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江﨑 佑さん
インタビュー公開日:2020.10.26

田舎暮らしを実現させるために、
農業の道を歩もうと考えました。
ブルーベリーやハスカップ、いちごなどのベリー類の他、ブロッコリーやスイートコーン、かぼちゃといった野菜も主力に据える株式会社esaki。代表の江﨑佑さんは愛知県名古屋市のご出身です。
「都会のサラリーマン家庭に生まれ育ち、生活には何不自由ありませんでした。ただ、人混みやコンクリートに囲まれて生きていくことが、自分の肌にはどうにも馴染まず…。高校2年生のころには、将来は田舎で暮らしたいと強く思うようになりました」
その夢を現実にするために選んだのが「農」の世界。高校卒業後は、農業を学ぶために北海道大学の農学部に進みました。
「とはいえ、農学部の学びは研究機関としての色合いが濃いため、卒業論文を早めに仕上げた後はアチコチで住み込みの農業バイトを経験しました。芋掘りだったり、花卉栽培だったり、いろんな農家のもとで働くとともに、お酒を酌み交わしながら農業の『リアル』を聞いたのも貴重な経験です」
理想の暮らしを細部まで描き、
目標に向けて動き出しました。
江﨑さんは学生時代にさまざまな農家を訪ね、アメリカでバックパッカーとしても旅する中で、田舎暮らしの理想像を細部まで描くようになりました。
「40歳までには家を建て、農作業から帰ってきたら奥さんと子どもが待っている。リビングに据えた大ぶりのソファでくつろぎながら、たまに趣味のギターを弾いたりして。そんな目標に向かうべく動き出しました」
とはいえ、大学卒業とともに農場を経営するのは至難の業。しばらく夢を温めていたところ、大学時代の恩師から願ってもない話が舞い込んできました。 
「札幌を代表する洋菓子メーカーの『きのとや』が、自社農場をつくるにあたり、その責任者を探していると聞いたんです。一も二もなく挑戦させてもらいました」
江﨑さんはきのとやの力強いサポートを受けながら、約2年の農業研修で作物の栽培技術や農場の経営ノウハウなどを学び、2009年に長沼町にきのとやファームを設立。農家としての第一歩を踏み出しました。
さまざまな考え方を尊重し、
地域と共生することが大切。
当初、江﨑さんはきのとやの洋菓子に使われるベリー類を中心に栽培。作付の失敗や収量の確保に苦しみながら、「5年以内の黒字経営」を目指しました。というのも、きのとやの社長(現会長)とは5年で黒字化しなければキッパリと身を引くという約束を交わしていたからだそうです。
「果樹は新たに植え付けても実を結ぶまでには長い年月がかかります。ベリー類だけでは経営の安定化を図るのが難しいため、長沼町の特産ともいえるブロッコリーの栽培に乗り出しました」
近隣の先輩農家はブロッコリーの栽培技術や防除のポイントを惜しみなく教えてくれたとか。おかげで立派なブロッコリーが収穫でき、栽培面積を徐々に広げたり、かぼちゃやスイートコーンなども作ったり、農園の経営が軌道に乗り始めました。
「こんなふうにご近所さんに助けられることもあれば、その逆もあります。農業は地域なくして成り立ちません。周囲のさまざまな考え方を尊重し、共生するという価値観も大切です」
「より良く」することが、
農業の面白みです。
きのとやファームの設立から5年、江﨑さんは見事に経営の黒字化を果たしました。きのとやには大きな感謝を抱く一方、農業人として自らの作物を自らの名前で売りたいという気持ちが湧き上がり、2015年には会社名を株式会社esakiに変更、ジョージ農園として再スタートをしました。
「この間に妻の広呂香と結婚し、子どもも授かりました。時には朝から晩まで働き詰めだったこともありましたが、家族の存在が心の支えになっていたと思います」
現在、江﨑さんは社員2名を雇い、作業にも余裕が生まれました。「会社」としての体制も徐々に整えながら、旬を大切にする農業のスタイルに磨きをかけています。
「それぞれの作物を旬の時期に収穫して食べるのが一番おいしく、無理のない育て方ができるはず。そのためにより良い土を作り、より良い管理方法を目指しています。今の農園を毎年より良くしていく…それが農業の深みでもあり、面白さの一つです」
お金ではない豊かさが、
田舎暮らしと農業から得られます。
株式会社esakiでは江﨑さんが農園を運営し、奥様はHIROKA JAMとして自社のベリー類を中心とするジャムづくりを担当。二人が掲げるスローガン「この⽥舎で豊かに暮らし、その価値を都会に届けよう」を実践すべく、収穫した作物や手づくりジャムはもちろん、最近はブルーベリー狩りでも田舎のおいしい空気や時間を多くの人に感じてもらっています。
「今は家族と過ごす時間が本当にたっぷり。ドアノブにおいしいおすそ分けがかかっていたり、のびのびと子育てできる環境がそこかしこに広がっていたり、田舎の暮らしは豊かだと毎日のように実感しています」
昨年、江﨑さんはご自宅を新築。「都会に比べると信じられないような価格です。ちなみに、40歳までに家を建てるという目標も達成しました」と笑います。
「農業はいいもの作るだけではなく、どこにどう売るかという経営感覚も必要。ハードルは決して低いわけではありませんが、その先にはお金では買えない幸せが手に入ると思います。若い人にはこうした生き方も選択肢の一つに考えてほしいですね」
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

