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由利 花織さん
インタビュー公開日:2020.11.24

農家の仕事は一年中。
冬にも収穫があります。
農の仕事というと春に種を撒き、夏から秋に収穫し、冬はお休み。なんとなくそんなイメージがあります。
「でも、品目によっては冬に収穫したり、出荷したりするものもあります。また、来季の準備をしたり、販売計画をたてたりと結構一年中やることがあるんですよ」
そう教えてくれたのは、江別にある「アンビシャスファーム」の社員として働く由利花織さんです。少量多品種栽培を行うアンビシャスファームでは、ナスやミニトマト、とうもろこしといったスタンダードなものから、スイスチャード、金美人参、セロリアックといったちょっと珍しいものまで、年間100品種もの野菜を作っています。由利さんは販売チームのリーダーとして、作物の収穫から出荷作業、販売を担当。11月初旬のこの日もサツマイモみたいな赤い皮の大根「紅くるり」を洗浄したり、スーパー販売用にキャベツをカットして、袋詰めをしたりと出荷作業に大忙しです。
農を学ぶ道を志すも、
未練を残しての進路変更。
由利さんは24才の時に旅行代理店を退職し、農の世界に飛び込みました。意外な転職と思われがちですが、中学生のころからずっと農業に興味があったのだそう。
「祖父母が農家だったんです。ふたりが野菜をつくり育てる姿を見たり、手伝ったりする中で、いつしか農の道に進みたいと思うようになりました」
その思いを胸に農業系の学科のある大学への進学を目指しましたが受験に失敗。未練を残しつつ専門学校へ進学し、卒業後は旅行代理店のカウンターでたくさんのお客様の旅の相談に乗ってきました。
「地理が好きだったので観光の分野にも興味がありました。旅行代理店では幅広い層のお客様と接することができて、仕事は楽しかったです。でも・・・」
と由利さん。
「やり残したことがある、って思いが消えなかったんです。やっぱりやりたい、後悔したくないって」
新聞でアンビシャスファームの記事を目にしたのはちょうどそんなころでした。
やっぱり農業がやりたい。
思いに迷いはありませんでした。
その記事に紹介されていたのは、由利さんにとってまさに理想の農業の形でした。
「なによりも魅力だったのは自社でマルシェを開催しているということでした。自分たちが手掛けた野菜が、消費者のもとに届くのを見届けられる。消費者と生産者の距離が近い農業をやりたいという思いと、『たべる人とつくる人を幸せにする農業』という会社の理念にも共感しました。そしてまだ若いこの農場の未来を私も一緒に作っていきたい、そう思いました」
採用してもらえるかわからない、そもそもスタッフの募集をしているのかもわからない。でも、思いに突き動かされるように会社に辞意を伝え、自分の気持ちをしたためた手紙をアンビシャスファームに送ります。それから半年後、由利さんはついに夢の第一歩を踏み出しました。
作って売るだけじゃない。
農の仕事は幅広いんです。
入社後は、苗植え、種まき、栽培、収穫、出荷と、その時期その時期の作業を先輩や仲間に教わりながらひと通り経験しました。
「畑にいると開放感でいっぱい。毎日がとても楽しいです」
一方で予実管理(予算や実績を管理すること)や売上計画、出荷計画といった、数字を扱う業務はちょっと苦手なのだとか。作って売るだけでなく、こうした数字を管理することも農業を営む上では大切な仕事です。
アンビシャスファームでは、毎年5月下旬から10月末の土曜に市内でマルシェを開催します。「たべる人」との距離が最も近くなる絶好の機会です。
「品種が多いので、お客様にきちんと説明するためにも、それぞれの特徴を学び、自分で調理して、食べて、良さを伝えられるようにしています」
逆に常連さんから美味しい食べ方を教えてもらうこともあるのだとか。野菜が美味しく見えるようにディスプレイを工夫したり、手書きポップを作ったり、お客様に少しでも野菜を楽しんでもらう方法を考える。由利さんの腕の見せどころです。
たくさんの人が「農」を
楽しめる場所をつくりたい。
「マルシェでお客様と接することがなによりも楽しいです。『この間の野菜、美味しかったよ~』って言われるとうれしくて」
由利さんは、人見知りで人と接するのは苦手なのだと言いますが、それよりも仕事の魅力が圧倒的に勝っているようです。
「人が集まる農場を作りたい」その夢の第一歩として、2020年は農業体験の受け入れを行いました。
「この農場の中に直売所を作ったり、食べるところを作ったり。もっともっと多くの人が気軽に農に触れる機会を作りたいんです」
スタッフが集う休憩スペース飾ってあった一枚の絵。楽しげな絵の中には、スタッフみんなの夢がつまっているそう。そして、それはただの「夢」ではなく、叶えるべく会社の10年ビジョンでもあるのだと教えてくれました。これが実現したら、とっても楽しそう。この絵が現実になる日を楽しみに、農場を後にしました。
シゴトのフカボリ
農場スタッフの一日
8:00
出勤、朝礼
8:15
当日便やレストランへの出荷準備
10:00
スーパーへの出荷作業
12:00
昼休憩
13:00
昼礼
13:15
出荷作業再開
16:00
翌日分の準備 事務作業など
17:00
退勤
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
スマートフォン
LINEを使って常に作業の進捗などの情報を共有しているほか、SNSなどでの情報発信にも欠かせません。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

