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稲垣 ルーゼルさん
インタビュー公開日:2020.03.11

自分の命を守ることが何よりも大切。
しっかり手順を確認し、慎重に動く。
「安全管理を徹底させ、何よりも、自分の命を守ることで、初めて人命救助ができる。入庁以来、ずっと鉄則として教えられていることです」
 そう話す稲垣ルーゼルさんは、海上保安庁・第一管区海上保安本部に配属されて1年。小樽海上保安部所属の巡視船「ほろべつ」に乗り組み、任務についています。限られた船内、甲板スペースには、所狭しと機材が搭載されており、常に足下に注意が必要なほか、船の係留に使うロープも、誤った扱いをすると思わぬ怪我の原因になるのだそうです。
「港にいる時はまだしも、海上で風による波やうねりが強く、船が揺れているような時には、しっかりと作業手順を確認したうえで慎重に動くことが求められます」
このため、任務中は集中力も必要になるとのことですが、上下する幅の狭い甲板をすいすいと歩いていく稲垣さん。身軽な身のこなしは、すでにいっぱしの海上保安官といった風情。いきいきとした姿が印象的です。
北海道で働き、潜水士を目指したい。
その思いから選んだ配属先と巡視船。
北海道全域を管轄する第一管区海上保安本部を選んだのも、同本部が保有する37隻の巡視船艇のうち「ほろべつ」を志望したことも、稲垣さんのある思いからでした。生まれた土地であり、幼い頃に暮らしていた記憶がある北海道。
「その後は、関東地方で暮らしていましたが、毎年、親戚に会いに北海道を訪れるなかで自然の素晴らしさ、四季の美しい風景に魅せられ、ぜひここで暮らし、働きたいと思うようになりました。この巡視船に乗り組みたいと考えたのは、潜水指定船だったからです」
海難救助や捜索に当たる潜水士の活動は、海上保安庁における大切な任務であり、高度な技術と知力・体力を鍛えあげてこそなれる、いわば花形の仕事、そして稲垣さんの目標でもあります。北海道内に配備されている巡視船のうち、潜水士が常時乗り組んでいるのが、この「ほろべつ」と、釧路海上保安部所属の「えりも」なのだそうです。
「志望どおりの配属となり、モチベーションがさらにアップしました!」
まずは〝船乗り〟になることから。
資格取得と実践技術を学ぶ1年間。
「人として正しいことを行い、人のことを考える。祖父から、厳しく指導を受けるなかで、いつしか、誰かを助ける仕事に就きたいと考えるようになっていきました」
思い浮かんだのは警察官や消防士。そして、公務員を目指して学んだ専門学校で海上保安庁の仕事を知ります。興味を抱き、調べていくなかで、潜水士の業務に目が止まりました。
「海難救助だけでなく、災害時にも人命救助を行う特殊救難隊など、さまざまな場面で活躍できる潜水士。海でも陸でも幅広い任務を担えることにも魅力を感じたんです」
入庁後は1年間、教育機関である舞鶴(京都府)の海上保安学校で主に四級海技士という資格を取得するための勉強をするそうです。海図の見方から係留索と呼ばれるロープを扱うテクニックまで〝船乗り〟になるための実践技術もここで身につけます。
学校では、学級長や分隊長という役職を担い、仲間をまとめてきた稲垣さん。1年間、ともに過ごした同期は、配属後も連絡を取り合う心強い味方となっています。
甲板業務、船の整備からスタート。
航海時には指示のもと操舵も担当。
巡視船「ほろべつ」は、海上警備、密漁者の取締り、不法投棄の監視などの任務を行いつつ、海上で遭難や船舶事故などの事案が発生すると捜査・救助に当たります。
「小樽の港で待機して事案の発生に備えるほか、定期的な巡回を行っています。航海は数日間に及ぶこともありますが、この船は小型船なので、あまり長い航海は行いません」
海上保安官としての基本は船を扱う技術だと話す稲垣さん。配属後は船を係留したり出港させるための甲板業務からスタート。港に停泊中には、係留索の補修、機器のグリスアップ、甲板上の機材を保護するキャンバス地のカバーの修繕など船の整備も行うそうです。
「航海時には操舵も担当します。〝面舵(おもかじ=舵を右に切る)!〟といった指示を受けると、復唱して確認し、舵を動かします」
指示通りに正確に操舵することが任務ですが、波が強く、船体が振れるような場合に、舵を切った方向とは逆に動かす〝当舵(あてかじ)〟を自らの判断で行うこともあるそうです。
「操船技術をさらに磨くことも目下の目標となっています」
自分に向いていることができる環境。
志向に合わせ多様な仕事を目指せる。
たとえば、舵が故障した場合、万が一船が沈没してしまいそうな場合など、緊急事態に備えた訓練も、定期的に実施されます。
「さまざまなことがスケジュールに沿って時間通りに行われます。正直、忙しいですが、逆に言えば日々、変化があります。私には、それも魅力に感じられるんです」
多様な経験をしていくなかで自分に向いていることを見つけ、将来的に携わっていける環境があるのだと稲垣さん。巡視船のエンジニアや調理、航空機の整備士、通訳官など、いろいろな仕事を目指せるのだそうです。今は潜水士訓練の補助も担当している稲垣さん。
「各所で経験を積んだ多くの先輩から学び、潜水士としてテロ対策になどにも当たる特殊警備隊で活躍できれば、と思っています」
力強く夢を語りますが、実は船に酔いやすい体質なのだとか。それでも、船上での食事はいつも完食します。
「おいしいご飯があるから、この仕事を続けていられるんです!」
いたずらっぽく話す稲垣さん。〝タフさ〟もしっかり身についてきているようです。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

