鳥越  千翔さん
インタビュー公開日:2023.10.06

前職は道東のまちの保健師として勤務
住民と触れ合うなかで湧いてきた想い
新型コロナウイルスは、2023年5月から季節性インフルエンザと同じ分類となり、マスクの着用や施設などの感染対策もそれぞれの判断に任されることになりましたが、つい最近まで、感染者の対応に追われる保健師さんの緊迫した姿がテレビなどでも取り上げられ、保健師という仕事にも注目が集まりました。
「私も、現在の職場に移る1年半ほど前までは、まさに日々、コロナ対策に追われていました。保健師としてのやりがいを実感する一方、忙しさのなか、逆に自分のやりたいことが浮かび上がってきた時期だったかもしれません」
そう話すのは、『ハスカッププラザ 苫小牧市保健センター』(以下「ハスカッププラザ」)で保健師として勤務する鳥越千翔さん。前職はワインのまちとして知られる道東・池田町の職員として保健師業務を行っていました。
「お母さんと子どもの心身の健康を守る母子保健から高齢の方々の健康づくりまで、住民の方々と触れ合いながら9年間、まちの保健師として業務に就いていました」
町民の暮らしを守る、大切な仕事に長年にわたって携わるなかで鳥越さんは、自分のなかに一つの想いが湧いてきたのだと話します。
〝働き世代〟の健康を守っていきたい
その想いを叶える職場を見つけて転職
鳥越さんのなかに湧いてきたのは、成人保健に特化して携わってみたいという想いでした。生活習慣病の予防・改善をはかることで、働き世代の健康を守りたいと考えるようになったのだそうです。
「最も健康に留意しなければいけない働き世代ほど、忙しさもあって無関心になりがちです。保健師の専門性を活かし、現役の方々の関心を高めていきたいと思い、転職活動をするなかで出会ったのがハスカッププラザでした」
ハスカッププラザは、苫小牧市・苫小牧市医師会によって設立された一般財団法人が運営する施設で、働き世代の健康診断事業のほか、市民の健康づくりに関する事業も行っています。
「保健センターという名前ですが、40歳〜74歳を対象にメタボリックシンドローム(*1)に着目して調べる特定健康診査をメインとし、その結果をもとに特定保健指導(*2)を行っています。成人保健に特化したこうした拠点は道内では珍しく、見つけた時は〝ここだ!〟と思いました」
そう言って身を乗り出す鳥越さんです。
*1 内臓肥満に加えて、血圧・血糖・脂質の異常値が二つ以上認められる状態
*2 特定健康診査の結果、生活習慣病の発症リスクが高く、かつその改善による効果が期待できる人に対する健康支援
地域の人たちのそばで健康をサポート
高校時代に興味を抱いた保健師の仕事
高校の時、授業のなかで職業教育の時間があり、さまざまな職種を紹介しているWebサイトなどを見ていくなかで保健師に興味を抱いたことが、今に至るきっかけになっていると話す鳥越さん。
「人の役に立つ仕事に就きたいと漠然と思うなかで医療職を考えるようになり、医療職のなかでも保健師の仕事に目が留まりました。看護師は一般的に病院内でのケアが中心ですが、保健師は地域の人々のそばで、ずっと健康状態などを見守っていく仕事。その役割に惹かれたんです」
保健師になるためには、まず、看護師試験に合格する必要があります。そこで鳥越さんは、地元の斜里町を離れて釧路市立高等看護学院に進み、看護師資格を取得。その後、旭川医科大学に3年次編入をして、保健師の国家試験の受験資格を得ています。
「最初から大学に入れば早かったのですが、受験がうまくいかず……。それならと、まず、看護師資格の取得に集中した、というのが経緯です。なので、少し時間がかかっています」
と鳥越さん。たとえ遠回りでも、目指した道に向かって突き進んでいくむバイタリティと、ものごとを包み隠さず、正直に話す姿勢が魅力です。
今の健康状態、原因、改善法を指導
健診データに基づき意識づけを行う
鳥越さんがハスカッププラザで携わっている特定保健指導は、保健師の仕事を代表するひとつ。特定健康診査の結果に基づいて、メタボリックシンドロームの人には積極的支援、その予備軍の人たちには生活改善のきっかけを与える動機づけ支援、現在の健康を維持・増進するための情報提供のいずれかが行われます。
「積極的支援は、今の健康状態、どうしてそういう状態になったのかという生活習慣病との関係を理解してもらったうえで、改善を実行できるよう3カ月にわたって指導・支援を行っていきます」
たとえば、多くの企業が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の特定健康診断の場合、健診後、即座に特定保健指導の面談を行っているほか、必要な精密検査の受診を促したり、受診先となる医療機関に関する相談などの事後指導ということも行っているそうです。
「特定保健指導では、検査データに基づいて、現在、身体がどのような状態にあり、病気を予防するにはどんな対策が必要か、というお話をします。自覚症状などのない方からすれば〝うるさい〟とか〝おせっかい〟と思われているかもしれませんが(笑)、いかに自分ごととして捉え、改善に向けて意識してもらえるかが鍵となりますね」
〝健康を考えるきっかけになりました〟
そんなひと言にやりがいを感じる日々
そんな鳥越さんがいつも意識しているのは、特定保健指導を行う一人ひとりの普段の生活について把握し、その生活を尊重すること。働き世代だからこそ大切なことなのだそうです。
「苫小牧には工場などが多いこともあり、日によって出勤時間が異なる交替勤務や、夜勤を中心とした働き方をされている方も少なくありません。生活パターンなどを知り、そのなかで適切な支援を行うことがとても重要なんです。そうしないと効果も期待できず、関心度を高めることもできません」
改善が必要な状態であることをどう伝えるか。〝こう言えばよかった〟と反省することも多いと鳥越さん。一方で「〝ためになりました〟〝健康を考えるきっかけになった〟とおっしゃってくれる方もいて。うれしいですし、この仕事をやっていてよかったと思う瞬間です」
特定保健指導に関してやりたかったことが今、できていると笑顔をみせる鳥越さん。一般向けに情報発信を行う健康づくり事業も担当し、栄養士、健康運動指導士などとともに、たとえば糖尿病予防の教室などの運営にも携わっています。今後は、健康に働ける職場環境づくりなどに関わる産業保健の知識も身につけていきたいと話す鳥越さん。とにかく〝働き盛り〟の健康が気になる、働き盛りの保健師さんです。
シゴトのフカボリ
保健師の一日
8:00
出勤。前回の結果を調べるなど、その日に健診を受けにくる方の情報収集
9:00
特定保健指導の面談
12:00
昼食・休憩
13:00
運動教室の補助
15:00
健康づくり事業のメニューなどについての会議
16:30
終業・帰宅 
*特定保健指導のため、夜間に電話が必要な場合は時差出勤して対応
シゴトのフカボリ
拝見!オシゴトの道具
特定保健指導用のiPad
特定保健指導のうち積極指導については、健診から3カ月間、電話で指導を行いますが、これに加えてLINEで通知し、専用のクラウド経由で指導を行うシステムがスタート。そのためのiPadを持ち歩いています。
シゴトのフカボリ
みなさんへ伝えたいこと

