石田 由香理さん
インタビュー公開日:2021.04.12

国際協力が目標になったのは、
点訳ボランティアの支えのおかげ。
国際協力を仕事にしたいと考えた時、真っ先に思い浮かぶのがJICA。ODA(政府開発援助)のうち、技術協力や有償資金協力、無償資金協力を一元的に担う組織です。石田由香理さんは、JICA北海道で働く職員の一人。実は、1歳3カ月で全盲の視覚障害者となりました。
「中学時代にはぼんやりと海外に興味が湧きました。国際協力という明確な目標が定まったのは、大学受験に向けた浪人生のころです」
石田さんは参考書が読めないため、テキストはボランティアに点訳(点字に翻訳)してもらっていました。大学合格を信じ、寝る間も惜しんで協力してくれたことが心の支えになったと振り返ります。
「私がボランティアの方に支えてもらったように、今度は自分が誰かの可能性を信じて寄り添う番だと強く思ったんです。世界には夢があっても学校に行けない子どもたちも多いので、その教育を支援するための知識として開発研究を学べる大学に進みました」
政府間のプロジェクトに関わり、
自分を成長させたいと思いました。
石田さんは大学在学中に1年間フィリピンへ留学。児童養護施設を訪ねたり、フィリピン大学で福祉を学んだり、盲学校でのインターンを経験しました。
「フィリピンでは障害者に教育を提供することの理解が進んでいないため、目の見えない私が英語を話すとよく驚かれました。だからこそ、自分の経験を役立てるフィールドがここにあると感じたんです」
大学卒業後はイギリスのサセックス大学大学院で開発学の中でも教育支援を専攻。帰国後はNGOやNPO組織の一員としてフィリピンの視覚障害者教育にまつわるプロジェクトに携わりました。
「とはいえ、資金が潤沢なわけではなく、大規模な教育支援は夢のまた夢。もう少し大きなプロジェクトを立ち上げるには自分自身の経験も足りないと痛感しました」
そんな時、耳にしたのがJICA北海道の障害者採用。ODAという政府間のダイナミックな取り組みに関わり、自らを成長させようと一歩を踏み出しました。
研修受託先の募集や
研修員の移動手配なども仕事です。
石田さんが配属された研修業務課のミッションは大きく二つあります。一つは開発途上国から各分野の中核を担う人材を研修員として招き、日本の技術を伝えて課題解決を導く1カ月ほどの短期研修。もう一つが留学生を2〜3年のスパンで多方面から支える長期研修です。
「JICAは政府のODAを担うため、入職後はまず行政用語を覚える日々。当初は『決裁って何?』から教わりました」
石田さんは長期研修をメインで担当していますが、短期研修も担当するとか。医療や農業、水道といった各分野の研修を受託してくれる先を募集し、契約やプログラム内容の精査を進めるのも仕事です。
「研修員の飛行機やホテルの手配、さらに資料を翻訳に回すといった業務も守備範囲。時には短期研修に同行し、道内のさまざまな地域を巡ることもあります。研修先の興部町で食べたソフトクリームのおいしさが忘れられません(笑)」
留学生と丁寧に向き合い、
絆を深めるのがやりがい。
JICA北海道の長期研修では、開発途上国の未来を担うリーダーのタマゴが道内の大学院の修士・博士課程で専門分野を研究。石田さんは留学生の飛行機やビザの手配、帰国の手続きなどをフォローしています。
「何事もなければ留学生は大学に通うだけなのですが…何事もないワケはなく(笑)。例えば、『銀行口座を開きたい』『英語対応の皮膚科はある?』など、暮らしにまつわる困りごとがどんどん舞い込みます」
多くはメールのやり取りだけで解決しますが、時には研究室の人間関係や卒業後の進路といった複雑な相談を受けることもあるそうです。こうしたケースには面談を開き、研究テーマや研究室を変更するといった解決策を提案しています。
「最初は目の見えない職員が担当で戸惑われることも少なくありません。けれど、一人ひとりと丁寧に向き合うことで信頼を築き、視覚障害をまったく気にされることなく付き合えるほど絆が深まった瞬間が私のやりがいですね」
多種多彩な人種や職種と関わり、
自分自身の見識が広がりました。
石田さんはJICA北海道で働くようになってから、行政の手続きや各種手配、予算のやり繰りなど、これまでの組織とは違った業務を幅広くマスターしました。
「仕事を通じて出会う人も、大学教授や各分野のスペシャリスト、アジアやアフリカから来る留学生など人種も職種もバラエティに富んでいます。私も彼ら・彼女らの国の実態や研究内容が少しでも理解できるよう勉強を重ねるうちに、自分自身の見識も広がっていきました」
見込んでいた通り、石田さんはJICA北海道でしっかりと成長を実感しているようです。同時にフィリピンの障害者教育の改善にはボランティアとして携わっているといいます。
「フィリピンの教育支援はライフワークとして、この先もずっと続けていきます。一方、国際協力の仕事は特に障害者にとっては難しいと思われがちですが、この道を目指したい後輩がチャレンジを諦めることがないように頑張りたいと思っています」
シゴトのフカボリ
団体職員の一日
9:00
出勤
9:30
メールチェック/留学生対応
11:00
短期研修の受託先の書類作成
12:30
昼食
13:15
会議
15:00
留学生の困りごとを確認/調査
17:00
書類チェック
17:45
退勤
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