私が目指しているのは潜水士ですが、海上保安官の仕事は船だけでなく陸上、航空機など多種多様。さまざまな技術を身につけ、海の安全と秩序を守る役割をしっかりと果たしていきたいと思っています!

シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
レッド
船を固定する係留索(ロープ)を、岸壁へと投げるために先端に取り付けるレッド。丸い部分に鉛の重りが入っています。この編み込みを行うのも船乗りの技術の一つです。

海上保安庁 第一管区海上保安本部

海難救助、海洋環境の保全、災害への対応、船舶交通の安全確保などを目的に、海上を舞台に幅広く活躍しています。全国に11の管区海上保安部を設けています。毎月18日は職業説明会『海保を知る日in北海道』を実施中。詳しくは下記URLよりご覧下さい。

住所
北海道小樽市港町5-2
TEL
0134-27-0118
URL
https://www.kaiho.mlit.go.jp/01kanku

お仕事データ

海上の安全と治安を守る!
海上保安官
海上保安官とは
海の安全維持や事故対応、
救助活動によって国や国民を守る仕事。

海上の安全と治安を守るのが海上保安官の任務。海難者の捜索や救助活動、犯罪やテロ行為などを未然に防ぐパトロール、時には密航船に警告を発し、威嚇のために相手の船へ放水を行うこともあります。火山の噴火から避難する人々に物資を届けたり、船舶の火災の消火活動を行ったり、海上の幅広い問題の解決も守備範囲。また、陸上でも海上交通ルールの設定や海図の作成、総務や経理といった業務を担う人も。各地の基地に配備されている飛行機やヘリコプターの整備・運航にあたる海上保安官もいます。

海上保安官に向いてる人って?
強い責任感と正義感を持ち、
体力や協調性にも自信がある人。

海上の安全や人命を守ることが海上保安官の大きな役割のため、強い責任感や正義感を持っていることが大前提。海という自然と対峙しながら海難救助や不審船への対応を求められることからも、体力に自信がある人にも向いているでしょう。また、海上保安学校や海上保安大学校への入学時に水泳能力は問われませんが、授業によって訓練を受けて泳げるようにならなければなりません。チームや他部署と連携して仕事をすることも多く、協調性も必要です。

海上保安官になるためには

海上保安官になるためには、海上保安学校(京都府舞鶴市)か海上保安大学校(広島県呉市)に入学する必要があります。高校または中等教育学校(中高一貫校)の卒業が最低条件です。いずれも試験は国土交通省職員の採用も兼ねているため、入学時から国家公務員として扱われ、給与が支払われます。海上保安学校は課程によって1~2年、海上保安大学校は4年間の本科教育に加え、実務を学ぶ6カ月の専攻科と国際業務課程と呼ばれる3カ月の研修を経て各地に配属されます。また、令和2年度からは海上保安庁の「幹部」となる職員を養成するために、大学卒業者を対象として「海上保安官採用試験」を新設。この場合、2年間の研修を経て現場に赴任されます。

※海上保安学校、海上保安大学校については、詳しくは海上保安庁のホームページをご確認ください。https://www.kaiho.mlit.go.jp/

ワンポイントアドバイス
海上保安官の中の
スペシャリストたち!

海上保安官の中には、経験を積んだ後に本人の希望や適性などによって専門性の高いスペシャリストの道を歩む人も少なくありません。例えば、潜水訓練を受け、船舶の転覆や沈没などの海難事故に遭遇した人を船舶から救出する潜水士。その中からさらに選抜された人は、火災で燃えている船や危険物を搭載している船など、特殊な状況下で人命救助を行う特殊救難隊として活躍しています。他にも、ヘリコプターによる救助を行う機動救難士、船舶事故などによって海上に排出された油や有害液体物質の除去を行う機動防除隊、外国人犯罪の捜査にあたる国際捜査官などのスペシャリストがいます。