常松 英史さん
インタビュー公開日:2023.05.23

学業一筋の生活に、
彩りを与えてくれた映画館。
テレビやスマートフォン、街角のモニターに映し出される映像に、ふと目が留まったことはありませんか?札幌市で活動する常松さんは、企業のWebCMや自治体のPR映像、ミュージシャンのミュージックビデオやドキュメンタリー等幅広い映像の監督を務め、時には作家として短編映画の制作も行っています。
常松さんは日本有数の学力を誇る京都大学出身。研究職を目指し大学院まで進んでいたのだと振り返ります。
「でも、研究職になれるのはほんのひと握り。大学院に入ると自分よりずっと優秀なライバルが沢山いて、自分には到底叶わないという挫折を味わったんです」
そんな心情を支えてくれたのが、講義の合間に観た映画の数々や、映画好きの先輩と語らう時間。特に先輩と過ごす時間は、乾いた日々に潤いを与えるオアシスのようなひとときだったと常松さん。就職には悩みを抱えていたものの、当時はまだ映像を仕事にしようという発想は無かったのだとか。
辛いサラリーマン生活。
気軽な気持ちから映像制作の世界へ。
常松さんは大学院修了後、縁あって大阪の物流会社に就職します。しかしその会社が倒産寸前だと知ったのは入社後のこと。
「黒字化するための業務効率化が僕の仕事でした。でも経営そのものが怪しかったので、働けども働けども赤字が膨らむばかり(笑)。自ら営業にも走って、どうにか資金をつなぐ日々でした」
寝る間もなく仕事に励み、心身のバランスを崩したことも少なくなかったとか。そんな辛い日々を救ってくれたのも、やはり映画だったと振り返ります。
「宿直室のテレビで、食卓の前で、真夜中のレイトショーで照らされる映画は、僕の人生では体験できない出来事や物語を描いていました。観る時間がない時は、映画の話題を扱うラジオ番組を聞いて、次に観る作品に胸を膨らませていたんです」
転機が訪れたのは2012年。29歳となり会社を退職、帰郷を決意した常松さんの元に旧友から一本の電話が掛かってきます。
「『一緒に短編映画を作らないか』という誘いでした。社会に揉まれ疲れていたこともあって、遊びのつもりで了承したんですが、これが全ての始まりになったんです」
動画投稿サイトで技術を学び、
積極性で仕事を獲得。
映像制作に触れたことをきっかけに、自分の手で作品を作りたいという想いに駆られていったという常松さん。それまでカメラや編集ソフトを扱った経験はなかったものの、持ち前の熱心さで学んでいきました。
「今でこそ、映像制作の方法を日本語で解説している動画がネット上にあふれていますが、当時はほとんどが英語。英和辞書を片手にリスニングして、一つひとつ使い方を覚えていきました」
同時に自ら脚本を書いて映像制作を開始。そして完成した初監督作品がなんと、2014年に行われた第9回札幌国際短編映画祭で最優秀北海道作品賞を受賞するという快挙を達成したのです。
「受賞をきっかけに映像関係の知人が一気に増えて、仕事につながるようになりました。映像クリエイターは一人で仕事をするだけじゃなく、さまざまな監督や制作会社との横のつながりで働く機会も多いんです。交友範囲を広げ、新しい企画の話題が出るたび『僕に作らせてもらえませんか?』と言い続けた結果、食べていけるぐらいの仕事が得られるようになりました」
誰もがクリエイターになれる時代。
だからこそ、社会経験も大切。
映像の仕事の魅力を「誤解を恐れずに言うと、遊びながら働けること」と語る常松さん。完成形には答えがないからこそ、制作のたびに勉強や実験を重ねる。その感覚が遊びに近いと表現します。
「今は専門の教育を受けなくても独学で学べる環境が揃っていますし、ネットを使えばどこでも映画を観ることができる時代です。気に入った演出や撮影方法をメモしておいて、何度も見返して『なぜこの映像が好きなのか』を突き詰めて、遊び感覚で再現してみる。その繰り返しで、自分なりの作風が身についてくるでしょう」
誰もがクリエイターになれる時代の一方で、お客様と対等にビジネスをするには社会経験も必要だと話を続けます。
「映像は形がないだけに、1本いくらという価格がつけにくいものです。かかる時間や工数から金額を計算して納得してもらったり、アイデアを提案したりする能力が必要となります。僕も元々、あまりお喋りが得意ではないタイプですが、物流会社で働いていたお陰で伝えるべきことはきちんと伝えられるようになりました(笑)」
映画や映像を通じて、
社会へのメッセージを伝える。
常松さんは現在、自分がクリエイターとなるきっかけとなった札幌国際短編映画祭の運営にも携わる他、ドライブインシアターの企画運営や、札幌の映画上映サークルに所属したりと、自分を救ってくれた映画への恩返しも欠かさず活動しています。その背景には「社会課題の解決がしたい」という自身の想いがあると説明します。
「かつての僕は社会や環境の問題解決に少しでも携わりたいと研究職を目指していました。でも映画にはよりよい社会へ向けたメッセージが込められていますし、自分の作る映像作品や広告映像にその想いを託すこともできるんです」
常松さんの大学の同期は現在、著名な大学教授になったり、石油採掘会社に勤め海外勤務をしていたりと、いわゆるエリート街道を歩み続けている人も少なくないのだとか。それでも、これまで歩んできた道に一切の後悔はないと晴れやかな表情で語ります。
「僕は偉くもないしお金持ちでもない。けれど遊ぶように働いて、きちんとご飯を食べて、社会をより良くするために微力ながら関われている。これ以上の幸せって、ないと思いませんか?」
シゴトのフカボリ
フリーランス映像クリエイターの一日
6:00
〜9:00 起床、編集
9:00
〜15:00 食事、仮眠、読書や映画鑑賞
15:00
〜23:00 打ち合わせ、編集
※撮影がない日の例。撮影は案件により変則的です。
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
動画撮影用ミラーレスカメラ
今の動画撮影は写真と同様のレンズ交換式カメラが主流。中でも高画質の動画撮影に適したモデルが最適です。撮影に合わせてレンズを選ぶのも楽しいひととき。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

