線描や着彩、表情付けなどのテクニックを磨き、個性を確立する努力を続けることが大切です。一見すると作家性が高そうな仕事に思えますが、依頼主の要望を理解してイラストに落とし込む力も必要。出版社や広告代理店のメンバーと仕事を進めることが多いため、コミュニケーション能力も求められるでしょう。

イラストレーターになるためには

イラストレーターには特別な資格は必要ありません。ただし、絵が好きという気持ちだけでは成功が難しく、多くの人は芸術系の大学・短大、または専門学校のイラストレーション科などで基本となる技術を身につけています。学校卒業後はデザイン会社や広告制作会社、ゲーム会社などに就職し、経験を積んでいくパターンが一般的です。

ワンポイントアドバイス
最近のイラストはデジタルが主流。
けれど、アナログの力も見逃せない!

最近では、イラストの仕事のほとんどがデジタル化されています。ゲームのキャラクターやWebサイトに掲載するビジュアルはもちろん、紙媒体の挿絵も絵画ソフトのデータで提出することが多いようです。そのため、定番のデザインソフトである「Illustrator(イラストレーター)」や「Photoshop(フォトショップ)」などを使用できるほうが有利でしょう。ただし、色鉛筆や水彩画など、アナログ画材が訴える力もあるため、どちらも扱えるとよりベターです。