豊かな食文化や自然環境、素敵なライフスタイル、地域との助け合い…田舎には都会が失ってしまった大切な価値が身近なところに転がっています。こうした田舎暮らしを楽しむために農業はオススメですが、他にも仕事はたくさんあるものです。皆さんの理想とする生き方や暮らし方を田舎に見出すことができたら、ぜひ若いうちに動き出しましょう。

株式会社esaki、HIROKA JAM

ベリー類や野菜を作る農園部門は「ジョージ農園」、自社農園のベリー類を中心に手づくりするジャム部門は「HIROKA JAM」として展開。自然に囲まれた豊かな環境の中で、人と人のつながりを大切にする、古いようで新しいライフスタイルを実践。その価値を発信していくことがミッション。

住所
北海道夕張郡長沼町東6線北13番地
URL
https://www.esaki-family.com/

お仕事データ

米や野菜、果物を生産する専門家。
農家
農家とは
土づくりから植え付け、収穫、
出荷までを担うプロフェッショナル。

米や野菜、果物などを生産するのが農家の仕事。土づくりに始まり、種植え・田植え、収穫までを一貫して行います。植え付けから収穫までの期間は作物によって異なり、数カ月程度で実る野菜から数年かかる果樹までさまざまです。また、作物の成長や地質に合わせて肥料を追加したり、雑草を除去したり、病害虫の駆除も欠かせません。育てた作物は農業協同組合に出荷する他、最近ではインターネットを活用した直売やスーパーとの契約栽培など、ビジネススタイルは広がっています。

農家に向いてる人って?
自然の中で働くことが好きで、
根気強く作物と向き合える人。

農家は自然の魅力や季節の移ろいを感じながら働ける仕事。アウトドアや土にふれて生きることが好きな人には向いているでしょう。時には天候不順や病害虫の発生によって悩まされることもあることから、コツコツと試行錯誤を繰り返す根気強さも必要です。個人で農家を営む場合、経営者としての判断力や販売先を広げるビジネスセンスも問われます。

農家になるためには

農家になるために必要な資格や学歴はありません。実家が農家を営んでいる場合は、仕事の手伝いを通して実践的にスキルを磨き、家業を受け継ぐケースが多いようです。また、農業高校や専門学校、農業大学校、大学の農学部などで農業の基礎から学ぶ人も少なくありません。個人事業主として開業するには農業生産の研修を受け、農地や農業機械を手に入れた上で農業を営むことができます。最近では農業法人や大規模農家に就職したり、新規就農相談センターが実施する研修などで学び、就農する道もあります。

ワンポイントアドバイス
国としても農家になりたい人を
熱烈にバックアップ。

日本では食の安全・安心への意識が高まっている他、食料自給率が低いことが課題にもなっていることから、農業に関心を寄せる人が増えているようです。そのため、農家は今の世の中に必要とされ、まだまだ可能性に満ちている仕事といえます。国としても、農家になりたい人を応援しようという気運が高まり、農林水産省が新規就農者への給付金を支給する制度をスタートさせました。「45歳未満であること」「都道府県が認めた研究機関で1年以上研修すること」などの条件はありますが、この制度を活用することで初期費用の負担を抑えて就農することができます。