「たべる人」と「つくる人」の距離が近くなることで、もっともっと「農」が身近になるといいな、と思っています。

Ambitious Farm株式会社

消費者と生産者のどちらにとっても魅力的な農業を目指して2014年に設立。「たべる人」と「つくる人」のふたりをコンセプトにした「ふたりのマルシェ」、収穫した当日に野菜を届ける「当日便」サービスなど、地域密着型の農業を展開しています。

住所
北海道江別市豊幌26-44
TEL
011-555-4210
URL
http://ambitious-farm.co.jp

お仕事データ

米や野菜、果物を生産する専門家。
農家
農家とは
土づくりから植え付け、収穫、
出荷までを担うプロフェッショナル。

米や野菜、果物などを生産するのが農家の仕事。土づくりに始まり、種植え・田植え、収穫までを一貫して行います。植え付けから収穫までの期間は作物によって異なり、数カ月程度で実る野菜から数年かかる果樹までさまざまです。また、作物の成長や地質に合わせて肥料を追加したり、雑草を除去したり、病害虫の駆除も欠かせません。育てた作物は農業協同組合に出荷する他、最近ではインターネットを活用した直売やスーパーとの契約栽培など、ビジネススタイルは広がっています。

農家に向いてる人って?
自然の中で働くことが好きで、
根気強く作物と向き合える人。

農家は自然の魅力や季節の移ろいを感じながら働ける仕事。アウトドアや土にふれて生きることが好きな人には向いているでしょう。時には天候不順や病害虫の発生によって悩まされることもあることから、コツコツと試行錯誤を繰り返す根気強さも必要です。個人で農家を営む場合、経営者としての判断力や販売先を広げるビジネスセンスも問われます。

農家になるためには

農家になるために必要な資格や学歴はありません。実家が農家を営んでいる場合は、仕事の手伝いを通して実践的にスキルを磨き、家業を受け継ぐケースが多いようです。また、農業高校や専門学校、農業大学校、大学の農学部などで農業の基礎から学ぶ人も少なくありません。個人事業主として開業するには農業生産の研修を受け、農地や農業機械を手に入れた上で農業を営むことができます。最近では農業法人や大規模農家に就職したり、新規就農相談センターが実施する研修などで学び、就農する道もあります。

ワンポイントアドバイス
国としても農家になりたい人を
熱烈にバックアップ。

日本では食の安全・安心への意識が高まっている他、食料自給率が低いことが課題にもなっていることから、農業に関心を寄せる人が増えているようです。そのため、農家は今の世の中に必要とされ、まだまだ可能性に満ちている仕事といえます。国としても、農家になりたい人を応援しようという気運が高まり、農林水産省が新規就農者への給付金を支給する制度をスタートさせました。「45歳未満であること」「都道府県が認めた研究機関で1年以上研修すること」などの条件はありますが、この制度を活用することで初期費用の負担を抑えて就農することができます。