タモリさんの名言です。仕事は真剣にやるとつまらない。遊びは真面目にやると楽しい。だからこそ、遊び感覚で仕事をしてみよう。映像の仕事は、まさにこの言葉を体現していると思います。

フリーランス映像クリエイター 常松 英史

WebCMやPR映像、ミュージックビデオやドキュメンタリー等のディレクション、短編映画の制作を行っているフリーランスの映像クリエイター。札幌国際短編映画祭事務局などの運営スタッフも担当。

URL
https://hidetune.portfoliobox.net/

お仕事データ

映像制作の専門家!
映像クリエイター
映像クリエイターとは
柔軟な発想力やアイデアで、
多種多彩な映像コンテンツを制作。

映像クリエイターは、映像制作のプロフェッショナル。映像の制作、編集、加工、撮影などを行い、様々な媒体に向けた映像コンテンツを制作します。テレビ番組、CM、映画、WEB動画、音楽PV、イベント映像など、多種多彩なフィールドが活躍の場。具体的にはクライアントの要望に合わせた企画立案、撮影現場の指揮、映像編集、CG制作、音声編集などを担当します。多くの場合、プロデューサーやディレクターと協力して映像コンテンツを制作。柔軟な発想力やアイデアがクリエイティブの質を左右します。

映像クリエイターに向いてる人って?
映像制作に興味を持っていることはもちろん、
技術や知識をアップデートし続けられる人。

クリエイティブな発想力やアイデアを持ち、映像制作に興味を持っている人。映像技術や知識を、常にアップデートし続けることができることも大切です。また、チームで働くことが多いため、コミュニケーション能力や協調性も求められるでしょう。クライアントの要望を理解した上で形にすることが必要なため、プロジェクトマネジメント能力やマーケティング感覚があることも重要です。

映像クリエイターになるためには

映像クリエイターになるために必要とされる資格や学歴はありません。ただし、映像編集ソフトやCGソフト、撮影機材の使い方を学ぶために、情報メディア関連の専門学校や短大、大学に進学して基礎を身につけるのが一般的です。卒業後は映像制作関連のプロダクションやテレビ局などに就職し、映像クリエイターとしての下積みで多くの経験を積み、実力が認められれば自身の作品を世にリリースできるようになるでしょう。

ワンポイントアドバイス
You TubeやSNS動画など、
活躍の場が広がっています!

これまでは、映像クリエイターが活躍する場といえば、テレビ番組やCM、映画やドラマといった媒体がメイン。ところが、インターネットの普及により、テレビや映画館などの媒体にとらわれない映像のニーズが高まっています。とりわけ、YouTubeの動画やSNSのショートムービーをはじめ、新たな舞台が次々に登場。さらに、3D映像やVRの制作など、映像クリエイターの武器となる技術も生まれていることから、未来を切り開いていける職業といえるでしょう。