地域の方々に寄り添って健康を見守る仕事がしたいと考えたことが、保健師を目指した時の想い。まちの保健師として働くなかで、それはさらに強くなり、今は地域の働き世代を健康面から守っていきたいと考えています。

一般財団法人ハスカッププラザ 苫小牧市保健センター

企業健診、特定健康診査、がん検診、予防接種、などのほか、運動教室、栄養相談など健康維持・増進のお手伝いをする機関です。

住所
北海道苫小牧市旭町2丁目9番7号
TEL
0144-35-0001
URL
http://toma-haskap-plaza.jp

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お仕事データ

病気予防や健康管理を指導!
保健師
保健師とは
地域住民の健康を支える、
社会的役割の大きな仕事。

保健師は、地域住民の病気予防や健康管理について指導を行う仕事。乳幼児から高齢者まで幅広い世代と接し、健康増進や生活の質の向上をサポートします。病気の治療を支える看護師とは異なり、病気になる可能性がある人に、食事や運動などの生活指導をはじめ、健康づくりのアドバイスを送ります。また、感染症発生時や災害時の住民の健康管理も行うほか、虐待の疑いのある家庭や認知症高齢者の家庭を訪問して相談に乗るなど、社会で果たす役割も大きい仕事です。保健師には、保健所や保健センター、企業、病院、学校など幅広い活躍の場が広がっています。

保健師に向いてる人って?
誰かの役に立ちたいという思いを
モチベーションにできる人。

保健師は健康の指導や助言を行う業務がメインなので、相手の話をしっかり聞いた上でコミュニケーションできる人に向いている仕事。多くの人の健康を陰ながら支えることから、誰かの役に立ちたいという思いをモチベーションにすることも大切です。何より、まず自分自身が健康生活のお手本とならなければなりません。規則正しい生活を送り、心身ともに健康であることも求められます。 

保健師になるためには

保健師になるには、国家資格の「看護師免許」と「保健師免許」が必要。一般的には看護師養成学校の卒業後に看護師免許を取得し、保健師養成学校に通って保健師免許の取得を目指します。ただし、最近では看護師と保健師の国家試験ダブル受験&合格を目指せる大学や専門学校も増加中です。また、行政が管轄する保健所や保健センターなどで働く場合、さらに国家公務員試験や地方公務員試験に合格する必要があります。

ワンポイントアドバイス
国際的に活動する保健師も。
今後は介護分野のニーズに期待。

保健師の就職先は保健センターや役所、企業が多いようですが、ほかにも診療所や訪問看護ステーション、介護施設、場合によっては国際的に活動する「JICA(ジャイカ)」に所属するなど活躍の場は多種多彩。今後は高齢化を背景にますます介護保険へ重点が置かれるといわれていることから、とりわけ介護分野でのニーズが高まると予想されています。