留学生たちは困ったことがあるといつも「石田さん、石田さん」と助けを求めてくれ、時に「この労働条件は日本で普通なの?」といった重要なことも相談してくれます。こうした信頼関係が結ばれると、自分自身の存在価値を改めて実感できるんです!

JICA北海道

JICAの国際協力の重要な現場。開発途上国の研修員に日本の経験・技術を伝える機会を提供し、ボランティアの訓練を実施。その他、JICAの事業や国際協力に関する情報発信、グローバル人材の教育支援、自治体や学校、民間企業と連携した国際協力事業などを幅広く推進。

住所
北海道札幌市白石区本通16丁目南4-25
TEL
011-866-8333

お仕事データ

営利を第一にしないシゴト。
団体職員
団体職員とは
公益性の高い事業に携わり、
広く社会に貢献する職業。

団体職員という名称は法律で定められた定義はなく、「営利を第一に追求せず」に公共のための事業や公益性の高い仕事に従事する人を指す通称。一般には企業や公務員以外の非営利団体で働く人をいいます。活躍の場は芸術施設を運営する財団法人や環境整備を担う団体、防災コミュニティネットワークなどのNPO法人、JAや生活協同組合など、幅広い組織。総務や広報、施設運営など所属団体によって仕事内容はさまざまですが、いずれも広く社会に貢献するという手応えを得られます。

団体職員に向いてる人って?
社会のために働く意欲があり、
細かな確認作業や接客が得意な人。

団体職員の多くが公益事業に関わる仕事をすることになるため、人や社会のために働きたいという意欲がある人に向いています。また、団体職員が担う仕事には、事務作業も少なくないため、PCの操作や確認作業が得意な人は馴染みやすいでしょう。所属によっては接客をすることもあり、コミュニケーション能力のある親しみやすい人柄が求められることもあります。

団体職員になるためには

団体職員になるためには、一般企業と同じように、高校や専門学校、短大、大学などを卒業後、求人情報を出している団体に応募するのが一般的です。団体の中には、学歴や年齢制限、特別なスキルや資格、ある程度の職務経歴を求められるケースもあるので、まずは就職を希望する団体の募集状況をチェックしてみましょう。

ワンポイントアドバイス
景気に左右されにくい、
安定性がある仕事!

団体職員は「準公務員」ともいわれ、事業の公共性が高いという点は公務員と共通しています。そのため、景気の悪化などの影響を受けにくく、安定して働くことができるところもメリットです。非営利組織や団体は日本全国にあるので、仕事に安定性を求める場合は選択肢の一つとしてオススメできます。